武装神姫「tw×in」 第十話 お礼×名由来= |
「わりと高めに設定してたのに、よく勝てたね」
ミルートの研究室。バトルの終わったオレとエンルはここへ戻ってきた。
「おめでとうエンルさん! ついに固有レールアクションを使えるようになったんですね!」
「これでアタシ達三人共、武装がちゃんと揃ったってことだね。おめでとう、エンルちゃん」
「はい! お二人共、ありがとうございます!」
隣では、ルミアとスレイニがエンルの勝利を称賛している。
「うーん……勝敗のカギはやっぱ最後のレールアクションだね」
ミルートはツインワンの装置とパソコンのディスプレイを見比べながら唸っている。
「神姫はともかく、レールアクションまで合わせたんだよな?」
「まぁね、正直そっちの方が簡単なんだ。すでに普通の移動や攻撃のレールアクションは合わせたのがダブルレールアクションという名前で幾つもあるし、その要領でプログラムをいじったらすぐだったよ。ただし、ボクのそれは二つの攻撃を一つにした、さながらツインレールアクションと言ったもの、つまりは違法プログラム、元は無いものだから既製品に付けると起動に時間がかかるんだ。今回の敗因は、その起動時間の長さかな」
確かに、姿こそ変わったのにそこから動かなかった。
アレがもし早かったら……
「ちなみに、どういうレールアクションなの?」
「4つの剣を持ったのは見たよね? それで相手に近づいて乱舞を繰り出した後、大剣2つを突き刺すんだ」
……想像したら恐ろしかった。
「もう少し起動スピードを調整する必要があるみたいだね、とにかく手伝ってくれてありがとう。礼を言うよ」
「うん、どういたしまして」
「あぁそうだ、手伝ってくれたお礼だったね。ルーフェ、昨日言ったやつを」
「はいはーい」
ルーフェは壁越しの棚の中を漁り、ある物を取り出した。
「この筐体はゲームセンターにあるのとは違って神姫ポイントが発生しないからね、代わりに昨日宗哉が言っていたパーツを用意しておいたよ」
「どうぞー」
ルーフェからお礼のパーツを手渡される。
「ありがとう……あれ? 2つ?」
「もう一つはおまけだ、それで更に使えるだろ」
「マスター、それってもしかして……」
「うん、昨日買えなかったもう一つのリアパーツだよ」
それはリアパーツ:シンぺタラス。おまけはレッグパーツ:パピオン。どちらもエンルのアーンヴァルMk.2型の武装だ。
「一刀両断・白と同じアーンヴァルMk.2もう一つの固有レールアクション。それで使える筈だけど」
「わぁ……」
リアパーツを見てシエルは目を輝かせて喜んだ。
「昨日も散々悩んだだろうし、そんな時にミルートから連絡があってね、ひょっとしたらと思ったんだ」
「ありがとうございます、マスター!」
「お礼はオレにじゃなくて、ミルートにね」
「あっ! あ、ありがとうございます、ミルートさん」
「いやいやこちらこそ、いいデータが録れたよ、ありがとう、エンル」
「はい!」
さて、一応用事は済んだけど。
「まだデータ取る? ルミアとスレイニもいるし」
「いいや、今はさっきのデータを解析するよ。またいつか連絡した時によろしく」
「そっか、じゃあオレ達はそろそろ帰ろうか」
鞄の中にエンルの武装と三人を入れて立ち上がった。その時、
「あ、そうだ宗哉」
ミルートがオレの名前を呼んだ。
「なに?」
「もう一人神姫を増やそうと思わない?」
「え?」
神姫をもう一人?
「どういうことですか」
オレが聞くより早く、スレイニが鞄から頭を出して訊ねた。
「ま、簡単に言えば…」
ミルートはツインワンの装置を動かして蓋を開け、そこから、
「彼女を貰ってくれないかな?」
アルトレーネ型の神姫を取り出した。
「セットアップはしてないから、宗哉がマスターになれるけど」
「でも、それはミルートの神姫だろ?」
「まぁそうだけど、ボクにはもうルーフェがいるから」
「だからなおさらだ」
その言葉を言うなら、ミルートが出すべきはルーフェと同じアルトアイネスの方の筈。
1人で同じ種類の神姫を持つ人はかなり珍しい。まぁ、中にはいるだろうけど。
「……まぁ正直言うとね」
「正直言うと?」
「……アルトレーネ型の性格考えたら、ドジって何するか分からないでしょ?」
「あー……」
納得してしまった。
もしもアルトレーネ型を起動してルーフェのように研究の手伝いをさせたら……持ち前の天然を遺憾なく発揮してしまうだろう。
「だからボクよりも宗哉の方が彼女を上手く扱ってくれると思ったんだ。どうかな?」
「でも、渡したらレイネスが創れないんじゃ?」
「それは問題無し。レイネスはすでにプログラムとして完成して保存とバックアップが済んでいるから、余程のことがなければ大丈夫だよ。この状態も、ただ宗哉に見せるために置いただけだからね」
「へぇー」
「でだ、どうする? もちろん強制はしないよ」
「ふむ……」
オレは少し考えて、視線を鞄に向けた。
「ちょっと相談していいかな」
「もちろん、新たな家族の受け入れを1人で決めるなんて野暮だからね」
鞄からすでに顔を出していたスレイニに伝える。
「という訳だから、二人と一緒に一旦外に出てきて」
「あー……それがですね、マスター」
「ん?」
スレイニは一旦顔を引っ込め、何か二人に言ってから再び顔を出した。
「もう少し待ってやって下さい、準備出来次第すぐに出しますから」
「? うん、別にいいけど」
二人で何かしてるのかな?
「ちなみに、スレイニはどう思う?」
「貰えるなら貰えばいいと思いますよ」
スレイニが先に一人鞄から出て近くの机の上へ。
「もう三人も居るんですし、一人二人増えても変わりはあんま無いでしょう」
スレイニは賛成のようだ。
というか、おそらく残りの二人が反対するとは思わない。スレイニが賛成した時点でほぼ決まったも当然だった。
「お待たせしました!」
その時、ルミアが鞄から元気よく飛び出した。
持ち前のジャンプ力、だけではなく、
「ルミア、それ」
「えへへ♪どうですか? マスター!」
その背中に付けたリアパーツ:コーリペタラスによるブースターでスレイニのいる机の上へと降り立った。
「いやさっきのは分かるけど、何でルミアがそれ付けてるのさ」
先ほど鞄の中を見たスレイニがルミアの武装を見て訊ねた。
「今まではエンルさんに武装を貸す方だったので、たまには借りてみようと思いまして!」
その場でくるくると楽しそうに回る。
「どうですかマスター!」
ピタリと止まったところでオレの方を向き、再度訊ねた。
「うん、カッコいいね」
「わーい!」
ルミアはぴょんぴょんと跳ねて喜んだ。
「仮にも女の子にカッコいいてのはどうなんでしょうかね?」
「でもほら、カワイイとは違う気がするからさ」
「あー、そうですね」
コーリペタラスはリアブースター、機械のイメージが強いため、カワイイとはさすがに言えない。
「ところでルミア、エンルは?」
「もうすぐ来ると思いますよ」
その時、
「お、お待たせしました!」
エンルが鞄から勢いよく飛び出し、机の上に着地した。
「それって……」
その姿は先ほどバトルしていた時の武装、しかしリアとレッグはミルートから貰った物に変わっていて。アーンヴァルMk.2型の、もう一つの正式装備の姿になっていた。
「ど、どうでしょうか?」
「うん、とても似合ってるよ」
ルミアの時みたいにカッコよくもあるけど、正式装備となったその姿には、その言葉の方が合っていると思った。
「あ……ありがとうございます!」
褒められて嬉しいのか、エンルは満面の笑みを浮かべた。
「でも、言ってくれれば手伝ったのに」
スレイニはもう慣れたものだけど、ルミアとエンルはまだ自分で武装を、特にリアパーツをつけられない。多分今は二人で協力してつけたんだろうな。
「そ、それは、マスターにちゃんと武装した状態で見てもらいたかったので……」
なるほど、だからか。
「次のバトルは、それで出ようか」
「はい!」
「おーい、ファッションショーなら後にしてよねー」
あ、忘れてた。
今は新たな神姫を貰うか否かだったんだ。
「という訳だけど、ルミアとエンルはどうかな?」
「わたしは賛成です!」
ルミアは両手を挙げて賛成。
「私も賛成します。ミルートさんの言う通り、マスターなら上手く扱えると思いますよ」
エンルも賛成。
うん、やはり予想通り賛成三人一致した。
「じゃあ、ありがたく頂くよ」
「オッケー、コレだ」
ミルートからアルトレーネ型を手渡される。
「あ、瞳の色はどうする? 今は一応赤なんだけど」
「このままでいいよ」
「ならサービスだ、コレも付けよう」
渡されたのは、アルトレーネ型仕様の大剣:ジークリンデだった。
「今ダブってるのがそれしかなくてね、他の武装は自分で集めてくれ」
「分かった、それじゃあまた」
「うん、また次が出来たら連絡するよ。アルトレーネをよろしくね」
「コレで……よし、と」
帰宅後、クリーニングへ向かった三人を待つ間にアルトレーネ型のセットアップの準備を整えていた。
さすがに四人目となれば慣れたもの、すぐにでも起動出来るけど、三人と一緒にすると約束していた。
それと、起動の時に決めなくてはいけないものがある。
「名前、どうしようかな」
神姫は起動した時にマスターの名前と自身の名前を最初に登録する。今まではその時の状況とかで付けたけど、今回はそういうのが無い。悩みどころだ。
「うーん……」
辺りを見回してみる。何か有ればそこから考えよう。
最初に目が行ったのは、起動待ちのアルトレーネ。でも彼女の名前を付けるのだから他のものにしないと。
次に目が行ったのは、机の上に置かれた三冊の本。一冊は教科書で一冊はノート、もう一冊は武装のカタログだ。武装の名前や教科書の中から付けるのは、ナシだな。きっと三人にも否定される。
再び目を巡らすと、
「あ……」
ある物のところで止まった。
それは小さなコルク瓶。中には火のように紅い粉が3分の1くらいまで入っている。
「……粉」
コルク瓶を持ち、斜めに傾ける。中の粉が重力に従ってさらさらと流れ、瓶の中に斜面を作った。
「……」
再び、アルトレーネ型を見る。
腰まで届くほどに長い青い髪、今は閉じているが瞳はこの粉のように赤いらしい。
そして、人の身体を模したように肌色の上に白と青を基調としたペイントの施されたボディ。その多くは、白色で……
「……」
一つ、思い付いた。
「……でも、少し安易かな」
けどわりと誰でも思いつきそうで、ひょっとしたらフブキ型やアルトレーネ型に同じ名前をつけてる人がいるかもしれない。
三人に言えば、エンルとルミアは賛成してくれるだろうけど、スレイニには今考えてたような事そのまま言われそうだな。
「……まぁ、出会ったら出会ったで、その人とは仲良く出来そうだね」
同じセンス、というより、なぜその名前にしたのか、ということで盛り上がれそうだ。
オレみたいな決め方は、絶対あり得ないだろうけど。
「……」
そっと、押し入れにコルク瓶を向け、瓶越しに押し入れ、その中にあるものを見透かす。実際は見えてないけど、そういう気持ちで。
「……また少し、賑やかになるよ」
そっと、コルク瓶に、その中に、あるいはその先に、あるいはその中に、その先の中に、語りかけた。
うん、やっぱり名前はコレで行こう。
決まった時、スレイニ達が戻ってきた。オレはコルク瓶を机に置いて三人を机の上へ運んだ。
「じゃあ始めるよ……それとね、彼女なんだけど…」
三人が見守る中、起動を開始させた新たな家族の名前を、三人に伝えてみた。
説明 | ||
題名の言葉は、名前の由来「なゆら」と呼んでください。 今回で10話、一応の一区切りを迎えることが出来ました。 |
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