恋姫夢想 真・劉封伝 7話
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その声に振り返った私は驚愕した。

 

そこにいたのは美しい女性。胸元が大きく開き、丈も非常に短い扇情的な白い衣服を身にまとった彼女は、酒の入っているであろう瓢箪と真っ赤な槍を手に持っている。

その瞳は多少きつめな印象を与えるが、酒精によってか僅かに赤みが指した頬とその衣服と相まってより挑発的に見える。

 

いや、そうではない。

 

確かに美人だ。

確かに男なら眼を奪われる衣服だ。

あの槍も相当な業物だが、それも今は気にならない。

 

私の眼を驚愕に染めたのは………

 

 

青い髪。

 

 

あれはなんなのだろう。

あのような色彩を放つ髪など見たことがない。日に焼けた者の髪の色が僅かに落ち、茶色になるのはわかる。

遥か異国の地には金の髪や赤みが強い髪を持った者達がいるという。

 

しかし、この髪は…

 

 

「ふむ、なにやら熱烈に見つめられると私も照れてしまうのだが…」

 

ふと、その女性の言葉を聞いて、慌てて表情を引き締める。

落ち着こう。気にはなるが迂闊に触れていい話題ではないかもしれない。見なかったことにして彼女と向き合おう。

そう決意して彼女を真っ直ぐに見つめた。

 

「見たことはない顔、という事は仕官希望かな?」

 

この女性の立場も地位もわからない。しかし、城の中から出てきた事も考えると誰かの奥方かもしれない。

ならば対応を間違えば士官はならないかもしれない。先程呆けてしまった失敗を取り戻すためにも、気を張って対応を行おう。

 

私はそう考えるやいなや、抱拳礼の姿勢をとって片膝ついた。

 

「はっ!本日公孫賛殿に仕官を希望して参りました劉封と申します!」

 

その姿に女性は少し驚いたような表情を見せた。

 

「む………どうやら堅い御仁のようですな、いや、立たれて結構。その体躯、馬に括られた槍を見るに武官希望かな?」

 

そう言って私に立つように促した。

立つように言われたならば立たない方が失礼だ。すぐに立ち上がるが、手だけは抱拳礼の姿勢を維持する。

 

「はっ!武官を希望して参りました!」

 

そういう私の返事に、彼女は何故かまた少し困ったような顔を浮かべている。

 

「むむっ…まだ堅い、いや、それはよいか。伯珪殿も武官を求めておられた。きっと貴殿も歓迎されよう。ところで仕官試験はもう済まされましたかな?」

 

「いえ、劉封殿は先程来られたばかりなので今から手の空いている者を探しに行くところです」

 

伯珪というのは確か公孫賛の字。やはり彼女は公孫賛の知り合いであるらしい。ならばなおの事失敗は許されない。

そこに、先程私を受け付けてくれた兵士が代わりに受け答えをしてくれた。

 

「ほう、それは都合がいい。私はちょうど手が空いているところでな………」

 

兵士の言葉に嬉しそうにそう言った彼女は、瓢箪を下へと置いて私から歩いて距離をとり、三歩程先で歩みを止めてこちらを向いた。

なにやら嫌な予感がする。彼女の立ち位置、それは彼女の持つ槍のもっとも振るいやすい距離なのだ。思わず重心を僅かに落とし、何かがあったとき対応できるように準備する。

 

「ふむ、察しが良くて話が早い。ならば試験を始めようか」

 

その言葉を私が理解した瞬間、持っていた槍を返すと石突の部分を私の顔面目掛けて奔らせてきた。

 

 

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「っ!何を!!」

 

その突きはそこまで早くはなかった。波才の部下達と同じ程度。

警戒していたとはいえ、急に攻撃されたのだ。慌てて顔をずらしてその突きを回避する。

 

「言ったではないか、試験と。貴殿の実力を見させてもらおうか」

 

回避と同時に距離を取ろうと後方へ下がったが、その後退にあわせて女性も距離を詰めてくる。なおも楽しそうに槍を構えそれを突き出してきた。

 

「しかし!、試験は後で行うとっ!」

 

彼女から繰り出されるのは三連突き。肩や脇腹、手など僅かに身体を反らせばかわせるような場所を狙ってきている。

止めれないものかと言葉を返すが、その言葉では全く止まりそうにない。

正直、回避は難しくない。しかし、仕官先の者であるのは間違いないので反撃して下手に傷つける訳にもいかない。

 

「ふむ、しかし試験を早めに済ましておけば気が楽になるだろう?」

 

そう言ってまたも槍が数度繰り出される。今気づいたのだが、その槍は次第に速度を上げ始めている。相変わらずその狙いは回避しやすい場所を選んでいるようだが、その速度はもう波才の剣よりも速い。

試験、どこまでこの槍をかわせるか、それで判断しようというのだろうか。

 

「あ、あの!困ります!お辞めください!」

 

近くでは受け付けてくれた兵士が慌てながらも女性に声をかけて止めようとしてくれているが、それで止まる気はないらしい。

不適に笑みを浮かべてなおも槍を振るう。

 

「なに、この者の腕はきちんと伯珪殿には私から伝えておくさ。それに、他の者ではこの者の力を計りきれないかもしれぬぞ?」

 

なおも速度が増す。既に速度は董頓の剣並。董頓の剣は真っ直ぐで予備動作もある為に読みやすいのだが、彼女の槍は相当な鍛錬を積んでいるのかその出だしが読めない。

かわしやすい場所を狙って攻撃してくれているから今はまだ何とかなっているが、驚く事に彼女には未だ余裕が見える。

董頓は類まれな才を持っていた。しかし、それと同じかそれ以上の才を持つ者にこうも早く出会うとは…

 

「…っく!」

 

彼女の槍が董頓の剣速を超え始めた頃、ついに衣服に掠り始めた。驚く事に眼ではまだ見える。しかし身体がそれに追いつかない。これが私の今の限界、そういう事だろう。こうなればもう決着は時間の問題だ。

彼女がまさかこれ程の武の持ち主だとは思わなかった。

その一方的な展開に心労が限界に達したのだろう。兵の顔が青くなってきている。

これ以上速度が上がるならば粘っても仕方ない。ならば早く決着をつけてあの心配性な兵を安心させてあげなくては。

 

右足の太ももに向けて槍が来たのを回避すると同時にその足を前に踏み出した。

距離を詰めて引かれる槍と共に相手の懐に飛び込む。せめて僅かにでも驚かせる事で一矢報いよう。

そう思ったのだが…

 

 

「…参りました」

 

 

今、私の眼前に槍が突きつけてある。

それが結果だ。

 

私が突っ込むと同時に彼女は下がった。

押せば引き、引けば押す。

戦いは相手と戦いやすい位置取りを常に意識して動かなくてはいけない。

それに固執しすぎて失敗する者も稀にいるが、自分の得意とする距離を彼女は常に維持し続けた。

 

そして、引きながらも攻撃を繰り出されこのように寸止めされた。

不甲斐ない。

一矢も報いきれなかった。

 

「いや、実に見事!男でありながらこれ程かわしきるとは!」

 

しかし、私の思いとは裏腹に、槍を下ろした彼女はとても嬉しそうに笑って見せてくれる。

見ていた兵も安堵のため息をついている。その二人の態度に釣られてか、私もいきなり始まった試験が終わった事に僅かながらも安堵した。

 

しかし、身体能力が上がり強くなったはずだが、それでもかわしきれない程の槍術。

この女性はどれだけ強いのだろうか、それが恐ろしくもある。この女性以上に強い者などそうそういないに違いない。

もしや関叔父や張叔父、師である趙雲殿、私の知るどの者よりも強いのではないだろうか…

 

「実力は申し分ない。いや、言い直そう、非常に優秀であるよ。なにやらまだ私の槍が見えていたようにも見えた、もし勝負を急がず武器を持てばなおも戦い続けれるに違いない!さて、劉封殿は武器は何を使われるのかな?」

 

「はっ!知人に槍の名手がおりましたのでそれに師事し私も槍を…」

 

「ほう!ならば今度はあちらで手合わせを行おうではないか!しかし、その槍は…業物というわけではないようですな。武器の差で勝負がついても面白くない、私も同じ素槍で勝負しよう!さあさあ、早くこちらに…」

「あの!劉封殿はお仲間を待たされております!これ以上はさすがに見逃せません!」

 

私に近づいて腕を抱きかかえると、なにやら城内へと連れて行こうとする彼女。その柔らかな感触に慌てて引き離そうとしたが、その手の力は思ったよりもとても強い。簡単にははがせず、失礼な態度も取れない私が困っているのを察してくれたのか、兵士の方が彼女を止めてくれた。

その言葉で僅かに彼女は眉をしかめたが、それでは仕方ないと首を振って手を離してくれた。

 

「すまないな、最近まともに手合わせできる者がおらず退屈していたのだ。久方ぶりの実力者に出会えて嬉しくて…伯珪殿にはしっかり貴殿の事を伝えておくとしよう。安心召されよ」

 

そう言って頭を下げてくれたのでこちらも慌てて頭を下げる。

 

「では、お仲間を連れて参られよ。なに、よく考えれば貴殿との手合わせはこれからいくらでも出来ますからな」

 

顔を上げた私を見る彼女はそれはそれは嬉しそうに見えた。

 

 

 

 

 

 

 

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何度も頭を下げる兵士に再度礼を言い、仲間達の元へと向かう。

その道中思い出すのはやはりあの青髪の女性。名前を聞きそこねてしまったが、彼女の様子ではきっと仕官後にあちらから接触してくれるだろう。その時にでも聞くとしよう。

 

しかしあれだけの武を持ち、美人であり、あのような珍しい髪色。すぐにでも噂になる要素が山積みでありながらそのような話は聞いた事がない。

今まではどこか異国であの武を修め、その武を世で振るう前に亡くなった。

彼女程の人物が無名なのはそういう事なのだろうか。

 

 

考え事をしている間にいつの間にか仲間達の元へと辿り着いていた。

 

無事に話を伝えた事を告げ、すぐさま北平へと出立する

楼斑や董頓といった烏丸族からしたら、噂には聞いていても迂闊には入れない場所だ。

万が一にも彼女達の身元の発覚するのを防ぐため、部下達に周囲を囲ませてはいるのだが彼女達が身を乗り出して周囲を見回している為にその効果はあまり出ていない。

 

それに波才達も若干だが浮き足立っている。生き生きとした民をみて、何か思うところがあるのだろう。

 

彼らを率いて城門へと着くと、そこには先程受付をしてくれた兵士が待っていてくれた。

またも頭を下げられ、仕官試験は先程のもので終了だと告げられた。既に公孫賛様がお待ちなので案内するという。

 

しかし、さすがに全員を連れて行くわけには行かないらしい。

代表者を三名選ぶように伝えられた。

 

「董頓、貴方は留守番です」

 

が、楼斑の一言であっさり留守番が決まり、なにやら文句をいう董頓と素直に引き下がる部下達をおいて私達は城内へと導かれていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ようこそ!良く来てくれたな!腕の立つ武官は今何よりも欲しいと思っていたんだ。力無き民の為にも力を貸してほしい!」

 

そして、謁見の間。扉を開いてすぐの場所に赤髪の女性が手を広げながら笑顔で待ち受けていた。

その背後では青髪の女性が笑みを必死で噛み殺している。

 

誰だろうか。

 

思わぬ展開でまたしても呆然としてしまった。

楼斑と波才はすぐに抱拳礼を取って跪いているのに、一人だけ立ち尽くしているのだ。

それを見て、青髪の女性は面白いものを見つけたとばかりに口角を上げて悪戯っぽく微笑む。

 

「伯珪殿、先程言っただろう?その御仁はお堅いと。仕官するという大事な場面なのに伯珪殿が気さくに話しかけてしまったから困って固まってしまっているではないか。ここはやはり太守らしく威厳を持った態度で…」

 

「えぇっ!?さっきは堅い御仁だから気さくに話しかけて最初に壁を取り除こうって言ってたじゃないか!」

「も、申し訳ございません!!」

 

急に慌てだす赤髪の女性。それをみてようやく私は自分の失態に気づき慌てて抱拳礼をとって謝罪をした。

 

「いや、別にいいんだ。すまないな、順序を間違ってしまったのは私だ。私の名は公孫賛、字は伯珪という。これからよろしく頼む」

 

私の謝罪を笑って許し、あちらからも謝罪を返してくれた。返事の前に深呼吸をしていたようであるし、彼女も中々に慌てていた様だ。

しかし、この女性が公孫賛だというのには驚いた。

城主の名を騙るのは大罪であるし、このような仕官の場でついていい嘘ではない。まさか公孫賛が女性であったとは完全に想定外であった。

名前は聞いたことがあったのに女性だとは知らなかった、それはきっと彼女がこの事を隠していたからだ。実力があろうとも、女性というだけで軽視されかねない上に、彼女は戦場にもでる。もしもの時の為に女性である事は隠しておかねばいけない事だ。

父にも趙雲殿にもその事は聞いたことが無かったが、あの方達は人の秘密を無闇に話す人ではない。故に、私がそれを知る事はなかったのだろう。

 

しかし、そのような隠すべき事を真っ先に明かしてくれた。

それは彼女から臣下への信頼の証なのかもしれない。

 

そこに思い至り、信頼に応えたいと熱の籠もった視線でついつい公孫賛を見つめてしまった。

 

「………なぁ、私、見られてないか?」

 

「………間違いなく見られてますな。もしや一目惚れをされたのでは?伯珪殿も実に罪作りな女ですな…」

 

「………なっ!?そんな…ど、どうしよう、どうしたらいい?」

 

「ふむ、色仕掛けで落としてしまえばよろしいのでは?優秀な武官を捕まえれますぞ?」

 

「ななななななにを言ってるんだ!!そ、そんなのは無理だ!そういうのはやはりこう、まずは手を繋ぐところから始めて…」

 

公孫賛は今度は顔を真っ赤にして顔の前で手を振りながら慌てている。楽しそうにそれをからかう青髪の女性はこちらにも視線をよこして小さく笑った。

 

『貴殿のお陰で楽しいものを見れた』

 

直接言われてはいないが、そういう事を伝える視線だろう。

 

「…」

 

しかし、話のあまりの進まなさにだろうか。右隣の楼斑から僅かながら不機嫌そうな気配を感じた。

そう、彼女は一大決心をしてこの場に来ているのだ。

手助けは出来なくとも邪魔はしないようにしようと思っていたはずだ。

 

「私の名は劉封、字は公徳と申します。民を守るため、微力ながらもはせ参じました。これから宜しくお願いします」

 

私は話を進めるためにも跪いたままそう告げた。

 

「私の名は波才。庶人の出である為に字はありませぬ。我が主である劉封殿に付き従い参りました」

 

波才もいつもの軽口を封じて臣従の態度を見せる。既に失敗をした私が言うのもなんだが、董頓ではこうもいくまい。

 

「あぁ、劉封、波才、これから宜しく頼む。それから…」

 

公孫賛殿はただ一人、続けて挨拶をしない楼斑に視線を向けて困った顔をしている。

ここで一区切りだ。

私達の挨拶が済み、後は楼斑の仕事だがそのきっかけ位は作らなくてはいけないだろう。

抱拳礼のまま立ち上がり公孫賛に告げた。

 

「公孫賛殿、この者は私がここに向かう道中で保護した者です。公孫賛殿に伝えたき議があるとの事。信用できる人物である事は保証しますので、どうか心安らかにお聞きください」

 

小さく頭を下げた私に、公孫賛は先程までの和やかな空気を吹き飛ばし真剣な表情をした。

やはり、英傑。思考を切り替えたその姿はまさしく乱世を生き残れるだろう力を感じる。

それを感じ取った楼斑はようやく顔をあげまっすぐに公孫賛へと視線を向けた。

 

「私の名は楼斑。遼西烏丸族の大人、丘力居の娘。此度は公孫賛殿に我等烏丸族との同盟を提案しに参りました」

 

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「烏丸?丘力居の娘だと…貴様!よくもこの城、この場に来れたものだ!今こそ我が民達に代わり、憎き烏丸を討ってくれる!」

 

一変していた。先程まで柔和で優しさの見えた顔は憎しみと怒りに染まり、その手は腰の剣へと伸ばし始めている。聞いてはいた。だが、これほどまでに異民族に拒絶反応を見せるとは。

どうにか止めなくてはいけない。そう思い踏み出そうとした時、私よりも早く彼女の手が剣に届くよりも早く真っ先に動く人物がいた。

 

「伯珪殿。落ち着かれよ」

 

青髪の女性は静かに告げる。それは声量の割に言葉は部屋中に広まり、剣を握ろうとする公孫賛の動きを止めた。

 

「しかし!こいつは烏丸だぞ!何百年も前からこの近辺の民達が苦しめられ、どれだけの民が奴等にやられたと思っている!!!私が力無き民に成り代わり仇を討たなければ…」

 

「伯珪殿、先程の劉封殿の言をお忘れか?これから部下になる者が信用に足るというに話も聞かずに斬ると?」

 

「こいつは烏丸だ!そのような奴の話を聞く理由はない!」

 

「ふむ。実に器が小さいですな。怒りに任せ話すら聞けぬのでは太守は勤まらないのでは?」

 

「貴様!なんて口の聞き方だ!客将といえどそれ以上は…」

 

「しかし事実でしょう?」

 

これは…青髪の女性は意図的に公孫賛を怒らせようとしているようだ。

怒りの矛先を自分に向け、剣を抜くという決定的な決別をしないように公孫賛が冷静になる時間を稼いでいる。

今なお公孫賛を非難している彼女の態度は臣下の態度には見えないが、それは彼女なりに公孫賛の為を思った行動であろう。

 

私達が楼斑の存在を隠していた為に、公孫賛が宿敵である烏丸の話を聞くという心の準備が出来なかった。

楼班が会うために命を賭ける程の覚悟がいる相手。ならばその相手である公孫賛殿にとっても烏丸と会うためには覚悟を決める時間が必要だったのだろう。

それをこちらの都合で与えなかったために、この場で剣を抜こうとするほどの修羅場が生まれたのだ。

私達の判断は裏目に出たか。

しかし、彼女は剣をまだ抜いていない。まだ決定的な失敗ではない。

 

「公孫賛殿。どうかこの者の話を聞いて頂きたい。この者がもし貴方を害そうとするならば責任を持って私が斬り捨てましょう」

 

「しかし、私は民の無念を…」

 

青髪の女性の時間稼ぎのお陰か、少しは冷静さを取り戻した彼女のその瞳には動揺が見えた。

自分でもわかっているのだろう。

烏丸というだけで話すら聞こうとしなかった。だから楼斑はここまで自分が烏丸と言う事を告げれなかったのだという事を。

自分の感情と、太守としての責務と、民達の思い。

その全てがごちゃ混ぜになり、どれを優先すべきかを悩んでいるように見える。

 

「ここまで私の身元を隠して入り込んだ事、深く謝罪いたします!しかし、我が同胞を守るため私も退けぬのです!話を聞き、納得できなければ斬られてもかまいません!どうか、どうか私の話を聞いてください」

 

そこに楼斑が言葉を告げた。覚悟のこもった言葉。

何のためにここに来たのか、この同盟を成さねばどうなるか、この同盟には仲間達の未来がかかっている。

彼女の命を賭した言葉はきっと届く。

 

公孫賛は跪く楼斑を見ていたが、深くため息を吐いて顔を上げた。

 

「…このまま彼女を斬れば、私は一人になるな」

 

「ふむ、おそらくは。他はわかりませぬが、私は間違いなくここを抜けましょう」

 

「…劉封達も、そうだろうな…そうなればきっと民を守れなくなるな」

 

理由を探している。彼女は自分の感情を抑えるために、太守としての責任を例に出しているのだろう。

 

「はい。公孫賛殿は優秀なれど、率いる将が足りなければ軍は機能しませぬ。そうなれば民も…」

 

ならば、それを手伝おう。

 

「…話を聞こう。民を守るため、仕方なく、だがな」

 

そう言って、彼女は苦笑いを浮かべた。

 

 

 

 

 

 

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場所を会議室へと移し、楼斑と公孫賛の話は始まった。

ついていくのは私のみ。後の二人は董頓も含めて手合わせに行くという事だった。未だに青髪の女性の名は聞きそこねていたが、正直それを聞けるような状態ではなかった。この話が終わったら改めて聞くとしよう。

二人の会話は主に楼斑が伝え公孫賛が時折聞き返す、という話し合いだ。

 

烏丸の渡せる戦士と軍馬の量、そしてその分税を優遇してもらう事。

周辺領からの烏丸の保護。

北の匈奴が攻めてきた際の対応。

飢饉が起きた際の物資の運搬方法。

丘力居の率いる遼西烏丸はこれに同意しているが、他の烏丸達は未だ難色を示している為、彼等の説得は遼西烏丸に任せて欲しいという事。

他にも細かい事まで話し合いを続けていた。

後付で付け足せば問題が起きやすい事を知っているからこそ、彼女達は妥協しないのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なるほど。話はわかった。得るものが多く有意義な同盟だと思うよ」

 

空が赤に染まり始めた頃、ようやく話が終わりを告げた。

言うべき事は全て言い切り、若干疲労が見えていた楼斑も公孫賛のその言葉を聞き一気に顔を綻ばせた。

 

「しかし、だ」

 

その言葉で楼斑の笑顔に陰が差した。

 

「この同盟、守る気はあるのか?これは烏丸にとって不利な条約だ。後になってやっぱり辞めるなんて言われたらたまったものじゃない」

 

基本的にだが、この同盟の概要は烏丸が公孫賛の軍に戦力を供給し、それをもって庇護を受けるという物。

潤沢な資金を持つが動かせる兵の少ない公孫賛には都合がよく、この時期的にも申し分ない。

楼斑は誠意を見せようと多少不利な約定でも結ぼうとしたのだが、それが逆に疑われているのだ。

烏丸を信用し、城を空けて戦闘していたら本城を烏丸に襲われ奪われた。

確かにそんな事になればこの領は確実に終わる。

 

「私達も怖いのさ。信じて裏切られたら人を信じれなくなる。この同盟がお互いの利益になるのはわかるが、今後それ以上の利益がちらつけばそちらについてしまうのではないか、とね………」

 

そう、烏丸には同盟に必要な物、信用が無いのだ。

 

「私が!私が必ず烏丸をまとめてみせます!利益ではなく、信義で繋がれるよう皆をまとめます。ですからどうか…」

 

昔、烏丸は匈奴から漢に裏切った。それを信じ、漢は烏丸に匈奴からの防衛を任せていたのだが、次第に指示を聞かなくなり、今度は漢を裏切り民を襲い始めた。

確か烏丸にはそのような過去があったはず。それがいまだに後を引いているのだろう。

泣きそうになりながら公孫賛に言葉を告げる楼斑を厳しく見つめ、そして小さく笑みを浮かべた。

 

「と、最初は私もそう思ったんだがな。昔私の友人が言っていたよ。相手を信じたらきっと相手も信じてくれるよ!ってな。甘いようだが、その考えが私は嫌いじゃなくってな…」

 

そういって席を立った彼女はいまだ呆然としている楼斑に歩み寄ると、その手を取った。

 

「楼斑、貴方を信じよう。命を賭けてここに来てくれたんだから。私も命に等しい真名を預けるよ。烏丸族にはない風習かもしれないが、これからは白蓮と呼んでくれないか?」

 

「はい…私の命に賭けて、白蓮殿の信頼に応えましょう」

 

こうして、危うくも楼斑の願いは叶い烏丸と公孫賛の同盟はここになったのだった。

 

 

 

 

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あとがき

同盟、無理がある気もしますが、後々説明しますので今は何とかそういうものだと納得してくださいな。

後半、主人公が完全に空気になりました。

色々考えてはいるのですが、彼、全然喋ってくれないんですよね。これだけ書いて、発言はたったの12回…正直オリキャラとして個性も弱いしなぁ…この小説大丈夫なのだろうか………ま、書き続けますけどね!

 

 

あと、波才や楼班、自己紹介の時に字とか無いとやっぱり違和感がありますね。

なので、姓、名、字の事は良くわかりませんがそれっぽいのを考えようと思います。

決まったら後書きに書いておきますね。

 

誤字や脱字があったら教えてください。修正します!

 

では、次回の更新は週明けに人物紹介A、来週の金曜位に8話をあげまーす。

 

 

9/1 言葉が足りなかったみたいなので、公孫賛が女性と初めて知った辺りをちょい修正しました。他にも違和感があるところがあったら教えてくださいませー

説明
志半ばで果てた男がいた。その最後の時まで主と国の未来に幸あらんことを願った男。しかし、不可思議な現象で彼は思いもよらぬ第二の人生を得る事に。彼はその人生で何を得るのか…
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コメント
なかなか星の名前を知らないのがもどかしい…早く、早く!と急かしたくなりますw公孫?については正史よりの記述、これでいいと思います。寧ろそう簡単にはいかないと演出できたと思いますよ。いやー他の蜀のメンツに会った時や素性を明かす時の反応が楽しみです。(PON)
陸奥守さん、確かに!しかし、生前に面識がない相手なので完全に否定もできないのかなー。とか考えました!ちょっと本文に劉封の考えが足りないっぽいので、ちょこっと書き足しておきますね。(だいなまいとう)
黄金拍車さん、自分もこれをスルーするか悩んだんですけどね!とりあえず正史から来た劉封が、ここが外史だと気づく為のジャブですw(だいなまいとう)
moki67kさん、先はまだ下書き段階なので、その辺りがどうなるのか自分も楽しみに書いてますw(だいなまいとう)
グリセルブランドさん、まあ…それは今の時点では口に出せませぬ。こう御期待という感じで。(だいなまいとう)
アーモンドさん、自分も白蓮さん好きです!そんな自分が書いてるんですから、きっと、今後彼女も活躍する筈!(だいなまいとう)
公孫賛が女だったという事が分かった時点でただ単に過去に戻っただけじゃない事に気付いてもいいと思うけど。(陸奥守)
言われてみれば青髪なんざいないからな〜ゲームだと違和感感じなくなってる自分に・・・^^;(黄金拍車)
関叔父や張叔父って、劉封さん正史から来たんでしたねw これは本人たちとも会ったときの反応が楽しみ。いつまでシリアスを貫けるやらw(moki68k)
星の素性を知った劉封が卒倒しかねませんね・・・(グリセルブランド)
白蓮さんがカッコイイww恋姫じゃ残念扱いされてるけど個人的には好きなキャラなので彼女にスポットライトが当たることを祈ってます。(アーモンド)
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