竜たちの夢7
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 ドッペルゲンガーという言葉を知っているだろうか?

 

 ドイツ語で「生きている人間の霊的な生き写し」を意味するこの言葉は、脳の不具合によって本人だけに自分の幻が見える現象のことを意味している。

小説などに出て来るドッペルゲンガーは特定の人物や生き物に成りすましたシェイプシフターであることが多く、いつの間にか本物を殺してそれに成り代わる。

 

 しかし、前者はともかく、後者は存在しない。

 

 他人の振りをして、いずれ本物を殺して成り代わるというのは中々に恐ろしい話だが、飽く迄それは想像上のものだ。

現実にそんなものが居るならば、他者を信じることなどできまい。

ただでさえ、他人を信じるには強さが必要だと言うのに、そんなものまで存在しては堪ったものではない。

 

 

 

「……やはりこうなったか」

 

 一刀はギスギスとした空気が漂う行軍に、思わずため息をついた。

この何とも言えない空気を生み出しているのは、愛紗と関羽……否、正確には関羽である。

愛紗はそう気にしていないようだが、関羽の方は見るからに不機嫌そうな表情をしている。

 

 彼女が不機嫌な理由はずばり真名のことだ。

 

 関羽の真名もまた愛紗と同じ読みで、同じ字だった為、関羽はそのことで混乱している。

その一方で、愛紗は一刀にしかその真名を預けていない為、彼以外が呼ぶ愛紗という名は全て関羽の真名を呼んだと見なしている。

今後も真名を誰かに預けるつもりはない、というのが愛紗の言だ。

 

 愛紗はそうやって折り合いをつけたが、関羽にはそうすることは難しいらしく、それが今の空気を形成している訳だ。

真名が全く同一のものであるということは、確かに起こり得ることではあろうが……一刀からすれば関羽の反応の方が正しく思える。

 

 

「愛紗、程遠志達の教育はどうなっている?」

 

「最低限の訓練しか行っていませんが、かなり使えます。元々そういうことに特化した方々のようですし、良い拾い物をされましたね」

 

「細作は今後必要だ。黄巾党の危機が去れば、諸侯達が動き出すからな。訓練はそのまま任せる」

 

「御意」

 

 愛紗は何事も無いかのようにしているが、本来ならば真名が同一であることは非常に良くないことだ。

己そのものを表す名が他者のそれと同じだというのは、それこそ片方が片方を殺しでもしない限り気が済まない筈だ。

姓も名も字もいくらでも偽ることはできるが、真名だけはそうしてはいけない。

 

 自分が自分であるということを証明するのが真名なのだ。

その全存在を肯定する名を持たないからこそ、一刀はそれを行動で示さなければならない。

真名を持たない彼は元来この世界に居てはいけない存在であり、それを否定する為に彼は真名の重みを大切にする。

 

 言うなれば、真名はこの世界と己を繋ぐ鎖であり、絆の証そのものだ。

親がこの世界の代わりに名づけてくれるのが真名であり、それを持たぬ一刀は異質なのだ。

彼がどんなに真名の重みを大切にしても、この世界の住人にはなれない。真名がそれを許さない。

そんな彼にとって、同じ真名を持ちながらもそれに動じない愛紗の姿は、実に疎ましいものだった。

 

 

「関羽、その反応は正しいのだから気に病まないことだ」

 

「分かっています。しかし、姿形に声に得物、果ては真名まで同じとは、面妖な……」

 

「……その口調はどうにかならないのか? こちらが年上とはいえ関羽の方が古参だからな」

 

「私も何故かは分からないのですが、この口調の方が落ち着くのです。御不快でしたらどうにかします」

 

「いや、不快という訳ではないんだ。関羽がその方が良いなら、それで良い」

 

 関羽が一刀に敬語を使うのが、彼には少しばかりむず痒いのだけだ。

彼の世界の関羽雲長と言えば、三国志でも一、二を争う人気を持つ人物であるし、彼もまた関羽という人物を気に入っている。

女性とはいえ、その関羽に敬語で話されるのは奇妙な感じがして仕方ない。

 

 張飛の一刀の呼び方に関してもそうだが、あれは性格が性格なので仕方がない。

彼女のような性格の者は、無理に言い聞かせるよりも気の済むようにやらせた方が良い。

過度な自由は後に歪を生み出すが、そこを上手く抑えておくことが大切だ。

張飛もまた、形は異なるものの躾が必要な人物であろう。

 

 

「……北郷殿はお優しいですね。まだ出会って数日ですが、良く分かります」

 

「そうか? 甘くはないつもりだが」

 

「鈴々もそう思うのだ! お兄ちゃんは優しい匂いがするのだ!」

 

「匂いって……お前は犬か何かか?」

 

「にゃはは……鈴々は鈴々なのだ!」

 

 関羽の言葉に賛成する張飛の頭を撫でながら、一刀は苦笑した。

元来髪を誰かに触られることは、余程親しいものでなければ嫌なことだ。ましてや相手が異性ならば、尚更のことである。

しかし、張飛は一刀に対してそんなものは微塵も感じていない処か、寧ろ嬉々として頭を差し出してくる。

 

 張飛に懐かれることも、関羽に認められることも一刀としては計算外であった。

彼はいずれ厳しい言葉を彼女達に向けて、その成長を促さなければならないのに、これではいけない。

しかし、彼が彼女達を嫌って厳しい言葉を向ける訳ではないことを分かって貰う為にも、絆は深めておく方が良いだろう。

 

 絆とは、確かめ合わなければ簡単に崩れ去っていく脆いものだ。

親も兄弟も、親友も同志も、絆を確かめ合わなければいずれ離れ離れになっていく。

この世界における最大にして最高の絆こそが真名であり、それはもはや呪いとも言える重さを誇る。

だから、一刀は彼が背負い込める者のみしか真名を受け取らない。

 

 

「鈴々がここまで懐くのも、その証拠でしょう。こう見えて、鈴々は中々人見知りをしますからね」

 

「そうなのか?」

 

「鈴々は人見知りなんて知らないのだ」

 

「目を逸らすな」

 

「♪〜」

 

 口笛を吹きながら顔を逸らす張飛の姿は、常人ならば、どこからどう見ても武人には見えない。

しかし、武人は動作の所々にそれが漏れ出してしまうものだ。

一刀には、張飛の仕草の中にしなやかさを垣間見ることができる。

 

 張飛がこの小さな体で蛇矛という大きな得物を扱えるのは、剛腕だからではなく全身の筋肉の使い方が上手いからだ。

常人よりも力があるのは確かだが、それも飽く迄常人の数倍程度のものであって数十倍もある訳ではない。

 

 それを感じさせない圧倒的な威力を持つのは、彼女が天性の素質を持っているからだ。

純粋な腕力だけならば、張飛は愛紗の足元にも及ばないだろうが、全身を上手く使うことでその力を何倍にも増幅している。

だからこそ、愛紗と打ち合うことが可能なのだ。

 

 打ち合えるだけで、勝つことは永遠に無理かもしれないが。

 

 

 

「まぁ良い。それよりも、この速度なら明後日にでも公孫賛の元につくだろう。劉備」

 

「うん……皆、そろそろ気を引き締めてね!」

 

「「「「「応!!」」」」」

 

 ここまで来れば、黄巾党の大部隊と遭遇する可能性は今までよりも格段に跳ね上がる。

一刀の眼の届く範囲にはまだ居ないようだが、彼の視力にも限界はあるのだから油断は禁物だ。

数里先を見通すことができる彼の眼も、万能ではない。

 

 その点に関しては、劉備が彼の予想以上にできる人間であったことが幸いしている。

この劉備は仁徳だけでなく、それを裏付ける為の能力もある程度備えているのだ。

勿論愛紗のように未来予知の如く先を読める訳ではないが、それでも十分な能力だと言えよう。

 

 劉備曰く、一刀のようになりたいと思ったからこそここまで頑張れたそうだが、彼にはそこは今一つ理解できない。

たった一日二日しか過ごさなかった彼にそこまで憧れることは難しい……それこそ、劉備が竜としての彼に憧れたのでなければ、の話だが。

その点に関しては、いずれ歪みを生じる可能性があるので、一刀としては明らかにしておきたい。

 

 

「ふむ……少しばかり先行して偵察してこようと思う。良いか、劉備?」

 

「そうだね……ここから先は偵察しながら進んだ方が良いから、お願いしても良いかな?」

 

「御意。誰かついてくる者は居るか?」

 

「では、私が」

 

「……関羽が? 構わないが、劉備の傍に居なくても良いのか?」

 

 一刀からすれば、関羽は劉備の思想よりも劉備そのものを大切としている嫌いがある。

それは酷く危ないもので、いずれそれに気づいた者に糾弾されてしまう恐れがある。

一刀はそこをどうにかしておきたいと思っていたのだが、そんな関羽が彼について来ると言ったのには少しばかり驚いた。

 

 愛紗との一件も関係しているのかもしれないが、それでもこういう展開を想像するのは難しい。

しかし、これは好機だ。関羽には少しばかり自覚をして貰わねばならない。

劉備玄徳という人物を守るのではなく、劉備玄徳が掲げる理想を守ることこそが、彼女の義務なのだと気付かせねばならない。

 

 

「鈴々に行かせると、往路ではしゃぎ過ぎて復路で困りそうですから」

 

「にゃにゃっ!? 鈴々はそんなことはしないのだ!!……多分」

 

「目を逸らすな、目を。ふぅ……桃香様、宜しいでしょうか?」

 

「うん。愛紗ちゃんなら暴走しないだろうから」

 

「お姉ちゃんも酷いのだ!?」

 

 張飛、関羽、劉備の三人に関しては今のところ足並みが揃っている。

一刀の最も重要な役割は、この足並みを崩させずに最後まで進ませることであろう。

劉備にとってこの二人は掛替えのない存在となっているし、これからもそうである筈だ。

それを崩させないようにすれば、天下三分の計はより加速させることができる。

 

 

「それでは、行くか。愛紗に張飛、劉備を頼んだぞ」

 

「御意」

 

「任せろ! なのだ!!」

 

「では行くぞ、関羽」

 

「はい!」

 

 一刀が軽く蜃気楼に加速を促すと、蜃気楼はすぐさま前方に向かって加速を始めた。

今までの行軍速度が蜃気楼にとってあまりにも鈍重であったせいもあってか、その加速は圧倒的だ。

後に続いた関羽の馬を一気に引き離してしまう蜃気楼に減速を促すと、一刀は苦笑する。

 

 確かに蜃気楼はあの赤兎馬に双肩するどころかそれを凌駕する機動力を持つ馬だ。

その機動力を生かさずに居るのは勿体無い上に、蜃気楼も気に入らないということであろう。

一刀は蜃気楼の首を撫でながら、減速の合図に従った蜃気楼を褒めた。

 

 蜃気楼は日頃から聞き分けが良いだけに、何かと無理をさせている。

愛紗だけでなく蜃気楼もしっかりと労ってやらねば、蜃気楼の背中に乗る資格は一刀には無いだろう。

彼にとっては愛紗の次に付き合いが長いのだから、大切にしてやらねば。

 

 

「蜃気楼、でしたか? さすがに速い。千里馬と呼ぶに相応しい馬ですね」

 

「そうだな。実際に千里を走ることなど蜃気楼には容易いからな。本当に、良い馬だ」

 

「北郷殿と相まって、まるで異界の騎馬のようです」

 

「……確かに俺も蜃気楼も異質だからな」

 

 追いついた関羽の言葉に、一刀はヒヤリとさせられた。

蜃気楼は飽く迄竜という化け物の血で強化された竜馬で半分はこの世界のものだが、北郷一刀はまさしく異界の存在だ。

真名という重みを持たず、ふわふわと浮いている異質な存在だ。

 

 一刀にとって真名は鎖だ。その鎖がこの世界と己を繋ぎ、人と人を繋ぐ絆にもなる。

それを持たぬ彼は、世界と己を繋ぐ為に何かをなさねばならない。

真名を交換することで互いの存在を確立していくということができない彼は、ただ態度でそうするしかない。

 

 真名を持たない彼は、この世界では死人同様……否、それにすらなれない。

自分は何者なのか?……誰もが問い続けるこの問いの答えこそが真名であり、彼にはそれが無いのだ。

彼は何者にもなれない―――だから、必死に見せつけるのだ。

 

彼の生き方を、彼の信念を。

 

 

「あっ……申し訳ありません。変なことを申しました」

 

「気にするな。それよりも、一つ聞いて良いか?」

 

「はい。私に答えることができることならば何でも」

 

「では、関羽よ。お前は劉備の為に戦っているのか? それとも、彼女の理想の為に戦っているのか?」

 

「――!?」

 

 一刀の刃を隠さない言葉に、関羽は目を見開いた。

彼の言葉は彼女が今まで考えもしなかったことを的確についていたからだ。

関羽が戦うのは高き理想を持つ劉備の為であり、理想そのものを主としている訳ではない。

 

 いかに主である劉備が慕っている相手とはいえ、まだ数日しか共に行動していない一刀にそのような質問をされる可能性など、関羽は微塵も考えていなかった。

一瞬彼もまた彼女のことを良く思わない者なのではないかという疑念が湧くが、それはすぐに消えてしまう。

 

 一刀の眼には関羽を嫌っている処か、案じている色が伺えるのだ。

何故そこまで優しい眼で見守っているのか、彼女には理解できないが、少なくとも彼が彼女に害意を持たないことは理解した。

ここは正直に答えなければならない。

その優しさに応えなければいけない……彼女にはそんな気がするのだ。

 

 

「私が戦っているのは桃香様の為です。時と場合によっては桃香様の理想に反しても、あのお方をお守りします」

 

「成程。関羽は何故そこまで劉備を大切にするんだ?」

 

「……桃香様が主であるからこそ、では駄目なのでしょうか?」

 

「駄目ではない。だが、これだけは言っておく。もしもお前の居場所を守る為に戦っているのだとしたら、そのことを否定するな。受け入れていなければ、いずれそこを誰かに突かれて崩される」

 

「……分かりました」

 

 関羽の表情は苦いものだが、一刀はその危うさを早めに指摘しておきたかった。

彼女は化け物などではなく、一人の人間であって、その居場所を独りで必死に守ろうとする必要は無いのだ。

その場所は劉備や張飛が守ってくれるし、一刀もそうする。

 

 己の弱さを否定することは悪いことではない。

ただ、それを覆い隠す為に、差し伸べられた手を振り払うことだけはしてはいけない。

それは却って弱さを強め、居場所そのものを失う可能性すら生じさせるのだ。

 

一刀は、関羽には自分と違って最後まで劉備の傍に居てやって欲しい。

蜀は彼がこれから育てていくが、それが大成した時彼は必要無い存在でいなければならない。

そうなる程に彼以外の者がしっかりと成長していれば、天下三分の計は成り立つのだ。

 

 

「関羽。確かにお前が気高く、強くあることは劉備の勢力を大きくするのに多大な貢献となる。だがな、その果てがお前の崩壊では劉備の理想もまた崩壊するぞ」

 

「それは……そうかもしれませんが」

 

「だから、頼れ。劉備や張飛に弱みを見せることができないのならば、お前は俺に頼れば良い。口は堅いつもりだ」

 

「……北郷殿。貴方は何故、そこまでしてくださるのですか?」

 

 そう問う関羽の不安げな表情に、思わず一刀は苦笑してしまう。

確かに彼が出会って数日で彼女の不安要素を見抜くのは、天性ならばできるかもしれない。

だが、それを知った上で彼女の助けになろうと提案してくることに、彼女は恐怖を禁じ得ないのだ。

 

 一刀の提案は劉備の行動理念と同じであるにも関わらず、彼女は疑っているのだ。

彼はそれが少しばかりおかしく、だが同時に頼もしく思って笑う。

関羽の反応は正しい。劉備や一刀の行動が異常なだけであって、その反応こそが普通だ。

 

 

「関羽。俺は劉備に天下を取らせる。その為にお前は不可欠だ」

 

「それが、理由なのですか?」

 

「ああ。あの娘の夢を叶えることも、この大陸を平定することも、俺の夢だ。お前はその夢の為に必要だ。だから、無理はするな」

 

「……お心遣い、感謝いたします」

 

「畏まるな。今まで通りで良い」

 

 微笑と共に彼に笑いかける関羽の姿は、やはり一刀の良く知る愛紗のそれであった。

近々愛紗に聞き質さなければならないことができたが、今は黄巾党に集中すべき時である。

今の処、一刀の眼に黄巾党の影は見えない。

 

 元々幽州は黄巾党の規模がそこまで大きくない為、この程度であろう。

荊州、冀州、青洲あたりはかなり際どい戦いが続くだろうが、そこは他の諸侯に任せておくだけだ。

質が量を圧倒する時もあるにはあるが、それは量が絶望的でない場合のみである。

 

 一刀ならば数十万人が相手でも怯みはしないし、寧ろ数が多い方が戦いやすいくらいだ。

そもそも彼の戦い方の大部分は、数百、数千、数万を一気に屠る殲滅用のものである。

今まで格下としか戦えなかった故に、彼の戦い方は己の生存よりも敵の確実な死に重点を置いているのだ。

 

 

「ふむ……やはり幽州は黄巾党の数が少ないな。関羽、公孫賛の所が落ち着いたら冀州に行くのはどうだ?」

 

「そうですね……それが良いかもしれません。桃香様の名も上がりますし」

 

「それが目的だ。愛紗の情報を聞く限り、豫洲は曹操に袁紹、荊州は劉表に袁術、揚州は孫堅、涼州あたりは董卓や馬騰に、益州は劉焉に任せておけば問題無さそうだからな」

 

「となると、冀州と青洲が残りますね。交州での規模はそこまでではないようですし」

 

「俺達は冀州だけに集中した方が良い。精鋭部隊ならば青洲まで行っても良いが、そうでない者が大部分を占めることになるのは分かっている。冀州が限度だ」

 

 練度はそのまま体力、気力に影響する。

たった数週間、数ヶ月の訓練では、青洲まで行軍してそのまま戦うのは無理だ。

体力は持つかもしれないが、気力が持たなくなってしまうのは分かり切っていることである。

 

 そもそも公孫賛の所で兵力を増強できたとしても、劉備の兵は恐らく千幾何が限度だ。

曹操ですら五千程の精鋭を持ち、袁紹も練度は低いものの既に五万程の力を持っている。

そういった勢力に目を付けられてしまうと、たった千程度では簡単に消されてしまう。

 

 一刀ならば、たかが数万程度の戦力は二刻半もあれば一人残らず殲滅できる。

しかし、五胡のことを考えると大陸内の合計戦力を無駄に減らすのは得策ではない。

彼無しでも中国大陸が五胡を相手取って問題無い戦力を残しておくことが必要になる。

その為にも、青洲は黄巾党の逃げ場所として残しておくのだ。

 

 三十万を超える青洲兵は曹操に託し、北方を任せる為にも青洲は放っておけば良い。

 

 

「冀州ですか。冀州は確か、黄巾党の本隊が向かっていると聞きましたが、それを狙うのですか?」

 

「そうだ。首謀者の首を取っておくに越したことはない。取り込めるならば、取り込み黄巾党をそのまま吸収するのもありだ」

 

「それは……民が納得しないのでは?」

 

「納得しないのならば挑んでくれば良い。取り込むか、食い殺すかしてやるだけさ」

 

 黄巾党を恨む者も確かに居るだろうが、その怒りを一刀は利用するだけだ。

黄巾党は一年も持たずに滅び、それによって黄巾党を去っていく者が多いであろうことは簡単に予想できる。

ならば、その怒りを黄巾党に向けた処で意味などありはしない。

 

 その怒りを、憎しみを賊やその原因に向けさせる。

あらゆる脅威を憎む少数精鋭も居ると良いのは間違いない。

それを担うとすれば、恐らくは彼だ。憎しみを込めて壊れゆく者達を看取れるのは彼しかいない。

 

 復讐者は誰にもなれない哀れな存在であり、復讐を終えて初めて自分に戻れる。

彼らの末路を一刀は見守り、何にもなれずに半ばで倒れた者を慈しみ、その業を背負うだろう。

もしもその先に見えるものがあったならば、彼は笑って背中を押してやるだろう。

それをできるのは何にもなれぬ者達だけなのだから。

 

 

「北郷殿は……奥が見えませんね。正直に言えば、恐ろしいです」

 

「それで良い。お前のその勘を忘れるな。俺は恐れるべき存在であって、優しくはない」

 

「……貴方は、本当にお優しいですね。そうやって常に道を示してくださる」

 

「……俺は導き手だ。劉備を……いや、お前達を導くまでが俺の役割だ」

 

「では、その後は? 我々を導いてくださった後はどうされるのですか?」

 

 一刀は不思議な存在である――関羽には、少なくともそう思える。

全てを見通しているかのような目をしていることに恐怖を覚えながらも、その奥に潜む優しさに安堵してしまうのだ。

その厳しい現実を語っている筈の声は、温かい色を奥に忍ばせているのだ。

 

 関羽には本当の北郷一刀がどんな者なのかは分からない。

ただ、今彼女の目の前に居る彼が本当の彼ではないことは容易に理解できる。

誰かを傷つけることになると分かりながらも、その先にある成長の為に憎まれ役をしているように見えてしまうのは幻ではない筈だ。

 

 なぜ一刀がそうするのかは関羽には分からない。

あまりにも未知の部分が多過ぎる彼に恐怖を覚えながらも、同時に何処か惹かれている彼女が居た。

彼の呼ぶ愛紗という名前が、司馬懿の真名ではなく己の真名であることを心密かに望んでいる彼女が居た。

 

 この真名を持たぬ者を己の真名で縛りたい――そんな醜い欲望が滲み出てくるのを、彼女は確かに感じていたのだった。

 

 

 

「その後は……旅にでも出るさ。俺の出る幕ではない」

 

「本当にそうなのでしょうか? 私には北郷殿は政治でも軍事でも活躍できると思うのですが」

 

「一つ良いことを教えてやろう。何でもできる者がいつまでも居ると、国は育つが人は育たない」

 

「……そうでしょうか? 私にはそうは思えません。」

 

「分かれとは言わない。だが、いつかこの何でもできる者に出会った時、この言葉を言ってやって欲しい」

 

 一刀は確かに武も政もこの十年の精進で一国を持てる程のものになっている。

しかし、彼が協力するのは飽く迄蜀という国の立ち上げまでで、その後は後継の者達に任せるつもりだ。

机上の勉学だけでなく、実践させることで学ばせなければ人材は育たない。

 

 この世界は所々に歪が生じている上に、彼はこれから更にそれを拡大させていく。

蜀を史実のものよりも遥かに強固で、より実のある国へと変えていくことで、天下三分の計を確かなものにするのだ。

五胡との戦いを想定し、一刀としてはいずれ曹操や孫権とも言葉を交えたい。

 

 劉備や関羽が考えているのが理想の実現ならば、一刀と愛紗が考えているのは理想を崩さない為の基盤作りだ。

いずれ生まれる三国の絆を確かなものにする為の種は既に撒いてある。

後は、それがどう育ったかを確認するだけだ。

 

 

「承知しました。北郷殿は本当に先見の明があられますね」

 

「そうでもない。桜桑村に黄巾党が攻めてきたのは流石に読めなかったぞ?」

 

「ふふ……そこまで読めてしまえば、まさしく預言者か妖の類です」

 

「ははっ、違いない!」

 

 笑顔で肯定する一刀の姿は実に美しい……関羽は本心からそう思った。

所々で外に滲み出てくる彼の内面を感じ取る度に、彼女はドキリとしてしまうのだ。

彼女は、まだ出会って数日の男性に対してこのようなときめきを感じてしまう程安い女ではない筈だと自負していたつもりが、彼だけは例外のようだ。

 

 関羽の主である劉備――桃香は確かに絶大的な包容力を持っている。

そんな桃香を形成した最も大きな要因は間違いなく彼、北郷一刀であろうと彼女には容易に想像できた。

桃香が海のように広く、深い慈愛を持つ王ならば、一刀は空のように果てしなく、際限の無い慈愛を秘めた王であろう。

 

 桃香の理想の元に集う者は皆知らず知らずの内に北郷一刀の愛を求めているのかもしれない。

桃香が理想を掲げ、彼がそれを形にしているのだ。

だから、人見知りする張飛――鈴々すらも、彼にすぐに懐いてしまった。

この陣営で最も冷徹に見えてしまう彼こそが、この陣営の理想の体現者なのだ。

 

 

「しかし……ここまで進んでも、まるで黄巾党は見当たらないとは驚いた。一旦戻るか?」

 

「そうしましょう。今頃鈴々も拗ねて待っていることでしょうし」

 

「ぷっ……やはりまだ子どもだな」

 

「ええ、まったくです」

 

 関羽にとって、一刀はあまりにも大き過ぎる存在だ。

彼女には一生彼を理解しきれないだろうし、彼もそこまでは望んでいない。

ただ、北郷一刀はこういう者なのだと分かれば、それで良いのだ。

真名を持たない彼に真名を預けて良いのは、彼がどんな者なのかを理解した者だけである。

 

 彼が何者かを理解したことを示す為に、更には自分が何者かを理解して貰う為に、彼に真名を預けるのだ。

彼はそうした時初めて真名を受け取ってくれる。

あまりにも重い真名に見合うだけのことを為せたのだと、漸く納得してくれるのだ。

 

 

 そんな優しく、あまりにも真名を重く見過ぎる彼の笑顔に惹かれながらも、彼女は主の元へと馬を走らせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なに? 桃香……いや、劉備がここに来ているのか?」

 

 部下からの報告を聞いた公孫賛は、その内容に驚きながらも、しかし納得した。

かつて同じ場所で学問を学んだ友人である劉備――桃香は昔から人助けばかりしていた。

他の州は諸侯達がかなり奮闘している為、この幽州に集中することにしたのだろう。

 

 公孫賛にとって、それは実に有難いことであった。

彼女の兵は匈奴などとの戦いで騎馬戦に長けた、ある種の精鋭部隊である。

その数は今現在で約五千程度であり、練度や数を考慮しても、今現在急速に力を伸ばしている曹操と真正面からぶつかって七割の勝率を誇るだろう。

 

 しかし、ここには精鋭となる兵は居ても、それを率いる将が居なかった。

いかな精鋭部隊も、率いる将が居なくてはその実力を十二分に発揮することは難しい。

今現在この精鋭部隊をしっかりと運用できる将は公孫賛を含め二人しか居ない。

その為、桃香の来訪は彼女にとって実に有難いことであった。

 

 

「よし、通してくれ」

 

 部下にすぐさま桃香を通すように言うと、公孫賛はここからどうやって黄巾党と戦うのか考え始めた。

つい先日三千程の部隊を撃退はしたものの、細作の情報では後数日もすればその残党千余りに五千を加えた部隊が再びここにやってくる。

 

 公孫賛の持つ騎馬隊は攻撃力も機動力も高いものの、このままではイタチごっこだ。

幽州の黄巾党の本隊との規模を合わせれば、これから彼女が相手にしなければいけない数は大凡一万程になる。

今こちらに向かっている六千余りのみならばまだ良いが、全戦力である一万超に来られると流石にどうしようもない。

 

 そんな難しい時期に桃香が来てくれたことは、公孫賛にとってまさに幸運だった。

桃香は昔から強かさを持ち、奇策を考えるのが上手かった。

しかも、聞けば部下を引き連れての訪問であるそうなので、彼女が公孫賛の助けになってくれることは明らかであった。

 

 

「白蓮ちゃん、久しぶり!」

 

「こちらこそ久しぶりだな、桃香」

 

 部屋に入ってくるなり走り寄ってきて抱きしめてくる旧友に苦笑しながらも、公孫賛はその再会を喜んだ。

こんな形での再会でなければもっと良かったのだが、なってしまったものは仕方がない。

公孫賛――白蓮は早速彼女に話を聞くことにした。

 

 

「桃香、今日ここに来た理由を聞いても良いか?」

 

「白蓮ちゃんの助けになりたくて、ここに来たの。外に私の仲間達が居るから、会ってくれないかな?」

 

「ああ、分かった。それで、何人くらいで来たんだ?」

 

「二十人ちょっとかな? その中でも凄く強いのが、愛紗ちゃん、鈴々ちゃんに、一刀さんの三人だよ」

 

「どのくらい凄いのかは知らないが、将が三人と考えておこう」

 

 やはり自分の考えた通りであったことに安堵しながら、白蓮は桃香の後に従った。

今現在ここに居る将は自分を含めて二人だけだったが、それが五人に増えるのならば大歓迎である。

彼女の部隊ならば、一部隊千人でも十二分に機能するし、数は少ない方が機動力の低下が無くて良い。

 

 白蓮は全ての能力が平均的なもので、突出したものはない。

しかし、それ故に彼女には弱点らしい弱点も無く、彼女の部隊のことを良く分かっていた。

己の武に頼り過ぎない彼女だからこそ、騎馬隊の練度は高いものとなっている訳だ。

 

 

「あ、見えてきたよ!」

 

「どれ、どれくらいの―――」

 

 

 桃香が示した先に居る者達の方を向き、どの程度のものか見極めようとした白蓮は、その先で見たものに思わず固まった。

彼女は全てが平均的であるが故に、己よりも能力の高い者のことは良く分かるつもりだ。

言うなれば、人物の評価において唯一彼女は平凡ではない能力を持つ。

 

 そんな彼女が思わず息をすることすら忘れてしまう程の者達がそこには居た。

白蓮の下に客将としてついてくれている超雲子龍と同等の力量を持つ者が二人居ることにまず彼女は驚いたが、彼女をここまで驚愕させたのはその二人ではない。

 

 

「……あれは、なんだ?」

 

 白蓮の眼は、その二人とは桁違いの何かを持つ二人に釘付けだった。

特に真紅の眼を持つ男に至っては、底がまるで見えない。

彼女の目に狂いが無ければ、もはや彼は人間では無く、それ以上の何かだ。

 

 そんな彼女に気づくことなく、桃香は話を続けた。

彼女があの二人の圧倒的存在感に気づいているのか居ないのかは、白蓮には分からない。

だが、もしもそれを分かっていてあの二人を仲間として加えているのならば、彼女の器は白蓮が想像していたよりも遥かに大きいものだと言える。

 

 

「皆、この人が白蓮ちゃん……ここの責任者だよ!」

 

「公孫伯圭と言う。この度は協力に感謝する」

 

「関雲長と申します」

 

「鈴々は張益徳と言うのだ!」

 

「司馬仲達と申します。ご歓迎いただき光栄に思います」

 

「北郷一刀と申します。北郷と呼んでください」

 

 白蓮は、名乗りを上げた者達の中に、司馬の姓を聞いて驚いた。

関羽と瓜二つの容姿の女性は司馬懿仲達と名乗ったが、司馬家の者までもが桃香の配下になっているなど予想できる筈が無い。

北郷一刀と名乗った男に関しては、本当は彼がこの者達の長なのではないかと思わせる程だ。

 

 白蓮の眼から見たこの集団は、酷く歪なものだった。

長である者が最初に彼女の元に来るのが道理なのだから、桃香が一人で来たのはそういう意味となる。

しかし、北郷一刀や司馬懿仲達を差し置いて桃香がこの集団の長となれる理由など、白蓮には少しも見当たらないのだ。

 

 この集団を繋ぐ絆は白蓮が知る既存のものとは大きく異なるのか、それとも最初からそんなものは無いのか……そのどちらかだ。

前者ならば、この集団は今までに無い新たな風をこの大陸に流していくが、後者ならば瓦解していく。

この集団がそのどちらに向かうのかは、彼女には分からなかった。

 

 

「協力は有難いが、兵は足りているんだ。できれば将の手を借りたい」

 

「ならば、ここに居ます関羽雲長と張飛益徳をお薦めします。彼女達ならば公孫賛殿も満足のいく行軍が可能かと」

 

「ほ、北郷殿!? 私は今まで誰かを率いたことなどありません!」

 

「鈴々もなのだ!」

 

「何、気にするな。お前達には将として天性のものがある。十二分にその力を発揮できるだろう。もしもの時は俺が援護する」

 

 白蓮は関羽と張飛を将として動かすことを勧めてきた一刀に、手際の良さを感じた。

更に、不安そうな二人への彼の丁寧且つ安心感を漂わせるフォローに、彼女は一つこの集団の特性を理解する。

この集団は桃香を中心としているが、それを回しているのはこの北郷一刀なのだ。

 

 桃香が欠ければ彼女の代わりに北郷一刀がその中心になるのだろうが、彼が欠けた時桃香ではその代わりになれないだろう。

やはり、この集団の真の長が彼であることは間違いない。

桃香は、そんな彼に背中を押されながらも長としての訓練を受けているのかもしれない。

時折彼が見せる優しい眼差しは、まるで後継を育てている者のように見えるのだ。

 

 

「分かりました……やってみます」

 

「鈴々も頑張るのだ!」

 

「その意気だ。公孫賛殿、宜しいですか?」

 

「ああ、構わないさ。ここに居る客将も二人と同程度の能力だと思うから、問題は無いだろう」

 

 関羽と張飛は一刀の言う通り、白蓮には確かな実力を持つ者に見える。

彼と司馬懿の二人に比べると幾分か見劣りはするものの、それでも規格外の戦力となってくれるのは間違いない。

一刀は白蓮と同等かそれ以上の人物鑑定眼を持っているようだ。

 

 

「それで、北郷と仲達はどうするんだ?」

 

「我々は単騎で行動したいのですが、如何ですか?」

 

「単騎で? 大丈夫なのか?」

 

「基本的には後方で大人しくしています。我々が動くべき時だけ、動きますよ」

 

「成程、二人は後方から監督する訳だな」

 

「そういうことです」

 

 

 白蓮がニヤリと笑いながら言うと、一刀もニヤリと笑いながら肯定する。

白蓮は全ての分野にある程度精通しているが、彼は更に奥深く精通しているようだ。

あらゆる能力が自分よりも上であることは嫉妬を覚えずには居られないものだが、不思議と彼女はそういったものを感じない。

 

 一刀は関羽・張飛が将として何処まで動けるのかを見極めようとしている。

恐らくはこれから先を考えての行動であろう。

そうでなければ、白蓮の眼にはっきりとその二人よりも各上に見える彼と司馬懿が後方で大人しくする理由が無い。

 

 

「私は?」

 

「桃香は……どうするかなぁ? 前線はちょっとなぁ……」

 

「劉備殿には我々と行動を共にして貰います。万が一の時はこの司馬懿仲達がお守りしますので」

 

「桃香様の護衛がお二人だけでは危険ではありませんか?」

 

「安心しろ、愛紗は強い。今のお前達ではまるで敵わないだろう」

 

 白蓮も一刀の意見に賛成だった。

実際どの程度の実力差があるのかは流石に読めないが、二人の間に大きな差があるのは明白である。

前線ではなく後方に居る桃香を守るには十分過ぎるくらいだろう。

 

 将は白蓮本人を含めて現在四名。

本拠地の守りを五百人に、物資の運搬を五百人に任せて、残りの四千程を各将で千ずつに分けるのが良いだろう。

伏兵などの小難しい戦法も、今回は必要ない。

配置に気を付け、騎馬の機動力を殺さずに流れに乗って削り取っていけば良いだけだ。

 

 

「では、今回の戦いの基本的な戦法を纏めるぞ」

 

 

 今回は今までにない面白い戦いになるかもしれない……そんな期待を抱きながらも、白蓮は話を進めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 風が髪を撫でるのを感じながら、一刀はその眼を開いた。

彼の眼は常人とは異なり、より多くを語り、より多くを理解する。

今、彼の眼には数理先に待機している黄巾党約五千程と、更にその後ろに見える増援の存在を認識していた。

 

 

「成程。公孫賛の読みは当たっていた訳だ。中々どうして優秀じゃないか」

 

「白蓮ちゃんは得意なことは無いけど、苦手なものもないから」

 

「どうやらそのようですね。あれは良い参謀さえ居れば化けるかもしれません」

 

「良い参謀が居ないからここに居るんだろうが、な。場合によっては彼女にも仲間になって貰って良いかもしれない」

 

「一刀さん結構辛口だね……」

 

 一刀は公孫賛の優秀さを理解した上で、これからどうするかを再確認する。

彼らの表向きの仕事は飽く迄後方で支援を行うことだが、実際は全く異なる意味を持つ。

今回彼が態々こんな状態に劉備を置いたのは、彼女に実戦の空気を感じさせる為である。

 

 確かに劉備の武はそこまでではないが、それでもいずれ先頭に立って進まねばならない状況が訪れる。

その時何もできなければ、彼女は死ぬだけだ。

一刀はそうならないように、彼女に戦いの血生臭さを知って欲しい。

 

 彼女が理想の為に進むことで、誰かから何かを奪ってしまうことも、破壊してしまうことも、実感させるのだ。

彼女の慈愛は確かに素晴らしいものだろう。

だが、彼女は一度血に濡れ、それを乗り越えなければならない。

そうしなければ、その慈愛もただの甘い毒の果実でしかなく、一刀はそんなものは必要無い。

 

 

「劉備。今回はお前にも手を血に染めて貰うぞ。その手で奪うことがいかに痛みを伴うかを実感し、それでも理想を追えるかどうか見極めろ」

 

「……はい。頑張ります」

 

「良いか? 無理だと思ったならばすぐに俺を呼べ。お前を連れてすぐに離脱する」

 

「私、泣いちゃうかもしれないけれど……その時はお願いします」

 

「ああ、泣きたければ存分に泣け。俺の胸ならばいくらでも貸してやる」

 

 不安を隠せない劉備にそっと笑いかけながら、一刀はその真紅の瞳で彼女の浅葱色の眼を見やった。

今回で劉備が夢を諦めるならば、彼がこの集団の頭となって、彼女には好きにして貰うつもりだ。

 

しかし、彼女がそうしないと分かっているからこそ、彼はこの決断をした。

劉備は彼の期待に応えてこの戦で痛みを改めて知り、自分が抱いている理想がいかに危ういものかを再確認するだろう。

その上で、彼女が進むことを選ぶのを彼は知っている。

 

 そうでなくては、彼がこの十年間で纏めた蜀の政治体系などは無に帰してしまう。

彼はそうなっても構わないが、できることならばそれらを生かしたい。

場合によっては、呉や魏にそれらのシステムの案を渡してしまうのも手だ。

 

 

「ありがとう、一刀さん。私、頑張るから……見守っていてください」

 

「ああ、いつでも見守っているさ。安心して、痛みを知れ」

 

「! 一刀様……あれを」

 

「ん?……バカか、あいつは?」

 

 愛紗の言葉に従った一刀は、黄巾党に突っ込んでいく者の姿を確認し、思わずため息をついた。

あれは公孫賛が言っていた客将なのだろうが、いくらなんでも無謀過ぎる。

一刀の眼で見る限り、彼女はあの数を相手にするには余りにも非力だ。

 

 後方で大人しくしていようと思っていた彼だが、いきなり隊列を乱されてはたまったものではない。

関羽か張飛があの女性の援護をし、そのまま突撃してくれたならば丁度良いのだが、それをいきなり望むのも酷なことだ。

 

 

 一刀は愛紗と劉備に目配せをし、二人が頷くのを確認するとすぐさま蜃気楼を走らせた。

風の如き速度で進んでいく蜃気楼ではあるが、女性は既に大量の黄巾党の中へと消えている。

一刀は更に深いため息をつきながら、右手に氣を溜めると、黄巾党の一角にそれを打ち込んだ。

 

 

「関羽! 張飛! その道を使え!!」

 

 一刀はそう叫びながら、女性が消えていった一角の黄巾党に威力を抑えた氣弾を打ち込む。

それが彼女の姿を露にした刹那、彼は彼女の周りの黄巾党全てに氣弾を打ち込んで、彼女の隣に蜃気楼を停止させた。

 

 数十は愚か百に近い数の死体を作り出した張本人は、既に肩で息をしている。

こんな死体に足を取られてしまう場所で戦っていては当然の結果であろう。

公孫賛はこの女性が関羽や張飛と同等だと言っていたが、一刀はそうは思えない。

思わず殴り倒したい衝動を抱いた彼に罪は無いだろう。

 

 

「何方かは知らぬが、助太刀感謝する」

 

「そう思うのならば、一旦下がって頂こう。はっきり言って、貴公の行いは足手まといだ」

 

「ぬぅ……確かに早まってしまったのは認めます。ですが、そこまで言わなくても宜しいのでは?」

 

「……言い訳は無用だ。後方で控えている貴公の部隊をしっかりと指揮されるが良い」

 

 一刀は氣刃を形成して近くの黄巾党を一瞬で真二つにすると、すぐさま蜃気楼を後退させた。

これだけ掃除すれば、あの女性の実力ならば無事に後退できる。

彼は手頃な場所に居た黄巾党達を氣刃で寸断しながら、すぐさま愛紗と劉備の待つ場所へと後退を始めた。

 

 関羽と張飛は初めてにしては及第点処か優秀過ぎるくらいだ。

一刀は彼女達が正確に千の騎馬隊を扱えていることにほくそ笑みながらも、その圧倒的暴力で彼を阻むものを蹂躙していく。

まだあの二人は未熟だが、一刀は一流から超一流までその実力を引き出してやるつもりだ。

 

 そんな余裕さえ抱く彼であったが、既に愛紗が黄巾党とぶつかっていることに気付き、それを捨てた。

愛紗の後ろに居る劉備の表情は何処か虚ろで、その服は既に血に濡れている。

既に誰かを切っている――そのことに気付いた一刀は蜃気楼の速度を上げた。

 

 

「――!」

 

 愛紗が態と抜けさせた一人を劉備が靖王伝家で切り捨てたのと同時に、一刀は劉備を掴んで自分の前に乗せた。

彼女の馬にすぐに拠点に戻るように目で言うと、彼はそのまま蜃気楼を加速させる。

そんな彼を守るように、愛紗はそれまでの手加減を止め、殺戮を開始した。

 

 いかに不完全とはいえ、愛紗は竜である。

そんな彼女を相手にしては、黄巾党如きではただただその命を差し出すだけで、傷一つ与えることもできない。

彼女の青龍偃月刀はその間合いに入った者を一瞬で、一人たりとも残さずに屠る。

 

 その黒衣が血に染まっていくのを無視しながら、彼女は間合いに入った人間も、武器も、何もかも寸断してしまう。

氣によって威力を倍増した青龍偃月刀はそれ相応の武器でなければ耐えることすら許さないのだ。

 

 

 

「劉備……劉備!」

 

「……一刀、さん?」

 

 一刀は手元にあった布で劉備の顔に付着した血を拭いながら、呼びかけた。

そんな彼に焦点の合わない眼を向けながらも、劉備は彼の名前を呼んだ

彼の予想通り、その心はかなり揺れているが、彼女は既にそれすらも受け入れ始めている。

 

 一刀の眼に映る劉備の浅葱色の瞳は縋るものを求めているが、崩れはしていない。

彼女の心は確かに曹操孟徳や孫堅文台のように強くは無いだろう。

しかし、その心は何度折れても不死鳥のように蘇る……その強さは他の者には無い。

 

 

「お前の夢の重さは、理解できたか? それが生み出す弊害は感じられたか?」

 

「うん……とても、とても……重いね。こんな思いを皆にさせているんだね、私」

 

「それで、答えは出そうか?」

 

「……今夜、部屋に来てください。その時、答えます」

 

「――分かった」

 

 静かに、だがしっかりと腕を抱きしめてくる劉備の言葉に、静かに一刀は頷いた。

彼女は己の手で実際に命を奪ったことで混乱しているのだ。

初めて誰かの命を奪った時にそうなるのは自然なことだ……劉備は一刀とは違う。

これが、本来あるべき姿なのだ。

 

 劉備の理想の危うさは、その理想と反する争いの痛みである。

理想の為に誰かと戦う度に、皆が痛みを感じ、その罪悪感に苛むことを彼女は知ってしまった。

いずれそれに兵達が慣れていくこともまた、彼女は知ることになるだろう。

 

 一刀は劉備に綺麗事を言うだけの存在にはなって欲しくない。

だからこそ、奪われることの痛みも奪うことの痛みも知り、憎むことの苦しみも受け入れ、それでも理想を追う存在になって欲しいのだ。

一刀は彼女の運命を狂わせてしまうが、それを彼女が拒絶するならば、彼は強制するつもりはない。

 

 

「安心しろ。俺はお前が落ち着くまで傍に居る。だから、今は泣くな。泣くのは戦いが終わって、その処理が終わった後だ」

 

「……はい」

 

「お前は良くやった。後は関羽達に任せておけ。お前の戦場はここではなく、心の中だ」

 

 

 震える手で彼の腕を自分の抱きしめる劉備の頭を撫でながら、一刀は戦場を見渡した。

 

既に黄巾党の大半は総崩れに等しい状態となり、このまま行けば残る本隊も容易に屠ることが可能だろう。

関羽も張飛も上手くやってくれた……後で労ってやらねばならない。

公孫賛の本隊千は今だ無傷で待機している以上、こちらの数はほぼ五千のままだ。

 

 一刻もすればこの幽州の黄巾党は沈黙する。

劉備の初陣は確かに桜桑村だった。しかし、真なる意味での初陣はこの戦いだ。

彼女の初陣は大成功だ。痛みを伴う勝利ではあるものの、その痛みこそがこの戦いで最も大きな獲得であることは間違いない。

 

 痛みを知らぬ者には慈しむことなどできない。

今日劉備は痛みを知った。この痛みは、彼女を強くしていくだろう。

痛みを知るからこそ、一刀と同じように深く何かを愛することができるようになる。

彼とは違い、全てを慈しむことが可能になる。

 

 

この戦こそが―――彼女の天下の始まりだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 豫洲の陳留は曹操孟徳が勅使を務める地域であり、同時に彼女の本拠地でもある。

 

 元々良政で名を上げていた彼女は、黄巾党の討伐で更に名を上げ始めている。

その主戦力は現在五千余りの精鋭しか居ないが、半年もすればそれは倍に膨れ上がるだろう。

 

「幽州の黄巾党が本隊のみを残して全滅したですって? それは本当なの、桂花?」

 

「はい、確かな情報です。細作の話では、分隊三千人余りは皆一ヶ所で殺されており、抵抗どころか逃亡しようとした痕跡すら見当たらなかったそうです」

 

「三千人が無抵抗に殺されることなんて有り得ないわ……桂花、貴方ならできる?」

 

「可能と申し上げたい処ですが……いかなる策を持ってしても、不可能です。それこそ、一撃で全員を殺せる程の武器があれば別ですが」

 

「一撃で数千人を一度に? そんなこと不可能よ」

 

 桂花――荀ケの報告を聞く限り、幽州の黄巾党の分隊三千人余りは一撃で葬らない限り、全員無抵抗では死んでくれない。

しかし、曹操にはそのようなことができる者が居るとは到底思えなかった。

しかもそれが異様なまでに綺麗な切断面を生み出しているのだとすれば、もはや彼女には想像も及ばない。

 

 あまりにも不可解な事柄ではあるが、曹操はもしもそれをした者が本当に居るのならば、是非とも会いたかった。

それこそ人間ではない人外の仕業かもしれないが、そんな存在が本当に存在するならば、一目見ずには居られない。

 

 

「はい。確かに不可能なことです。もしも可能な者が居たならば――それはもはや人間ではありません」

 

「そうね。今は、この話は忘れてしまいましょう。それよりも、豫洲の黄巾党の残党はどうなったのかしら?」

 

「はい。豫洲の黄巾党はほぼ壊滅、今現在冀州に向かっているそうです」

 

「冀州、ね……恐らく黄巾党の本陣は冀州でしょうね。今までの動きを見る限りそうとしか思えないわ」

 

「華琳様の仰る通り、黄巾党の本隊十五万程が現在冀州に集まっています。後数ヶ月もすれば二十万を超えるでしょう」

 

 荀ケの報告を聞きながら、曹操は今後の展開を予想する。

張角達の居る黄巾党の主戦力は間違いなく冀州に居る。

散り散りになった黄巾党が向かう先は殆どが冀州なのだ。

それこそ、青洲に残っている黄巾党を除けば、間違いなく最大の部隊となっている。

 

 もはやただの賊でしかない黄巾党を諸侯達が黄巾賊と呼ばないのは、皮肉である。

何一つ為せずに死んでいく賊達に嘲笑を向けながら、それを滅ぼしていく為の呼び名なのだ。

その皮肉を黄巾賊が理解しているとは思えないが、少なくとも諸侯達は皆それを理解している。

 

 最初に黄巾賊を黄巾党と呼ぶべきだと提唱した人物は、中々に遊び心がある。

黄巾党という呼び名は、高い志を抱えているだけで、それに実力が伴わない者達への最大限の侮蔑だ。

とある旅の者が呼び始めたというその呼び方を、彼女は実に気に入っていた。

 

 

「桂花、麗羽と孫堅に伝令を送りなさい。三週間後に黄巾党の本隊を叩くわよ」

 

「御意」

 

「秋蘭、春蘭、兵達に十分な休息を与え、しかし訓練も怠らずさせておくように。二週間したら冀州に向かうわ」

 

「「御意」」

 

 夏候淵、夏候惇、荀ケの三名に命令を伝えると、曹操は玉座に深く座り込んだ。

冀州の動きは鈍い。一ヶ月以内に本隊を叩きに行けば、合計五万程度の戦力でも容易に落とせるだろう。

この機会を彼女は逃がすつもりはない。

 

 天下を取るには、まず名が必要であり、実力さえあればそれはついてくる。

だからこそ曹操はこの乱を期と見ている。彼女の名をここで十二分に上げる為の材料が冀州にあるのだ。

今回の乱の首謀者である張角達さえ討ち取れば、彼女の名は一気に大陸中に広がるだろう。

そうすれば、彼女の天下への道は縮まる。

 

 曹操孟徳は、この大陸の王となるのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 戦後の処理を粗方終え、勝利を祝う細やかな宴会も既に幕引きとなった深夜、一刀は劉備の部屋の前に来ていた。

 

戦が終わった時には大分持ち直していただけあって、宴会などでは劉備は少しもボロを出さなかった。

中々に強く育ってくれたことを嬉しく思いながらも、同時に彼は罪悪感を抱く。

彼女は彼のせいで純粋ではなくなるのだ。濁りを知って、それでも清を選ぶ者にするのだ。

 

 そんな劉備の姿を望まない者も居るだろう。

真っ白なままの彼女に憧れてついてくる者も居るであろう。

しかし、それでは彼女は毒入りの甘い果実でしかなく、この世界を平和にすることはできない。

だからこそ、彼はそこに濁りを加えるのだ。

 

 

「劉備、俺だ。入っても―――」

 

「……入ってください」

 

 中に居るであろう劉備に呼びかけた途端に扉が開き、劉備が彼を部屋に引きずり込んできた。

それに少しばかりの混乱と絶大的な納得を感じながら、彼はされるがままになる。

彼に椅子に座るように身振りで示しながら自身も椅子に座る劉備の姿は、何処か儚げに見えてしまう。

 

 一刀はその姿に余計に罪悪感を強めてしまうが、彼が指摘しなければいずれ他の誰かがしていた。

仲間である彼がしただけ、まだ気が楽であることは間違いない。

彼女には強くあって貰わねばならないのだ。

 

 

「……私、最初は酷く不安だったんです。戦いが終わった後の、勝利を喜ぶ皆の笑顔も、本当は作り物なんじゃないかって疑ってしまうくらい」

 

「だが、違っただろう? 皆、確かに何かを守れたことを喜んでいた筈だ」

 

「はい。皆、喜んでいました。あれは作り物の笑顔なんかじゃなくて、本物でした」

 

「そうだ。あれはお前が守ったものだ。誰かの命を奪ったお前の理想は、確かに誰かを救うことができる」

 

 劉備の肩が震えるのを見ながらも、一刀は微笑んだ。

全員を救うことなど、誰にもできやしない。誰かを守ることは誰かを傷つけることになり得る。

それを彼女は深く感じ、再確認したのだ。

この経験は彼女の理想をより強固なものへと変え、彼女自身も成長させる。

 

 一刀が望む形へと、彼女は一歩近づいた。

劉備は一刀にはなれないが、彼のように強くあることは不可能ではない。

その優しさを失わずとも、理想をただの妄言に留まらせないことが可能だ。

痛みを知った人間は、より優しくなれる。

 

 

「お前がこれから戦い続ける度に、お前の見えない場所でお前は憎まれるだろう。だが、それを拒絶するな。それを乗り越えてこそ、お前は王になれる」

 

「はい。私は……拒絶しません」

 

「ならば、答えを聞こう。お前は―――この痛みを知ってもまだ理想を追うのか?その理想を追う過程でその理想が穢れていくことを知りつつも、進めるか?」

 

「私は―――進めます。この痛みも、皆の笑顔も忘れずに、全部抱えて進んで見せます!」

 

「そうか……よく頑張った。もう泣いても良いぞ」

 

 静かに、慈しみを込めて一刀は劉備に泣くことを許した。

そんな彼の言葉に劉備は大きく肩を震わせながら、その浅葱色の眼を涙で濡らす。

彼はそれを心の底から、綺麗だと思った。

彼には無い優しさを持つ劉備だからこそ、この美しさは生きる。

 

 事実と向かい合い、己の理想の現実と向き合い、そして最後は己自身と向き合う。

そうすることで見えてくるものが、彼女にも確かにあったのだ。

彼女の仁徳の真価は、ここから発揮されていくに違いない。

一刀はそうであることを望むし、そうあるように彼自身努力するつもりだ。

 

 彼に体を押しつけて、その胸に顔を埋める劉備を見やりながら、一刀は再び誓う。

この少女を王にした後彼はそのまま消え行こう、と。

それまでは彼が彼女を、皆を支えてみせる、と。

 

 

「一刀さん……私、頑張るから。何度も迷うかもしれないけれど、進むから」

 

「安心しろ。お前が迷った時は俺が傍に居る。お前を導く灯となってやる」

 

「うん。私も頑張るから……だから、傍に居てください。私を、見捨てないでください。私を、最後まで導いてください」

 

「―――良いだろう」

 

 涙で濡れた浅葱色の瞳が喜びと安堵を宿すのを感じながら、一刀はそっと劉備を抱きしめた。

彼女は彼にはなれない。彼程強くなることも、残酷になることもできない。

しかし、それで良い。彼女の強さは彼とは異なるものだ。

 

 彼女の理想が現実に打ち滅ぼされない為にも、この痛みは必要だった。

これからも彼女は多くの痛みと喜びを知ることになる。一刀がそれを教える。

その度に彼女は迷うだろう。誰よりも優しい彼女は何度も必要以上に苦しむことになる筈だ。

 

 それでも乗り越えて切れると一刀には分かる。

劉備が途中で進むことを止めるのならば、彼はそれでも構わない。

しかし、彼女は進む。十年前に彼が告げた呪いの一言を目指して。

北郷一刀のように強く、気高く、夢を何処までも追い続ける存在であろうとする。

 

 

「もう少し……もう少しだけ、このままで」

 

「いくらでも貸してやる。皆に見せられない弱さは、俺にぶつけろ」

 

「うん……ありがとう」

 

 涙を流しながら縋ってくる劉備を愛おしく思いながらも、一刀はそっとその背中を擦ってやる。

全ては今日ここから始まる―――劉備玄徳の理想は本当の意味で、今日妄想から理想へと変わった。

理想を求める過程で理想を穢しているという矛盾も受け入れ、彼女は進む。

 

 痛みを知る度に彼女は泣き、彼に縋るだろう。

その度に、一刀は静かに彼女を抱きしめ、労ってやるだけだ。

彼女は確かに大人になった。強かさを持つその姿はもはや子どもではない。

 

 

 

 

 だが、この瞬間だけは――こうして彼の胸の中で咽ぶ間だけは、彼女は確かに十年前に彼が出会った頃のままであった

 

 

 

 

 

 

説明
黄巾党との戦いが本格的に始まる話です。

結構適当に書いてるので、おかしな部分が多いと思います(



・なんだかんだで一週間に一回くらいは投稿できそうです。
・誤字を修正しました。ご指摘ありがとうございます。
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コメント
W愛紗の動向も気になるッスねぇ(まあくん34)
この外史の桃香はいい感じに成長しそうだな・・・(ataroreo78)
ついに黄巾党本隊との戦闘ですか・・・・・・一刀と桃香は曹操、孫堅とどのような出会いを果たすのでしょうか(本郷 刃)
次第点→及第点(西湘カモメ)
普通であるが故の人物評価能力か。その発想は無かったな。(アルヤ)
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