リリカルなのは×デビルサバイバー As編
[全1ページ]

 

 カイトが学校へ登校し、教室へと入った時いつもとは違う雰囲気を感じ取った。正しく言えば、いつもどおり挨拶をする少女の様子が違う事に気づいた。

 

「あ! おはよう、カイトくん!」

「あ、あぁ……おはよう」

 

 いつもニコニコ笑っているなのはだが、通常の五割増しでニコニコしている。

 なんだこれ? と、視線をアリサとすずかへと向けるが、二人揃って首を振る。どうやら、二人共なのはの機嫌が良い理由を知らないようだ。

 これ以上考えても仕方ないと、頭を切り替えてカイトはすずかの方へと歩いていく。

 

「はいこれ」

 

 カイトは鞄からCDケースを取り出して、すずかへと手渡す。

 受け取ったすずかは、一瞬戸惑ったものの、これがなんであるかすぐに気づいたようだ。

 

「あ、もしかしてD-VAの?」

「うん。聞きたいって言ってたの、覚えてたし」

 

 約束を守るというのも、このカイトの行動理由の一つだが、アヤとジン……あの二人の得になることなら、カイトは惜しみなく尽力するつもりであり、これは最初の一歩ともいえる行動だった。

 

「ありがとう、カイトさん」

「礼は後で。そろそろ先生も来そうだし」

 

 そうカイトが言った所で、チャイムが鳴り響く。そして、その音を聞いた者達全て、席に着く。

 この光景を見るたびに、最近の学校は学級崩壊がデフォだと言う話が嘘のように思える。

 

 席に座り、暫くするといつもの様に足跡が近づく音が聞こえる。

 

「……?」

 

 唯、その足音がいつもと違うのは、一人だけではなく、複数人であることだった。

 その事に違和感を覚えているのは、カイトだけではなくアリサやすずか。教室に居る生徒たち、複数。

 暫く経った後に、ドアが音を立てて開かれる。

 

「あー、全員居るな。今日の連絡事項についてだが……その前に、だ。テスタロッサ、入ってこい」

 

 担任に言われ、一人の少女が扉を開け入ってくる。

 先ず目を引くのは、その金色の髪だ。その髪を黒いリボンでツインテールにしている。

 そして何より、その人物をカイトは知っていた。

 

「えっと、フェイト・テスタロッサです。よろしくお願いします」

 

 少々、おどおどしているものの、頭を下げ自己紹介する、フェイト・テスタロッサの姿がそこにあった。

 

* * *

 

 外国から転校してきたという設定で、フェイトは今ここに居るようだ。

 しかし、カイトが気にかけているのはそこではなく、"フェイトが転校してきた"という事実についてだった。

 少なくとも時空管理局という組織は、フェイトの身辺を偽るぐらいは出来るほど、この世界に浸透……いや、侵食しているのだろう。

 そして、その事実はカイトの中にある、管理局組織に対し悪いイメージを抱かせ、逆に良い印象も与えるのだった。

 

「は〜……大変そうね、あの子も」

 

 とは、同じ金色の髪を持つアリサの発言だ。

 フェイトは現在、転校生に対する歓迎の証として、複数人からの……まぁ、要するに質問攻撃を受けている。

 ほんの数ヶ月前にも同じ光景を、作る時があった。その時中心に居たのは、他ならないカイトであったのだけど。

 ちなみになのははというと、フェイトの傍に寄り添い、質問に対する答えを一緒に答えている。

 

「漫画とかでよくある光景だし、仕方ないだろ」

「ふ〜ん……? そんな事言っちゃうんだ。あんたも当時困ってたくせに」

「さて、何のことやら。まぁ、この状態も一週間も過ぎ去れば収まるだろ……多分、きっと」

 

 何故最後らへんの言葉が曖昧になったのかというと、その理由は一つ。フェイトの容姿の問題というやつだ。

 外見が良いことは、良いことも悪いことも引き寄せる。今回は後者が当てはまってしまったのだろう。転校してきた少女は外国出身で、しかもかなり可愛いと聞けば他のクラスの生徒も、出歯亀根性MAXで見に来てしまうのは、人の性の一つなのかもしれない。

 とはいえ、その考えは当事者にとって迷惑極まりない行動なのだが。

 

「まぁとにかく、面倒事には首を突っ込まない様にするのが、俺なんで静観してるよ」

「あんたねぇ……」

「……あの子が一番信頼してるなのはが近くにいるんだ。それ以上に心強いものはないだろうよ」

 

 アリサにそう答えながら、心中では自分が行かないほうが良いと判断している。

 フェイトにとって一番信頼出来る人間がなのはなら、一番信頼出来ない人間はきっと、自分なのだから。

 

* * *

 

 フェイトが転校してきた日の午後の話だ。

 カイトが家ですずかから勧められた本を読んでいると、携帯に一通のメールが届いた。

 差出人の名前はクロノ・ハラオウン。

 件名は君に会いたい人がいる、とのことだった。

 

「会いたい人?」

『お前が悪魔使いだからだろう? この世界ではどうやら、神・悪魔以上に悪魔使いという存在が及ぼす影響の方がはるかに大きいのだろう』

「ふん……。くだらんね」

 

 とは言うものの、カイトは少し考える。

 悪魔使いの力の原理を教えろ。などという話は論外だとしても、会って話をするだけならば悪くないか? と、カイトは考えたのだ。

 その理由はクロノのメールの本文に書いてある、ギル・グレアムという人物に興味を持ったためだった。

 時空管理局の重鎮であり、地球出身であるという彼の話は今後の行動の一つの基準に鳴るかもしれない、そう考えたためだった。自分以外の管理局に対する考えを聞けるかもしれないというのは、コレ以上にないほどのチャンスだとも言える。

 というわけで、クロノに了承の意を伝えるメールを送信する。送信した後時計を見て時間を確認した後、カイトは一人呟く。

 

「さてさて……どうなるかな?」

 

 その口元は笑みを浮かべ。

 されど、その眼は決して笑っていはいなかった。

 

* * *

 

 以外にもカイトを迎えに来たのは無名の管理局員ではなく、エイミィ・リミエッタであった。彼女が乗ってきた車には既になのはとフェイトの姿がある。恐らくは彼女たちもギル・グレアムに呼ばれた者達……ということであろうか?

 

「こんばんは、カイトくん」

「……こんばんは」

「あぁ、こんばんは」

 

 なのはは明るく陽気に。

 フェイトの少しためらいながら。

 カイトは全く意に介さずに。

 それぞれが、それぞれの様子を見せながら挨拶を交わし、カイトもまた車へと乗り込んだ。

 車で移動すること数分、最初に口を開いたのはカイトだった。

 

「エイミィさん。グレアムさんってどんな人なんですか?」

「ん〜私も直接会ったことが無いから、よく知らないんだけど……そうだね。境遇としては、なのはちゃんに似てるかな」

「え? 私ですか?」

 

 グレアムの話から自分の名が出てくるとは思わなかったのだろう、なのはは驚いた表情を見せていた。

 

「うん。傷を負った時空管理局員を助けたのが、彼だったそうだよ。それから自身に魔法の才があり、その管理局員からの推薦もあって、時空管理局に就職したんだって」

「なるほど、それでなのはに似ていると」

 

 傷を負った管理局員がユーノ。それを助けたグレアムをなのはに置き換えると、確かに似ていると言えるかもしれない。

 

「それからは、魔法の才とその人格から管理局上層部に認められて、今の地位を確立したって話だね」

「ほぉー……」

 

 才能だけでは自分の地位を上げることは出来ない。

 上層部の一部でもいいから気に入られることが肝心なのだ。恐らく彼は故意か素か、どちらかは分からないが、気に入られる要素を持っていたということであろうか。

 

「後私が知ってるのは、フェイトちゃんの保護観察官ってことかな?」

「……うん。数回しか会ったこと無いけど、とてもいい人だよ」

「ふ〜ん……」

 

 そこまで聞いた所で、カイトはヘッドホンを付け、電源を入れた。

 自分の考えを纏めるための行動だが、果たしてその行動は周りから見ると、どう思われるのだろうか?

 

* * *

 

「初めまして、なのはくん、カイトくん。そして久方ぶりだね、フェイト」

 

 そこに居たのは年老いた一人の男性……には全く思えないほど生命力溢れた老人、まさに幾多の戦を闘いぬいた漢とでも形容すべき人物だ。

 そんなグレアムという人物に圧倒されたのか、少々戸惑った様子を見せながらなのはは「初めまして!」と挨拶をした。

 

「うむ、初めまして」

 

 そのなのはの様子に幾分機嫌をよくしたのか、グレアムの表情が少し和らぐ。

 

「お久しぶりです、グレアム提督」

「ミッド以来だったな、どうだ? 学校は楽しいかい?」

「はい! とても楽しいです!」

 

 フェイトは笑顔を見せながら、なのはの方を見る。なのはもまたフェイトを見ながら笑顔で頷いた。

 その両者の様子に満足そうな笑みを浮かべてから、その瞳を今度はカイトへと向けた。

 

「……」

「……」

 

 無言。

 両者無表情のまま、互いに相手を見続けていた。

 その理由は、相手から香る血の匂いだった。

 

「……なるほど。深くは追求しないが、苦労した……もしくはしているのかな」

「それはお互い様、ということで」

 

 笑顔とは程遠いものの、カイトとグレアムは言葉をかわす。

 その二人の様子を、何がなんだか分からないと、なのはとフェイトは見ていた。

 

「さて、湿気た話は終わりにしよう。こうして若い子達と話すということはあまり無いからね、今日を楽しみにしていたんだ」

「……"今日"を?」

 

 その事に疑問を持ち、後方に居るクロノに視線を向けると、カイトから視線をそむけた。

 

「(クロノェ……)」

 

 恐らくは、闇の書の件で忙しくなり、連絡が遅れたのだろう、そして気づいたのが数時間前であり、急いで送った。というところだろう。

 その事にカイトも気づき、果たして自分が断っていたらどうしていたのだろう? と、心配になるほどだった。

 

 それからは雑談タイムとなった。

 俺達が小学生だからか将来の夢だとか、家族の話だとか、様々なことを話した。気がつくと、もう遅い時間になっていた。

 

「ふむ……そろそろお開きとしようか」

 

 そう言ったのはグレアムだった。

 少し沈んだ様なその声から、少々寂しがっているのだろうか?

 

「そうですね。そろそろ帰らないと、お母さん達が心配すると思いますし」

 

 とはいえ、夜遅くなって困るのはなのはだけだったりする。

 フェイトはハラオウン家でお世話になっているし、カイトは一人暮らしの身なので、彼を心配する人は居ない。

 

「そうだな……帰るの遅くなって、寝坊した結果朝飯食べそこねたら嫌だし」

 

 カイトが立ち上がり、それを合図としたかのように他の四人もまた立ち上がった。

 

「中々に楽しく、有意義な時間だった。三人ともありがとう」

「いえっ! 私もグレアムさんと話せてよかったです!」

「私も、同じです」

 

 二人の言葉を聞き、笑顔で数度頷いた後、グレアムはカイトの方へと視線を向けた。

 

「……俺も、色々なことが知れてよかった」

「……そうか。それはよかった。しかし、少しだけキミに、聞きたいことがあるんだが、少々時間をくれないか? 何、五分もあれば十分だ」

「それぐらいでしたら、いいですけど」

 

 突然の頼みに、カイトは少々戸惑いつつも頷く。

 その様子を見てからグレアムはクロノの方へと視線を向けると、クロノもまた頷いてから、なのはとフェイトの二人を部屋の外へと誘導し、自身もまた部屋の外へと移動した。

 

「…………」

「…………」

 

 数分の沈黙の後、口を開いたのはグレアムではなく、カイトだった。

 

「それで、聞きたいこととはなんですか?」

「聞きたいことがあるのはキミの方だろう? 何となくそう思ったのだけれど、違うかね?」

 

 グレアムのその言葉に、カイトは目を細めて……いや、睨みつけるような形でグレアムを見る。

 

「(……歴戦の勇士、その名に偽りは無し、か。やんなるね、こういうタイプの人間は)」

 

 人を見て何かを推測する能力、それは勘とも経験則とも言っていい能力だと言えるだろう。

 そして、その能力を持つ人間を、カイトは知っている。

 

「(ナオヤ……)」

 

 ナオヤとは、カイトの従兄弟であり、カイトの魂の原初とも言える魂であるア・ベルの兄である、カインその人。見た目だけで言えば目付きが少し悪い、美形の男性という感じではあるが、数千年と転生を繰り返してきた、経験を持つ男であり、召喚サーバを設計――作成した人物である。

 最悪の従兄弟を思い出した所で、カイトは頭を振って忘却に務める。

 

「どうかしたのかね?」

「いえ、なんでも……。で、俺が聞きたいことですよね。確かにありますよ。ただ……」

「クロノには……。いや、管理局の人間には聞かれては困ることかね?」

「……まぁ、そんなところです」

 

 ここまで心を読まれると、やりにくいものがある。しかし、それ以上にこの男に対して、カイトは疑い始めていた。

 

「……まぁいい」

 

 小さな声で呟くと、グレアムを真っ直ぐ見て口を開いた。

 

「俺が知りたいのは、時空管理局の仕事、その範囲。そして持つものと持たざるものについて、です」

「なるほど……」

「なのは……高町さんは疑問に思っていなかったようですが、フェイトが地球で、学校に転入する事がおかしいと思うんです。この世界は管理外であり、本来時空管理局の手が入ることのない世界のはず。なのに、フェイトは転入することに成功した。何故ですか……?」

 

 グレアムは「ふむ……」というと、右手で顎を擦りながら考え込んでいる。いや、もしかしたら振りなのかもしれないのだが。

 

「地球という世界は特別でね」

 

 口を開くと、少しずつグレアムはしゃべりはじめた。

 

「儂も含め、地球出身者の魔術師は例外なく、才に溢れているのだよ。それをクロノも、リンディも知っているのだろう。では、管理局は地球に対し何故影響を持つのか。その答えは……? 今回滞在する目的とは?」

「地球で産まれ、存在する才能あふれる者を、今回で言えば高町さんをスカウトするため……?」

「うむ」

 

 グレアムは頷いた。

 

「そして二つ目の問だが……。"キミの考え通り"だ」

「……ですか」

 

 カイトは俯く。「あぁ、やはりな」と。

 

「満足かね?」

「はい。どうもありがとうございました」

「いやいや、いつでも来たまえ。キミならいろんな意味で歓迎しよう」

「ハハ。お断りしますよ」

 

 扉を開け、カイトは室内から出ていく。足音が遠ざかるのを確認してから、グレアムは机に置かれているお茶に手を付け、一気に飲み干し、勢い良くソファーに座った。

 グレアムの顔からは大量の汗がふきだし、肩で息をしているのが分かる。まるで何か運動をした後のようだ。

 

「大丈夫?」

 

 どこからか声が聞こえた。

 

「あぁ……。大丈夫だ。あの子と悪魔使いが接触したと、君達から聞いて接触してみたが……あれは本当に子供だというのか……?」

 

 グレアムは思い出す。自身を睨みつけてきた、僅かではあるが血の匂いが香る少年を。

 

「あれが……。あれが、悪魔使い? 古の時代、戦争を止めた英雄、勇者だと……? そんなバカな」

「……グレアム?」

 

 その声には反応せず、背もたれに寄りかかり、天井を見え上げ、こう言った。

 

「魔王といったほうが、まだしっくりくるではないか」

 

 『魔王』、そう言われたことを、知ってか知らずか。カイトは一人通路を歩き、一瞬先ほどまで居た部屋を見てから再び歩き出した。

 

説明
4th Day 持つ者、持たざる者。
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