おにあい 〜もしもストーリー〜
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「秋子、一緒にお風呂に入らないか?」

 その言葉は、とても唐突でした。夕食後の軽くまどろみが襲ってくるひととき、食後のコーヒーが入ったコップをやたら丁寧に置いて、何が始まるのかと思ったら、この一言。

「はい……?」

 私は、何かの聞き間違いかと思い、復唱を求めました。

「あれ? 聞こえなかったかな? お風呂、久しぶりに一緒しようって話しなんだけど?」

「…………」

 何でしょう、この違和感は。お兄さまの思考が、私たちが離ればなれになったあの日から成長していないということでしょうか。それならば大事です、早く私の知っているお医者さまに見てもらうよう計らねばなりません。

「もしも〜し? 秋子、聞いてる?」

 気がつけば、目の前にはお兄さまが居て、手を振って反応を伺っていました。私は、堪らずその手を握り――

「お兄さま……! 安心してください、秋子は必ずお兄さまをお姿と同じ精神年齢へと戻してみせます!」

 ――と、固い決心を口にします。

「え……? え? 何故に病人扱い?」

「それならば、善は急げです。早速、知り合いの精神科の先生へ罹りに行きましょう!」

 先ほど握った手を強く引っ張り、有無を言わさず玄関へ向かおうとしました。

「ちょ……っ! 精神科? 病院?? 何々、僕が何か患っているとでも言うのか? そんな、冗談を……」

 しかしながら、お兄さまはその場に押しとどまらせるように、私の行動を強く押さえ込んでしまいます。

「僕は、心身ともに17歳だし、おかしくなったわけでもない。ただ、秋子のことが兄妹以上の異性として愛していると言うだけで!!」

 そして、『何も悪いところはない』という証明のためか、とんでもないことを口にしました。……そこは、「兄妹愛」でとめていただきたかったのですが、お兄さまは本気の目をしています。

 この獣のような目は、私を標的にしているように見えます。その雰囲気からか、額から汗がにじみ出てきました。これは、捕食動物を前にした、死を覚悟する草食動物と同じ状況ではないでしょうか。

「お兄さま、理解されておりますでしょうか。秋子は、お兄さまの妹で、血のつながった兄妹なのですよ? お兄さまの言っておられることは、血のつながりのない赤の他人に向けられるべきものではありませんか?」

 そう言った矢先、お兄さまはとても余裕な顔をして、鼻で笑われました。

「秋子、お前は重大な誤解をしているよ」

「誤解……ですか?」

 私が正論を言っているはずなのに、何故こんなにも自信のある顔ができるのか。とてもつまらない答えが返ってきそうな雰囲気なのですが、私は敢えて聞き返すことにしました。

「そう。僕たちは、兄妹である以前に男と女なんだよ!!」

 ドドーン! ――そのような効果音が聞こえてきそうな自信ありげの答え方でしたけれども、その言葉のなかには何一つ正解が見当たりません。

 当のお兄さまは、その言葉に酔いしれているような恍惚とした表情のまま、どこかに行かれているようです。

「それを仰るならば、“異性である前に兄妹”、です」

 この状態のお兄さまには何を言っても無駄だと思うのですが、一応反論しておきます。

 ですが、案の定、帰ってくる気配もなく、話しはそこで止まってしまいました。

「はぁ……」

 思わず出てしまう溜息。

 

どうしたらこの状況を打開できるのか、秋子にはとても難しい課題です。

 

説明
ラノベ「お兄ちゃんだけど、愛さえあれば問題ないよねっ!」のif的な乱文です。思いつきでババっと書きました。主人公と妹の立ち位置が逆だったらどうなるか? という疑問から書いた次第で。
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