HERMIT/ハーミット
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エピソード♯01「あの日、確かに僕は生きていた」

平成7年1月17日午後5時46分:淡路島北部を中心とするマグニチュード7.3の地震が発生。

10万棟を超える建物が全壊。死者6,434名・行方不明者3名・負傷者43,792名。

後に「阪神・淡路大震災」と呼ばれる事になります。

 

そんな中、僕の家もその中にありました。

発生直後、母子家庭でお母さんは仕事に出ていましたが、僕は家の中にいて本を読んでいた時に大きな揺れがきたのです。

家の1階2階部分は完全につぶれ、天井も歪み、壁も壊れました。

幸いな事に倒れたタンスと、壁の間にスキマができ僕は瓦礫に閉じ込められる形になりました。

 

しかし、僕は暗く、狭い空間にたった一人・・・。

声を出しても人がいるのかも分からない、いたとしても声が届く保証もない、幼心に死の恐怖が溢れてきました。

バリバリバリ・・・・!!大きな音が聞こえ、救助要請を受けた自衛隊が来てくれたのは、そんな時でした。

「おーい!!おーい!!大丈夫か?声が聞こえるかー?」

声に気付いた僕は力いっぱい、力いっぱい叫びました。

「ここにいるよー!!ここにいるよー!!」

そして、声が届いたかどうか分からないまま僕は気を失いました。

 

・・・次に僕が目を覚ましたのは避難所となった学校のグランドです。僕はお母さんが泣いていた事を今も覚えています。

僕たち家族は真冬の学校で他の避難者達と身を寄せ、ビニールと木材でできた仮の住まいで2ヶ月過ごしました。

その間、相手をしていたのは一人の自衛隊の若いお兄ちゃんでした。

沢山ボールで遊んだり、沢山のお話をしたりしました。

生活再建の中で多くの大人たちが暗くなっていたので僕は自衛隊のお兄ちゃんと一緒にいて本当に楽しかったです。

 

そんな自衛隊のお兄ちゃんが命の恩人だと母が教えてくれたのは僕が小学5年生にあがった頃でした。

交通手段が分断されお母さんが戻れない時、只々絶望の中に取り残された時、

命を顧みず僕を助けに来てくれた自衛隊のお兄ちゃんにもう一度あってお礼がしたかったです。

  立山小学校5年2組 須藤直哉(すどうなおや)

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・・・そんな、手紙を書いたのはいつだっただろう?

俺は、毎日毎日喧嘩に明け暮れていた。

今日も、街で絡んできたチンピラ2人を張っ倒し家に帰ってくると、大きな声が響いてくる。

「こらっ!直ちゃん、また喧嘩したでしょう?」

口うるさく絡んでくるのは「柚原友美(ゆずはらともみ)」である。

友美の小言を無視して廊下を歩いていると、後ろから股間を蹴り上げられた。

突然の激痛を抑えきれずに飛び跳ねながら彼女に詰め寄った。

「痛ぇじゃねぇか!このバカ!何しやがる?」

そんな、やり取りをしていると一人の叔母さんがやってきた。

この人は、孤児園の園長で母親の友達だった「柚原めぐみ(ゆずはらめぐみ)」

友達だった・・・震災後、俺の母親が被災した時の傷が原因で亡くなった際に孤児園に引き取ってくれた大切な恩人。

そして柚原友美の母親でもある。

 

彼女は、傷だらけの顔を見て少し困った顔をしたが何も言わなかった。

そんな彼女が、俺にお客さんが来てると言う。

客の間に案内されドアを開くと深緑の制服を着た体格のいい男性が一人ソファーに座っていた。

「やあ、君が須藤直哉くんだね?初めまして私は自衛隊の水梨2尉です。」

そう言うと握手を求めてきたので俺はそれに答えた。

 

挨拶をすませると本題に入る為に着座する。

そして自衛官は慣れた言葉使いで切り出した。

「君、その顔の傷は喧嘩したね?よろしい、よろしい。

   実はその余りある若い力を私達は必要としているんだよ。」

いきなりの言葉に不思議そうな顔をしていると、自衛官はニヤリと笑い言葉を続ける。

「しかも、色々な資格も取れて給料も安定して楽しいよ。」

ますます、俺は意味が分からなくなった。

「何が言いたいんスか?」不機嫌そうな顔で問い詰めると、

自衛官は待ってましたとばかりに答えた。

「須藤君、自衛隊に入らないか?」

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その夜、俺は一人部屋に閉じこもり小学生の頃に書いた作文を読んでいた。

突然の自衛隊勧誘に驚いた部分はあるが、自衛隊の名前に懐かしさを感じたのである。

作文を読むにつれ、被災した時の記憶が鮮明に蘇ってくる

あの時の絶望感・寒さに耐え忍んだ夜・被災後に死んだお母さん・そして自衛隊の兄ちゃんの事。

・・・どことなく気持ちがザワついた。

 

すると、部屋のドアがノックされて友美が入ってきた。

「直ちゃん、自衛隊にはいるの?」

「いや、突然言われても困るし分からんな。」

俺は気持ちのザワつきを押し殺したまま答えた。

そんな俺を知ってか知らぬか友美は会話を繋げる。

「私、自衛隊について調べたんだけど訓練厳しいみたいだよ。

   戦争や災害が起きたら警察や消防より危険な所に行かなくちゃいけないみたい。」

「そうか・・・」

言葉短く答えると、様子を見た友美はため息をつき少し不安そうな顔をして部屋を出て行った。

説明
自衛隊で作者が経験・体験された方の話を基に構成した人間ドキュメンタリー小説 大災害、人命救助、世間の偏見、同期の絆、そして自身が持つ夢。 多くの壁にぶつかりながらも前に進もうとする一人の少年の物語・・・。 テレビや漫画にはなっていない本物の「人間らしさ」がそこにはある。
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