ハイスクールD×B〜サイヤと悪魔の体現者〜 二十二話
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あの時の傍から見ていた光景は滑稽というかなんというか……

 

「何日もつかな……」

 

カリフは妙に張りきっていた兵藤一誠とか言う奴のことを思い出す。

 

あれはどう見ても戦いの『た』の字も知らない様子だった。

 

あの後しばらくは傍観していたのだが、どうもあれはリアスとかいう女にのせられてたな……目的がハーレムなんて分かりやすいが、そこまでの道のりのことを全く考えていない。

 

よくいる山の山頂だけを見つめて道のりに躓く典型的だと感じた。

 

不意に自室で洩らした一言に二人が反応した。

 

「……なにが?」

「あの兵藤とか言う奴だ、聞く限り頑丈なのは分かる……だがなぁ……」

 

パジャマ姿の小猫にそう言うと、もう一人が言ってきた。

 

「うふふ、心配してますの?」

「違う。ああいうのが無闇に戦いに介入されると邪魔で仕方ねえんだよなぁ……」

 

そこには同じく寝間着姿の朱乃がシャワーから出てきていたのか艶やかな黒髪を櫛でとかしていた。

 

実は、朱乃が生徒会へカリフの見学のことを話して承諾してもらった。そのため、朱乃と小猫が学園を一日案内しようと思って鬼畜家で一泊することを選んだのだ。

 

カリフは精神統一をしながら答える。

 

「ま、ああ言った欲望に忠実な奴は嫌いじゃないし、“ハーレム”なんて典型的な絶滅危惧種は面白いと思ったぞ?」

 

思い出し笑いしながら笑うカリフに小猫はベッドの上に乗って聞いた。

 

「……意外」

「なにが?」

「カリフくん、そういったことに興味が無いのかと……」

 

小猫がそう言うと、カリフは少し心外そうに言った。

 

「今はそんな感情は芽生えてはいない……だが、性欲も生きる上で必要不可欠! いずれオレも目覚めるだろうよ」

「あらあら、目覚めるとどうなるのかしら? うふふ……」

「さあな、ただ……」

「ただ?」

 

カリフは洗面用具を探しながら続ける。

 

「そいつ等の間に“愛”さえあればたとえハーレムだろうがいいんじゃねえの?」

「でも、それって優柔不断というか……不健全とは思わないの?」

「小猫は大多数の女を抱く男を不健全と思っているのか?」

「……世間ではそうなってる」

 

その一言をカリフは鼻で盛大に笑い飛ばして言った。

 

「オレはそのハーレムという行動事態は不健全とは思わない。今まで世界を見てきてそういう状態の動物なら数多に見てきた」

「人と動物を一緒にするんですの?」

「元来は皆同じだ。命の重みに人も動物もない」

 

自分用の寝巻を小猫に投げて取ってもらう。

 

「真に不健全なことは大多数の女を抱くことじゃない、その女たちに“新愛”を抱けないことが最も愚かなことだとオレはそう思う」

 

あまりに意外なワードに二人もポカンとしていた。

 

「人や悪魔など考える生物は“愛”を感じることができる。その愛を抱く奴等は共通して人生を精一杯謳歌していた……オレも性欲が湧く時はそんな愛を欲しがるだろうよ。一時の性欲に身を任せて己をさらけ出すなど言語道断、死に値する」

「……もしカリフくんの愛する人が複数いたら……どうするの?」

 

小猫の質問に朱乃も手を止めて聞き耳を立てると、カリフはすっごくいい笑顔で答えた。

 

「手に入れるさ、オレは我慢もしなければ慎みもしない。二人だろうが三人だろうが百人だろうがそいつ等を全て愛し、そいつ等に続くガキ共も愛し、そいつ等を生涯愛し続けて抱き続ける!! そして女からは愛され、愛されながら過ごし、愛されながら抱き合い、愛されながらこの身の生涯を全うしたい! オレは愛したいし、愛されたりもしたい! オレは欲しい物は必ず手に入れる!!」

 

カリフの人生論はあまりに壮大、あまりに無謀、そして、あまりに魅力的だった。

 

カリフの人生哲学は苦悩無き人生

 

傍から見れば過酷だと思える特訓も夢に向かう布石であって苦だと思ったことは無い。

 

そこで、もし気に入った女性が現れたら?

 

決まっている……どちらも食らう。

 

両方を抱き、両方を生涯に渡って愛する。

 

誰でもいい訳じゃない、抱くのは真にいい女だけであり、あまりに厳しい条件

 

女を抱きたければ抱け。

 

しかし、互いに愛を感じない性交など人生の中で最も無駄

 

抱くなら愛し、愛され、それでも足りぬ男と女になれ。

 

これこそがカリフの考える生き方であり、人生設計である。

 

「ま、今の時期に抱く女などいるわけねえ……今は性より戦を最優先させるだけさ」

 

そう言いながら意気揚々と風呂場へと行った。

 

「あらあら……うふふ……」

「……」

 

朱乃はいつもの笑みで何かに期待していたり、小猫そっけないフリをしながらもカリフの顔をチラチラと見つめていた。

 

(カリフくんの女……か……)

 

そう思うだけで胸に違和感を覚える。だが、それを無理矢理抑えつけて小猫は就寝する。

 

こうして鬼畜家の一日が過ぎていく。

 

 

 

 

 

 

 

そして、朝がやってきた。

 

全員は起床し、リビングのテーブルで食事する。

 

「いや〜、カリフがあの学園に行くなんてな〜……」

「今日は時間もありますからたっぷり案内させてあげられますわ」

「分からないことがあったら言って?」

「おーい! 卵かけご飯の卵をあと二つちょうだいな!!」

「ふふ……」

 

やっぱり朝っぱらから賑やかだったのは言うまでも無い。

 

 

 

 

 

そして、そのままカリフは制服に着替えた……つもりだったが……

 

「あらあら……これは困りましたわ……」

「……発注ミス」

 

以前から届いていたカリフ用の駒王学園指定の制服を頼んだつもりだったが、どこで間違えたのか制服はと言うと……

 

「これはこれでいいな」

 

黒の帽子を深く被り、なぜか鎖の付いた長ランだった。

 

うん、どこの番長だ、と見た人はそう突っ込むだろうがカリフの雰囲気がそれを許さない。

 

長ランの下はワイシャツでなく赤いアンダーシャツだけだから胸筋やら筋肉が浮かび上がっている。しかも、カリフの悪い目つきなどの特徴からとてつもない威圧感が感じられる。

 

まんまスケールを小さくした空条○太郎である。

 

「まあ、このまま行くさ。これは気に入った」

「あらあら……よろしいんですの?」

「……注目は必須」

 

結局、そんな番長スタイルで行くことになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねえねえ、あの人……番長?」

「なんだか迫力があるね……でも朱乃お姉さまよりは年下……なのかしら?」

 

思った通り、いざ見学となると相当目立っている。

 

ただでさえ番長スタイルで目立っているというのに、そんな少年の付添はというと……

 

「な、なんで朱乃お姉さまが別の男と……」

「そんな……小猫ちゃんが〜……」

「両手に華を持って登校……だと?」

「ははは……爆発してくんねえかな?」

「死ねばいいのに死ねばいいのに死ねばいいのに死ねばいいのに……」

 

学園を代表するお姉さまの朱乃とマスコットの無敵ロリの小猫と登校してきた謎の少年番長に呪詛と怨恨をぶつけていた。

 

そんな好奇な視線と陰口にカリフはイライラが溜まり……

 

「鬱陶しいぜてめえ等っ!! 言いてえことがあるなら前に出てきてはっきり言いやがれ!!」

 

Tシャツ越しでも分かる鍛えられた肉体、威嚇と言っていいほどの怒声、そして必殺の番長スタイルに野次馬は喋るのを止めて固まってしまった。

 

あまりに覇気の籠った声に委縮する生徒たちを見て小猫は溜息を吐き、朱乃はニコニコと笑うだけだった。

 

「周りの生徒を怖がらせてはいけませんよ? うふふ……」

「カリフくんは私と来て。一年の教室を案内するから」

 

そう言うと、小猫はカリフの手を取った。

 

それによって周りから様々な声が聞こえてくるが、今のカリフにとってはどうでもいいことだった。

 

黄色い声と呪詛の声に祝福されながら校舎の中へと導かれていったのだった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここが保健室で……ここが……」

 

小猫はいつもの通り物静かに深い所は話さずに簡潔に話すが、どこか楽しそうに笑っている。

 

カリフはその様子になんの疑問も持ってはいなかったが、周りの視線がより一層強くなった。

 

あまりにいい雰囲気に嫉妬のオーラが一層強くなる。

 

すると、さらなる訪問者に周りが湧いた。

 

「あらあら、やってますのね。うふふ……」

『『『おおおおぉぉぉぉ!!』』』

 

頬に手を当てて優雅にやって来た朱乃にギャラリーが湧いた。

 

本人もそれに笑顔で答えながらカリフへと近づく。

 

「うふふ、学校の様子は分かりましたか?」

「あぁ、小猫のように場所だけ教えてくれるのは助かる。余計な情報はいらねえ」

「そうですか、それじゃあお昼休みなんですが、私と小猫ちゃんと一緒に食べませんか?」

『『『な、なんだってーーーーー!?』』』

 

朱乃の一言に周りの、主に男子の悲鳴が上がった。

 

そんな声を無視してカリフは堂々と続ける。

 

「いらん、こういうのは一人でいい……オレもお袋から弁当はもらったんだ。お前等はそれぞれ好きなように食えばいい」

 

まさかの学園きってのお姉さまからの申し出を断るカリフに周りがさらにヒートアップ

 

「冗談だろ!? 姫島さんのお誘いを断りやがった!?」

「なんて野郎だ!! くそ! 爆発しろ!!」

「小猫ちゃんと姫島さんとのお昼なんて……そんな理想郷をオレたちは味わえないというのに……おのれぇ!」

 

より一層嫉妬のオーラが振り撒かれる中、小猫と朱乃が互いにアイコンタクトで頷き合った。

 

「私のお弁当は手作りですわ。久しぶりにおばさまの手料理も食べてみたいですし」

「……食べ比べ」

「……うむ」

 

カリフはその提案の後にポケットに手を入れて言った。

 

「……どこで食う?」

「屋上なんてどうですか?」

「とてもいい所」

「……やれやれだぜ」

 

長ランをたなびかせて屋上への道へと進むと、二人も笑いながら両隣になって付いて行く。

 

「二人の美女と弁当のつつき合い……」

「う、うら”やまじい!!」

「リア充死すべし!!」

 

男子からの怨恨の声が廊下を埋め尽くし……

 

「ねぇ、あの子って一年なのかな?」

「すごいクール……でも男らしい……」

「恰好いい……」

 

女子からの熱いまなざしをも全て無視してカリフは悠々と屋上へと向かって行った。

 

その中には学園を代表するエロ三人組がいたとか……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうですか? この学園は」

 

屋上では弁当をそれぞれ広げた小猫、朱乃、そしてあまりに場違いなカリフが腰を下ろしていた。

 

朱乃はオットリと聞くと、カリフは帽子を深く被って答えた。

 

「学校内からリアス、イッセー、祐斗の気配以外にもさっきの生徒会とやらのメンバー全員、それに誰も気付いてないようだが元から人間でない気配を宿す悪魔がちらほら……噂通りだ」

「あらあら、生徒会だけでなくギャスパーくんのことも分かりましたの?」

「ギャスパー? 誰だ」

「…へたれヴァンパイア」

 

小猫のヴァンパイアと言う所に反応はするが、今はどうでもいいと片付けて「そうか」とだけ言って小猫の弁当を箸で食べる。

 

すると、朱乃はおもむろに肉じゃがを摘まんだ箸を近付けてきた。

 

「はい、アーン」

「……どういうつもりだ? 朱乃」

「どうも何も……そんな冷たいこと言うなんて酷いですわ……」

 

そう言ってヨヨヨと涙を見せる演技

 

カリフも演技とは知っているが、別に自分の損がある訳ではない。

 

そのため、拒否する必要も無かった。

 

「あ」

 

カリフは口を開けた。

 

「あらあら……うふふ」

 

それを確認した朱乃は嬉しそうに泣き止み、その箸をカリフの口に入れた。

 

そして、ジャガイモを食べるとカリフは感心したように言った。

 

「ほう……じゃがいもにしっかりと味が染み込み、かと言って崩れるほど柔らかくない……ゆで加減も絶妙でいながら味も損ねていない……料理酒、みりん、醤油、砂糖……全てがよく混ざり合ったいい味だ」

「よかったですわ……お口に合って」

「はっきり言おう。美味かった」

 

その一言に朱乃はお姉さまのキャラを捨てて本当に嬉しそうに照れた。

 

「そんな、嫌ですわ! 急にそんなこと言われるなんて思わなかったから……」

 

そんな彼女の姿を見ればだれでもギャップ萌えを起こすだろう、それくらいに可愛らしくイヤイヤと体を振っていた。

 

だが、カリフはそんな彼女に構うこと無く弁当を食べる。

 

「……」

 

小猫はただ、無言で二人の様子を見つめるだけだった。

 

 

 

学園案内を終えたカリフは朱乃たちと別れて旧校舎の部室に一足先に来ていた。

 

「……寝よ」

 

カリフはやることが無くなったと思い、旧校舎のあの部室へと向かったのだった。

 

そして、カリフは部室の中のソファー一杯に寝転がった。

 

「ふあ……ん……」

 

そして、そのまま眠りについたのだった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、時計の針がある程度の時間を刻んだ時だった。

 

「?」

 

カリフは何らかの音を察知して戦闘モードのまま起き上がったが、その気を理解して殺気を消した。

 

「小猫……か」

「……寝てたの?」

 

ドアをできるだけ静かに開けていた様子の小猫はまた静かにドアを閉めるとカリフのすぐ近くまで近付いて見下ろす。

 

「まだ皆が集まるのは先……まだ寝る?」

「そうさせてもらうぜ。寝起きだから今イチ目も冴えてねえ……」

 

そう言うと、小猫は頷いてカリフとは反対側のソファーに座りこんだ。

 

そして、しばらくしてカリフの寝息が部室内に広がったのだった。

 

 

 

 

「……来たか」

「うん」

 

そう言ってカリフはいきなり目覚めると同時にソファーから身を起こす。小猫も同様に姿勢を正した。

 

そこにリアスが入って来て唐突に言った。

 

「カリフ、私たちはこれから大公の依頼に行こうと思うんだけどあなたも行く?」

「……依頼?」

「えぇ……」

 

リアスは妖しく笑いながら言った。

 

「はぐれ悪魔の討伐……にね?」

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