IS -インフィニット・ストラトス- 〜恋夢交響曲〜 第二十一話
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「そ、それは本当ですの!?」

 

「う、ウソついてないでしょうね!?」

 

月曜日の朝、俺、一夏、シャルルで教室に向かっている途中の廊下で大声を聞き、目をしばたたかせた。

 

「なんだ?」

 

「さあ?」

 

一夏はシャルルに疑問を投げかけるが、答えられなかった。まぁ、俺もわからないのだが。

 

「本当だってば! この噂、学園中で持ちきりなのよ? 月末の学年別トーナメントで優勝したら織斑君や天加瀬君と交際でき――」

 

「俺達がどうしたって?」

 

「「きゃああっ!?」」

 

一夏が話しかけた途端、女子たちは大声を張り上げた。俺の聞き間違いでなければ、一夏や俺がどうとか・・・。

 

「で、何の話だったんだ? 俺たちの名前が出ていたみたいだけど」

 

「う、うん? そうだっけ?」

 

「さ、さあ、どうだったかしら?」

 

鈴とセシリアはあははうふふと言いながら話をそらそうとする。しかし、今の話だけではいまいち想像ができないな・・・。

 

「じゃ、じゃああたし自分のクラスに戻るから!」

 

「そ、そうですわね! わたくしも自分の席につきませんと」

 

そそくさとその場を離れていく二人。その流れに乗ったのか、他に集まっていた女子たちも自分の席、クラスへと帰っていく。

 

「シャルル、なんか知ってるか?」

 

「えっ、ああ、一夏にも言ったけど僕にもわからないよ」

 

「そうか・・・」

 

この前の出来事から俺に対するシャルルの態度が少しおかしい。嫌われてるようではないみたいだけど、少しよそよそしいというか・・・。まぁあんなことを話した後だし、本当に仲良くなるにはまだ時間がかかるということだろうな。

 

「なぜこのようなことに・・・」

 

「どうした箒?」

 

唸るような声を上げる箒が気になって話しかけた。

 

「い、いや、なんでもないぞ、うん」

 

・・・あやしい。

 

「お前、何か知ってるんじゃないのか?」

 

「な、何を言っている! 噂のことは私も知らないぞ!」

 

「・・・俺はまだ噂のことは口に出してないんだが」

 

俺の言葉に焦ったような箒の様子をみて思うんだが、こいつってなんてわかりやすい奴なんだろうか。

 

「つまり、噂の真相を知ってるんだな」

 

「・・・知っている。ちょっとこっちに来い」

 

強引に腕を引っ張っていく彼女に逆らえず、廊下に引きずり出された。

 

「な、なんなんだよ・・・」

 

「あまり聞かれたくないのでな・・・。特に一夏には」

 

「どういうことだよ」

 

「お前、引っ越しの時のことを覚えているか?」

 

俺が一夏の部屋に引っ越した時のことか。確か箒が一夏に告白してたんだっけ。

 

「あれが他の部屋にも聞こえてたみたいでな・・・。いつの間にかこのざまだ」

 

「なるほど、そういうことか・・・。じゃあ、なんで俺の名前が?」

 

「さあな。広まるついでに尾ひれでも付いたんじゃないのか?」

 

「じゃ、じゃあ誰が優勝するか分からないが、下手したら一夏じゃなくて俺が選ばれる可能性もあるのか・・・?」

 

「・・・・・・」

 

沈黙された。それにしてもなんというとばっちりだろうか。

 

「まぁ、噂だし気にしないでおくか・・・」

 

とりあえず、誰が来てもいいように御断りのセリフを数パターン考えておこう・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

「はー、行ったり来たりが面倒くさいよなぁ・・・」

 

この学園に入学してから、更衣室に行くにしても、トイレに行くにしてもどうしても長距離の移動が苦になってしまう。ちなみに今回は戦闘データを研究所に送るため、放課後にわざわざ職員室まで出向いていた。

 

(それにしてもシャルルは女の子なのに男子の施設を使わなきゃならないんだから大変だよなぁ・・・)

 

そんな考え事をしていると曲がり角の先から声が聞こえ、身を隠した。普通なら身を隠すことはしないのだが、話している内容を聞くと堂々と出ていくことが出来なかった。

 

「なぜこんなこところで教師など!」

 

「やれやれ・・・」

 

聞いたことがある声が気になり影から覗いてみると、どうやら織斑先生とドイツの代表候補生、ラウラ・ボーデヴィッヒさんだった。

 

「何度も言わせるな。私には私の役目がある。それだけだ」

 

「このような極東の地で何の役目があるというのですか!」

 

あのボーデヴィッヒさんが声を荒げているとは相当なことなのだろう。話の内容はどうやら織斑先生の現在の仕事についての不満を本人にぶつけているようだった。

 

「お願いです、教官。我がドイツで再びご指導を。ここでは貴方の能力は半分も生かされません」

 

「ほう」

 

「大体、この学園の生徒など教官が教えるにたる人間ではありません」

 

「なぜだ?」

 

「意識が甘く、危機感に疎く、ISをファッションかなにかと勘違いしている。そのような程度の低いものたちに教官が時間を割かれるなど――」

 

「――そこまでにしておけよ、小娘」

 

「っ・・・!」

 

突然声の調子が変わる。威圧するような声に、さすがのボーデヴィッヒさんもすくんでしまったらしい。言葉が途切れたままで続きが出てこない。かくいう俺も自分に向けられてないとはいえ、少し焦ってしまった。

 

「少し見ない間に偉くなったな。十五歳でもう選ばれた人間気取りとは恐れ入る」

 

「わ、私は・・・」

 

彼女の声が震えているのがわかる。圧倒的な存在を前にした恐怖と、かけがえのない相手から嫌われるという恐怖。

 

「さて、私は仕事がある。さっさと貴様らも寮へと帰るがいい」

 

「・・・・・・」

 

ぱっと声色を戻し、織斑先生が去っていく。貴様らということはどうやら俺のこともばれてたらしい。ボーデヴィッヒさんもそれに合わせて・・・ってやばい。

 

「くっ・・・。なんだ貴様は!」

 

「わ、わるい・・・」

 

出会いがしらに彼女とぶつかってしまった。やっぱり、言い合いを見た時に引き返しておくべきだった。

 

「貴様・・・天加瀬奏羅か」

 

「えーっと、ラウラ・ボーデヴィッヒさんだっけ・・・?」

 

しまった、捕まってしまった。これはまた面倒なことに――

 

「貴様、聞いていたな?」

 

どうやら、なってしまったらしい。

 

「何のことかな?」

 

「とぼけるな!」

 

彼女の平手打ちが飛んでくるのをすんでのところで顔を引いてかわしたが、そのまま後ろに尻もちをついてしまう。・・・どうも格好がつかない。

 

「ふん、反射だけはいいようだがそれに伴う身体能力はないようだな」

 

「・・・お褒めの言葉どうも」

 

嫌味を言われてしまった。まあ自業自得なんだけどさ。

 

「そんなことでは学年別トーナメントの結果も見えたものだ」

 

「・・・ボーデヴィッヒさんは優勝を狙っているのか?」

 

「ふん、狙っているのではない。決まっているのだ」

 

なるほど、大した自信だな。ちょうどいい機会だ、彼女とも少し話をしてみるか。

 

「まだ誰が優勝するかわからないぞ?」

 

「ふっ、私はこのような場所でぬるま湯につかっていた奴らとは違う」

 

「なるほどね、本当に軍人一筋なんだな」

 

「・・・なにが言いたい?」

 

「もう少し他のことに興味を持ってみたらどうだ?」

 

「何に興味を持てというのだ?」

 

「いや、ほら。この年の女の子になるとやっぱり恋愛事とかさ」

 

「私がそんなことに興味を持つとでも?」

 

「わからないぞ? 今回のトーナメントで優勝すれば織斑一夏と交際できるらしいしな」

 

俺の名前はしっかりと伏せておく。まぁ、加えたとしても万が一にもそんなことはないだろうが。

 

「っ・・・! 誰があんな奴と!」

 

「冗談だ。だから胸倉をつかむのをやめてくれ」

 

苦しくて思わず彼女の手を握ってしまう。その時に気付いた、彼女の手が冷たいことに。

 

「私に触れるな!」

 

「あ、ああ。悪い」

 

俺の手を振りほどくと、彼女はその場から歩き去ろうとする。

 

「・・・ボーデヴィッヒさんには夢とかないのか?」

 

「そんなものはないっ・・・! 私は、からっぽなのだから・・・」

 

最後のほうは声が小さかったが、しっかりと聞き取れた。ボーデヴィッヒさんが去っていくのを見ながら、その言葉と彼女の手の温度がしばらく頭から離れなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ」

 

「あ」

 

ふたりそろって間の抜けた声を出してしまう。放課後、場所は第三アリーナ。声の人物はセシリアと鈴だった。

 

「奇遇ね。あたしはこれから月末の学年別トーナメントに向けて特訓するんだけど」

 

「奇遇ですわね。わたくしもまったく同じですわ」

 

二人の間に見えない火花が散る。二人とも狙っているのは優勝のようだ。

 

「ちょうどいい機会だし、この前の実習のことも含めてどっちが上かはっきりさせとくってのも悪くないわね」

 

「あら、珍しく意見が一致しましたわ。どちらの方がより強くより優雅であるか、この場ではっきりとさせましょうではありませんか」

 

その言葉とともに二人ともメインウェポンを呼び出し、それを構えて対峙した。

 

「では――」

 

ふたりが動き出そうとした瞬間、それを遮って一つの砲撃が飛来する。

 

「なっ!?」

 

「なんですの!?」

 

緊急回避の後、鈴とセシリアはそろって砲撃の飛んできた方向を見る。そこには漆黒の機体がたたずんでいた。二人のISは同じ情報を搭乗者へと告げる。

 

――機体名『シュヴァルツェア・レーゲン』、登録操縦者、

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒ・・・」

 

セシリアの表情がこわばる。その表情には欧州連合のトライアル相手以上のものが含まれていた。

 

「・・・どういうつもり? いきなりぶっ放すなんていい度胸してるじゃない」

 

鈴も突然の砲撃に怒りをあらわにしている。

 

「中国の『甲龍』にイギリスの『ブルー・ティアーズ』か。・・・ふん。データで見たときのほうがまだ強そうではあったがな」

 

いきなりの挑発的な物言いに、二人は口元をひきつらせた。

 

「何? やるの? わざわざドイツくんだりからやってきてボコられたいなんてたいしたマゾっぷりね。それともジャガイモ農場じゃそういうのが流行ってんの?」

 

「あらあら鈴さん、こちらの方はどうも言語をお持ちでないようですから、あまりいじめるのはかわいそうですわよ? 犬だってまだワンといいますのに」

 

「はっ・・・。ふたりがかりで量産機に負ける程度の力量しか持たぬものが専用機持ちとはな。よほど人材不足と見える。数くらいしか能のない国と、古いだけが取り柄の国はな」

 

彼女たちの態度にも以前様子を変えることもなく、ラウラはあざ笑うかのように言い放った。

 

「ああ、ああ、わかった。わかったわよ。スクラップがお望みなわけね。――セシリア、どっちが先やるかジャンケンしよ」

 

「ええ、そうですわね。わたくしとしてはどちらでもいいのですが――」

 

「はっ! 二人がかりで来たらどうだ? 一足す一は所詮二にしかならん。くだらん種馬を取り合うようなメスに、この私が負けるものか」

 

この言葉に二人の堪忍袋の緒が同時に切れた。

 

「――今何て言った? あたしの耳には『どうぞ好きなだけ殴ってください』って聞こえたけど」

 

「場にいない人間の侮辱までするとは、同じ欧州連合の候補生として恥ずかしい限りですわ。その軽口、二度と叩けぬようにここで叩いておきましょう」

 

自分の武器を強く握りしめる二人。その様子を冷ややかな視線で流すと、ラウラはわずかに両手を広げて、自分側に振る。

 

「とっとと来い」

 

「上等!」

 

「泣かせて差し上げますわ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「まかせ〜」

 

職員室からの帰り道、俺はのほほんさん――本名、布仏本音さんに遭遇した。

 

「ああ、布仏さん。どうした?」

 

「学年別トーナメント、私と組もうよ〜。一回戦か二回戦目で負けて、そのあとのんびりするってのはどうかな〜」

 

なるほど、それだと余計に戦わなくていいし、俺の体力も持つだろう。そのあと涼しいところで試合見ながらのんびりする。

 

「それ、いいかもな」

 

「でしょでしょ〜」

 

「じゃあ、一緒に出場するか」

 

「しよしよ〜」

 

交渉成立、当日はのんびりできそうだ。

 

「じゃ、またね〜」

 

「ああ、また今度な」

 

布仏さんを見送ると、突然後ろから一夏に話しかけられる。

 

「おい、奏羅!」

 

振り向くと、一夏の隣にはシャルルが。どうやら二人で探していたらしい。

 

「どこいってたんだよ、放課後の特訓に誘おうとしてたのに」

 

「悪い、研究所に提出しないといけないものがあったからな。職員室に行ってた」

 

「そうだったのか。じゃあ人数がそろったことだし、早速特訓だな。えーっと、今日使えるのは・・・」

 

「第三アリーナだ」

 

「「「わあっ!」」」

 

廊下で並んでいた俺たちは、いきなりの声に揃って声をあげた。

 

「ほ、箒か・・・」

 

「・・・そんなに驚くほどのことか。失礼だぞ」

 

「お、おう。すまん」

 

「ごめんなさい。いきなりのことでびっくりしちゃって」

 

「あ、いや、別に責めているわけではないが」

 

礼儀正しく謝るシャルルに、さすがの箒も気勢をそがれてしまったようだ。謝らせてしまったことを申し訳なく思うかのように咳払いをすると話を変えた。

 

「ともかく、だ。第三アリーナへと向かうぞ。今日は使用人数が少ないと聞いている。空間があいていれば模擬戦もできるだろう」

 

ISの実力は稼働時間に正比例するので、模擬戦というのは実力を高めるのに最適なのだ。要は習うより慣れろということだろう。

 

「奏羅・・・」

 

「どうしたシャルル?」

 

「さっきの子と仲良いの?」

 

「さっきの・・・? ああ、布仏さんか。まぁそこそこって感じかな」

 

「ふーん・・・」

 

なんだかシャルルの機嫌が悪い。この前は妙によそよそしかったり、何かあるのだろうか?

しばらく歩いていると、急に周りがあわただしくなる。さっきから廊下を走っている生徒も多い。どうやら原因は第三アリーナのようだ。

 

「なんだ?」

 

「何かあったのかな? こっちで様子を見ていく?」

 

驚いたような一夏に、シャルルは観客席へのゲートを指す。確かにピットに入るよりも早く様子を見ることができると思い、俺たちは頷いた。

 

「誰かが模擬戦をしてるみたいだね。でもそれにしては様子が――」

 

ドゴォンッ!

 

突然の爆発。その煙を切り裂くように二つの影が飛び出してくる。

 

「鈴! セシリア!」

 

一夏が叫ぶ。特殊なエネルギーシールドで隔離さえたステージからこちらに爆発が及ぶことはないが、同時にこちら側からの声も聞こえない。

二人は苦い表情のまま、爆発の中心部へと視線を向ける。そこにいたのは漆黒のIS――

 

(ラウラ・・・ボーデヴィッヒ・・・)

 

先ほどであった彼女はいつもと違い眼帯を外しており、眼帯の下の目は金色に輝いていた。二人のほうに目を向けるとセシリアと鈴のISはかなり損傷を受けて おり、ところどころが損傷し、装甲の一部は完全に失われている。ボーデヴィッヒさんも無傷までとはいかないが、二人と比較してかなり軽微な損傷だ。

 

「何をしているんだ? ――お、おい!」

 

一夏の叫びもむなしく、二人はボーデヴィッヒさんへと向かっていく。どうやら二対一の模擬戦のようだが、追い込まれているのは二人のほうだった。

 

「くらえっ!!」

 

鈴のIS『甲龍』の両肩が開き、衝撃砲『龍砲』が放たれる――が、その砲撃はボーデヴィッヒさんには届かなかった。

 

「無駄だ。このシュヴァルツェア・レーゲンの停止結界の前ではな」

 

「くっ! まさかこうまで相性が悪いだなんて・・・」

 

何かはわからないがボーデヴィッヒさんは右手を突き出しただけで衝撃砲を完全に無力化し、すぐさま攻撃へと転じる。

シュヴァルツェア・レーゲンの肩に搭載されていた刃が左右一対で射出、鈴のISへとむかう。それは刃の部分がワイヤーで接続されているためか、複雑な軌道を描きながら迎撃射撃を潜り抜け、鈴の右足を捕えた。

 

「そうそう何度もさせるものですかっ!」

 

鈴の援護のためにセシリアが射撃と同時にビットを射出する。

 

「ふん・・・。理論値最大稼働のブルー・ティアーズならいざ知らず、この程度の仕上がりで第三世代型兵器とは笑わせる」

 

セシリアの精密な狙撃とビットによる視覚外攻撃をかわしながら、さっきと同様に左右同時に腕をつきだす。交差させた腕の先で、何かに捕まえられたようにビットが動きを止める。

 

「動きが止まりましたわね!」

 

「貴様もな」

 

セシリアの狙い澄まされた狙撃はラウラの大型カノンによる砲撃で相殺される。すぐさま連続射撃の状態に移行しようとしたセシリアを、先ほどワイヤーで捕まえた鈴をぶつけて阻害する。

 

「きゃあああっ!」

 

ぶつかり、空中で体勢を崩した二人へとラウラが突撃を仕掛ける。

 

「『瞬時加速』――!」

 

一夏が驚愕の声を上げる。それは一夏の十八番、格闘特化の技能だからだ。

だが、鈴は近接型のISである。彼女の双天牙月による攻撃に分がある、そう思われたがシュヴァルツェア・レーゲンの腕部からプラズマ刃が展開され、左右の腕が同時に鈴に襲いかかる。

 

「このっ・・・!」

 

プラズマ刃をしのいでいる鈴だが、その攻撃に合わせて先ほどのワイヤーブレードが襲いかかってくる。今回は肩の二つではなく、腰部に備え付けられた四つも加わり、それらが三次元的な躍動をしながら鈴へと向かう。いくら格闘線に慣れているといってもこれら全てを捌くのは難しい。不利に思った鈴は衝撃砲を再度 展開し、エネルギーを集中させる。

 

「甘いな。この状況で発射時間(ウェイト)のある空間圧兵器を使うとはな」

 

その言葉通り、衝撃砲はその弾丸を発射する前に実弾砲撃により爆散する。

 

「もらった」

 

肩のアーマーを吹き飛ばされ、大きく体勢を崩した鈴に、ボーデヴィッヒさんがプラズマ手刀を懐へと突き刺す。

 

「させませんわ!」

 

間一髪、その間に割り込んだセシリアは、『スターライトmkV』を盾に使ってその一撃をそらす。同時にミサイル・ビットをボーデヴィッヒさんへと射出した。

自殺行為ですらある接近戦でのミサイル攻撃は、鈴とセシリアを巻き込み床へと叩きつけた。

 

「無茶するわね、アンタ・・・」

 

「苦情は後で。けれど、これなら確実にダメージが――」

 

セシリアの言葉が止まる。煙がはれ、そこにたたずんでいるボーデヴィッヒさんは、至近距離での大爆発ですらダメージをほとんどなかったように浮いていた。

 

「終わりか? ならば――私の番だ」

 

言うと同時に『瞬時加速』で地上へと移動し、鈴を蹴り飛ばすと、セシリアに近距離からの砲撃を当てる。ボーデヴィッヒさんはワイヤーブレードを射出し、鈴とセシリアを捕縛すると自分のもとに手繰り寄せると、一方的に二人を殴り始めた。

 

「あああああっ!」

 

二人の体に容赦なく拳を叩き込み始める。シールドエネルギーはあっという間に機体維持警告領域(レッドゾーン)から操縦者生命危険領域(デッドゾーン)へ。これ以上ダメージを受け、ISが解除されることがあれば冗談じゃ済まされなくなる。しかし、ボーデヴィッヒさんは攻撃をやめない。あろうことか無表情から恍惚の表情へと変わっていく。

 

「まずい! 一夏、『零落白夜』でアリーナのシールドを――」

 

「うおおおおおおおおおっ!」

 

俺が言うより早く、一夏が白式を展開、同時に『零落白夜』を発動しアリーナを囲んでいるバリアーへと叩きつけた。

ありとあらゆるエネルギーを消失させる『零落白夜』によって切り裂かれたバリアーの隙間からアリーナへと侵入する。

 

「あのバカっ! 開けろと言おうとしたが一人で行けとは言ってないぞ!」

 

俺は一夏の援護へと向かうためにプラチナを展開、エアリアルフレームとドッキングするとあいつの後を追った。

 

「その手を離せっ!」

 

一夏は鈴とセシリアを掴んでいるボーデヴィッヒさんへと刀を振り下ろす。

 

「ふん・・・。感動的で直線的、絵にかいたような愚図だな」

 

一夏の発動させた『零落白夜』は届く寸前で一夏は動きを止める。先ほどセシリアのビットを止めたシステムだろう。

 

「一夏! やめろ、ボーデヴィッヒさん!」

 

俺は彼女に向けて突っ込もうとしたが、その前に体の動きが止まる。

 

「くっ・・・」

 

まるで目に見えない手に掴まれているかのように体が動かない。なんだ、これは?

 

「やはり敵ではないな。この私とシュヴァルツェア・レーゲンの前では、貴様らは有象無象の一つでしかない。――消えろ」

 

肩の大型カノンが接続部から回転し、俺たちへと銃口を向ける。まずいぞ、これは・・・!

 

「奏羅、一夏っ、離れて!」

 

シャルルからのプライベート・チャネルでの連絡と同時にボーデヴィッヒさんに向かって銃弾の雨が降り注ぐ。

 

「ちっ、雑魚が・・・」

 

それまで体を拘束していた何かから解放されると、俺と一夏は彼女が離した二人の元へと飛び込み抱きかかえた。

 

「一夏! 鈴は!?」

 

「大丈夫だ! なんとか捕まえた!」

 

俺はセシリアを抱えたまま、ボーデヴィッヒさんの射程から瞬時加速を使い離脱する。一夏も同様に離脱したようだ。

 

「奏羅、一夏! 二人は!?」

 

カバーにシャルルが入り、質問しながらも牽制射撃を続ける。高速武装切り替えにより弾切れした銃を入れ替え、ボーデヴィッヒさんの接近を許さない。

 

「う・・・。一夏・・・」

 

「そ、奏羅さん、無様な姿を・・・お見せしましたわね・・・」

 

「喋るな。・・・シャルル、大丈夫だ。二人とも何とか意識はある」

 

「よかった」

 

一夏の答えにわずかに安堵したようなシャルルだが、その手はいまだ休まることはない。

 

「面白い。世代差というものを見せつけてやろう」

 

銃弾を防御、回避、さらには例の見えない力で止めていたボーデヴィッヒさんが反撃に転じようと体を低くかがめる。おそらく瞬時加速――

 

「危ない、シャルル!」

 

俺はシャルルの後ろから上方へと飛び上がると準備体勢に入っている彼女に向かって『ソニック・ブレイズ』から数発叩き込む。

 

「ちっ・・・」

 

一瞬で体勢を防御へと変えたボーデヴィッヒさんに向かって瞬時加速をかけ、剣で突き刺すように突撃する。

 

「甘いな」

 

「どっちがかな?」

 

見えない何かによって止められるが、その瞬間に『ソニック・ブレイズ』をブレードモードからライフルモードへと変形させ銃弾を放った。

 

「なにっ!?」

 

変形するとは思っていなかったのだろう、俺の拘束をすぐさま解くと防御へと転じる。その隙にもう一度瞬時加速をかけて一気に距離を詰めた。

 

――『フラッシュ・ドライバ』のエネルギー充填50%完了

 

「50で十分だっ・・・」

 

左手のエネルギー解放ジェネレータ、『フラッシュ・ドライバ』をボーデヴィッヒさんに向ける。

 

「まだだっ!」

 

彼女に当たるすんでのところで左腕を止められる。しかし、俺の狙いはこれじゃない。

 

「かかったな!」

 

左腕部フレームの装甲をパージすると今度は右腕の『ソニック・ブレイズ』で斬りかかった。

 

「くうっ・・・!」

 

一撃与えられたことにより焦ったのか、彼女は距離を置くとワイヤーブレードを射出する。その間を縫いながらなんとかそれを避けていく。

 

(このままだとジリ貧だぞ・・・)

 

飛行性能で今のところ回避できているが長く続くとは限らない。なんとかしたいが今の状況は力づくじゃないと難しい。しかし今の武装で一番威力がある左腕の 『フラッシュ・ドライバ』は、いわばエネルギー版のパイルバンカー。彼女相手にさっきのように接近することはもう出来ないだろう。そもそも、それもパージしたので使えないし、拾いに行く隙もない。

 

(さっきからみていると、腕をこちらに向けた瞬間に見えない何かに動きを止められている・・・。ならっ!)

 

俺は彼女に向かって即時加速を使わず一直線に突撃する。

 

「血迷ったか!」

 

ボーデヴィッヒさんはワイヤーブレードすべてを俺の突進方向に合わせて射出。それを上へと宙返りするように回避し、体勢を立て直すとそのままスピードを上げて彼女へと接近していった。

 

「二度と同じ手は食わない、終わりだ!」

 

彼女が両腕を俺に向けるより早く、その直線状に、セシリアとの戦いで初めてフレームを展開した時と同じようにシューティングフレームを待機状態で展開する。

最近は時間短縮のためにフレームはプラチナを展開すると同時にドッキングできるようにパーツごとにして展開するのだが、本来は一つの塊、待機状態として展開する。今回はその方法でフレームを呼び出した。

 

「なに!?」

 

腕から射出した見えない何かをシューティング・フレームを盾にかわす。そして隙をついて即時加速で一気に詰めよった。

 

「これでっ!」

 

「舐めるなっ!」

 

俺が『ソニック・ブレイズ』で斬りかかるのを、彼女がプラズマ刃で受けとめようとしたその時――

 

ガギンッ!

 

俺の剣とボーデヴィッヒさんのプラズマ刃は鍔迫り合いをすることなく別の何かに止められた。

 

「・・・やれやれ、これだからガキの相手は疲れる」

 

「千冬姉!?」

 

一夏の驚いたような声が響く。それもそのはず、俺とボーデヴィッヒさんの戦いを止めたのは我らが担任織斑先生。

 

(それにしてもこの人、化け物だな・・・)

 

織斑先生はいつものスーツ姿で自分の身長よりも大きな二本のIS用ブレードをISの補助なしで軽々と扱い、俺と彼女を止めていた。

 

「模擬戦をやるのは構わん。――が、アリーナのバリアーまで破壊する事態になられては教師として黙認しかねる。この戦いの決着は学年別トーナメントでつけてもらおうか」

 

「教官がそう仰るのなら」

 

先生の言葉に素直に頷くと、ボーデヴィッヒさんはISの装着状態を解除した。

 

「天加瀬、お前もそれでいいな?」

 

「構いません、というか止めてくれてありがとうございます」

 

その言葉を聞いて、先生は改めてアリーナ内の全生徒に向けて言った。

 

「では、学年別トーナメントまで私闘の一切を禁止する。解散!」

 

いつもよりも強くたたいた手は、まるで銃声のようだった。

 

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恋夢交響曲・第二十一話
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