真・恋姫†無双 異伝 「伏龍は再び天高く舞う」外史編ノ二十八
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 時は少し遡り、洛陽にて。

 

 董卓は一人の女性と話していた。実を言えばその人こそ後漢王朝『第十三代』

 

 皇帝である劉協である。

 

「わかりました。私としても戦いが長引くのは本意ではありません。私が

 

 出る事によって終わらせられるのであれば、喜んで行きましょう」

 

「ありがとうございます、皇帝陛下」

 

 劉協のその言葉に董卓は礼を述べる。

 

「礼などいいのです、私の友である月の頼みでもあるわけですしね」

 

「陛下…」

 

「ならば、今すぐにでも…ゴホッ、ゴホッ!!」

 

 劉協は立ち上がろうとした瞬間、激しく咳き込みその場にうずくまる。

 

「陛下!…それは」

 

 駆け寄った董卓は床に飛び散る赤い物を見て驚愕する。それは間違いなく

 

 劉協の口より吐き出された血であったからだ。

 

「今まで隠していてごめんなさい。でも大丈夫、大した事はありません」

 

 素早く侍女が駆け寄り床の血を拭き取る。その手際の良さから見てもこの

 

 ような状況は一度や二度ではなかったのは明白であった。

 

「大した事は無いって…」

 

「人はいずれ死ぬのです。遅いか早いかの違いだけです。そして私は他の人

 

 よりそれが少々早いだけの事です」

 

「そんな…お医者様は何と…?」

 

「余命半年。あの華佗に言われましたので間違いはないかと」

 

 その驚くべき告白に董卓は衝撃を受ける。

 

「これも先祖が行ってきた事のツケなのでしょう。世祖光武帝がこの洛陽の

 

 地に漢王朝を再建してからおよそ二百年…その偉業を引き継ぐはずの歴代

 

 皇帝のほとんどが民の嘆きも省みず、自らの欲望と怠惰に身を任せ再び漢

 

 を腐らせてきたのです。私がこのような身体になったのもそれに対する罰

 

 なのでしょう。だから私はこれを受け入れてます。しかしこんな私にでも

 

 出来る事があるのなら、命ある限りそれを遂行するのが皇帝たる私の…私

 

 の……グッ、ゴホッ!!ゴホッ!!ガハッ!!!」

 

 劉協は再び大量の血を吐いてその場に昏倒する。

 

「陛下、陛下!しっかりしてください!!誰か、誰かいませんか、陛下を!!」

 

 董卓のその声を聞いて駆けつけた人達によって劉協は寝室に運ばれる。

 

 その後、劉協自身の強い意志もあり水関へ行く事は決まったものの、体調の

 

 回復に数日を要する事となったのである。

 

 

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 そして場面は水関へ。

 

「何とか間に合ったようですね。でも多くの人の命が失われてしまった…私がもう

 

 少し早くここに来る事が出来ればこんな事には…」

 

「何を仰るのです、そのような事は…」

 

 劉協の洩らした自嘲に董卓は慰めの言葉をかけようとするが、

 

「そのような慰めは不要。それより相国よ、あの場にいる者達をここへ集めるように」

 

「はっ、鳳統さん…でしたね。辺りに響き渡るように銅鑼を大きく叩いてください」

 

「ひゃ、ひゃい!!」

 

 董卓は近くで畏まっていた雛里に命じる。雛里はそれを兵士に伝えながらも頭の

 

 中は混乱しまくっていた。

 

(ううっ…董卓様はともかくまさか皇帝陛下までここに来るなんて…そんなの聞いて

 

 なかったよ、ご主人様、朱里ちゃん、早く帰ってきて…ぐすっ)

 

 ・・・・・・・・・・・・・

 

 水関に翻った皇帝の旗印にその場のほとんどの人間が困惑する中、大きく銅鑼の

 

 音が響いた。続けてその見た目からは感じられない位に大きな声で董卓が呼びかける。

 

「皆の者、私が相国である董卓です!!この場にいる全ての人に申し上げます!!ただ今

 

 ここ水関に皇帝陛下が御成りになっておられます!!陛下はこの度の戦いに心を痛め

 

 ておられ、自らの名を以て停戦の勅を発せられました!!この場にいる全ての者達よ、

 

 皇帝陛下への忠節を持ってこの場に来ているのであれば、即座に矛を収めて停戦せよ!!」

 

 董卓のその言葉にそれまで戦っていたそれぞれの軍が武器を収めて戦いをやめる。

 

「ありがとうございます。それでは各諸侯の方達は水関の中へおいでください。皇帝

 

 陛下が直接お話を伺うとの事です」

 

 

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 そして水関の中に入った俺達は陛下の御出座までの間、孫策さん達と話をしていた。

 

 というのも、一応その場にいた諸侯は全員来ているのだが、先程まで戦っていた者なので

 

 何となく仲間内で集まってしまうのは当然といえば当然なわけで…。

 

 結局、馬騰・孫策そして俺達北郷軍の面々、袁紹・曹操・劉備といった反董卓連合

 

 の参加して主に戦った者達、連合に参加しながら日和見を決め込んだ他の連中の三つに

 

 分かれている状況になっていたのである。

 

(董卓軍の面々は皇帝陛下の警備にあたっている為、ここにはいない)

 

 

「それじゃ、華雄さんと戦った文醜さんは董卓軍の捕虜で、馬超さんと戦った顔良さんは

 

 馬騰軍の捕虜になってるんだ」

 

「ああ、そういう事だ。お前の所だって曹操軍の許楮を捕まえてるんだろ?」

 

「ぶう、いいなぁ。私の所なんか結局誰一人捕まえる事も討ち取る事も出来なかったし…」

 

 俺は馬騰さんや孫策さんと手柄話のような事をしていた。

 

 そんな風に明るく話せるのは勝った側にいるという意識があるからだろう。

 

 

「それじゃ関羽は結局見つかっていないのね?」

 

「……はい、今も捜してもらってはいるのですが」

 

 曹操と劉備は行方不明の関羽の話をしていた。

 

「二人とも、これから私達がどうなるかわからない時によく生きてるかどうかもわから

 

 ない人の心配なんて出来ますわね」

 

 袁紹はそんな二人を冷ややかに見ていた。

 

「ふん、元々あなたがつまらない嫉妬にかられて檄文なんか発するからでしょう。むしろ

 

 私達は被害者よ。だからあんたが一人で責任取ってくれる?」

 

「何ですってーーーーー!!」

 

 ここの集まりは覚悟はしているものの、自分自身がどうなるかわからないという苛立ちに

 

 包まれていた。その為か行方不明になっている公孫賛の事を気遣う言葉も出なかったので

 

 あった。

 

 

「私は最初から怪しいと思っていたんだ」

 

「そうそう、如何に袁家とはいえ今は政から遠く離れた身だったはず。南皮にいては洛陽の

 

 現実などわからなかったのでしょうな」

 

「まあ、我らはすぐにそれに気づいた故、袁紹に手を貸さずにいたのだがな」

 

「そうじゃな、どうせ戦った連中が責任を取って処刑されて終わりじゃろう」

 

「そうそう、我らは『これからも変わらず皇帝陛下に忠勤を励め』とお言葉を受けるだけ

 

 でしょうしな」

 

 そう言って笑っているのは、連合に参加しながら日和見を決め込んだ他の諸侯達であった。

 

 何時の世もこんな連中が存在するのは変わらないようである。

 

 

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「お待たせいたしました」

 

 そう言って入ってきたのは董卓さんであった。

 

 董卓さんは入ってくるとすぐに俺達がいる所へ来る。

 

「葵様、孫策さん、この度はお力添えありがとうございました。それと北郷さん、

 

 こうやってお話するのは初めてですね。今回の事はあなたの力無くして成功は

 

 ありえませんでした。私の力が足りないばかりにご迷惑をおかけしまして申し訳

 

 ありませんでした」

 

 そう言って董卓さんは俺に頭を下げる。

 

 それを見ていた連合に与した諸侯(日和見連中)は皆騒然となる。

 

「何と…相国の地位にある者があのように低姿勢に。人柄がわかるというもの」

 

「それよりもあの可憐さじゃ、我々もあのお姿を知っておれば袁紹のたわ言などに

 

 惑わされなかったものを」

 

「ああ、確かに暴君の面影など欠片も無い…まるで天女が舞い降りたが如きだ」

 

 そう口々に囃し立てていた。

 

 一方、袁紹達はというと、

 

「麗羽、どこが傍若無人・悪逆非道の暴君よ。あれじゃむしろ逆じゃない」

 

「はあ…やっぱり噂なんて当てにならないんですね」

 

「……………ふん!!」

 

 曹操と劉備はため息をつき、袁紹は拗ねていた。

 

 

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 そして董卓さんは上段へ上がり皆に告げる。

 

「今より皇帝陛下の御成りです。皆、粗相の無きように願います」

 

 凛としたその声はまさしく相国の名に相応しい程の威厳に満ち溢れていた。

 

 そして奥より皇帝陛下が姿を見せ、静かに玉座に座る。

 

 初めて見るそのお姿はどこか不思議というか現実から遠く離れた所から来たような

 

 雰囲気を醸し出していた…別の世界から来た俺が言う台詞でもないが。

 

「皆の者、私の力が足りないばかりにこのような戦をさせてしまった事、申し訳なく思って

 

 います。まずはこの戦いで散っていった数多の将兵の御霊に対し黙祷を捧げます」

 

 陛下のその言葉よりしばらくの間、その場に沈黙が訪れる。

 

「それでは、此度の戦に対する詮議を始めます。まずは袁紹、あなたは私が信任していた

 

 董相国が暴虐の限りを尽くした政で洛陽の民を苦しめているという嘘を並べ立てて檄文

 

 を発し、いたずらに諸侯を無用の戦へと誘った。どのような存念があってそのような

 

 暴挙に出たのですか?まさか自分自身が相国になりたかったとかいう理由ではありません

 

 よね?」

 

 陛下からの詰問に袁紹の目が泳ぐ。何故なら当たらずとも遠からずな理由であったからだ。

 

「ええっと、あの、その、それは…私も遠く南皮にいますと洛陽の様子が詳しく伝わらず、

 

 何進大将軍や十常侍の方々の非業の死を聞き、その後に董卓殿が相国になられた話を聞くに

 

 及び、董卓殿がそこまでに至る混乱の黒幕と思い込んでしまい…もしそれで陛下が心を痛ま

 

 れる事になるのであれば、袁家の棟梁として何が何でも憂いを払拭せねばならぬと…」

 

 どうせ言い訳しか出ないとは思ったが、ここまでの言い訳になると…聞いてて何かムカつい

 

 てくる。横にいる馬騰さんは今にも斬り殺しにいきそうな位の殺気が洩れ出ている。

 

 

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「そうであるか。それでは曹操、そなたは何故袁紹に与したのだ。そなたの父である曹嵩は

 

 長く我が父にも仕えており、そなた自身の領地も袁紹よりも洛陽に近く、より状況を知る

 

 事の出来る立場にあったのではなかったのか?」

 

 曹操は陛下の詰問にしばし黙した後、口を開く。

 

「確かに私は袁紹より洛陽の状況を知る立場にありました。元々袁紹とも知己であり、本来で

 

 あれば諌める立場にあった事も事実です。しかし私は少々手法は乱暴であるものの、連合に

 

 参加する事がこの国の為と信じて、袁紹の檄文に応えた次第にございます」

 

 曹操のその答えにその場にいる全員が驚く。どこをどうしたら袁紹に味方する事がこの国の

 

 為になるのか誰にもわからないからだ。

 

「曹操、それはどういう事じゃ?袁紹に味方し、相国を討伐せんとした事で無用の犠牲が出た

 

 ではないか。それのどこがこの国の為なのであるか?」

 

 陛下のその質問に対する曹操の答えは、

 

「はい、確かに戦自体は無用のものだったかもしれません。しかし黄巾の乱、いや、その前より

 

 中央の方々は各地方をを治める者達に対して何一つ目を向けてこられませんでした。こちら

 

 から意見を具申すれば門前払いにされ、たまに中央から人が来れば、何も見ずに賄賂のみを

 

 要求するばかり、そしてそれを断ろうものならある事ない事報告されて弁解の余地もないまま

 

 処刑される。この国はそんな事を繰り返した結果、多くの有為の人材を葬り、無用の豚ども

 

 ばかり肥え太らせてきたのです。この度の事とて、董卓殿が混乱を収めた事は確かなのでしょう

 

 が、その後で各諸侯へ何の相談も無く董卓殿を相国の地位へお就けになられました。それでは

 

 これから先も何も変わらない、また中央のみで勝手に物事が決められ地方に住む者達はまた置き

 

 去りにされる、そう思っていた矢先に袁紹よりの檄を受け、陛下を始め中央の方々に我ら諸侯の

 

 気持ちを知ってもらいたいとの思いから今回の決起に参加した次第であったのです。

 

 しかし結果、我々は敗軍の将そして朝敵の立場になってしまいました。ですがそれはもはや

 

 覚悟の上でございます。如何様な処罰も甘んじて受ける所存でございます」

 

 …まあ、よくもここまで自分の行動を正当化する方便が出てくるものだと感心しきりだった。

 

 周りには感動すらしてる人もいる位だ。

 

 さすがに陛下もこの答えは予想外だったらしく、少し考え込んでしまっていた。

 

 

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「わかった、確かに曹操の言葉にも一理あるのかもしれないな。その言葉は私も心の中に留めておく

 

 事にしよう。では次、劉備…と申したな、確か平原の相と聞いたが。何故そなたは此度の袁紹の

 

 檄に呼応したのだ?」

 

 陛下の問いに劉備の出した答えは…。

 

「ごめんなさい!私は袁紹さんの檄と噂だけで董卓さんが洛陽の人達を苦しめているって思い込んで

 

 しまったんです。私は民が笑って暮らせる国を造りたいって思ってここまで来たんです。だから

 

 洛陽の人達が苦しんでいるならそれを助けてあげなきゃって…でも、董卓さん達と戦って、そして

 

 今日初めて董卓さんに会って、自分の視野が如何に狭かったのか思い知らされました。私は覚悟が

 

 出来てます。だけど私達についてきてくれた兵士さん達の罪は問わないでください。そして無事に

 

 故郷に帰れるようにしてほしいんです。よろしくお願いします!!」

 

 劉備はそう言って深々と頭を下げる。

 

 正直、ここまで素直に謝る人も珍しい。こういう時代だとこういう人が大体馬鹿を見る結果になる

 

 のだが、彼女にとってはそれ自体が些末な事みたいだ。

 

 この対応は陛下も曹操の時とは違った意味で予想外らしく、戸惑った顔をしていた。

 

 

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「そうか。劉備よ、そなたの願いについては考えておく。それでは…」

 

 そして陛下は日和見した連中にも聞いていたが、正直…何だ、こいつら?と思うような回答の

 

 連続であった。いろいろ言ってはいたが基本的には『袁紹に騙されただけで途中で気がついた

 

 ので袁紹達とは距離を置きました、だから私達に責任は無い』といった内容だった。

 

 そいつらの話が続くと共に馬騰さんだけでなく孫策さんの殺気も増してきていて正直言って

 

 居心地が悪すぎる。いっその事こんな日和見連中まとめて斬れたら良いのだろうが、裁きを下す

 

 のはあくまでも陛下であるので、ここは自重しなくてはならない。二人もそれがわかっている

 

 からじっとしているのだろう。

 

「もう良い、そなた達の言っている事はよくわかった。それではこれにて詮議を終わる」

 

 日和見連中の対応に疲れたのか、陛下はそれだけ言うと奥へ下がる。

 

「一刻の後に陛下よりの裁きの結果をお知らせします。それまでしばしそのままに…」

 

 董卓さんはそう言い残すと少し慌てた様子で奥へと走っていった。

 

「どういう事だ?このような詮議など形だけで、すぐさま陛下よりのお裁きが下ると思った

 

 のだが…」

 

 馬騰さんは首をひねる。

 

「確かにちょっとおかしいわね。そんなに長いこと詮議を行っていたわけではないし、変に

 

 間なんか開けたら逃亡するような輩も出かねないのに…」

 

 孫策さんはそう言って日和見連中の方へ目を向ける。それに何人かの目が泳ぐ。どうやら心の

 

 どこかでそんな事を考えていた者もいたようだ。

 

 

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 その頃、奥の部屋では…。

 

「ゴホッ!!ゴホッ!!グッ…ガハッ!!」

 

 劉協は再び大量に吐血をしていた。

 

「陛下!?やっぱりそのお体でここまで来た無理がたたったのでは…申し訳ありません、陛下の

 

 お体の事を考えずに私がこのような事をお願いしたばかりに…」

 

 駆けつけて来た董卓は劉協にそう謝るが、

 

「…はあっ、はあっ、はぁ…いえ、月のせいではないわ。私の体の事も、ここに来たのも全て私が

 

 責任を持つべき事。私は皇帝なのですから、出来る事は最後まで責任を持って行います」

 

 劉協は毅然とそう答える。

 

「さあ、それよりもすぐ戻りましょう。私がいきなり席を外したから、皆も訝しく思っている事

 

 でしょうしね」

 

「でもそのお具合では…私が陛下のお言葉を伝えますので少しお休みを」

 

 董卓は劉協の身体を気遣い、そう提案したが劉協はすぐさま首を横に振り答える。

 

「ありがとう、月。あなたがそう言ってくれるのはうれしいけれど、ここまで出て来た以上ここは

 

 私が直接皆に言わなければ何の意味もないわ。この無意味な戦いを終わらせて新たな国造りを

 

 行う為にもね」

 

 それだけ言うと劉協は先程大量に血を吐いたとは思えないほど力強い足取りで歩き出す。

 

「陛下…」

 

 その背中を見つめる董卓の目には涙が滲んでいたが、董卓は袖でそれを拭ってすぐに後を追いか

 

 けたのであった。

 

 

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「お待たせしました。それでは今より陛下より此度の戦の処罰が申し渡されます」

 

 しばらくして再び陛下と董卓さんが戻って来て、董卓さんからそう告げられる。

 

「それでは、申し渡します。此度、相国の討伐の檄を発した袁紹及びそれに与した者達全てに対し、

 

 その領土を召し上げ、官職の剥奪を命じます。尚、これは檄に応えながらも直接戦闘に参加しな

 

 かった者達も含まれます。反論は認めません」

 

 陛下のその言葉にその場の者達、特に日和見連中は騒然となった。

 

「そんな馬鹿な!我々は袁紹を見限り戦闘に参加しなかったのですぞ!」

 

「どうかご再考を!!陛下はみすみす忠臣を手放されるご所存か!!」

 

 日和見連中は一斉に陛下ににじり寄って哀願する。…しかしあんな態度で『忠臣』などとよく

 

 言えたもんだが。

 

「黙りなさい。あなた方は袁紹を見限ったと言いましたが、ならば何故相国の助けをせずに傍観

 

 していたのですか?あなた方はただ勝ち馬に乗ろうとしただけではないのですか?」

 

「そ…それは、しかし」

 

「反論は認めない、今私はそう言いました。それに逆らおうというのであれば、それは皇帝たる

 

 私に対する反逆であるという事になります」

 

 陛下がそう言うと日和見連中は皆黙ってしまう。しかしその時、曹操が口を開く。

 

 

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「恐れながら陛下。今陛下は袁紹の檄に与した者全てに対して処罰を命じられました。という

 

 事はそこにいる孫策も処罰の対象になるという事になりますが」

 

「なっ!?…それはどういう意味よ、曹操」

 

 曹操より名指しで指摘された孫策さんは殺気のこもった目で曹操を睨みつける。

 

「だってあなたは最初連合にいたでしょ?後になってから董卓側に寝返ったからそっちにいる

 

 だけで、それこそ今陛下の仰った『勝ち馬に乗る』という事になるんじゃないかしら?」

 

 曹操の言っている事は屁理屈に近いものがあるが、一理ある事も確かなのでその場の誰も明確

 

 に反論する事が出来ない。そして日和見連中からは『そうじゃ、我々が罪に問われるなら孫策

 

 とて同罪じゃ』『孫策の領土がそのままならば、我々とて無罪になって当然だ』など、とても

 

 自分勝手な同調意見が続出していた。

 

「孫策は無ざ『いえ、曹操の言うとおりかもしれません』…孫策?」

 

 陛下が無罪と言いかけた瞬間、孫策さんがそれを遮る形で口を開く。

 

「なっ!?雪蓮、どういう事だ!別に我々が責任を負う事など何も無いのだ。曹操の屁理屈に

 

 付き合う必要は無い!」

 

 後ろに控えていた周瑜さんが口を挟んでくる。

 

「どういう事です?確かに孫策さんは最初連合にいましたが、それは作戦上の事。罪に問うべき

 

 話ではありません」

 

 董卓さんもそう言い添えるが、

 

「例えそうだとしても、最初は連合にいた事は事実。その責任は取らなくてはなりません」

 

 孫策さんは神妙な顔でそう答える。しかし…どうもおかしい、何か企んでる目をしてるように

 

 見える。周瑜さんもその様子に気付いて訝しげにしていたが、何かに思い当たったのか慌てた

 

 様子で止めさせようとする。

 

「待て、雪蓮!お前まさか蓮ふ『しかし!!』」

 

 周瑜さんが何か言うのを遮って孫策さんは言い始める。

 

「妹である孫権は最初より北郷殿と行動を共にして連合と戦っておりました。ですから、私は

 

 責任を取って隠居しますので、孫家と領土は妹が引き継ぐ事を陛下にお許し願いたくお願い

 

 申し上げます」

 

 孫策さんはそこまで言って曹操に向かってドヤ顔をして見せる。

 

 それを見た曹操は完全に苦虫を噛み潰したような顔になっていた。

 

 

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「今の孫策の願いについて董卓はどう思いますか?」

 

 陛下も突然の話の展開に少々戸惑いながら董卓さんに意見を求める。

 

「そ、それは…」

 

 董卓さんもうまく答えられなくて少々困っている感じだ。

 

 しかしこの場で一番戸惑っていたのは周瑜さんだった。

 

「雪蓮、またお前は勝手な事を言って…ゴホッ、ゴホッ!」

 

「どうしました、周瑜さん?お風邪ですか?」

 

 隣にいた朱里が心配そうに尋ねるが、

 

「いや、心配ない。それよりも『…でもこの件については孫策さんの言うとおりにした方がいい

 

 かもしれません』…どういう事だ、諸葛亮?そもそもこれは我ら孫呉の問題だ。余計な口出し

 

 は無用に願いたい」

 

「しかし元々は陛下の裁定に対する曹操さんの反論から始まった話です。それを孫策さんは自分

 

 自身が隠居する事で責任を取り、そのまま孫権さんに引き継がせる事によって孫呉全体にとって

 

 はそれほど痛みが出ないようにしたのです。実際、孫策さんは先代になるだけで呉にとって重要

 

 な位置に居続ける事は事実です。しかも、孫策さんがそうやって責任を取る以上、連合に与した

 

 他の人達も陛下の裁定に従わざるを得ません。それが分かってるからこそ、曹操さんもあのよう

 

 な苦々しい顔をしているのです」

 

 朱里の言葉に周瑜さんもハッとした表情になる。そして孫策さんが周瑜さんにウインクをすると

 

 全てを理解した表情になった。

 

「我ら孫呉の臣一同は先代孫策の意志を継ぎ、新たな棟梁たる孫権様の為に尽くす所存です」

 

 周瑜さんの言葉を聞いた董卓さんも全てを理解したらしく、

 

「陛下、ここは孫策殿の願いを聞き入れるべきかと」

 

 陛下にそう告げる。

 

「分かりました、それでは孫策、そなたは一時期とはいえ連合に与せし故にここに我が名を以て

 

 正式に隠居を申し渡す。尚、その官職及び領土は孫権に改めて与えるものとする」

 

 そこまでのやり取りで陛下も得心のいった表情で裁定を下した。

 

 その結果、連合に与した全ての諸侯は陛下の裁定通りに領土と官職を剥奪され、一平民へと身を

 

 落とす事になったのである。

 

 

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 ちなみに孫策さんと陛下により突然跡継ぎに任命された孫権さんはというと、

 

「え、えええええええええっ!?そ、そんな、いきなりそんな事言われても…ねえ、ちょっと、姉様!

 

 冥琳も!!私はどうすればいいのよーーーー!?」

 

 一人混乱していたのであったが、周瑜さん始め孫呉の皆に半ば無理やりに引っ張られていった。

 

 そんな孫権さんを見て、孫策さんは一人ほくそ笑んでいた。

 

「よし!これで面倒臭い仕事は全部蓮華がこれからやってくれるし、私は安心して朝からお酒が飲める

 

 ってものね」

 

 そんな孫策さんの顔を見て周瑜さんの眉間に凄まじいほどの皺がよっていたのは言うまでもない事で

 

 あったりするのである。

 

 

 

 

 

 

                                    続く(つもりです)

 

 

 

 

 

 

 

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 あとがき的なもの

 

 mokiti1976-2010です。

 

 今回は満を持して(?)皇帝陛下の登場です。いろいろと抱えてますが…。

 

 ちなみに劉協なのに『第十三代』というのはわざとです。一応伏線みたいな

 

 感じです。

 

 そして皇帝陛下の裁定により連合に与した者への処罰が一応決定しました。

 

 でも、このまま追い出すわけでもないとだけ言っておきます。

 

 次回は処罰を下した者達のその後やこれからの流れに関わる話などをお送り

 

 して一応外史編の終了とさせていただく予定です。

 

 

 それでは次回外史編ノ二十九(終)でお会いいたしましょう。

 

 

 

 

 追伸 次回で(終)としますが別に連載を終わるわけではありません。詳しくは次回の

 

    あとがきにて。

 

 

 

説明

お待たせしました!

 今回は皇帝陛下の登場で戦いは一気に

 終局へと…。

 そして連合側に与した方々の言い訳なども

 お送りする予定です。

 それではご覧ください。
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コメント
PON様、ありがとうございます。有能な怠け者…確かに。だからこそ冥琳さんの苦労も絶えないわけです。(mokiti1976-2010)
この後どうなるのか…雪蓮はアレだ、有能な怠け者だな。自分が楽するための手間は惜しまないというwなるほど、董卓に勝たせて月や一刀がトップになるためにはこうやって穏便に退場してもらうしかないわな(PON)
殴って退場様、ありがとうございます。雪蓮姐さんは自分が楽する事を実現する為には骨身を惜しまないのです。そして陛下は残った命で残すのは…お楽しみに。(mokiti1976-2010)
雪蓮はこういう悪知恵に掛けては軍師並の能力は持っているなwww。そして劉協は最期に何を残していくのだろうか…(殴って退場)
yoshiyuki様、ありがとうございます。雪蓮さんは確かに投げ出す為に華琳さんの言葉を利用しましたね。そして華琳さんの言い訳はまさしく仰る通りの事を尤もらしい言葉で言い立てただけです。(mokiti1976-2010)
雪蓮は逃げ出した(投げ出した)・・・だが回り込まれてしまった。曹操さんの言い訳は、「間違っているのは世の中(他人)で、自分は(正しいのに)間違えたように見えるだけ」と云ってるように思えますが?(yoshiyuki)
ataroreo78様、ありがとうございます。陛下の余命が尽きた後の事については続きをお楽しみに。ちなみに袁紹はこのまま解放はしませんので。あと…白蓮さんは……………(このままフェードアウト)。(mokiti1976-2010)
神木ヒカリ様、ありがとうございます。本来なら全員死罪でもおかしくはないですしね。(mokiti1976-2010)
オレンジペペ様、ありがとうございます。連合の方々には多少懐柔的な事をする予定です。陛下は早死にする事がわかっているからこその生き方です。そして雪蓮さんは…どこまでもフリーダムです。(mokiti1976-2010)
村主7様、ありがとうございます。そう、陛下は余命いくばくもないのが…なので当然このまま平穏な世にはなりません。(mokiti1976-2010)
皇帝陛下の余命は半年、後継がいないなら半年後は漢王朝滅亡は確定か。その後に待ち受けるのは乱世かそれとも?そして13代皇帝が意味するものとは?ところで袁紹は首謀者なのに思ったより処分軽いですね。一番不幸なのは、登場の機会を奪われ、申し開きの機会も与えられず、文字通り全てを失った白蓮さんですね・・・強くイキロ!(ataroreo78)
これぐらいの処罰は当然ですね。行方不明者も含め次回以降が気になります。(神木ヒカリ)
(続き そして今回沙汰を言い渡られた連中、日和見はともかく(?)主要メンバーがこのまま燻る訳も無く<その後やこれからの流れ 騒乱の渦は加速的に混沌を生み出していく予感しか・・・(村主7)
思っていたよりは良識人だったんでほっとしたものの余命が<劉協さん 下手したら諸侯から賄賂貰う等で「連合参加者無罪 そこの相国とやらをさっさと捕まえなさ〜いw」とか言い出す暗愚だったら・・・と一抹の不安があったりで(村主7)
ハーデス様、ありがとうございます。実は蓮華への継承は華琳の言いがかりを逆手に取った雪蓮の思いつきだったりします。そして皇帝陛下の余命が短い事がこれからの話の鍵だったり…。(mokiti1976-2010)
なんか早いっすね、蓮華が王位を継ぐの。そして劉協が余命半年とは…。基本恋姫の原作では皇帝に関しては「霊帝崩脚」ぐらいしか触れてないからこの辺は完全にオリジナルの設定になってしまうんでしょうが…。冥琳もなんかフラグ立てちゃうし。華琳の軍といい、桃香といい本当に展開が読めませんね。(~д~*)(ハーデス)
氷屋様、ありがとうございます。「冥琳に任せた」という一言で全てを終わらそうとするのが雪蓮姐さんクオリティー。とはいえ、軍事方面ではまだまだ先頭に立ってもらいますけどね。(mokiti1976-2010)
真一様、ありがとうございます。白蓮さんについては…知らないうちに一刀の城で門番とかしてたりとか、もしくは何かとんでもない展開が待ってたりとか…いろいろ検討中です。(mokiti1976-2010)
ichiro588様、ありがとうございます。姜維が勢力をというよりはそれを利用しようとする人がいるとかいないとか…。そして桃香を救うのは…さて。(mokiti1976-2010)
システマ様、ありがとうございます。最初から読んでいただきありがとうございます。…次の展開は私自身も読めてないです(マテ(mokiti1976-2010)
隠居といっても引継ぎやらなんだで当面のんびりなんて周瑜がさせないでしょうwww(氷屋)
白蓮・゜・(ノД`)・゜・ もう一刀拾ってやってくれ???(真一)
劉備に代わって姜維が勢力起ち上げそうだな。その時は桃香に救いを・・・(ichiro588)
一話から見てきました。次の展開が読めなくてハラハラします。次回も楽しみにしてます(システマ)
一丸様、ありがとうございます。反撃というか懐柔というのか…いろいろあります予定です。そして劉協様は……しくしく。(mokiti1976-2010)
act様、ありがとうございます。さすがに曹操をこのままにはしません。劉備は…さてさて。(mokiti1976-2010)
きまお様、ありがとうございます。美尻さんはこれからきっと頑張って仕事に励むはずです。そして影の薄い人は…ふう、今日もお茶が美味しい(現実逃避)。(mokiti1976-2010)
さてはて、領土を取られた面々は、この先どうやって反撃してくるのやら、そして、劉協様をどのように華を持たせて散らすのかが腕の見せ所ですねwwまさか、華佗でも直せなかったものを直せるはずが・・・・・現代の知識?・・・・続き楽しみに待ってます。(一丸)
劉備やら曹操の処遇後が気になりますね。次回を楽しみにしています。(act)
諸侯に裁きがある上にオチがついたw美尻さんがんばれ。そして話題に上る事すらなかった影の薄い人もっとがんばれ!w(きまお)
hisuin様、ありがとうございます。冥琳さんのその辺りも次回お送りする予定です。そして華琳さんの処遇に関しても次回で。(mokiti1976-2010)
皇帝はもう助かりそうにないが周瑜は、まだ間に合いそうだよね?華佗に早く見せるんだ!!それにしても曹操あるぇ〜?だなw流石に状況が悪いわー。(hisuin)
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朱里 真・恋姫†無双 

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