IS〈インフィニット・ストラトス〉 〜G-soul〜
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卒業式当日。虚さんやダリル先輩たち三年生は無事卒業証書を授与された。

 

三年生がいなくなると、学園は少しばかり静かになる。一学級がごっそりいなくなるのだから当然と言えば当然なんだけど。

 

そんな幾分静かになった夜の食堂。今日は俺たち下級生の終業式も行われ、今日から春休みである。

 

「春休みが明ければ俺たちも進級か」

 

いつものメンツで夕食を食べていると、一夏が言った。

 

「そうだな」

 

箒が頷く。

 

「二年生になれば戦闘訓練の種類も増える。より一層の鍛練が必要だ」

 

「はは、箒らしいな」

 

「笑いごとではないぞ一夏。お前も精進しろ」

 

「わかってるよ」

 

「お兄ちゃん、ファイト!」

 

マドカがグッと拳を握る。

 

「マドカ、お前もだから」

 

「はいはい。兄妹コントはいいから、この休みもアンタたちは国には帰らないのね?」

 

「そうですわね。わたくしは戻りませんわ」

 

「僕も」

 

「私もだ」

 

鈴が聞くとセシリア、シャル、ラウラがうなずく。

 

「……………」

 

「? 瑛斗? どうかしたの?」

 

シャルが俺に顔を向けた。

 

「あ、いや。実は俺はちっとばかり休みの間に行くところがあるんだ」

 

「行くところ? どこだ?」

 

ラウラが赤い瞳を俺に向けてきた。

 

「…ちょっとエレクリットの方に、な」

 

「あ………」

 

ラウラがハッとする。

 

もうすぐツクヨミが崩壊、すなわち所長たちが死んで一年経つ。その日に式典をやることになっているらしい。俺もそれに呼ばれているのだ。

 

「すまん…」

 

シュンとなってしまったラウラに俺は笑ってみせる。

 

「良いさ。お前が謝ることじゃない。それにあの事件がなけりゃ俺はこうしてみんなにも会えてないしよ」

 

そう言うと、みんなもどこかほっとしたように息を吐いた。

 

「悪いな。みんな日本にいるのに俺だけ行っちまって」

 

「ううん。気にしなくていいわよ」

 

鈴が手をひらひらと振った。

 

「…ねえ、瑛斗」

 

「ん?」

 

シャルが話しかけてきた。

 

「僕も…行っていい?」

 

「え?」

 

唐突にそんなことを言われて俺は驚く。

 

「ダメ…かな?」

 

「え、あ、いや、全然構わない。オープンな式典らしいから。でもどうしてまた?」

 

「だって、その…」

 

「その?」

 

「瑛斗だけ、寂しい思いをさせたくないから…」

 

「シャル………」

 

そのまま顔を赤くして俯いてしまう。

 

「そういうことなら私も行こう」

 

「私…も…………行く」

 

ラウラと簪も俺に同行しようと考えているようだ。

 

「ツクヨミの技術者に、これまでの謝罪をしたいからな」

 

「私も、瑛斗と…………」

 

「お、おお。分かった」

 

少々困惑しながらも、俺は頷く。

 

「じゃあ、俺も行くよ」

 

「一夏も?」

 

「ああ。瑛斗の親代わりだった人なんだろ? 学園の男友達として、挨拶したいから」

 

…ったく、ニクいことを言ってくれるねコイツは。

 

「お兄ちゃんが行くなら私も行きたい!」

 

「そ、そうね、一夏が行くっていうなら、私も行ってあげるわよ?」

 

「鈴さん! ずるいですわよ! 瑛斗さん、わたくしもご同行いたしますわ!」

 

「ま、待て! 私も行く! 瑛斗、私も行くからな!?」

 

マドカの言葉を皮切りに、鈴、セシリア、箒も俺に詰め寄ってきた。

 

どいつもこいつも、物好きなもんだよ…………。

 

「お前ら……ありがとうな」

 

持つべきものは友達かな。俺はそう強く思った。

 

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『じゃあ、そのお友達たちも来てくれるのね?』

 

「はい。ダメですか?」

 

就寝前、俺はエリナさんに電話で今日のことの連絡をしていた。

 

『ダメなんてことないわよ! 何人でも連れてきなさい。良いお友達を持ったわね。私も嬉しいわ』

 

「いやぁ、そんな………」

 

『ふふっ、それじゃあ明日ロウディで迎えに行くわ。お友達にもそう伝えておいてちょうだい』

 

「はい。分かりました」

 

ロウディは輸送用であるが、まあ俺たちぐらいの人数なら問題ないだろう。

 

『じゃあね』

 

「はい」

 

電話を切り、窓の外を見る。夜空に満月が輝いていた。

 

(あれから一年、か…………)

 

今でも鮮明に憶えているあの日。所長の涙。自分の無力さ。

 

誰がなんのためにやったのかは分からない。だけどそんなことはどうでもいい。

 

いくら犯人を恨んでも、ツクヨミのみんなは帰っては来ないんだ。

 

恨み続けるより、前に進む方が精神衛生的にも良い。

 

手首の待機状態のG−soulを見る。

 

「お前との付き合いももうすぐ一年経つんだな」

 

右腕だけ展開する。

 

「これからもよろしくな。G−soul」

 

月明かりを反射する装甲が、どこか嬉しそうに見えた。

 

 

 

 

「……………………」

 

地球上のどこか。亡国機業の実行部隊司令、スコールは目の前のディスプレイに映し出された画面を無言のまま見ていた。

 

暗いその部屋には、スコール以外にもう一人がその後ろに立っている。

 

「どう? 良くできてるでしょ?」

 

長い髪を後ろで束ねるその女性は、口を吊り上げた。

 

「…ええ。非の打ち所が無いわ」

 

スコールは振り向かずに答える。その態度が癇に障った女性はムッとする。

 

「何かご不満があるようね?」

 

そういうわけじゃないわ、そう言ってスコールは振り向いた。

 

「ただ、分からないのよ」

 

「分からない? 何が?」

 

「あの時、どうして拒絶されたのか…」

 

「あら、今更そんなことを気にするの? それが分かってたらこっちも苦労しないわ」

 

それに、と付け加えた。

 

「この計画を進めるために、わざわざ《ブラックヴィジョン》の情報をリークしたのよ?」

 

「…………それもそうね」

 

カツ、カツ、とヒールの音を響かせてスコールは部屋の出口に向かう。

 

「そう言えば、あなたにゾッコンの彼女は今日はいないのね?」

 

「オータムはあなたが改修した《アラクネ》の調整に忙しいのよ。いたく気に入っていたみたいだわ」

 

「ふふふ、それは光栄だこと」

 

「今後もよろしくね」

 

スコールはそう言って部屋を出た。

 

「………………」

 

一人残った女性は投影機の横に置かれたパソコンを操作し、映し出される画面を切り替えた。

 

(スコールにはああ言ったけど、私も分からないのよね…………)

 

そこに映し出されていたのは、ツクヨミのIS研究所所長、アオイ・アールマインの写真だった。  

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