超高齢者社会
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『大阪市福島区福島の大福病院、大阪市淀川区西三国の三国志病院、岸和田市尾生町の

とある病院、箕面市箕面のさる病院、池田市上池田の猪飼病院、以上大阪府下で5カ所、

昨日、新生児が誕生した病院をお知らせしました』

 

  押すな、押すなや

  キャー、だれやのん、押さんといてェなあ

  ちょっとあんた、横入りしたらあかんやないの、うしろぉ行き

「はーい、病院の建物に入られましたらお静かに願いまーす」

 

「オウ、これが赤ちゃんか、なつかしいなぁ」

「あれ、先月もここで生まれてたんやで、来えへんかったんか」

「ちょっと来れんかったさかいな、赤ちゃん見るのん久しぶりや、触りたいなあ」

 

「はい立ち止まらないで、ご覧になられた方はお帰りください」

 

「掃留さんおめでとう、お孫さんのお孫さんになるんやて? 大したもんやないの、鼻

高々やねぇ」

「海老出さん、来てはったんでっか、おおぜいの人が見に来はるさかい、そっちのほう

が大変ですわ」

 

 

 30年前、第2次朝鮮戦争が勃発した。米は韓国に派兵、その際日本の若者が多数自

らの意思で戦地へ赴いた。不況で仕事に就けない若者は高給につられて、詳しい任務を

知ろうともせず前線に立ったのだ。訓練を受けていない彼らは捨て駒だった。女性も含

まれていた。

 一方、戦争需要により景気は回復し始めていた。家庭を持とうという若者が増えてい

たのだが・・・。

 祖父母の時代から体内に蓄積され続け、受け継がれた化学物質が性ホルモンの働きを

阻害し・・・それは人工授精にまで影響を及ぼしていたのである。

 今や赤ちゃん誕生は逐一報道され、それらの病院には多くの人が詰めかけ、久しぶり

に見る赤ん坊の仕草に目を細めて帰るのであった。

 

 

「あれ、山谷さんも来られてたんですか」

「ああ、海老出さん久しぶりでんなあ、何年ぶりやろ」

「奥さんが亡くなられて、35年になるんとちゃいますか」

「そうでんねん、忘れられまへん。節分の恵方巻きにかぶりついてる時でしたわ。岳子

のやつ、いきなり喉詰まらして息できんようになって、助けられんかったんは悔しかっ

たです・・・ご主人、元気でっか」

「いーえー、バイクで事故起こして・・・もう1年になります。退職してからな、後ろ

にアテが乗って、時々ツーリングに行ってましてん。その日はあんまりにも寒いんで、

アテは行きまへんでしてん。ほしたらうちの人高速を逆に走りましてな、トラックが近

づいて来て、バイクやから((避|よ))けれそうなもんやのに、壁にこすって転んで無残な姿でし

たわ。まだらボケやったんです。もう90歳でしたから」

「それはお気の毒でしたな」

 

 山谷富士夫の顔のしわのひとつが、きらりと光った。

「海老出さん・・結婚してください! あなたは美しい、その刻まれた歴史には、あじ

わいを感じます」

 

 海老出鯛子は、ポカンと口を開けたまま固まってしまった。

「ワテら、学生運動で大学のアカデミックを改革し、高度成長に大いに貢献。『年金払

ても損するだけや』いうもんたちの生活や教育を支えてきて・・・、

 同志よ! ワレワレはあー、ニッポンのおー、繁栄のためにいー、

 この命、明日をも知れないからこそ、純粋で情熱ある愛を捧げることができるんです! 

 鯛子さん、結婚して子供を・・・」

 

 長寿医療は、かなり進歩していた。

 しかし、山谷富士夫は気づいていなかった。

 生殖医療の技術で、己が可能であるなら若者にはもっと容易である、ということを。

説明
社会風刺
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