IS -インフィニット・ストラトス- 〜恋夢交響曲〜 第二十八話
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「そういえば、奏君はデパートで何買うの?」

 

デパートに入るなり、旭が俺に質問をしてくる。

 

「まぁ旅行に使う生活用品とかだな。新しい下着とか、海の近くだから水着もいるな」

 

「なんだ、奏君も水着を買いに来たんだ。私も水着を買いに来たんだよ」

 

「お前も・・・? まさか俺を連れてきた理由って――」

 

「そ。奏君に水着選んでもらおうと思って」

 

ケラケラと笑う旭。あんまり俺のセンスをあてにしないで欲しいんだがな。

 

「お前もどっか旅行かなんかに行くのか?」

 

「えっと、あー、その、撮影・・・でね・・・?」

 

怪しい。幼なじみの直感が言っている、明らかに何か隠してると。

 

「へー、そうなのか」

 

「う、うん、そうだよ。・・・もう、そのジト目を辞めてってばぁ!」

 

べしっと俺の肩を叩く旭。まったく、なんなんだよ・・・?

 

「・・・あれ?」

 

ふと旭が声を上げて周りを見渡す。

 

「どうした?」

 

「なんだか、さっきから誰かに見られてるような気がする・・・」

 

「それって、気づかれたってことか?」

 

旭はこれでも今一番有名なアイドルだ。今は変装しているが、もしかしたらどこかでバレてしまったのかもしれない。

 

「まずいな。とりあえずどこかに・・・」

 

隠れよう。そう思ったが、周りを見渡すかぎり隠れることができるようなとこがない。

 

「奏君、こっちいこ」

 

旭に手を引かれ、女性用の水着売り場へ。考えすぎかもしれないが、用心するに越したことはない。

 

「とりあえずここに入ろ!」

 

とっさに俺達はそのなかの試着室へと身を隠した。って、ここって女性用の売り場の試着室だよな?

 

「焦ってたとはいえなんでここに入ったんだよ!?」

 

「ちょっと、奏君黙ってよ!」

 

旭の手のひらに口を塞がれてしまった。まあ確かに喋ると店員にも見つかってしまうので、それだけは避けたい。

 

「どうだ? それっぽい人見つかったか?」

 

できるだけ、小声で旭に話しかける。

 

「うーん、それらしい人はいないみたい。一夏くんとツインテールの女の子ならいるけど」

 

「・・・へ?」

 

旭が覗いているカーテンの隙間から俺も外を覗くと、そこには水着を選ぶ一夏と鈴の姿が。

 

「あいつらが犯人ってことはないよなぁ・・・」

 

「あれ? あの時の教師さんもいるよ。確か、一夏くんのお姉さんだっけ?」

 

「えっ、織斑先生!?」

 

「ほら、あそこ」

 

旭が指さす先には織斑先生と山田先生の二人が。一体このデパートどんだけ俺の知り合いがたむろしてるんだよ。

 

「まずいぞ、旭」

 

「なんで?」

 

「いや、織斑先生は変に感が鋭いから下手したら俺達が――」

 

「・・・天加瀬、貴様ここで何をしている」

 

シャっとカーテンが開く。そこには鬼の形相をした我らが担任織斑先生と、軽くパニックに陥って悲鳴をあげる山田先生の姿があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「はあ、水着を買いにですか。でも、試着室に異性であるお二人で入るのは感心しませんよ。教育的にもダメです」

 

「す、すみませんでした・・・」

 

ぺこりと二人で山田先生に謝る俺たち。どうやら、横にいるのがアイドルの塚乃旭だと気づかれてはいないようだ。まあ、こんな格好をしてうろついてるとは誰も思うまい。

 

「まったく、何やってんだよ奏羅。それにしてもつかさ、久しぶりだな」

 

「ああ、一夏君。久しぶり〜」

 

騒ぎを聞きつけた一夏、鈴の二人も俺達のもとに集まっていた。

 

「一夏、こいつのことなんだけど・・・」

 

「ああ、大丈夫だ。アイドルってことは黙ってるよ」

 

「すまん。助かる」

 

一夏と小声で根回しをしておく。一回一夏は俺たちと行動してる時に、テレビに出ている旭を見たことがある。こいつは鈍いので一応釘を差しておこうと思ったが、どうやらその心配は無駄だったようだ。こいつも空気くらい読めるらしい。

 

「ところで山田先生と織斑先生はどうしてここに?」

 

鈴が先生方に疑問をぶつける。たしかに二人がここにいるのは俺もびっくりした。

 

「私たちも水着を買いに来たんですよ。あ、それと今は職務中ではないですから、無理に先生って呼ばなくても大丈夫ですよ」

 

しかし、そうは言っても二人は俺の中では先生だ。そう呼ばないとしっくりこない。第一、先生って呼ばなかったらなんて呼べばいいんだろうか。山田さん、とか? いや、違和感がある気がする。「コケコッコー、隣の家の人」みたいだし。

 

「そういえば、さっきセシリアとシャルロットとラウラを入り口で見たんだよ」

 

「へ?」

 

一夏の言葉にあっけにとられる。その言葉を聞いて、織斑先生が何かを納得したような顔をしていた。

 

「なるほどな。・・・そろそろ出てきたほうがいいんじゃないか?」

 

織斑先生が周りに聞こえるように大きめの声をあげる。

 

「そ、そろそろ出ていこうと思ってたんです」

 

「え、ええ。タイミングを計っていたのですわ」

 

柱の陰から、まるで旭が変装に使うようなサングラスをしたセシリアとシャルロットが出てきた。

 

「なにをコソコソしているのかと思って、ずっと気になっていたんだがな」

 

「えっと、その・・・ですね・・・」

 

「ま、まあ、女の子には色々あるんですのよ」

 

あはは、うふふと愛想笑いをする二人。もしかしたらこの二人が俺達の後をつけてたのかもしれない。

 

「あれ、ラウラは?」

 

一夏がこの場にいないもう一人の名前を上げる。そういえば、入り口でラウラも見たと言っていたな。

 

「わからない。織斑先生に声をかけられる前にどこかに行っちゃった」

 

「さて、私たちはさっさと買い物を済ませて退散するとしよう」

 

ふう、とため息をつく織斑先生。手に持っているのは水着で、どうやら俺達と同じく、土壇場で準備しているのだろう。

 

「あ、あー。私ちょっと買い忘れがあったので行ってきます。えーっと、場所がわからないので天加瀬くんとその友達さん、凰さんとオルコットさんにデュノアさんもついてきてください」

 

山田先生は何かを閃いた顔をして有無をいわさず俺たちを連れていってしまった。

 

「え、えーっと、山田先生?」

 

俺が疑問を投げかけると山田先生はニコニコしながら、

 

「姉弟水入らずってやつですよ」

 

と答えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「奏君、どっちがいいかな?」

 

結局、俺たちは違う水着売り場で品定めをしていた。ちなみに鈴と山田先生は買い物が済んでいるので、他の売り場で時間を潰している。

 

「うーん、旭には緑が似合うと思うんだが・・・」

 

「こっちのセパレートかぁ・・・。わたし上下に分かれてるのなら来たことあるけど、さらに左右にも分かれてるのは初めてなんだよねぇ・・・」

 

「あー、いやならそっちの赤でいいぞ」

 

「・・・ううん、せっかく奏君が選んでくれたんだし、こっち買ってくるよ」

 

そう言って旭はパタパタとレジへとかけて行った。

 

「そ、奏羅さん、あの方とはどんな関係で?」

 

旭が居なくなるやいなや、気になっていたのかセシリアが俺と旭の関係を問い詰めてくる。どうやら、シャルロットも同じようだ。

 

「いや、ただの幼なじみの友達だよ」

 

「と、友達・・・? ほ、本当!?」

 

俺の言葉に真剣な顔をする二人。そんな顔をされても他に何も無い。無いものは無い。

 

「あ、ああ。そうだけど・・・」

 

「な、なーんだ」

 

「友達でしたの・・・」

 

ほっと一息つく二人。なにを心配していたのか。

 

「お待たせ奏君。えっと、そっちの二人は・・・?」

 

「ああ、こいつらは俺のクラスメイトだ」

 

「はじめまして、セシリア・オルコットです」

 

「僕はシャルロット・デュノア。よろしくね」

 

「うん、よろしくね。私の名前はつか――」

 

「つかさ、な」

 

自分の本名をいいそうになる旭の代わりに簡単に作った偽名を先に述べておく。こいつは俺が止めるとわかっててやってるのだろう。まぁ、俺なら隠してくれると信頼されてるからなんだろうが。

 

「ふーん、ほうほう。なるほどぉ〜」

 

二人をジロジロ見ながら何かを納得したように旭が頷く。

 

「奏君もやるねぇ。こんな可愛い子たちに囲まれるなんて」

 

「なにをやるんだよ・・・」

 

「いやいや、ねぇ・・・」

 

ちらりと旭が二人の方をみると、二人は少し顔を逸らしながら、

 

「べ、別に、そんなのじゃありませんわ!」

 

「そ、そうだよ、うん」

 

と答えた。なにかはわからないが、女の子同士のなんとやらというやつだろうか。

 

「そういえば、もう一人のラウラって子はどうなの? その子も二人と同じくらいに可愛い?」

 

「なんでそんな事聞くんだよ?」

 

「だってー、その子も奏君の友達なんだろうし、気になるじゃない?」

 

「気になるって、お前なぁ・・・」

 

しかし、ラウラかぁ・・・。最近のアイツを見ている限りでは・・・。

 

「・・・まぁ、ラウラは可愛いな」

 

最初の頃に比べたら、大分人間らしくなったと思う。まあ、行き過ぎたというか、斜め上に突き抜けた感じはするけどな。

 

「そ、奏羅さん!?」

 

「そ、奏羅!?」

 

何故か金髪コンビに怒鳴られてしまった。俺はなにか悪いこと言ったのだろうか?

 

「ま、奏君にはわからないだろうねぇ・・・」

 

「なにがだよ?」

 

「なんでもないよ〜。じゃ、奏君の水着選んじゃおっか」

 

「わ、わたくしも参加させてください!!」

 

「ぼ、僕も!!」

 

「じゃ、三人で選んじゃおっか」

 

そう言ってサングラスをした三人は並んで男用の水着売り場へと進んでいってしまった。待て待て、俺の自由意志とかはないのか・・・?

 

 

 

 

 

 

 

 

時間は十分ほど前。セシリア、シャルロット、ラウラの三人ではじまった追跡トリオの中で、唯一織斑千冬に先に気づいたラウラは、奏羅にバレる前に早めに二人の元を離れて、色とりどりの水着が並ぶ売り場へと移動していた。

 

(ふむ、そういえば私も自分の水着を持っていなかったな)

 

学校指定のものがあるから別にいいかと考えるラウラ。ちなみに、IS学園の指定水着は紺色のスクール水着。ちなみに、『らうら・ぼーでう゛ぃっひ』という名札付き。

 

(まあ、泳げればなんでもいいだろう。あの水着は機能的に優れている。代わりのものは必要ないな)

 

そう思い、冷めた瞳で水着の列を眺めるラウラだったが、次の瞬間に聞こえてきた言葉に、頬が赤く染まった。

 

「まぁ、ラウラは可愛いな」

 

いきなり奏羅の声が聞こえたのだった。どうやら、先程まで一緒にいた人物との会話らしいが、頭には入ってきてはいない。

褒めるがいいと、なんども言っていたラウラだったが、実際に褒められたことはない。そこでこの不意打ちである。取り乱すのは無理もない。

 

(か、可愛い・・・? 私が、可愛い・・・。可愛い・・・)

 

意味もなくキョロキョロ周りを見渡すと、コールする番号をなんども間違えながら、ラウラはISのプライベート・チャネルを開いた。

 

『――受諾。クラリッサ・ハルフォーフ大尉です』

 

「わ、私だ・・・」

 

自分の部下、ラウラが隊長を務めるIS配備特殊部隊『シュヴァルツェ・ハーゼ』――通称『黒ウサギ隊』の副隊長へと連絡を入れる。本来ならば名前と階級を言わなければならないのだが、ラウラは奏羅の言葉に動揺し、いい忘れてしまっていた。

 

『ラウラ・ボーデヴィッヒ隊長、なにか問題が起きたのですか?』

 

「あ、ああ・・・。重大な問題が発生している・・・」

 

『――部隊を向かわせますか?』

 

「い、いや、部隊は必要ない。軍事的な問題では、ない・・・」

 

『では?』

 

「クラリッサ。その、だな。わ、わ、私は可愛い・・・らしい、ぞ」

 

『はい?』

 

「そ、奏羅が、そう、言っていて、だな・・・」

 

『ああ、隊長が好意を寄せているという彼ですか』

 

「う、うむ・・・。ど、どうしたらいい、クラリッサ? こういう場合は、どうすべきなのだ?」

 

『そうですね・・・。まずは状況把握を。直接言われたのですか?』

 

「い、いや。向こうはこちらが聞いているとは思っていないだろう」

 

『――最高ですね』

 

「そ、そうなのか?」

 

『はい。本人のいない場所でされる褒め言葉に嘘はありません』

 

「そ、そうか・・・そうかぁ・・・」

 

その言葉に、ラウラの機嫌は有頂天になる。奏羅は嘘を言っていない。それを聞いただけで顔が自然にほころんでしまう。

 

「そ、それで、だな。今、その、水着売場なのだが・・・」

 

『ほう、水着! そういえば来週は臨海学校でしたね。隊長はどのような水着を?』

 

「う、うん? 学校指定の水着だが――」

 

『何を馬鹿な事を!』

 

「!?」

 

『確か、IS学園は旧型スクール水着でしたね。それも悪くはない。悪くはないでしょう。男子が少なからず持つというマニア心をくすぐるでしょう。だがしかし、それでは――』

 

「そ、それでは・・・?」

 

ごくり、とラウラがつばを飲む。

 

『色物の域をでない!』

 

「なっ・・・!?」

 

『隊長はたしかに豊満なボディで男を篭絡するというタイプではありません。ですが、そこでキワモノに逃げるようでは『気になるアイツ』から前には進まないのです!』

 

ガーンとラウラに衝撃が走る。自分はもう少しで過ちを犯すところだった。しかし、その過ちを正すすべがない。

 

「な、ならば・・・どうする?」

 

『フッ、私に秘策があります』

 

プライベート・チャネル越しに、クラリッサの不敵の笑みが聞こえた。

ちなみに、ラウラに間違った知識を植えつけているのは、このクラリッサだったりする。

 

 

 

 

 

 

 

 

「そういえば二人はもう水着は買ったのか?」

 

ふと気になったので、あーでもないこーでもないと言いながら俺の水着を選んでいるセシリアとシャルロットに尋ねてみる。

 

「私はすでに素晴らしいものを用意してありますわ」

 

「僕も一応買ってあるよ。本国から持ってきたのは、その、ね」

 

シャルロットが本国から持ってきた水着がどんなものか気にはなるが、それは置いといて二人ともしっかりと買っているらしいな。

 

「ほうほう、二人共、大胆な水着で目線を釘付けにする作戦だねぇ」

 

何かを理解したかのようにニヤニヤとした顔で旭が会話に参加してくる。

 

「な、何をおっしゃるんですか、つかささん!」

 

「そ、そうだよ! 目線を釘付けにだなんて、ねぇ」

 

「そうだぞ。大体、基本的に女子ばっかなのに釘付けも何もないと思うがなぁ・・・」

 

と、思ったことを口にした瞬間、三人が一斉にこっちを信じられないという顔で見てきた。

 

「えっと、何でしょうか皆さん・・・?」

 

「いや、一夏ばっか酷さが目立ってたからあんまり気にならなかったけど・・・」

 

「奏羅さんも、奏羅さんですわね・・・」

 

「奏君、もうちょっと発言気をつけてね・・・」

 

と、三人にため息混じりに答えられた。そ、そんなに一夏みたいな空気読まないことでも言ったんだろうか・・・。

 

「まぁ、それはさておき、奏君ってどっちかって言うとマニアな方だからスクール水着とか好きだよねぇ〜」

 

「ばっ、お前!?」

 

突如、俺の幼馴染がとんでもないことを口にしやがった。てか、俺の目の前に女の子居るのわかって言ったのかこいつ!?

 

「お前な・・・根も葉もない事言うのやめろっつったろ! お前のお陰で一瞬で俺のイメージがだだ下がりしたんだぞ! ここでそのグラサン叩き割ってやろうか・・・?」

 

「いやーん、ぼうりょくはんたーい」

 

一発殴ってやろうそうしようと思った時、そういえば、こんなことしてる場合じゃないことに気づいた。

 

「そ、奏羅って・・・」

 

「奏羅さん・・・」

 

そうだ、今この場所には俺のことを誤解しているクラスメイトがいるんだった――

 

「い、いや、二人共、俺はその、そういうのが趣味ってわけじゃなくて、こいつの冗談、冗談だから」

 

「い、いえ。大丈夫ですわ奏羅さん。わたくしは、そういう趣味でも奏羅さんのことを嫌いにはなりませんわ、ええ、そうですとも・・・嫌いになりませんわ」

 

「そ、そうだよ。男の子ってそういうマニアなとこあるし、僕も全然気にしないよ、うん・・・気にしないよ・・・うん」

 

「じゃあ、なんでそんな同じこと二回言いながらちょっと引いた目をしてるんですか!? いや、だからこれつかさの言った冗談、冗談だってええええええええええええええええ!!」

 

後日、なんとか嘘だとわかってもらえたが、誤解が解けるまでセシリアとシャルロットは俺に対して前より優しかった気がして毎晩少し泣きそうになっていた・・・。

 

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恋夢交響曲・第二十八話
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IS インフィニット・ストラトス 交響曲 

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