IS -インフィニット・ストラトス- 〜恋夢交響曲〜 第二十九話 |
「海っ! みえたあっ!」
トンネルを抜けたバスの中でクラスの女子が歓声を上げる。
臨海学校初日は天候にも恵まれ、海も穏やか、絶好の海水浴日和だ。
「海かぁ・・・。さすがにこの歳にもなってとか思ってたけど、やっぱりわくわくするな」
「ふふっ、そうだねぇ」
隣の窓際の席にはシャルロットが座っている。しかし、映像と違って生で見るオーシャンビューはとても素晴らしい眺めだ。
「綺麗だな・・・」
「えっ!? そ、そんな奏羅ったらいきなり・・・」
「いきなりって、さっきから見えてるじゃないか、海」
「あ・・・、ああ、そうだよね。綺麗だよね、海」
シャルロットも窓から海を眺める。シャルロットも海を見てテンションが上がってるのか、外を眺めながらはぁ・・・と、ため息を吐いていた。
(いきなり言われるからびっくりしたけど、僕じゃなくて僕の向こうに広がってる海だったのかぁ・・・。でも――)
「・・・えへへへへ」
「ん? どうしたシャルロット?」
「へっ!? あー、えっと、思い出し笑いだよ」
思い出し笑いを他人に見られたのが恥ずかしかったのか、シャルロットは話題を変え始めた。
「そ、そういえば、ほら。デパートで一緒だったつかさって子、あれ名前なの? せっかく仲良くなったのに、僕フルネーム知らないから」
「あ〜、えーっとだな、つかさってのはあだ名なんだけど・・・」
「あれ、あだ名だったの? てっきり名前だと思ってたよ。奏羅がつけたの?」
「まあ、な」
アイドルである旭の名前を人前で呼ばないためにつけたあだ名だけどな。と心のなかで補足しておく。
「で、本名は?」
「ああ、あいつ曰く、『本名は語らない、その方が謎があってカッコイイ』だそうだ。だから言わない」
「な、何その理由・・・」
「知らないよ。あいつに聞いてくれ」
ちなみに先程の迷言は、旭が本名を聞かれたときに答えてくれと言っていた言葉だ。これを言っておけば通用するとか言っていたが、正直混乱を招くだけだと思う。
「あ、あのさ、僕にもあだ名つけてよ」
今の話を聞いてあだ名が羨ましくなったのか、期待を込めたまなざしでこっちを見てくるシャルロット。
「いいけど、センス無いぞ」
「うん、大丈夫だよ。せっかく奏羅が付けてくれるんだし、あまりにもひどくないと文句は言わないよ」
「そうか? じゃあ・・・」
シャルロットかぁ・・・。あだ名なんだからとりあえず縮めて呼びやすい呼び方だと・・・。
「シャル、でどうかな?」
「シャル・・・。うん、とってもいいよ! ありがと奏羅!」
「そ、そこまで喜んでくれるとつけたかいがあるってもんだな・・・」
あだ名をつけてもらったのがよっぽど嬉しかったのか、シャルは「シャル・・・。シャルかぁ・・・」とニコニコしながらつぶやいていた。
「まったく、シャルロットさんたら朝からえらくご機嫌ですわね」
通路を挟んだ向こう側、セシリアはシャルとは正反対の顔で言ってくる。
「うん。そうだね。ごめんね。えへへ・・・」
セシリアの嫌味とも取れる言葉を物ともせずにシャルロットは笑顔で返す。たしかに、物凄くテンションが高いな。
「あー、もう! 奏羅さん、私のもあだ名をつけてください!」
「せっしー」
「・・・はい?」
「前に布仏さんがあだ名付けてくれてたじゃないか。せっしーって」
「・・・やっぱり遠慮しておきます。奏羅さんにまでそのあだ名で呼ばれたくはないのですので」
「そうか?」
せっしー、俺はいいと思うんだけどなぁ・・・。少なくとも俺のあだ名のまかせーよりはそれっぽいし。
「・・・・・・」
それにしても、不思議なのはセシリアの横でおとなしくしているラウラだった。時折挙動不審になって周囲をキョロキョロ見渡している。
「ラウラ、大丈夫か? 昨日俺達と合流してからずっとそんな感じだけど、どうかしたのか?」
「・・・・・・」
シカトされてしまった。普段ならすぐ返事をするんだが、やっぱりどこか変だな。
「ラウラ、おい、ラウラ」
「!? な、なんだ、どうした!?」
「いや、ぼーっとしてるから調子でも悪いのかなと」
「い、いや、大丈夫だ。問題ないぞ」
「そ、そうか? ならいいんだが・・・」
ふと後ろの席から一夏と箒の声が聞こえてくる。
「向こうに着いたら泳ごうぜ。箒、泳ぐの得意だったよな」
「そ、そう、だな。ああ。昔はよく遠泳したものだな」
どうやら、箒も様子がおかしいようだ。
みんながみんな様子がおかしいとか先行き不安だよ、まったく。
◇
「それでは、ここが今日から三日間お世話になる花月荘だ。全員、従業員の仕事を増やさないように注意しろ」
「「「よろしくお願いしまーす」」」
目的地に到着すると、IS学園一年生全員で、これからお世話になる旅館の女将さんに挨拶をした。
「はい、こちらこそ。今年の一年も元気があってよろしいですね」
さすが、女将さんということもあって、しっかりとした雰囲気が漂っている女性だ。
「あら、こちらが噂の・・・?」
「ええ、まあ。今年は男子が二人いるせいで浴場分けが難しくなってしまって申し訳ありません」
「いえいえ、そんな。それに、いい男の子たちじゃありませんか。しっかりとしてそうな感じを受けますよ」
「感じがするだけですよ。挨拶をしろ、馬鹿者ども」
「お、織斑一夏です。よろしくお願いします」
「天加瀬奏羅です。よろしくお願いします」
「うふふ、ご丁寧にどうも。清洲景子です」
そういって、丁寧にお辞儀をする女将さん。職業柄なのかもしれないが、すごく気品がある。
「それじゃあみなさん、お部屋の方へどうぞ。海に行かれる方は別館の方で着替えられるようになっていますから、そちらをご利用なさってくださいな。場所がわからなければいつでも従業員に訊いてくださいまし」
生徒一同は、はーいと返事をすると、すぐさま旅館の中へと向かう。俺もなにかをするにしても、とりあえず荷物を置きたい。
ちなみに初日は終日自由時間。食事も旅館の食堂で各自取るようにとの事だ。
「ね、ね、ねー。まかせ〜」
後ろからのほほんとした声が俺を呼んでいる。俺のことを変なあだ名で呼ぶこの声の主は布仏さんだ。
「まかせーって部屋どこ〜? おりむ〜もだけど一欄に書いてなかったー。遊びに行くから教えて〜」
その言葉に一斉に周りが静かになる。まさかこの人数が俺の部屋に押しかけてくるとかないよな? しかし、根本的な問題がひとつある。
「いや、俺も知らないんだよ。一切知らされてない」
「そうなんだ〜。じゃあどこの部屋なんだろうね〜」
山田先生曰く、女子と寝泊まりさせるわけにはいかないということで、俺と一夏の部屋はどこか別の部屋が用意されているらしい。が、未だ知らされていないのはどういったことなのだろうか。
「織斑、天加瀬、お前らの部屋はこっちだ。ついてこい」
俺と一夏に織斑先生からお呼びがかかる。待たせてしまってはまた何かで叩かれそうなので、布仏さんに「またあとで」と言うと、足早に先生のもとへと向かった。
「えーっと、織斑先生。俺達の部屋ってどこになるんでしょうか?」
「黙ってついてこい」
一夏の質問は一蹴され、もはやどこに連れていかれるのかはわからないが、旅館のなかはかなり豪華で、エアコンも適度に効いてとても居心地はいい。
「ここだ」
「え? ここって・・・」
一夏が疑問の声を上げる。それもそのはず、連れてこられたのは『教員室』と書いてある紙がはられた部屋だった。
「最初は個室という話だったんだが、それだと絶対に就寝時間を無視した女子が押しかけるだろうということになってだな」
はぁ、とため息をついた織斑先生が続ける。
「結果、織斑は私と同室、天加瀬は山田先生と同室になったわけだ。これなら、女子もおいそれとは近づかないだろう」
「いや、そうですけど、一夏は織斑先生の家族だからいいとしても、俺はさすがに・・・」
さすがに年頃の男子が教員とはいえ、女の人と一緒の部屋は・・・。
「お前を一人部屋にしたところで同じことだ。ひとつの部屋に大量の人間が押しかけて、旅館の方に迷惑を掛けるわけにはいかん」
しかし、山田先生と同室とは、厄除けとしてはものすごく心もとない。ほんとうに大丈夫だろうか?
「本来なら私が貴様らの面倒をみるつもりだったのだが、二人は大変だろうという山田先生のご好意だ。まあ、他にも理由はありそうだがな」
そういえばデパートでも同じようなことがあったな。あの時と同様に姉弟水入らずと、織斑先生に気を使っているのだろう。
「山田先生の部屋は私の部屋の二つ隣だ。すでに部屋に入っているだろうから、ノックを忘れるなよ」
「わかりました」
そこで織斑姉弟と別れると、二つ隣の部屋の前まで行き、ドアをノックすると中から「どうぞー」と声が聞こえた。
「失礼します、天加瀬です。これから三日間お世話になります」
「いえいえ、そんなにかしこまらないでください。こちらこそ、よろしくお願いしますね」
しかし、他の部屋はわからないが、この部屋は相当豪華だ。広い間取りに加え、バルコニーまで付いている。窓越しからバルコニーをまたいで見えるオーシャンビューも絶景だ。
「天加瀬くんは泳ぎに行くんですか?」
「ええ、まあ。せっかく水着も買ったことですしね」
「私は今から先生方と連絡等があるので鍵を渡しておきますね。じゃあ、楽しんできてください」
そういって、資料等を持って山田先生はどこかへと行ってしまった。多分、織斑先生の部屋だろう。
「さて、泳ぎにでも行きますか」
俺はボストンバックから、水着とタオルを数枚とりだすと、それを小さめのかばんに詰めて海へと向かった。
◇
「おっ、セシリア」
「あら、奏羅さん」
廊下をでて別館へと進んでいると、バッタリとセシリアに出くわした。
「奏羅さんも海へ?」
「ああ、せっかく買った新しい水着なんだ。使わないと勿体無いしな」
「わたくしも海へ行くところですの。そ、それで、ですね・・・」
セシリアはこほん、とひとつ咳払いをすると、口を開いた。
「わたくしの背中にサンオイルを塗っていただけませんか? 背中は手が届かないので・・・」
「いや、なんで俺なんだよ。女の子の友達にでも頼んだらいいじゃないか」
「い、いや、その、出来れば奏羅さんに塗っていただけたらなと・・・」
そんなに俺に塗って欲しいのか・・・? いや、もしかしたら、俺しか塗ってくれそうな人がいないとか?
「・・・セシリアってさ、俺以外に友達いないの?」
「し、失礼ですわね!? ちゃんといますわ!」
大声で怒られてしまった。半分は冗談のつもりだったんだがなぁ。
「悪かった、俺でいいなら塗ってやるよ」
「・・・目が哀れんで見えるのですが、気のせいですわよね」
そんなことを話しながらふと前をみると、ひとりの女の人が目についた。明らかに感じる何かしらの違和感。その人の着ている服や頭に生えているウサギの耳などの格好もそうだが、存在そのものが異質な感じを放っている。
「あんな人いたっけ・・・?」
「さあ・・・?」
その人はすぐに視界から消えてしまったが、その後に続いて、一夏が視界へと入ってきた。
「おっ、奏羅にセシリア。今から海に行くのか?」
「ああ。しかし、今変な人がいたんだよ。この学園の人でもなさそうだし、お前見てないか?」
「もしかして、頭にウサ耳がついてた?」
「ああ、ついてたな」
「ああ、その人は束さんだ。箒の姉さん」
「えっ・・・? ええええええっ!? 今の方が、あの篠ノ乃博士ですか!? 現在、行方不明で各国が捜し続けている、あの!?」
「そう、その篠ノ乃束さん」
セシリアが誰に説明しているかは置いといて、あれが篠ノ乃博士か・・・。滅多に人前に出ることはないと聞いていたけど、こんなところで会えるとは思っていなかったな。というかなんで会えたのかがわからない。しかし――
(そんな人がこの旅館に、しかもIS学園一年生の生徒がいるなかでなんのようなんだ・・・?)
この前の無人機の件といいまた何かしらあるんじゃないだろうか? いろいろ考えていると、足が止まっていたのか、セシリアに声をかけられた。
「奏羅さん、行かないのですか?」
「えっ? ああ、悪い」
まぁ、俺が気にしてもなにかなるわけじゃないし、今は海を楽しむことにしようか。
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恋夢交響曲・第二十九話 | ||
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