IS -インフィニット・ストラトス- 〜恋夢交響曲〜 第二十六話
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「悪いなシャルロット、こんなことにつき合わせてさ」

 

「ううん、気にしないで」

 

放課後の奏羅の部屋。シャルロットは奏羅に頼まれ、彼の所属する研究所への提出用レポートの作成を手伝っていた。

 

「でも、本当に僕でよかったの? こういう射撃に関するデータとかはセシリアに手伝ってもらったらよかったんじゃないかな?」

 

「いや、そのさ、シャルロットに手伝って欲しかったんだ」

 

「えっ?」

 

「えっと、やっぱりこういう共同作業は好きな人とやりたいから・・・というか、その」

 

照れくさそうに奏羅は横を向く。その顔は夕日に染まって赤かったが、それだけではないように見えた。

 

「奏羅・・・」

 

「シャルロット・・・」

 

自然と見つめあう二人、そして徐々に二人の顔が近づいていき、シャルロットは自然と目を閉じた。

 

(・・・あれ?)

 

しかし、いつまでたっても望んだ事が起こらない。

 

(ふふっ、奏羅ったら照れ屋なんだから)

 

こうなったらこっちから。そう思ってシャルロットは目を開けた。

 

「――あれ?」

 

目前に広がるのは自室の天井。ボーっとした頭で少し考え、シャルロットは現状を把握した。

 

「夢・・・」

 

はぁ・・・とため息をつき、夢の内容を改めて頭の中で再生する。

 

「・・・えへへへへ」

 

夢の中で奏羅に言われたことを思い出し、思わずにやけてしまうが、意識がはっきりするにつれ、シャルロットはだんだん恥ずかしくなってきた。

 

(奏羅の部屋で二人っきり、か・・・)

 

前までは奏羅と同じ部屋だったが、本来の性別に戻った以上シャルル・デュノアもとい、シャルロット・デュノアは、今別の人と相部屋になっている。

 

(部屋が一緒のときは何度か奏羅と一緒のベッドに寝たことあったっけ・・・。もう少し大胆に行動しても――って、僕は何を考えてるんだろ・・・)

 

ふと、そこに奏羅は居ないとわかっていても隣のベッドを見る。

 

「・・・あれ?」

 

隣のベッドにルームメイトの姿がない。それも、起きてどこかに行ったわけでもなく、ベッドを使った形跡もない。

 

「・・・まあ、いいや」

 

それよりも今眠りにつけば、もしかしたら夢の続きが見られるかもしれない。そんな期待を抱きながら、シャルロットは再び目を閉じた。

 

(でも、せっかく夢なら、もうちょっと深い内容でもよかったのになぁ。たとえば――)

 

そこまで考えて冷静になる。

 

「な、何を考えてるんだろうね、僕はっ」

 

誰もいないので見られることはないのだが、赤くなった顔を布団で覆い隠すと、ドキドキと高鳴る胸を押さえながら再び眠ろうとがんばるシャルロットだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん・・・」

 

月曜日、窓の外からの光で目を覚ます。どうやら、いつもの習慣で朝7時に目覚めてしまったようだ。先月の一見以来、ルームメイトのシャルルことシャルロットはいなくなり、なぜか一夏と一緒の部屋ではなく、それぞれ一人部屋という状況になっていた。

 

(くそ、昨日というか今日の4時に寝たから昼まではおきないと思ってたんだけどなぁ・・・)

 

まったく、習慣というものは恐ろしい。IS学園に入学してから、先生兼、我が友の偉大なる姉のおかげで授業に遅刻するのはご法度なので、規則正しく朝の7時には目を覚ますように目覚ましをかけていた。今回は早朝4時に寝てしまったということもあり、目覚ましをセットしてなかったのだが、いやはや、この通り目が覚めてしまった。

 

(もう一回寝よう・・・)

 

覚醒しているようでしていない頭でそう考え、寝返りを打つと、左手にふにふにした何かの感触があった。

 

(なんだこれ・・・。よくわからないけど、ほどよく柔らいし、さわり心地もいいし、抱き枕に最適だな・・・)

 

そう思って思いっきりそれを抱き寄せると、なんとなく撫で回した。

 

(ああ・・・ふにふにしてて柔らか・・・)

 

「ん・・・」

 

女の子の声に先ほどまで眠たくて仕方なかった頭が少し覚醒する。

 

(・・・気のせいか)

 

そう思ってやわらかい何かの下のほうへと手を伸ばした。

 

(あ・・・れ・・・?)

 

なにか少し違和感を感じる。何かはよくわからなかったのでとりあえず撫でて――

 

「あ・・・んっ・・・」

 

・・・待て、俺の目の前の物体からちょっとアレな声が聞こえるんだけど。

危機感を感じて、俺は飛び起きるとともに布団をめくる。するとそこには――

 

「ら、ららららら、ラウラ!?」

 

ドイツの代表候補生、ラウラ・ボーデヴィッヒ。先月転校してきて・・・まあ、いろいろあった。

しかし、問題はそこじゃない。問題は、なぜ彼女は何も着ていないとうこと。いや、身につけてはいる。眼帯と待機状態のIS――右太もものレッグバンドのみだが。

 

「うん・・・? なんだ、朝か・・・?」

 

「馬鹿! ちょっとくらい隠せ!」

 

「おかしなことを言う。夫婦とは包み隠さぬものだと聞いたぞ」

 

「それはまた別の話だろう・・・。とにかく、服を着ろって」

 

「日本ではこういう起こし方が一般的と聞いたぞ。将来結ばれるもの同志の定番だと」

 

「・・・それをお前に吹き込んだ奴をつれてこいよ。一発殴るから」

 

「しかし、効果はてきめんのようだな」

 

「なにが?」

 

「目は覚めただろう」

 

「・・・・・・」

 

これで目を覚まさない奴は絶対にいないと思う。まぁ、一夏はどうかは知らないが。

 

「しかし、朝食までにはまだ時間がある」

 

シーツを身にまとって一度軽く束ねた後ろ髪をふぁさっと散らす。それはかなり様になっていた。

 

(それにしても、先月のトーナメントの終わり・・・ていうか、嫁にする宣言をされてからこいつはちょくちょくこういうことをするようになったなぁ・・・)

 

食事中の同席は当たり前。この前はオレの隣に座っていたセシリアを席から押しのけて隣に座って、セシリアを怒らせていた。この前は入浴中に全裸で現れて背中を流せと命令し、その前は更衣室に現れて服を着せろといってきた。このまま放っておくと、一体何をするのやら。

 

(こいつに変な知識を植え付けてる奴を何とかしないとなぁ・・・。しかし、そうは言っても俺はその人を知らないわけだし・・・)

 

古典的なやり方だが、一度痛い目を見せる必要があるのだろうか?

 

「どうした? ・・・あ、あまりそう見つめるな。私とて恥じらいはある」

 

恥じらいがあるなら最初からするな。

 

「おまえなぁ・・・。女の子は控えめのほうがいいって言う話があるぞ」

 

「ほう。しかし、それは世間の話だろう?」

 

「ああ、そうだけど――」

 

「私は私だ」

 

しっかりとした意思を秘めた瞳にまっすぐ見つめられる。

 

「・・・・・・」

 

「しかし、お前も大胆な奴だな。私の体を撫で回すとは。まあ、その、なんだ、とても気持ちよかったが・・・」

 

「なっ・・・、あの時お前おきてたのか!?」

 

「半分はな。まぁ、お前がまた撫でたいというのなら触らせてやっても――」

 

「バ、バカ! やめろ!」

 

シーツを緩めたラウラを何とかして隠させようとするのだが、さすがの軍人、ひらりとかわされてしまう。ドタンバタンとベッドの上で暴れまわっている時刻は現在朝7時。上下左右のお隣さん、ごめんなさい。

 

「このっ・・・!」

 

なんとかラウラの動きを取り押さえたのだが、足払いをされ逆に倒されてしまった。

 

「お前はもう少し組み技の訓練をすべきだな」

 

なんだか言い方が織斑先生に似てるな。さすが教え子だ。

 

「し、しかし、お前が寝技の練習をしたいというのなら、私が相手になってやらないでもないが・・・あ、朝からはダメだぞ? ちゃんと夜になってから・・・しかし、休みの日なら朝からでも、無理ではないぞ」

 

「お、お前、何言ってるんだよ! この前勝手にキスしたんだからそれだけで勘弁してくれよ!」

 

「あ、あれか。わ、私の・・・初めてだったのだぞ?」

 

「うっ・・・」

 

急に頬を赤らめて恥ずかしそうにするラウラに文句が言えなくなってしまう。『女の子にここまでさせて――』とかいう言葉があるが、まさにそれだ。何も言い返せない。

 

「・・・・・・」

 

「・・・・・・」

 

とりあえず何か飲もう、そうしよう。

そう思って立ち上がりかけた俺を、ラウラが再びベッドの上へと押しやった。

 

「な、なぜ・・・?」

 

「も、もう一度キスをする!」

 

「は・・・?」

 

もはや意味がわからない。脈絡がなさ過ぎる。

 

「お前の反応が薄いからだ! も、もう少し嬉しがってくれてもいいではないか!」

 

「そ、そういわれても・・・って、ちょっと待て!」

 

頬を赤くした全裸のラウラがだんだんと俺に覆いかぶさってくる。こんなん人に見られたら俺の人生おしまいな気がするぞ。

 

(ったく、できれば使いたくなかったけど、最終手段だ)

 

俺は迫ってくるラウラを逆に引き寄せると、しっかりと抱きついて布団をかぶった。

 

「なっ・・・!? そ、奏羅・・・?」

 

まさかの反撃に素っ頓狂な声を上げるラウラ。抵抗するかと思ったが、案外すんなりと胸の中へと収まった。

 

「一緒に二度寝しないか? 俺まだ眠いし」

 

「・・・お、お前がそういうのなら、してやらないでも・・・ないぞ」

 

「そうか、じゃあ寝ようか」

 

ラウラをぎゅっと抱きしめたまま眠る体制に入る。さすがに午前4時に寝たおかげか、すぐに睡魔に襲われた。

 

「・・・ああ、ラウラ。ひとつ言っておかないといけないことがあったんだが」

 

「な、なんだ?」

 

「俺ってさ、昨日研究所に提出するレポートを急遽作らなくちゃいけなかったから、朝の4時に眠りについたんだ」

 

「そういえば、そうだったな。お前が寝入るまで外で待つのは大変だったんだぞ」

 

「で、今日は何曜日だったっけ?」

 

「月曜日だな」

 

「授業がある日だよな」

 

「・・・何が言いたい?」

 

「俺、昨日のレポートのことを織斑先生に伝えててさ、今日は昼まで特別に授業でなくていいって許可をもらったんだ。まぁ、今度放課後に補修受けるんだけどな」

 

「ま、まて。まさか・・・」

 

「つまり、俺たちは昼まで寝る。じゃ、お休み」

 

「そ、それじゃあ私が遅刻するじゃないか!? きょ、教官に怒られ・・・って、はなせぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」

 

薄れていく意識の中、ラウラの叫び声が聞こえた。これでこういった行動が少なくなってくれるといいのだが。

 

 

 

 

 

 

 

 

「そ、奏羅が悪いんだよ!」

 

「・・・なんで俺なんだよ」

 

時間は昼、学生食堂でのこと。あの後、11時に目が覚めた俺は支度をして、寮の食堂ではなく学園内の食堂にお昼を食べに来たところをシャルロットにばった り出くわした。話をすると、どうやら遅刻したらしいのだが、なぜか俺のせいにされてしまった。ラウラならわかるのだが、なぜシャルロットに文句を言われるのかわからない。ちなみにラウラは何とか間に合ったらしい。

 

「しかし、いつも時間にしっかりしてると思ったんだが、珍しいこともあるんだな」

 

「・・・・・・」

 

しかし、さっきからなんだかシャルロットの様子が変だ。なんだかソワソワして落ち着かないというか・・・。

 

「そ、奏羅? ずっと僕のほうを見てるけど、どうかした? ど、どこか変かな?」

 

どこか変じゃなくて、全体的に挙動不審で変なんだが・・・。

 

「えっ、あー、ほら、前まで男子の制服だったからさ、改めて女子の格好をしてるのを見てただけだよ」

 

本当のことを言ったら殺されそうな気がするので適当にはぐらかしておく。

 

「に、似合ってないかな?」

 

「いや、可愛いと思うぞ」

 

「・・・夢じゃ僕の事ひどいこと言って攻めてきたくせに」

 

「ん? なんか言ったか?」

 

「えっ、な、なんでもないっ! なんでもないよっ!?」

 

やっぱりどこか変だ。まぁ、遅刻したことにあまり触れて欲しくないのだろう。

 

「・・・そういえば、もうすぐ臨海学校だったな。シャルロットは準備できたのか?」

 

「うん、大体はね。奏羅は?」

 

「最近忙しかったからな。まだひとつも手をつけてないんだよなぁ・・・」

 

実際昨日もレポートに追われてたしな。

 

「それって何も準備してないってこと?」

 

「ああ。まだ買出しに行かないとないものだってあるしな。水着持ってないし、携帯用のシャンプーとか日用品もしっかり揃えときたいし」

 

「そうなんだ。それっていつ頃行くのかな?」

 

「今週の日曜日あたりかなぁ。ちょうど町へ出る予定があるしな」

 

なぜだか知らないが、旭に買い物に付き合ってといわれたので、ついでにその時に買い物を済ませようと考えていた。

 

「ぼ、僕もついて行っていい?」

 

「い、いや、それは・・・。その日って、昔の友達とあうからさ」

 

旭は気にしないだろうが、シャルロットが来るのはまずい。勘のいいシャルロットのことだ。アイドルの旭が変装したとしても、それを見抜いて正体がばれてしまう可能性がある。それが周りの人に漏れるとあっという間に人だかり。それだけは避けたい。

 

「そうなんだ・・・」

 

一気にテンションが下がるシャルロット。まぁ、ここら辺にきてそんなに時間もたってないし一緒に行って欲しかったのかもしれない。

 

「悪いな。また今度用事があったら誘うよ」

 

「・・・ひとつ聞いていい?」

 

「どうした?」

 

「昔の友達って、男の子? それとも女の子?」

 

「あー、女の子だな」

 

「・・・へー、そうなんだ」

 

「どうした? 気になるのか?」

 

旭のことを気になられるのは非常にまずいんだが・・・。

 

「いや、なんでもないよ。日曜日、楽しんできてね」

 

俺の問いに笑顔で答えるシャルロットだったが、なんとなく俺はその笑顔にいやな予感を感じていた。

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