悪戯好きな兄と聡明な妹の話。
[全3ページ]
-1ページ-

緑の森の入り江には美しい村があり、リネットという女の子が慎ましく暮らしておりました。

森を映したようなエメラルド色の瞳をした、可憐な女の子でした。

リネットは大人しく、聡明で、両親の言いつけを良く聞き助けました。

 

 

リネットには兄のリオがおりましたが、彼女とはまったくの正反対な性分で、

そこかしこでやんちゃをしては叱られる始末でしたが、

それについてリネットは常に心を痛めておりました。

 

「ねえ兄さん

 そんなに悪戯ばかりしていたら、いつか悪魔に食べられてしまうわ」

「リネットはなんて臆病なんだい!

 悪魔なんて、大人たちの常套句じゃないか!」

兄を心配したリネットが何度忠告したところで、リオは聞く耳を持ちません。

 

ある日、リオはいつもの悪戯の心算で隣の畑の野菜を

片っ端から引っこ抜いてしまいました。

ところが畑の持ち主は、実は恐ろしい悪魔だったため、

怒ってリオをひばりの姿に変えてしまいました。

 

「ああなんてことだ!

 こんなことなら、リネットの言うことを聞いておけばよかった!」

リオは人生で初めて死ぬほど悔やみましたが、後の祭りです。

何とかならないものかと、必死の思いで叫んでみますが、

村の人々は美しいひばりの歌声だと思うばかりで、

まさかこのひばりがリオだと思う者は誰もおりません。

 

 

日が沈んでも一向に帰ってこないリオを心配したリネットは

途方に暮れて玄関に座り込んで、兄の帰りを待っておりました。

 

「ああ兄さん

 いつも悪さばかりしているけれど、それでも大好きなリオ

 こんなに遅くまで帰らないなんてこと、今まで一度もなかったのに」

リネットはそうつぶやくと、エメラルドの瞳からは涙が零れ落ちました。

 

その様子を空から見た、ひばりになったリオはやはり必死に叫びました。

「なんて優しいリネット!

 なんてかわいそうなリネット!

 僕が全部悪かったんだ、どうか、僕だとわかっておくれ!」

 

美しいひばりの囀りを聞いたリネットが空を見上げると、

ひばりになったリオが舞い降りて、リネットの肩にとまって妹と同じように涙を流しました。

 

-2ページ-

 

「まあ、かわいらしいひばりさん

 わたしの悲しみをわかってくれるのね

 わたしの大好きなリオは、いつになったら帰ってくるかしら」

ひばりになったリオはよりいっそう項垂れました。

 

その日からリネットは毎日、戸口に立っては兄の帰りを待つようになりました。

何としても元の姿に戻って、リネットを安心させてやろうと、

ひばりのリオは自分をこんな姿にした悪魔の家を訪ねました。

 

「どうか元の姿に戻しておくれ!

 僕は本当に反省しているんだよ!

 何でもするから、元に戻しておくれ!」

 

悪魔は言いました。

「お前の悪ふざけにはこりごりだ!

 お前の誓いなど悪魔の言葉より信用ならん!」

 

気の短い悪魔はそういうと、ひばりのリオを握り潰してしまいました。

 

粉々になって打ち捨てられているひばりのリオを見つけたリネットは憐れに思って、

その骨を溶いて木靴を作りました。

「美しい歌声でわたしを慰めてくれたひばりさん

 どうかその肉は安らかに眠って

 その骨はいつまでも軽やかに旅してくださいね

 そしてその魂はどうか神さまの御許へ召しますように」

 

その夜、月が沈み始めたころです。

リネットの枕元には、音もなく一人の女性が立っておりました。

リネットはただ驚くばかりでしたが、女性は気にもせずにこう言いました。

「お嬢さん、憐れでやさしいお嬢さん

 わたしは丈夫な靴を探しているのだけれども

 どうかそのひばりの骨で作った木靴をわたしにちょうだいな

 もしもくれるなら、お嬢さんの望みを何でもひとつかなえてあげる」

 

これを聞いたリネットは喜んで靴を女性に差し出し、願いを言いました。

 

 

-3ページ-

 

朝になってリネットが目を覚ますと、まあどうしたことでしょう!

リネットは愛らしいひばりに姿を変えておりました。

 

「ああ、なんてことなの!

 わたしったらなんて事をしてしまったのかしら!

 あのひばりさんこそが、リオだったのね

 急いであの方から靴を返してもらわなくちゃ」

 

リネットは愕然としましたが、そうくよくよもしていられません。

リオの大切な形見を取り戻すべく、リネットは大空へ飛び立ちました。

 

風に流されながらも西へ東へと

リネットは本当に長い間、世界中を彷徨いました。

昼は世界の果てのガラスの山の美しさが、

夜は空の星座たちのささやき声が、

リネットの沈んだ心を少しずつやわらかくしました。

 

 

長い月日が経って、

ほとほと疲れきって息絶えそうになったころ、

ふとあぜ道を見下ろすと紫外套を纏った女の子がおりました。

齢とは不釣合いな格好をしたその女の子をよくよく見ますと、

足元にはなんと見覚えのある懐かしい靴を履いているではありませんか!

リネットは人目見るなり、リオの形見だと確信しました。

 

リネットは紫外套の女の子の元へ舞い降りるや否や言いました。

「ねえ、お嬢さん

 その靴はわたしの愛する兄さんの骨でできてるの

 一度は手放してしまったけれど、取り戻そうとずっと探してたのよ

 どうかその木靴をわたしに返してちょうだいな」

 

「この木靴はわたしがお母様から頂いたものなのよ

 お母様が仰るにはいつか手元から離れるまで共に旅をなさいと」

女の子は心底得心して、靴を脱ぐとひばりの口元に差し出しました。

 

「ありがとう、かわいらしいお嬢さん!

 ああやっと

 わたしの旅が終わったのね!」

ひばりのリネットは、お礼にと、靴にせず取っておいたリオの爪の骨を魔女の娘に渡しました。

紫外套の女の子は北の空へまた帰って行くひばりを、姿が見えなくなるまで見守っておりました。

 

 

ようやく安心したリネットは、今までのさまざまな出来事を思い出し、

麗しいエメラルドの瞳からは大粒の雫が後から後からあふれました。

すると土色の羽はすっかり抜け落ち、

リネットが泣き止む頃には元の人間の姿に戻っておりました。

 

「大好きなリオ、大好きな兄さん

 最期まで心配かけて

 さあ、もうお家に帰りましょうね」

 

リネットはリオの形見の木靴を抱きしめながら、今度は故郷をめざして歩いていきました。

 

 

説明
全ての行いに因る報い。
総閲覧数 閲覧ユーザー 支援
753 751 0
タグ
魔女の娘シリーズ 兄妹 ひばり 少女 魔女 ファンタジー 童話 おとぎ話 

岡保佐優さんの作品一覧

PC版
MY メニュー
ログイン
ログインするとコレクションと支援ができます。

<<戻る
携帯アクセス解析
(c)2018 - tinamini.com