《インフィニット・ストラトス》〜二人の転生者〜 |
第二十七話 過去と現在の真実
驚愕。恐らく今の現状で俺に似合う言葉を表すとしたらその言葉だろう。事実俺は内心一瞬だけ驚いた。しかし本当にただの一瞬のことであり、次の瞬間にはまるで無神経とも思える氷のような視線を放つ無表情になっていた。
「……なるほど、俺の予想が当たったわけか……」
俺はその表情を崩さないまま呟く。
『……ふむ、アキバがそういうということは恐らく既にかなりの情報を握ってるということだな?』
俺の呟きに気づいたキリルさんが口元で手を組みながら言う。
「まあ、そうですね。俺の予想が当たっていれば十中八九フランスの代表候補生のシャルル・デュノア――デュノア社長、貴方の((大|・))((切|・))((な|・))ご令嬢に関することですね?しかも俺に余裕があると思える週末まで待たず、学業のある平日の朝にキリルさんを通して連絡を取ったということは……ずばり俺にしか頼めないことで火急の要件。違いますか?」
俺がそう言いながらデュノア社長を見ると『ふぅ……』と溜息をついてからデュノア社長は喋り出した。
『……まったくもってその通りだ、アキバくん。あと私のことはアルフレッドで構わないよ。で、アキバくんはどこまで知ってるのかな?』
「知ってることはそんなに無いですよ。恐らく重要な内容は《シャルルのお母さんに関すること》と《シャルルの観点から見た過去から現在のシャルルの状況》……この二つでしょう。そして後者の方はシャルルのお母さんが死んでからの話になります。しかしその話に俺は少し疑問に思ったことがあります。そしてその疑問を俺なりに解釈したものが俺の予想です」
『………………』
俺がここまで話すがアルフレッドさんは未だに口を開こうとしない。ふむ、これはもしかして俺の予想とやらを聞きたいのか?
俺はそう予想したが、少し打点をずらした話をすることにした。
「アルフレッドさん……シャルルから聞きましたよ。貴方に引き取られてからシャルルがどういう待遇を受けたのか……」
『!!…………』
アルフレッドさんは俺の言葉を聞いた時に少し表情を歪めた。やはりシャルルのあの話は本当なのだろう。しかしそれは俺の予想の範疇だ。
「なんでもお母さんが死んでから急に会社の人がやってきて有無をいわさず引き取られ、そこでやっと父である貴方と逢えると思っていたのに遭った回数は僅か二回、しかも会話も一桁ぐらい。しかも本邸に呼ばれた時だ、本妻のひとに打たれ、更に罵声を浴びせられ、挙句の果てに体を検査した結果IS適性が高いから非公式のテストパイロット。そして経営難だから男装させてIS学園に送り込み、俺と夏のISのデータを盗んでこい……巫山戯るのも大概にしろよ……」
俺の僅かに覇気と怒気がこもった声にアルフレッドさんは只々俯くしか無かった。その手を小刻みに震わせながら。
『あ、アキバ!そのことにはアルフレッドにも色々理由が……』
「キリルさんは黙ってろ!!」
『はい……』
ここで更に反論もせず返事をしながら素早く引くキリルさん、貴方は一体何のためにここにいるんだよ?
しかしそんな考えは置いとき、俺は更にアルフレッドさんに追い打ちをかける。
「……いいですか、アルフレッドさん。俺はシャルルから話を聞いた時、正直腸が煮えくり返ろましたよ。正直直ぐ様フランスに行って政府とデュノア社をこの手で火の海ににsて潰してやろうかと……そして貴方を俺の前に引きずり出して、なんでシャルルにこんな酷いことが出来る!!アンタ親なんだろ!!実の娘なのになんで優しく出来ない!!って問いただして……」
『……私だって出来る事ならそうしてやりたかったさ!!だけど仕方なかった!!今の私に出来る精一杯のことが……』
アルフレッドさんはそう言いながら、泣き崩れるかのように最初の強い口調から弱々しいこえになっていった。
「……今からでも遅くないです」
俺は呟き、続ける。
「まだそう思う心があるんでしたら。アルフレッドさん、腹割って話しましょう。お互い探りあい無しで……」
俺がそう告げるとアルフレッドさんは顔を上げ『アキバくん……』と俺の名前を呟く。
「……さて、それじゃあまず俺に頼みたいことを聞きたいんですが、いいでしょうか?」
『私は構わないが……それだと順序が逆にならないかい?』
先ほどの状況から脱したアルフレッドさんがそう答える。
『そうだぞアキバ。まずは経緯などを話した上で頼みごとするのが当たり前だと思うんだが?』
俺は頭を抑えながら言う。
「お二方……おそらく経緯というのは言わば《理由》です。まずは《依頼の内容》を離してから《理由》を話したほうが簡単でしょう?重要なのは《理由》ではなく《依頼の内容》なのですから。キリルさん、思い出してください。先日俺に依頼したプログラムの作成の時依頼の内容よりなぜそれが必要なのかを先に言いましたか?」
『いや、まずあるプログラムを作って欲しいと言ってそれからその詳しい内容などを……!!そうか!』
『……確かに、まずは依頼の内容を言ったほうがよさそうだ』
ふう、どうやら二人共わかってくれたようだ。
『では……アキバくん、私からの頼みごとはただ一つ。私の娘の用心棒をやってほしい!』
……
…………
………………
沈黙。
「…………と、とりあえず理由の方に行きましょうか。用心棒……と言うことは何者かがシャルルの狙っているということですね。まずはそれを聞きましょうか?」
『企業国家の思惑……と言いたいところだが実際は違う。いや、勿論それもあるんだが……私の妻の魔の手から守ってほしいんだ』
「ふむ……」
企業国家の思惑……というのは恐らくデュノア社が経営危機の為、今後どうなるかわからない、と言う観点からなのだろう。問題は妻の魔の手ってとこだな。
「企業国家の思惑っていうのはわかりますが妻の魔の手っていうのは?」
『それについては僕から話そう』
そう言って出てきたのは……キリルさんだった。
「……あ、まだいたんですか?」
『いるよ!!』
「あ、じゃあもういいんで帰って休んでください」
『……アキバ、それはなんでも酷すぎやしないかい?』
日本語を巧みに操るダンディなアメリカ人の変さに比べたらこれぐらいの変さは軽い軽い。
「まあ冗談はさておき、どういうことだ?」
『ああ、実はアルフレッドの妻――リゼットというらしいんだが、その彼女がそのシャルルちゃんを殺そうとしたらしい。もちろん未遂で終わってるんだがね』
……なるほど……たしかにシャルルは本妻のリゼットさんにしてみたら殺すに値する存在だよな。なんせ愛しの夫の愛人の娘なんて……ん?まてよ?
「……アルフレッドさん、そのリゼットさんと結婚したのは何年前ですか?」
『……結婚して今年で十五年目になる』
と、いうことはその時既にシャルルは母親のお腹の中ということに。しかもその時アルフレッドさんはまだ独身だ。
「アルフレッドさん……貴方何故シャルルのお母さんを放っておいてそのリゼットっていう人と結婚したんだよ?おかしいだろうがっ!?」
『あ、アキバ!落ち着いて!順に説明するから!!』
はんば怒り狂った状態の俺をキリルさんが落ち着けるが今の俺はまさに腸が煮えくり返る状態だった。てっきりシャルルが生まれたのはアルフレッドさんが結婚した後だと思ってた。シャルルのお母さんは昔の恋人だったとかそういうて展開だと……
「シャルルのお母さん――エリーゼさんとはどういう関係だったんですか?」
『……彼女と私は、婚約者だった。彼女は私を愛し、私も彼女を愛していた……いや、死んだ今でも愛してる。しかし私は彼女と結婚するわけには行かなかった……リゼットがデルヴァンクールの人間でなければ……』
俺はアルフレッドさんの最後の言葉、デルヴァンクールという単語に戦慄を覚えた。
デルヴァンクール一族。代々そこの家系は神々に愛される一族の一つだった。あるものは政界の一部の覇権を、あるのもは軍事産業の大物、あるものは世界各地に支社を持つ会社の総帥、そんな大物をゴロゴロと排出している家系だった。しかもそれは親族にまで及び、今ではフランスの政界の七割近くがデルヴァンクール一族と血の繋がった人物といっていいほどだ。しかも裏では何をしているかわからない……かなりヤバイ一族なのだ。
「……脅しか」
恐らくその一族はデュノア社を狙ったのだろう。IS機業としてはまあそれなりに名のしれた機業だしな……おそらく現在の社員の大半はその一族の息のかかった人間だろうがな。
『ああ、最初は私自身や会社を手玉に取られた。勿論私は必死に抵抗し、抗い続けた。しかしその結果……』
アルフレッドさんが言葉に詰まる。それもその筈、誰もが分かるだろう。その矛先がシャルルとその母親のエリーゼさんに向けられたことは……
『……私は仕方なく、エリーゼを手放し、一族が指定した人物リゼットとの結婚を選択した。エリーゼとその娘には出来る限りの援助をするという条件付きで』
なるほど、納得がいった。シャルルとエリーゼさんを自らの判断でなくすぐらいなら他の女性と結婚すればいいと踏んだのか……たしかにその時はそれが最善の策だったんだろうな。
「わかりました。詰まる所シャルルに犯罪を行わせるのではなく、そのリゼットという人物からの魔の手を遮るためにIS学園へ転入させたと。そしてそのリゼットさんを納得させる方法が今回のデータの収集っていう計画……なんとも手の込んだ計画じゃないですか」
……ってかIS学園っていえば度の国も介入できないしセキュリティだって半端じゃない。そんな所に手を出したらそれこそどうなるかわからないぞ?いくらデルヴァンクール一族でも手出しできないだろ?
『……アキバ、今君の思ってることを当ててあげようか?いくらそんなビックリ一族でも天下のIS学園には手出しできないだろう、って』
「……事実そうだろ?俺が手出しする必要はない。そもそもリゼットだって無理やり結婚させられたんだろ?ならそこまでする理由がない」
おれがそう答えると二人が画面の向こうで同時に『『はぁ〜……』』と溜息を吐いた。
『彼女がそれで諦めてくれればよかったんだが……』
『アキバ……いくら好きじゃない人間だとしても結婚して十何年、しかもアルフレッドみたいな好青年だぞ?身近な女性な一人や二人落とせたって不思議じゃないだろ!?』
……なるほど、たしかに可能性はある。そして女の嫉妬ほど醜いものはないからな……
「わかった。まあ出来る限りシャルルと一緒に行動するようにして本人に気付かれないように護衛する」
『ありがとう。こちらでもどうにか出来ないか余り刺激を与えないよう妻に接触を図ってみる』
『じゃあ僕はその間に一族の勢力や戦力、その他諸々の情報収集をしてみる』
「ああ、頼みます。俺も出来る限り情報収集はしてみますが。それじゃあそろそろ切りますね、こっちも一応学生の身分なので……」
『ああ、アキバ。最後に一つ』
俺が回線を切ろうとするとキリルさんが聞いてきた。
「……なんですか?」
『……男装してたのにどうして女性とわかったんだい?』
今それを聞くか……
俺は暫く答えるべきかどうか悩み、数秒の沈黙……
『……アキバくん、もしやとは思うが私の娘に何かやましいことは……』
「してませんっ!!昔あった時があるからその時のことでカマかけたら当たっただけです!!提示連絡の時間は毎日午前零時!俺とキリルさんが交わし、隙を見てお二方で情報交換!以上、通信終わり!!」
俺は早口でそう答えるとプライベート・チャネルを切った。
「ふう……」
俺は懐中時計を見ると二時間目に突入しており、授業終了まで半分を切っていた。
「……ここで時間をつぶすか」
俺はそう呟き。昔、フランスの病院での出来事を思い出していた。
説明 | ||
前回の投稿から一ヶ月……恐らくこんなに更新しなかったのは過去最長だと思います。申し訳ないです。 読者の皆様は呆れてしまって言葉も無いと思いますが、勘弁して下さい。 こんなダメダメな作者ですがこれからも応援してくれると有難いです。 ではどうぞ〜 |
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