IS -インフィニット・ストラトス- 〜恋夢交響曲〜 第二十四話
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「一体なんだってのよ!?」

 

ピットへと向かう途中に俺の後をついてきたリリィがさけぶ。布仏さんは・・・あの足の遅さだとついてきたとしてもだいぶ後ろの方だろう。

 

「わからないけど、非常にまずそうな事態なのは確かだ!」

 

「それくらいわかるわよ! あんたがあそこに向かう理由がわからないの!」

 

俺があそこへ向かう理由――本当にプライベート・チャネルから聞こえてきたのかは解らないが、ボーデヴィッヒさんの声が聞こえたからだ。そのことを走りながら説明するとリリィの呆れた声が聞こえた。

 

「あんた・・・そんな確証のないものを確かめるために危険なことをするわけ?」

 

「確かに確証はないけど・・・気になるんだよ。第一、あそこには俺の友達がいるからな」

 

「・・・あんたって、めんどくさがりの割にはいろいろと首を突っ込むわね」

 

リリィの皮肉に苦笑しながら、ピットへと到着、ドアを開ける。その時、緊急学内放送が部屋に響いた。

 

『非常事態発令! トーナメントの全試合は中止! 状況をレベルDと認定、鎮圧のため教師部隊を送り込む! 来賓、生徒はすぐに避難すること! 繰り返す――』

 

・・・鎮圧のために教師部隊を突入させる!? それなら確かに状況は打破できるけど、あの時に聞こえた言葉が本当だとしたら、ボーデヴィッヒさんはまた同じことを繰り返してしまう。力で鎮圧するんじゃない、言葉で彼女を止めないと――

 

「リリィ、頼みがあるんだ」

 

「・・・なによ?」

 

「俺が出て行ったあとに、ピットのコンピュータからシステムに侵入して教師部隊が出れないようにしてくれ」

 

「な、なんであたしがそんなこと!?」

 

「頼むよ、一生のお願いだ」

 

リリィに向かって深々と頭を下げる。正直、自分でもここまで必死になっているのに驚いているくらいだ。

 

「っ〜〜〜〜! あ〜もう、わかった! その代わり、今度何か奢ってよ!」

 

「俺の払える分でよければな!」

 

リリィは自前のブック型デバイスを開いてピットのコンピュータと接続するのを見た俺は、プラチナを起動させるとアリーナ内部へのゲートを開いた。

 

『奏羅! あれと話をするにしても相当な覚悟がいるわよ!』

 

「わかってるよ! ストライクフレームを使う!」

 

この前研究所から送られてきた装備、ストライクフレームを展開しプラチナとドッキングさせる。ストライクフレームは近距離戦闘用フレームで、被弾面積を減 らすための小型ウイングスラスター、回避性能を上げるためにスカートにも姿勢制御スラスターを装備している。左手にはワイヤーアンカーが発射出来るシール ド、ソニック・ブレイズは大型物理ブレードとして使えるように大型の刃が接続され、射程は短いが一度に発射できる弾の多いショットガンが腰部ウェポンラックに収納されている。

 

「システム・オールグリーン、カタパルト接続。射出タイミングを天加瀬奏羅に譲渡します!」

 

「・・・ここにはカタパルトなんて気の利いたものねぇよ」

 

「いや〜、はは。ロボットアニメのお約束、一回言ってみたくて。・・・ちゃんと帰ってきなさいよ」

 

「わかってるよ。お前こそ、足止め頼むぞ」

 

「あたしを誰だと思ってるんだ? 中学時代にハッキングでテスト問題手に入れてたリリィちゃんだぜ?」

 

「はは、そうだったな」

 

頼もしい同僚に後押しされ、俺はアリーナへと飛び出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぐっ! 一体何が・・・? ――!?」

 

「なっ!?」

 

アリーナで変化を見ていた一夏とシャルルは目を疑った。視線の先でシュヴァルツェア・レーゲンが変形、正しくは変体していたのだから。

 

「なんだよ、あれは・・・」

 

一夏は無意識につぶやく。ISはその原則として変形をしない。というか、出来ないのだ。形状を変えるのは『初期操縦者適応(ファーストアップ・フィッティング)』と『形態移行(フォームシフト)』 の二つだけである。装甲をパージするなどで多少変わることがあっても基礎的な形状が変化することはないのだ。しかし、二人の目の前では、粘土細工のように シュヴァルツェア・レーゲンの装甲が変形し、ラウラの全身をつつみこむと、ゆっくりと地面へと降り立った。そこには全身装甲のISに似た『何か』。そして そのその手の武器は――

 

「雪片・・・!」

 

かつて、織斑千冬がふるっていた刀、それに酷似しているのが一夏には理解できた。一夏は無意識に雪片二型を握りしめ、中段に構える。その瞬間、目の前の黒いISが懐に飛び込み一閃。それは紛れもなく織斑千冬の太刀筋――

 

「ぐうっ!」

 

構えていた雪片二型がはじかれ、そのまま敵は上段から縦一直線の斬撃。瞬間的に一夏は後方へと回避するが、すでにシールドエネルギーが底をついていた白式の最後の力だったのか、光とともに一夏の全身から消えた。

 

「・・・がどうした・・・」

 

しかし、今の一夏にそれはどうでもよかった。

 

「それがどうしたああっ!」

 

激しい怒りに突き動かされ、にぎりしめた拳を武器として黒いISへと突撃する。しかし、白式を展開していない状態のそれは敵にとっては格好の的だった。一夏の一撃を軽々と回避すると、刀を再び上段へと構える。

 

「く・・・くそっ!!」

 

やられる! そう思った一夏だったが、横から突撃してきた何かに弾き飛ばされた。

 

「一夏、逃げて!!」

 

それは物理シールドを構えたシャルルだった。しかし、そのシールドも敵の連撃によって瞬く間にボロボロになっていく。

 

「シールドが持たない・・・!? このままじゃ・・・!」

 

『大丈夫だ、困ってるときは助けてやるって言ったろ?』

 

シャルルのプライベート・チャネルに通信が入る。その通信の声の主にシャルルの顔が綻んだ。

 

「奏羅!!」

 

奏羅は瞬時加速で突撃しながらシールドからワイヤーアンカーを放つ。それに敵ISが気を取られた瞬間、シャルルは即座にマシンガンを展開して黒いISに撃ち込んだ。敵がマシンガンでひるむと同時にワイヤーアンカーに捕えられ、奏羅のもとへと引っ張られる。

 

「悪い、今はこうするしかないんだ・・・」

 

奏羅はラウラに向かって一言謝ると、黒いISに向かって至近距離でショットガンを数発撃ちこみ、ワイヤーを思い切り回して遠心力を使って投げ飛ばした。

 

「大丈夫か、シャルル?」

 

「ありがと・・・奏羅・・・」

 

奏羅はシャルルの無事を確認すると、二人で一夏のもとへと向かった。

 

「一夏、ISも展開せずにあいつに立ち向かうなんて死にに行くつもりか!?」

 

奏羅が一夏の短慮に怒鳴るが、一夏はまるで話を聞いていなかった。

 

「・・・うるさい! あいつをブッ飛ばさないと気が済まないんだ!」

 

「おい、一夏――」

 

「どけよ、二人とも! 邪魔するならお前らも――」

 

バシーン!

 

突然大きな音とともに一夏の体が横向きに転ぶ。彼を吹き飛ばすほどに頬を叩いたのは、奏羅でもシャルルでもなく、ラウラと組んでいた箒だった。

 

「いい加減にしろ! なんだというのだ! わかるように説明しろ!」

 

箒の一撃により、一夏は顔面に感じる痛みに限界まで達していた怒りの頂点が折られ、冷静になって話し始めた。

 

「あいつ・・・あれは、千冬姉のデータだ。それは千冬姉のものだ。千冬姉だけのものなんだよ。それを・・・くそっ!」

 

「お前は・・・いつも千冬さん千冬さんだな」

 

「それだけじゃねぇよ。あんな、わけわかんねえ力に振り回されてるラウラも気にいらねえ。ISとラウラ、どっちも一発ぶったたいてやらねえと気が済まねえ」

 

「なるほど。で、天加瀬はなぜここにいる?」

 

次に箒は乱入者でもある奏羅に質問を投げかける。

 

「友達を助けに来た・・・といいたいんだけど、それよりも気になることがあったからさ」

 

「気になること?」

 

「ああ。だから、ボーデヴィッヒさんと話をしに来た」

 

「話って・・・あの状態でできるのか?」

 

箒の疑問に奏羅は首を振った。

 

「わからない。けど、やってみるよ」

 

「おい待てよ、俺はあいつを殴らなきゃいけないんだぜ?」

 

「わかってるよ。お前が織斑先生のコピーを壊して、俺が彼女と話をする。で、正気に戻った後好きなだけ殴るといい」

 

「しかし、教師部隊が来るのだろう? なら――」

 

「悪いな箒。教師陣はまだこれないよ。足止めしてるからな」

 

「なに!?」

 

「さっき俺の優秀な友人からプライベート・チャネルで連絡が入った。突然のシステム不良により、しばらくはでてこれないってな」

 

「ははっ! そりゃいいぜ!」

 

奏羅の言葉に一夏が笑う。奏羅もそれにつられてほほ笑んだ。

 

「ええい! たたかうにしても、白式のエネルギーはどうするのだ!?」

 

「無いなら他から持ってくればいい。でしょ?」

 

「シャルル・・・」

 

「普通のISなら無理だけど、僕のリヴァイヴならコア・バイパスでエネルギーを移せると思う」

 

「本当か!? だったら頼む! 早速やってくれ!」

 

「けど、約束して。奏羅が彼女と話すまで絶対に負けないって」

 

一夏の言葉にピシッと指をさして言った。その言葉は強く、有無を言わせぬものがあった。

 

「もちろんだ。ここまで啖呵切って飛び出すんだ。負けたら男じゃねぇよ」

 

「じゃあ、負けたら明日から二人は女子の制服で通ってね」

 

「俺もかよ・・・」

 

「うっ・・・! い、いいぜ? なにせ俺と奏羅は負けないからな!」

 

軽いジョークを交えた会話に一夏はいつの間にか血が上っていた頭が適度な状態になっていた。

 

「じゃあ、はじめるよ。・・・リヴァイヴのコア・バイパスを開放。エネルギー流出を許可。一夏、白式のモードを一極限定にして。それで零落白夜がつかえるようになるはずだから」

 

「おう、わかった」

 

リヴァイヴからのびたケーブルが白式に繋がれ、そこからエネルギーが流れ込むのを、一夏は不思議な気分で感じていた。

 

「・・・さっきの友達から連絡が入った。あと5分で足止めが終わるらしい。引き延ばせても6分が限度だ」

 

「大丈夫だよ、もう終わるから・・・。完了。リヴァイヴの残りエネルギーを全部渡したよ」

 

その言葉通り、シャルルの体からリヴァイヴが粒子となって消える。それに合わせて白式が一極限定で再構成を始めた。

 

「やっぱり、武器と右腕だけで限界だね」

 

「充分さ」

 

「い、一夏っ!」

 

それまで傍観していた箒がはじかれたかのように口を開く。その目はまっすぐ一夏を見つめていた。

 

「死ぬな・・・。絶対に死ぬな!」

 

「何を心配してるんだよ、バカ」

 

「ばっ、バカとはなんだ! 私はお前が――」

 

「信じろ」

 

「えっ?」

 

「俺を信じろよ、箒。心配も祈りも不必要だ。ただ、信じて待っていてくれ。必ず勝って帰ってくる」

 

一夏の言葉にそれまで泣きそうだった箒の顔が和らぐ。

 

「・・・わかった」

 

「・・・なにやってんだか、あの二人」

 

ふたりの様子を少し離れてみていた奏羅が呆れたように苦笑した。

 

「ほんと、物語のワンシーンみたいだよね」

 

同意したようにシャルルもほほ笑む。

 

「さて、箒が安心できるように俺も気合いをいれないとな」

 

「ふふっ、そうだね。・・・僕も、奏羅のこと信じて待ってるよ。だから、絶対に帰ってきてね」

 

「それは心強いな。じゃ、行ってくるよ」

 

奏羅はシャルルのもとを離れ一夏の横へと並ぶ。そして一夏はまがい物の敵へ、奏羅はラウラへと顔を向けた。

 

「行くぜ、偽物野郎」

 

「行くぞ、ボーデヴィッヒさん」

 

合図はなかった。しかし、二人は同時に黒いISへと突撃した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「一夏!」

 

「おう!」

 

ただ名前を呼ぶだけ。しかし、一夏は俺の考えがわかったように行動する。アイツは攻撃に反応して反撃する。ならば作戦は簡単、時間差で攻撃することだ。

 

「うおおおおおおおっ!」

 

一夏が雪片二型を腰に当て、居合いの構えで突進する。その後ろに重なるように俺は一夏の後を追いかけた。

 

「・・・・・・」

 

黒いISが一夏の突進に反応して刀を振り下ろす。それを見切った一夏が横に避けるとともに、視界に現れた黒いISに向かって俺はショットガンを再び至近距離で叩き込んだ。

 

「まだだっ!」

 

怯んだところを一夏が雪片二型を腰から抜き放って一閃、相手の刀をはじき腹部へと蹴りを入れ吹き飛ばす。それに合わせて俺はシールドからワイヤーアンカーを射出し、相手を捕まえると思いっきり引きよせた。

 

「これでっ!」

 

一夏が零落白夜を発動させる。

 

「終わりだっ!」

 

俺は大型物理ブレードと化したソニック・ブレイズを抜く。

そして二人同時に縦に、横に、相手を断ち切った。

 

「ボーデヴィッヒさんっ!」

 

顔の装甲が割れ、彼女の目が現れる。あの時聞こえた言葉の通り、金色に輝く左目が見えた。

 

「しっかりしろ!」

 

彼女の体を捕まえて必死に叫ぶ。しかし、その目はうつろで反応がない。

 

(ダメなのか・・・? 彼女に何もできないまま終わるのか・・・?)

 

諦めるしかないのか? そう思った時だった――

 

『諦めちゃだめ』

 

懐かしい声が聞こえた。昔、いつも当たり前のように聞いていた彼女の声。

 

(そうだ・・・。あいつは夢に向かって努力してた、一度もあきらめずに!)

 

いつだってそうだった。彼女はいつだって諦めなかった。俺はそんな子の夢を継いでるんだ。こんな所で――

 

「・・・プラチナ。お前が思いを力に変えるISなら」

 

諦めてたまるか!!

 

「この想いを・・・伝えてみせろおおおおおおおおおおおおっ!」

 

 

 

 

 

――操縦者が変更されました。操縦者の変更に伴い、唯一使用の特殊才能(ワンオフ・アビリティ)を開放します。ワンオフ・アビリティ発動――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

見渡す限り、周りには一面のヒマワリ。いつだったか忘れたが、この景色を見たことがある気がする。

 

「貴様は、天加瀬・・・奏羅・・・?」

 

「ラウラ・・・ボーデヴィッヒ・・・さん?」

 

その幻想的な光景の中に予想外の人物。それは先ほどまで話をしようと思っていた、ラウラ・ボーデヴィッヒさんだった。

 

「ここは・・・どこなんだ・・・?」

 

「さあ。どこなんだろうな」

 

周りを見渡す彼女は、この不思議な場所になんだか惚けたような、魅入っている顔をしており、眼帯をつけていない左目はその光景を眺めていた。

 

「綺麗だよな、ここ。そう思ってるだろ?」

 

「・・・わからない」

 

「えっ?」

 

「この感情がわからない・・・。私はからっぽのはずなのに、心など、ないはずなのに・・・」

 

「それは、人工的に作られた存在だから?」

 

俺の言葉にボーデヴィッヒさんがはっとする。

 

「・・・なぜ知っている?」

 

「悪い、なぜか知らないけど聞こえたんだ。アリーナで、君が負けたときに」

 

「・・・・・・」

 

あの時のことが聞かれていたことが予想外だったのか彼女は黙り込んでしまった。

 

「あのさ、『私はからっぽだから』って決めつけるの、よくないと思うよ」

 

「なに・・・?」

 

「からっぽだからって決めつけて諦めるんじゃない、からっぽだから、何かを見つけようとしないとだめなんだと思う」

 

俺の言葉に彼女はしばらく考え込んだ後、口を開いた。

 

「私は、教官になりたかったんだ」

 

「織斑先生のこと?」

 

「ああ。でも、教官のような強さを望んでも、教官のようにはなれなかった。貴様らに、負けてしまった」

 

そうつぶやいた後、彼女は顔を伏せた。

 

「私は・・・どうしたらいい・・・。憧れた教官にはなれない、私は何になればいい・・・?」

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒになればいいんじゃないのかな?」

 

「えっ・・・?」

 

「世界中に君はたった一人だ。同じ人間なんていない。だから、織斑先生にならなくてもいいんだよ。君は、君になればいい」

 

「私になる・・・」

 

「そう。多分その途中で、自分がからっぽじゃなくなる、何かが見つかるんだって俺は思う」

 

「どこから・・・見つかるんだ?」

 

「たぶん、なんでもないような時だと思うよ。俺がそうだったし」

 

俺も大切が人がいなくなって、どこか心に穴があいたような感じだった。でも、いつしかそれを満たしてくれたのは、旭と一夏、箒やセシリアとの絆だった。

 

「それでも見つからなかったらどうするんだ?」

 

「その時は、俺も手伝うよ。だから――」

 

俺は彼女に向かって右手を差し出す。

 

「一つだけ聞いていいか?」

 

「何?」

 

「どうして教官は、織斑一夏は、お前は、そんなにも強いんだ・・・?」

 

「人は、大切なもののために戦う、だから強くなれるんだ。織斑先生は一夏のため、一夏はみんなを守るため、かな?」

 

「じゃあ、お前は・・・?」

 

「俺は夢のため。それと――」

 

「それと?」

 

「今日のは誰かさんの声を聞いたから、俺に出来ることなら何かしてあげたかった。それだけだよ」

 

「なっ・・・!?」

 

自分の過去を知らないうちに聞かれていたのが今更ながら恥ずかしくなったのか、彼女の顔が赤くなる。なんだ、この子こんな顔もできるんだな・・・。

 

「大丈夫、今日聞いたことはだれにも喋らないし、俺自身もなかったことにするからさ」

 

「・・・いや、なかったことにしないでくれ」

 

「いいのか? ボーデヴィッヒさんも忘れてほしいんじゃ・・・」

 

「この不思議な気持ち、なかったことにしたくない・・・。それに――」

 

「それに?」

 

「私のことはラウラでいいぞ、奏羅」

 

俺の右手をとってほほ笑む彼女。今度はあの時のように冷たくない、警戒も緊張もしていない、温かい手。

 

「ああ、よろしくな。ラウラ」

 

思わぬ新しい友人に、俺もつられてほほ笑んでしまった。

 

 

 

 

 

 

 

気がついたら彼女は俺の腕の中で眠っていた。なんだか、長い夢を見ていた気分だ。

 

「奏羅、大丈夫か?」

 

後ろから一夏がやってくる。そういやこいつ、ラウラを一発殴りたがってたっけ。

 

「悪いな一夏、殴りたかったんだろ?」

 

「・・・いや、その顔見てたら殴る気失せちまったよ」

 

眠っているラウラの顔を見ながら一夏がつぶやいた。ラウラの寝顔は、どこか安心したような顔で眠っていた。

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