IS~音撃の織斑 三十一の巻:尋問と滞在
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一夏が通されたのは青畳の座敷で、目の前には更識姉妹の両親、そして己の隣には簪と楯無が陣取った。ししおどしの音がやけに響く。その中、一夏はとりあえず気持ちを落ち着ける為に何故か師匠に教え込まれた般若心経を心の中で唱え始めた。

 

「さてと。一夏君、だったかしら?稼ぎは兎も角、容姿、性格共に申し分無しね。」

 

「・・・・恐縮です。」

 

そしてお茶請けとして出された羊羹を少し切って食べた。

 

(おおう、これは・・・美味い。良い砂糖だ。)

 

「幾つか聞きたい事があるんだけど、良いかしら?」

 

「・・・・物によりますね。」

 

無意識の内に拳を握ってしまう。やはり対暗部用暗部であるからある程度覚悟はしていたが、その元締めを前にしていてはやはり圧され気味である。

 

「じゃあ、単刀直入に聞くわ。貴方は織斑千冬の弟であるにも拘らず、何でイスルギ君の姓を名乗ってるの?」

 

(来ると思ったぜ。)

 

「ちょっと、お母さん!」

 

簪が声を上げたが、母親の一睨みで黙らされた。

 

「黙っていなさい。どうなの?」

 

「第二回モンド・グロッソで俺は決勝戦間際に拉致されました。そして織斑千冬は決勝戦で優勝しました。ISが世界進出してからと言う物、俺は常に比べられて来た。男だから。そして失望して死にかけた俺は、師匠に命を救われて、師匠に引き取られました。やっぱり調べたんですか?」

 

「ええ。こう言っちゃ聞こえが悪いかもしれないけど、私達は疑うのが仕事なの。そしてたとえ一パーセントでも怪しい人がいれば完全に疑いが晴れるまでとことん調べる。そうでもしないとこの仕事は勤まらないから。」

 

「納得は行きますね。でも、聞いてどうするんですか?そんな事。」

 

「只の事実確認よ。もう一つは、貴方の力量。」

 

「力量、と言いますと?」

 

「正直な所、ウチの娘もそろそろ男に興味が湧く年頃だしどうなるかと思っていたけど、まさか猛の関東支部に所属しているとは思わなかったわ。どれ位なの?貴方の実力。」

 

「ちょっと、お母さんいい加減にして!一夏君は強いわ!私をISでも、生身のままでも倒したんだから!」

 

「自己顕示はあまり好きではありませんが、死にかけながらもヨロイツチグモ、そしてその姫と童子を一人で倒しました。音撃も全般行けます。」

 

いよいよ我慢の限界が訪れた楯無を制しながらも淡々と一夏は答えた。

 

「あら、そう?なら心配無いわ。ごめんなさいね、こんな尋問みたいな事しちゃって。ウチの娘達も大層気に入っているみたいだし。これからも二人をよろしくお願いします。オホホホホ。」

 

ころっと態度が変わって笑い始めた先代を見て一夏は嵌められた事に気付いた。

 

(楯無の人たらしの性格がどこから来たのか今はっきり分かったな。)

 

「いえ、こちらこそ。」

 

「簪、彼を客室に通して上げなさい。失礼の無い様に、ね?」

 

「はーい!」

 

「もう、お母さんってば・・・冗談でも笑えないよ!」

 

一夏はお辞儀をすると立ち上がって簪に案内されながら客室に向かった。

 

「面白いわね、彼。聡明で実直で真面目で。昔の貴方を思い出すわ。」

 

「確かに。それに猛士の連中なら信用出来るしな。」

 

あの威圧的だった二人の父親が薄い笑みを浮かべながら煙管を口に銜えた。

 

「あそこまで若い鬼はヒビキ以来か?」

 

「そうね。彼なら二人を任せられるわ。」

 

「でも、何の為にあそこまで・・・・」

 

「見極めよ、ただの。私はね、いずれ彼が大なり小なりこの世界を変えてくれる気がするのよ。直接的に白間接的にしろ。」

 

「世界を、変える・・・?」

 

「そう。彼は女尊男卑の世界にある全世界の男性の唯一の希望なのよ。それと同時に大部分の女性に取って唯一にして最大の危険因子。荒れるわ、この世界は。」

 

そう言いながら、先代楯無は扇子の一部を開閉して下唇を噛んでいた。

 

 

 

 

 

 

客室には既に一夏の荷物が運び込まれていた。ここもやはり立派な座敷で、漆塗りの家具が置いてある。

 

「ごめんね、一夏。お母さん優しいけど冗談を言ってるかどうかが未だに区別付かなくて・・・」

 

「いや、あれだけで済んだなら安い物だ。もしあのどちらかに勝負したいと言われたら、俺は恐らく瞬殺されてる。あの覇気の年季の入りようは、尋常じゃない。だが、やはり俺の事を調べ回られるのはあまり良い気がしないのは事実だ。」

 

「ごめん・・・・」

 

「お前が謝る事は無い。寧ろ覚悟はしていた。向こうだって見知らぬ相手を家に招き入れる様なミスはしないだろうからな。」

 

「それでも・・・・」

 

一夏は簪の口に指を当てて首を横に振る。

 

「言うなって。」

 

そして簪の肩に撓垂れる。

 

「今はこうやってゆっくりしたい。」

 

簪は甘える一夏を見てクスリと笑い、いつもされる様に頭を撫でた。そんな時に襖が開いて楯無が入って来た。

 

「あ、ずるい!」

 

「お姉ちゃんはルームメイトだったんだから良いでしょ、これ位?」

 

「それもそうね。今回だけよ?」

 

「お前らは・・・・しばらくは平和に暮らしたいな。魔化魍がいなくなって・・・・って無理か。出所も掴めないし・・・・」

 

「こーら、休暇で来てるんだから仕事の事は考えるの禁止!」

 

楯無が一夏の膝に頭を乗せると、扇子で軽く腹を突いた。

 

「そうだな。ひとまずこの中を色々と見て見たい。案内してくれるか?」

 

二人は無言で立ち上がって一夏を連れ回し始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「へー、この子がイバラキ君の妹分なんだ。可愛いじゃない!」

 

「本当ですね、お人形さんみたいです!」

 

蘭と日菜佳は、とりあえずはしゃいでいた。まあ、銀髪で眼帯を付けた小柄な少女を見たら誰でもそうなるだろうが。

 

「素質は大有りですしね。教え甲斐があります。流石はイバラキ君の妹分ですよ。」

 

隣に座っていたイブキもお茶を飲んでラウラを褒め称す。

 

「師匠にも向いてない様な奴が言う台詞か?」

 

「僕だって勉強してるんです。宗家の跡取りとして頑張らなきゃ行けませんから。」

 

市の言葉にムキになってイブキは言い返した。

 

「宗家?」

 

「ああ。そう言えば説明してなかったな。イブキは猛の実質的なリーダーなんだ。元々音撃は一つの流派だったんだが、それが枝分かれして今に至る。その始祖の血を引いているのが宗家であるコイツの家系だ。」

 

「成る程・・・・」

 

簡単に説明した所でラウラはまんじゅうをモグモグやり始めた。

 

「アイツはとりあえずこっちに戻って来たらしい。夏が本当に近付いているしな。バケネコ共を一掃するのも楽じゃない。」

 

「そんな事言って・・・・ぜんぜん余裕じゃないですか!」

 

「んな事はねえよ。」

 

すると扉が開いて、フレームの分厚い眼鏡をかけた青年と、赤毛でドレッドヘアーの青年が入って来た。

 

「いらっしゃ・・・あ、数馬君!弾君も!久し振りー!」

 

「お兄、遅い!」

 

「悪い、ちょっと用事があってな。うぃーっす、日菜佳さん!」

 

「ちわっす、日菜佳さん。香須実さんは?」

 

「あー、姉上はですね、父上と一緒に吉野へちょっと。」

 

「吉野に?そりゃまた何で?」

 

「何でも、またアームドセイバーをもう一本作るとか何とか。あくまで噂だけどね、みどりさんもその設計図とか定着させる波動をどうするかとか、そう言うので首っ引きだから、もしかしたら本当かもしれないのですよ。」

 

「また?!」

 

「あれをもう一本なんて・・・・議論の余地無しかよ・・・」

 

「アームド、セイバー・・??」

 

「音撃武器の一つだ。名前の通り、形状は刀剣で、音撃を増幅させるし、その鬼の力も増幅する。ただ、生半可な鍛え方ではこれは使いこなせない。寧ろ逆に変身能力を失う危険所為もある。現在使えるのはヒビキと俺の二人だけだ。当分はアイツに預けてあるがな。」

 

ラウラは頷きながらもまた饅頭に手を出してお茶を飲み始めた。

 

「んじゃ、俺はみどりさんを手伝って来まーす。」

 

数馬は隠し通路で地下の猛士研究所に姿を消した。蘭はそれをじっと見ていたが・・・?

 

「あ、そうそう、君は・・・・?」

 

「こいつは一夏の妹分だ。」

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒだ。よろしく頼む。」

 

「お、おう。俺は五反田弾。一応先輩にあたるが・・・・まあ好きに呼んでくれ。」

 

「あ、言って置くが、格闘ならお前は恐らく勝てんぞ、弾?」

 

「射撃も上手くなって来ましたからね。」

 

「へー、一夏も中々やるな。」

 

「兄様と面識はあるのか?」

 

「面識も何も、俺とさっき地下に行った数馬と、俺はアイツがIS学園に行く以前の親友だぞ?猛士に入った時期は一夏が早かったけどな。で、数馬はインテリの方に行ったが、俺は前線で気張ってるって訳。」

 

「はあ・・・・」

 

「お兄、暇なら店手伝ってよ!私と日菜佳さんだけじゃ追い付かないから!」

 

「分かったよ、ちょっと待ってろ!」

 

(兄様、やはりここは、良い所です。私にこんな立派な居場所をくれた事に、感謝しています。)

 

 

 

 

 

 

「はい、とりあえずこれで屋敷の中は一通り案内したわ。」

 

「おう。あー、二人共ちょっと外で待ってくれるか?」

 

「良いけど・・・・」

 

そして十分後、一夏は着流しで少し伸びた髪を紐で結わえた、言うなれば江戸の『遊び人』風の服装になっていた。肩袖抜きで襦袢の柄が見えている。

 

「内装が和式なんで、俺もそれに合わせてみた。俺は元々着ないが、師匠が俺に内緒で俺の為に買ったらしいんで使わないのも勿体無いからつい持って来たんだ。」

 

だが、二人は俯いたまま何も言わない。いや、言えないのだ。何故なら・・・・

 

((か、かっこいい・・・・))

 

二人は赤面して俯きながらこう思っているのだ。

 

「どうした?」

 

「う、ううん、何でも無いよ?」

 

楯無が慌てて取り繕い、簪も頷く。

 

「じゃあ、行こうか?朝は大して食わなかったから腹減って来たぞ。」

 

二人の手を取ってメイドの一人に広い座敷に案内された。そこには海の幸と山の幸がこれでもかと言う位ふんだんに使われた料理が所狭しと並んでいる。高級さが滲み出ている物ばかりだ。そこには既に更識夫妻が座っていた。

 

「あら、着物姿も似合うわね、二人の彼氏は。アブなそう♪」

 

「元々あまり着ないんですが、ちょっとどうかと思いまして。」

 

「ふーん、面白い所で律儀なのね。まあ、ゆっくり食べて頂戴?」

 

「頂きます。」

 

「あ、二人共、私達はちょっと用事が出来たから夜は遅くなるわ。家の事頼んだわよ?」

 

「「はい。」」

説明
更識本家に到着した一夏。そこで両想いとなった姉妹の両親とご対面?!
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仮面ライダー響鬼インフィニット・ストラトス

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