銀と青Episode07【岩戸神楽】そのB
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「そーいえば、ねーさま。すさのおってどんな方だったのですか?」

「ふがっ?」

 

 あれから自室で煎餅を齧りながら雑談をしていると、煉華がそんなことを言い出した。

 アイツに興味を持つこと自体は不自然ではないのだが、非常に答えにくい質問である。

 

「突然どうしたのよ? 一応、煉華も報告書は読んでるでしょ?」

「はい。だけど、ねーさまのことですから、ひつよう最低限のぶぶんだけしか書いてないと、わたしはよそうしました」

 

 むぅ、我が妹ながら私の思考を読みきっていやがる。

 

「わたしは、ねーさまがすさのおと会ってじっさいに思ったことをききたいのです」

「……何で煉華は、そんなことを聞きたいの?」

「だって、おとうさまがたが言っていることが事実でしたら、まがったことがきらいなねーさまがすなおに様子見なんてするはずがありません! むかしから、ねーさまはヤルときめたらぼこぼこにするかされるかのどちらかですから! れんげには、おとうさまたちが言うように、きけんなかみさまだとはおもえないのです」

 

 笑顔で断言したよこの子。

 つまり、私がほぼ無傷で報告を上げた時点で、この子はこの子なりに色々と考えていたということか。なんというか、器が違うなぁ……。流石時期火野の当主。あの頑固親爺達にも見習って欲しいくらいだ。

 しかし、ほんと何と説明すればよいのだろう? ぶっちゃけ、普段のアイツは神様の威厳もへったくれもないセクハラ似非探偵だし。あまりアイツの評判落としすぎて、側に居る私の心配をさせたくないのだけど。

 

「ねーさま」

「……いいけど、あんまり期待しちゃダメよ? あと、変なこと言いふらして、父上達に妙な誤解をされないように。わかった?」

「はいっ!」

 

 まぁ、人柄だけ適当に教えれば、煉華も満足するだろう。別に、アイツを滅するとかそういうことを言ってる訳ではないのだ。

 

「そうね……、一言で言えば読めないヤツかな?」

「よめない?」

「うん、なんというか行動原理がよくわからないのよ。普通、誰しも目的があって行動を起こすわけじゃない? でも、アイツの場合その理由がよくわからないのよねぇ」

「つまり、かんがえなしでこうどうするかたなのですね!」

「べつに、そこまでは言わないけど、そもそも小夜ちゃんを雇った理由だって――」

 

 そこまで口に出して、ふと気がついた。

 詳しく話を聞いたことがなかったけど、アイツは何で小夜ちゃんを側に置いているのだろう? たしかに、小夜ちゃんは可愛い、小動物みたい、お茶美味しい、などと色々魅力的な部分があるが、アイツが側に置くだけの理由にはならない。私だったら、それだけで即決だろうけれど。

 彼女は私と違って、ただの人間なのだ。

 魔術的な知識も持ちあわせておらず、

 超能力的な物を持ちあわせているわけでもなく、

 格段突出するナニカを持っているわけでもない。

 物語的にも、とやかく語る必要性のない、ただのヒト。最近疲れているのか、分厚い本に向かって喋りかけているのをたまに見かけるが、それはどうでもいい、

 なのに。

 考えれば考えるほど理由がわからない。

 探偵業にしたってそうだ。

 そりゃぁ、一般人が営むような個人事務所なら仕事が入ってこないなんてこともザラではないだろう。

 だが、あそこは浅見屋双司が営む事務所だ。

 現代において貴重な異能系の探偵。それも、とびきりの術者となれば全国各地から以来は引く手あまただろう。

 現に、そういった事象に対処できる団体は大なり小なり依頼に困らないのが現状だ。起こる現象に対して、術者が圧倒的に足りていないのである。

 

「ねーさま。ふかくかんがえているところ失礼なのですが、神様のこうどうとはほんらいヒトにはよそくできないものです。あまり考えこむのもいかがかとおもいますけれど?」

「まぁ、そうなんだけどさ。アイツ変に料理上手かったり小夜ちゃんにドツかれてたり、妙に人間らしいからつい………ね」

「なんと!? そこまでにんげんみのあるかみさまもめずらしいです」

 

 煉華は両手をパタパタさせ、わたしとっても驚いています、という風に声を上げる。

 無理もない。神様なんて、基本的に身勝手傍若無人を絵に描いたようなものだ。多分、アイツみたいな神様は相当珍しいだろう。古今東西、質はどうあれロクなものじゃないのがカミサマってヤツなのだから。

 

「おはなしをきいて、やはりおもいました。れんげはかのかみさまがきけんなものとはおもえません」

「――煉華」

「ごあんしんください。ねーさまにはごめいわくをおかけするつもりなどありません。ないみつに、どくじにちょうさをさせていただきます。それより――」

 

 それより?

 

「ねーさまは、かみさま――すさのおの料理をおたべになったのですね?」

 

――しまった!?

 などと思うも既に遅し。

 煉華は垂れた前髪の隙間から、きゅぴーん、と目を光らせ。

 

「ずるいです! お味は!? お味はどうでしたか!? うぅ〜、れんげもたべとうございました……。これはさっそく、きょういのちょうさとしょうして確かめにいかなかれば!」

 

 我が腹違いの妹であり、火野次期当主であり、年齢に見合わない落ち着いた聡明さを持つ火野煉華の唯一と言っていい欠点。

 それは、色気よりも食い気。

 まだ見ぬ料理の味へと思考を思い馳せる彼女は、今にも部屋を飛び出してアイツの元へと押しかけていきそうな勢いである。というか、既に立ち上がりかけてる。

 

「れ、煉華! 落ち着きなさい! いくらなんでも、それは無理だから! 料理と脅威とかゴロは似ているかもしれないけど、全然関係ないからね!?」

「なさけを! ぶしのなさけを! れんげはいかねばならないのです! これも、かぐつちのかみのおつげなのです!」

 

 そんなお告げないから。

 あの犬っころは、せいぜい骨っ子持って来いとかしか言わないから。

 

「アンタ武士じゃなくて巫女でしょうが! あぁ、もう! 暴れるなーっ!」

 

  かくして、彼女が神楽舞の稽古のことを思い出すまで、この食い意地の張った小動物をなだめにはいるのだった。あ、手噛まれた。

 

 

 

 

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