リリカルなのは〜君と響きあう物語〜 |
ロイドはフェイトに連れられ機動六課の隊舎に来ていた。
まだ真新しい隊舎の中では書類を持った職員が忙しそうに右へ左へと行き来しているのを見てなんだか大変な感じだなとロイドは思う。
仕事の邪魔をしちゃまずいかと静かに傍を通り過ぎようとしたところ。
いきなり大声で
「この見出しのロゴ何だよ!?“彼女ができました〜”担当者誰だ――!?」
「誰かエイミィさんの所に来週号の原稿を貰ってきて!!」
「今週号のアンケート結果出ました!! やっぱりアレは打ち切りですね」
……
原稿がぁ!!とか編集長何処行った!?とか……何やら妙な声ばかり聞こえる。
管理局ってのは次元世界を平和に管理するための部署だとフェイトに教わっていたがどうも現場を見た感じ次元管理局というより週刊雑誌編集局にしか見えない……。
他にも。
「炒飯30人前出来上がり!! 三丁目の工藤さんの所へ出前行ってくれ!!」
「だぁぁっぁ!!!! ヤバイ、仕入れた鮪が、鮪じゃなく秋刀魚だった……なんで間違えるんだ!!!?」
「え〜、次の料理は寿司に、オムレツ、鯛の尾頭付き、シェフの気まぐれフレンチ料理フルコースに闇鍋をそれぞれ200人前。4時までに第45管理世界まで出前だと!?」
コック姿の人々が厨房で忙しなく料理を作っているし。
なんだかフェイトから聞いて想像していた場所とは若干というよりかなり……。
フェイトにもう一度話を聞こうかと思ったが。
「此処は次元世界を守るための機動六課の隊舎だよ。皆世界の平和を守るために日々忙しく働いているんだ」
としか言わない。
その瞳には“余計な事を知ってはいけない”という言葉が映り込んでいたのでロイドは首を縦にブンブンと振り今見たことを全て忘れようとした。
多分忘れられないと思うけど。
「んっ?、テスタロッサ。今日は非番ではなかったのか?」
歩いてる二人に後ろから声をかける人物がいた。
長い赤毛をポニーテールにし凛とした眼差し、騎士としての気高きオーラを纏う女性、シグナムだ。
「あっシグナム、うん、実は街で次元漂流者を保護したからはやてに報告しにね」
フェイトはシグナムに事情を話す。
フェイトは前もって簡単な経緯を六課部隊長のはやてに報告していたので其処からシグナムにも報告が回っていたのだろう。
「なら、コイツがマグニスを……」とロイドを見ながら呟く。
「おう、オレはロイド・アーヴィング。それでアンタの名前は?」
何処か厳しい雰囲気がクラトスを髣髴とさせるシグナムにちょっと興味を持ったロイド。
ロイドの挨拶にシグナムは僅かに微笑みを浮かべて応えた。
「失礼、挨拶が遅れたな。私はシグナム、六課ではライトニング分隊の副隊長をやっている」
「シグナムか、よろしくな」
シグナムっと。よし、覚えた。
それにしてもフェイトといいシグナムといい此処で出会った女の人は皆美人ばかりだ。
ゼロスが居たら大変だったな。
「ところでアーヴィング。話に聞いたところかなりの剣の使い手らしいな」
シグナムの目つきが変わった。まるで獲物を見つけた獣のごとく。
それに気付かなかったロイドは自慢の愛刀の柄を手で摩りながら今までの冒険を頭に思い浮かべた。
イセリアを出て数々の敵と戦いながら鍛え上げたこの剣術。
死線を潜り抜けた経験を通し未熟だった腕前もそれなりの物になったと自負している。
だからシグナムにハッキリこう答えた。
「ああ、自己流だけどな。強いとは思うぜ」
自信満々に言い放つロイド。
ハッタリでは……ないな。
フェイトもロイドの事を凄まじい剣の腕前と報告していたし、生半可な実力ではマグニスを倒すことも出来なかったはず。
それにロイドから放たれる剣気……。永き時を生きてきたがこれ程の気を放つ相手に出会ったのはどれくらい久々になるだろうか。
シグナムの口元が徐々に綻ばされていく。
コレは剣を交えてみるに限るではないか。
沸々と高ぶっていく剣士としての欲求。此処の所、訓練ばかりで実戦は無かったしいい機会だ。なら早速。
「そうか、なら私と「あっ、ごめんシグナム早くはやてのところに行かなきゃいけないから、行こうロイド」剣を交えようではないか……」
フェイトはロイドの後ろのマフラーを引っ張ってその場から離れた。
グエッと声を上げて引っ張られていくロイド。
あのマフラーを引っ張られると首に大ダメージがある上に呼吸困難にもなってしまうのだ。
徐々に顔色が悪くなっていくロイドに気付かずフェイトはシグナムから一刻も早く離れようとしていた。
シグナムがロイドに興味を抱くだろうとは此処に来るときに既に想像してはいたが案の定だった。
きっとシグナムとロイドが戦ったらすぐに決着はつかないだろうと思う。
今は事件の報告とかロイドの身柄について相談とかやらなければいけないことが多々あるのだ。
試合は後にして欲しいと思う。
「はぁ、シグナムのあの性格も考えものだよ。そうだ、ロイドもし良かったら後で……ロイド?」
シグナムから離れた場所でロイドに声をかけたフェイトだったが其処で漸くロイドの異変に気付いた。
赤い服に対してロイドの顔は反対色の青い顔へと変貌しており目は白眼。口からはカニみたいに泡をふいている。
つまり窒息死寸前。
「キャーーーー!!!! ロイド、ロイドォ!! シャマル、早く来て!!
誰がこんな事を!?」
アンタだ。アンタ!!
◆◆◆◆
医務室に運ばれたロイドは幸い息を吹き返すことに成功した。
なんだか綺麗な花畑と大きな川の向こうで母さんやレネゲードのボータ、プレセアの妹のアリシアが手を振っていたと思う。
もしかしたらかなり危険な状態だったのではないだろうか?
ゾッとするロイド。
ベッドの横の椅子では此処の担当のシャマルがフェイトに「もう、またやっちゃった駄目でしょ」と説教をしている。
“また”?“また”とは何だ? “また”とは。
ロイドの中でフェイトがコレット並みのドジっ子であると新たなデータを入録していると部屋に新たに新しい人が入ってきた。
「あはは、フェイトちゃんのドジにやられるとはアンタもついてなかったな。っと挨拶が遅れたね。私が機動六課の部隊長、八神はやてや。気楽にはやて呼んでや。よろしく、ロイド君」
「私は高町なのはです。なのはで良いよ。よろしくね。ロイド君」
本当なら部隊長室でロイドが来るのを待っている筈だったが部隊長室に向かう廊下でまさかの重態になっているとは。
さすがにそんな身体を引きずって部隊長室まで足を運ばせるのは可哀そうだと思い、お見舞い気分で医務室まで足を運ぶことにしたのだ。
「はやてになのはか。へへ、よろしくな。俺も呼び捨てで良いよ」
ロイドははやてとなのはと挨拶をかわす。
はやては横目でフェイトをチラ見するがフェイトは顔を真っ赤にしてはやての視線から目をそらす。
またドジっ子をやってしまいロイドに臨死体験をさせたばかりなのだ。
出来れば穴を掘って隠れたい気分だろう。
後でからかってやろうと思いながらまずはロイドと話をしなくてはと真面目な顔に作り変える。
「犯罪者逮捕の協力もしてくれたんやってな、ホントにありがとな、おかげで民間人に被害もなく事件解決できたから助かったわ」
事件に巻き込まれた人から六課に感謝の電話が幾つか入っていた。
六課のメンバーであるフェイトがいたためだが事件の解決の立役者はロイドだ。
だからその人達の言葉をはやてが伝えた。
「オレは大したことしてねって。困ってた人がいたら助けるのは当たり前だろ?」
ロイドにとってはそんなことは当たり前の事だ。
もし事件を無視してあの人達を見捨てたりしたらロイドの親父のダイクにぶん殴られていただろう。
困った人を見捨てるような奴に育てた覚えはない!! と。
「ふふ、そうやな。困った人は見捨てたらあかんな。じゃあその話は此処までにして本題や。
ロイド君は次元漂流者なんやってな。
とりあえずこの世界に来た経緯を教えてもらえんか?」
◆◆◆◆
「なるほどな、それで気がついたらこの世界に来ていたちゅーわけか、……たまたま次元の狭間に呑まれた、にしては……偶然にしては気になることが多いなぁ」
ロイドの話を聞いてはやては推測を立てる。
気になったのはその“妙な洞窟”でロイドを誘導しこの世界へ飛ばした人物。
普通なら次元の狭間など天文学的な確率で起こる事。
ロイドが話したその遺跡は元々次元の安定が不安定な場所のようだがそれにしても偶然にしては妙な話だ。
「となるとやっぱり誰かがこの世界へロイドを飛ばした……って事だろうね」
なのはがロイドの荷物を見ると、ロイドの身分証明書に旅の道具一式。
この世界の観光地図まで。
コレを見るとハッキリ言って次元漂流者ではなく唯の観光者に思える。
この荷物を用意したのはその謎の人物なのだからその人物が何らかの目的でロイドをこの世界へ飛ばしたって事は間違いないだろう。
「でもなんでロイドをこの世界へ飛ばしたんだろうね?」
ロイドはその人物の顔も声も知らないのだ。
当然ロイドには目的などわかる筈もない。
はやては顎に手を当てて考え込んでから声を出す。
「……それは分からん。けどロイドを飛ばしたって事はそのうちアッチから接触がある筈や。そん時にしばいて目的を白状させればいいやろ」
もし次元漂流者をポンポンと作り出されては唯でさえ糞忙しい管理局の仕事が更にやばくなってしまう。
もし愉快犯ならコレは許せる問題ではないだろう。
早く捕まえて原稿用紙1万枚に「もうこんなことはしません」と書き取りさせようと心に誓うはやて。
「ただロイド君の世界は管理外の世界でうちらの知らない世界なんや、ひとまずロイド君の世界がみつかるまで少し待ってくれな」
幸いロイドの身分証明書は(偽造っぽいが)あるのだ。
一応この世界で過ごすにも不自由はさせなくていいだろう。
「……ああ、分かった。あわててもすぐに帰れるわけでもないしな、
なあ、此処って街の平和を守ったりする場所なんだよな?俺にも手伝えることないか?すぐに帰れるわけじゃないんだろ。じっとしているのは性分じゃないんだ。
なら俺にできることをしたいんだ」
ロイドは六課に協力を申し出たいと言っている。
フムっとはやては暫し考えてみる。
ロイドの実力はフェイトの報告にあった通りなら戦力として申し分はないだろう。
この部隊の戦力はなのはやフェイトを始め実力者揃いだが戦力が増えるならそれに越したことはない。
この提案を飲むことは簡単だがもう一度ロイドに確認を取ってみることにした。
「でも、この仕事は危険と隣り合わせや。
ロイドが強いってのは聞いているけどそう甘い覚悟でやれるようなモンじゃないで。
できるか?」
一般人であるロイドに危険な目をさせるのは管理局の部隊長であるはやてとして容認できない事だ。
ロイドに覚悟がなければ悪い協力はして貰うわけにいかないだろう。
「…………」
なのはは黙ってそんな二人のやり取りを見ている。
何やら彼女にも考えがある様子。
「心配するなって、これでも“世界”を救う旅を成し遂げたんだぜ。危険は日常茶飯事だったんだ。今更そんなモンにビビるほど軟じゃないぜ」
盗賊や怪物なんてのは山ほど葬ってきたのだ。
その辺の犯罪者程度に今更怯むなんてありえない。
「「「へっ?」」」
世界を救った?
どういう意味か詳しく聞いてみたいと思う3人。
「まあその話は長くなるからまた今度話すよ。それはともかくやっぱり駄目かな、困っている人をオレは放っておきたくないんだ、頼む!このとーり!」
ロイドは頭を下げて頼んでみる。
どーする?とはやてはなのはとフェイトの2人に相談してみる。
「ねえ、はやて、ロイドならきっと大丈夫だと思う。
あのマグニスの殺気にもまるで怯まなかったし覚悟はきっちりできているのは確か。
だから彼の願い、きいて貰えないかな。
それに私は一度直接彼の戦いを見ているんだ。ロイドなら私達の力になってくれると思う」
フェイトは相手を過小評価も過大評価もしない。そんな彼女が推薦するのだ。
なのはもコクッと首を縦に振ることでロイドの協力に賛成の意を表した。
2人もそういうし、ロイドはきっと此処で断ってもしつこく協力を申し込んでくるだろう。
そういうタイプと見た。
もしかしたら一人で勝手に事件に首を突っ込むかもしれないしソレなら最初から手綱を握っておくほうが良いだろう。
「はぁ、分かったわ、ならロイド君が元の世界に帰るまで民間協力者として手伝って貰うことにするわ、でも危険な事はしたらあかんよ」
はやてはとうとう折れてロイドに民間協力者として協力してもらう許可を出す。
「へへ、サンキュー」
「ただし、一人で事件に突っ込むような危ない事はしちゃアカンよ」
はやてがロイドの管理局の民間協力者としての登録書類を準備するよう事務員に連絡を入れた所で今まで様子をうかがっていたなのはがロイドに笑顔で話しかけてきた。
「じゃあ早速、六課の皆と顔合わせしようか。
ついてきて」
「あぁ、わかった。ありがとなはやて、フェイト。行ってくる」
部屋から退室して行くロイドとなのはを見送った2人はなのはの思惑を透かして話す。
「また、なのはちゃんのいつもの癖が出たな。
ロイドの高い素質……アレを鍛え上げてもっと引き出してみたってところなんやろね。
ワクワクって感じが滲み出てたわ」
顔見せって言ってたけど向かった場所が訓練場って事は早速ロイドを鍛え上げるつもりなんだろう。
新人4人と一緒に地獄の特訓をさせられることになるとはまさか思ってもいまい。
はやてはロイドがなのはにボロボロになるまで訓練させられる光景を想像して笑みを浮かべる。
フェイトはう〜ん、と何やら考え込んではやてに一つ気になることを話す。
「マグニスとロイドの戦いを実際に傍で見てたけど正直言ってロイドはまだまだ本気ではなかったと思う。
ロイドの戦闘力は私達のレベルを既に大きく上回っているかと思うんだ。
多分魔法抜きの単純な剣術の実力ならシグナムよりも上じゃないかな。
確か年齢はまだ17歳って言ってたけどどうやってそこまでの力を身に着けたんだろう」
「ふむ。テスタロッサ。その戦闘データを見せてくれ」
「ふぉを!? シグナム! アンタいつの間に背後に立ってたんや!? 驚かせんといて」
いつの間にか背後に立っていたシグナム。
彼女は自分よりも上というロイドの剣にますます興味を持つ。
バルディッシュが記録していたデータを覗くと成程、彼の実力が想像していたものより更に上だとわかる。
歴戦の騎士であるシグナムの目から見ると彼の放った剣技の数々は実戦で磨き上げた物であるのが一目で見て取れた。
その辺の剣術道場で鍛えた所謂アスリート剣士とは違う。
命を懸けた戦いを潜り抜けた者が放つ技の冴え。
古代ベルカの時代の騎士や武士を髣髴とさせられる。
成程、ますます剣を交えてみたいと思うシグナムだった。
「こんなに強かったなんてな。しかもまだまだ本気ではないんやろ?
世界を救う旅をしていたとか言ってたけど、もしかしたら“ある世界”の滅亡を救った世界最強の英雄だったりしてな」
はやて正解。
「こんなに強いのに訓練っているのかな?」
正直言って此処まで強くなったら今更訓練程度で実力が上がるとは思えないのだが。
その時訓練室から。
「ギャアアアアアア!!!!」
ロイドの叫び声の後に何やら大きな爆発音。
モニターを無言で表示させ訓練室の光景を映すとズタボロに成り果て転がっているロイドが映っていた。
ボロ雑巾とかしたロイドを棒きれでチョンチョンと突くスバル。
モニター越しに見られていることに気付いたなのはは笑顔でモニターに話しかける。
「ロイドは単純な戦闘力なら私よりもずっとずっと強いね。
接近戦では私も手も足もまるで出なかったよ。
でも私達の使う魔法には慣れていないみたいだから魔法を使った遠距離攻撃に弱いかな。
其処の所を補えれば正直何処まで化けるか……すごく楽しみだよ」
どうやらいくらロイドが強いようでも訓練で教わることはまだまだあったらしい。
ロイドも暫く新人と共に地獄の特訓を強いられることになりそうだ。
次回 「痛たた、アレ?ここ何処だろ?」
ドジっ子天使登場。
説明 | ||
これで3話目。 にじファンの時の文を書き直す必要がまだまだあるみたい。 感想とか待ってます。 |
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次回も、楽しみにしてます!(ryuujin5648) | ||
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