インフィニット・ストラトス―絶望の海より生まれしモノ―#83
[全1ページ]

[side:   ]

 

四組の教室はまだ凍りついていた。

 

 

あれからどれだけの時間が過ぎたのだろうか。

 

凍りついた空気に耐え切れず、だれかがゴクリと息をのんだ。

 

―――と、同時にドアがガラリと音をたてた。

 

(!?)

(!!)

(マズいっ!)

 

教室に淀む、簪の放つ禍々しいナニカがまるで触手のようにドアのほうへ向かっていくのを幻視して慌ててドアに向かう。

 

否応なく慣れさせられた四組の面々ならともかくとしても、一般人からすれば致命的だ。

 

もしかすると本当に死人が出かねない。

 

 

「おーおー、閑古鳥が鳴いてるね。ま、一組があんな様子じゃ仕方ないか。」

 

しかし、その瘴気の触手は入ってきた人物を簪が認識するや否や立ち消えた。

それどころか薄暗くなっていた教室の雰囲気も一気に明るくなったくらいだ。

 

「千凪先生っ!」

「よく来た!」

「偉いぞ、空ちゃん先生!」

――――現れたのは、空だった。

 

他の面々が歓喜する一方で簪は真っ赤になって俯いていた。

 

「ところで、空ちゃんセンセはなんで来たの?」

 

一人が尋ねると、空は苦笑しならが応えた。

「ああ、見回りだよ。一年一組に人が集まってるから、念のため。」

 

『ああ、なるほど。』と声が上がる。

 

開始から早くも一、二時間が経っているが、一組以外の各クラスは暇を持て余しているのが現状だ。

 

 

と、その時………

 

「本日準備分は終了しました!」

「只今より仕込みを行いますのでしばらくお待ちください!」

廊下に呼び掛ける声が響き、『えー!』とか『聞いてないよ。』『そんなぁ…』と声が上がる。

 

「さて、お仕事しますかね。…ほら、みんなも動いた動いた!」

 

空は『やれやれ』と呟きながら廊下に出る。

それを追うように発破をかけられた四組の面々も準備して廊下に出る。

 

「ほら、騒がない、騒がない。」

 

空が廊下で騒ぐ集団を沈静化させてゆく。

 

 

 

「一年四組です!日本の縁日、体験していきませんか〜!。」

 

そこに便乗して、声を張り上げる。

四組付近まで来ていた列の後ろのほうが『何だ?』と声の主のほうに向く。

 

「二組の中華喫茶はいかかですか!!」

 

それと競うように、二組のほうでも声が上がり、やはりこちらでも声の主の方に注意が向く。

 

「再開時間は未定です。準備ができ次第放送を入れますので今しばらくお待ちください。なお、その際は整理券番号順にご案内いたします。」

 

そんな声が後押しになって列が散ってゆく。

 

その何割かはわき目も振らずに去っていくが残りは四組や二組の客引きに捕まり教室へ入り始める。

 

―――漸く、一年一組以外が動きだした。

 

「それじゃ、また後でね。」

 

「あ、うん。お仕事がんばってね。」

 

他のフロアの巡回に向かう空を見送る簪。

 

一緒に廻る事は叶わなかったが簪の表情はそこそこに明るかった。

 

 

 

 * * *

 

[side:鈴]

 

一組の『臨時休業』から程なくした頃、((二組|あたしたちのとこ))に箒がやってきた。

 

「いらっしゃい。って…箒。そっちの再開準備はもういいの?」

 

「ああ、私は休憩がてら外回り中だ。」

 

「そう。―――で、様子は?」

 

「―――壊滅状態だ。」

 

え?

なにそれ。

 

「壊滅って………何があったの?」

 

「業務中はプロ意識で押さえこんだ鬱憤が爆発してな。再開の為の準備のハードルが無茶苦茶に高くなっているんだ。」

 

「それで?」

 

「準備の時は問題ないレベルだったのがアウトになって作り直しの連発が起こり―――」

 

「挙句の果てに潰れた―――と?」

 

「泡だてで腱鞘炎に繰り返された試食で胸やけ、あとは女子としての威厳やらがぽっきりとヤられてな。『IS学園は何時の間に製菓学校になったんだ?』とはラウラの談だ。」

 

それは、なんと言うか………

『((一般人|パンピー))が無茶しやがって…』レベルね。

 

「とりあえず、ノーコメントで。ていうか、ラウラもキャラ変わったわね。」

 

「まあ、な。今一組の教室に行けばシャルロットを枕にして倒れるメイドラウラが見れるぞ。」

 

――同時に狂ったようにケーキを作り続ける一夏に遭遇できるがな。

 

そうつけたした箒の笑みはなんとも不気味な影のある笑みだった。

 

「あ、あはは……」

 

苦笑いするしかないし、なんかこのまま話すのは危険な気がしてならないから話題を変える事にする。

 

実はさっきから結構気になってたんだけど………

 

「ところで、その台車に積まれた箱は?」

 

「ああ、一夏が鬱憤晴らしに大量生産したホールケーキのおすそ分けだ。主に生徒会や職員室宛てなのだが、要るか?」

 

「え、いいの?」

 

「生徒会と、職員室に持って行ったがまだ余っているしな。」

 

「………どんだけあんの?」

 

「一夏曰く、『冷凍しておけば明日は解凍するだけで一日賄い切れる』とか。」

 

「何処のチェーン店?」

二組勢、総ツッコミ。

 

でも冷凍しても問題ないケーキを本当に作っちゃうのが一夏だからなぁ……

 

「で、でも、それって明日用のストックじゃないの?」

 

「ああ、その筈なんだが既にストック用の冷蔵庫も冷凍庫も展示用ショーケースも満タンでな。」

 

「うわぁ…」

 

「と、言う事でここにある分はおすそ分けだ。存分に楽しんでくれ。一組は今日一日復活は無理だろうしな。」

 

「え、ちょ、こんなに!?」

 

「五種類が二ホールずつ、計十箱だ。クラス全員ならあっという間だろう?安心しろ。職員室と生徒会室をあっさりお茶会モードに叩きこんだ織斑印の逸品だ。」

 

「まあ、一夏の作ったヤツなら間違いは無いだろうけど…」

 

「では、私は一夏を止めに戻るとしよう。流石にそろそろ材料が無くなる筈だ。」

 

 

「……死なないでよ。こんなしょーもない理由で親友亡くしたりしたくないから。」

 

「一応、織斑先生と空に紅椿の使用許可は取ってある。いざとなっても逃げる位は出来る筈だ。」

 

ではな、と箒は隣に戻ってゆく。

 

「さて……とりあえずこのケーキは冷蔵庫に入れておいて。今日の片付けが終わったら皆で食べましょ。」

 

………とりあえずISの駆動音や悲鳴の類は聞こえてこないから大丈夫そうね。

 

『一夏、もう休め。』

 

『がっ――』

 

うん、だいじょ―――

 

「ねえ、一組の篠ノ之さん(執事)が気絶したメイド姿の織斑くんを引き摺って何処かに行っちゃったんだけど…」

 

「ああ、大丈夫。たぶん保健室に収監するだけだろうから。」

 

………大丈夫、よね?

 

 

 * * *

[その数分後…生徒会室]

 

「うまうま。」

 

「へぇ…これがあの織斑くんの本気の逸品なのね。…下手な店よりもおいしいんじゃない?」

 

「なんだか、体重計が怖くなりそうです。」

 

「…そりゃ、ね。」

 

簪の言葉に一斉に視線は一ヶ所に集まる。

 

………テーブルの上に広がるは既にそれぞれ半分ほど消費された五種類のホールケーキ(七号)。

 

「………」

 

誰の目から見ても食べすぎである。

思わず黙る一同。

 

その沈黙を破ったのは―――

 

「すいません。ちょっとお騒がせします。」

 

メイド一夏を引き摺ってきた執事箒だった。

 

「へ、あ、はぁ…」

 

突然の出現にぽかーんとする一行を横目に箒はそのまま奥へ行くと何処からか布団とロープを持ってくる。

 

そのまま布団で一夏をくるんでそのまま縛り上げてあっさりとメイド入りの簀巻きが完成である。

 

「お騒がせしました。失礼します。布団は明日にでも返しに来ます。」

 

簀巻きを背負って箒は出て行ってしまう。

地味に紅椿の腕部が部分展開されているが誰も突っ込めなかった。

 

「………なんだったの?」

 

「………さあ。」

 

「あの二人はあれで平常運転だよ〜。」

 

「………いい加減結婚してしまえばいいのに。」

 

その後、保健室に簀巻きのまま収監された一夏とそれにつきそう箒が目撃されたが些末な事である。

 

 

[同刻 職員室]

 

「おいひぃ!」

 

「私、IS学園の先生やってて良かった………」

 

「いっそ食堂で働いてくれないかな…」

 

「あ、榊原先生!そっちのチョコケーキ一口貰ってもいいですか?」

「それじゃあ、フランシィ先生のフルーツタルトと交換で。」

 

「山田先生、あなたが副担任のクラスの生徒が作ったんだから、私たちに譲ってくださいよ!」

「い、嫌ですよ!」

 

そんな光景をあきれ顔で眺める千冬…だが、

 

「………はぁ。IS学園の教員も、こうなったらタダの女子集団だな。―――うむ、美味い。」

 

顔を綻ばせて自分もその一人だと改めて実感するのであった。

 

 

 

 

 

 

- - -

突然出てきた教員一覧

 

榊原先生

 原作三巻で登場した部活棟の管理をしている教師。

フルネームは『榊原 菜月』。

詳しくはWiki参照。

 

絶海では思いっきりスルーされており出番は今の所は無い。

 

フランシィ先生

 原作七巻で登場した教員。

フルネームはエドワーズ・フランシィ。カナダ出身の数学担当…らしい。

詳しくはこっちもWiki参照で。

 

原作では簪の飛行テスト中の事故を目撃したりしているが、絶海では既に打鉄弐式が完成しているので出番はほぼ無い。

 

説明
#83:文化祭 一日目 その二


明日(9/3)から合宿行ってきます。
学祭(10月末)の準備等もあるので、しばらく更新ペースが激遅化しますがご了承ください。

………元々超遅筆なので大差ないかもしれませんが。
総閲覧数 閲覧ユーザー 支援
2152 2000 3
コメント
>>神薙様 一度書いてみて、収集が付けられそうか否かで手を加えるといいかもしれませんね。少なくとも、自分はそうしてます。(高郷 葱)
マジか…個人的には夏休みに入る前にキャラ揃えて、オリ主含め女体化させてカオスにしようかと思ってるんだけどなぁ…。(神薙)
>>神薙様 ありがとうございます。 女体化ネタは使いどころと反応を間違えると大変な事になるので色々読んでみるといいかもしれませんよ。(高郷 葱)
ようやく追いついた〜!面白すぎでしょ、これwww俺もIS小説書くなら絶対女体化ネタ入れようと決意した位ですもん(笑)(神薙)
タグ
インフィニット・ストラトス 絶海 

高郷葱さんの作品一覧

PC版
MY メニュー
ログイン
ログインするとコレクションと支援ができます。

<<戻る
携帯アクセス解析
(c)2018 - tinamini.com