【Ib小説】憂鬱な色に沈む【ギャリイヴ】
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( 忘れられた肖像ED後、大学生になったイヴの記憶が戻っている設定 )

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あの人の死に様を、ふとした時に考える。例えば、背の高い男性とすれ違う時。レモン味のキャンディをもらった時。マカロンがありそうな可愛いカフェを見かけた時。あの人の欠片を感じる度に、私はどうしても、あの人の死に様を想像してしまうのだ。

 

穏やかな風の中、イヴはぼんやりと青い空を眺めていた。昼下がりの公園。子供たちのはしゃぐ声。柔らかな日差しが聴覚をゆっくり曖昧にする。このまま、時が止まればいいのに。視界いっぱいに広がる青に、イヴは意味もなく強請った。

 

私はあの人が、どんな風に命の灯を消したのかを知らない。見ていないから。あの人が苦しそうに笑って、先に行ってと囁いて、拒絶することが無意味だと、わかってしまって受け入れて。散らばった花弁を掻き集めても、閉じた瞼は開かない。何度、何度も、揺すっても叫んでも、あの人はただ、冷たかった。

 

時間にすればほんの数十分。その間にあの人は、とても遠くへ行ってしまった。まるで世界が裏返ったように。この手はもう、あの人に届かないから、だからひとりで考えるしかないのだ。あの人は、どんな風に、死んでいったのだろう?

 

苦しんだのかな。痛かったのかな。確か胸を、掴むように押さえていたかな。締めつけられていたのかな。切り裂かれていたのかな。鈍い痛み?鋭い痛み?息は?できた?思考は?止まった?ねぇ、ねぇねぇ、ねぇってば。

 

「……………ギャ、リー」

 

小さく、とても小さく、壊れないようにあの人を呼ぶ。遠い記憶を手繰り寄せ、必死にあの人の声を思い出す。なぁに、イヴ。細い瞳を優しく閉じて、笑うあの人の穏やかな声が、撫でつけるように耳を掠める。

 

ねぇ、ギャリー。何度、何度も、願っても叫んでも、貴方はひたすらに、遠いままで。

 

「ギャリー、ねぇ、わからないよ…」

 

頬をくすぐる温かな風。日差し。楽しげな笑い声。あの不思議な世界に存在しなかったもの。あの人と共に感じることが、叶わなかった世界に私はいる。ひとりぼっち。右手を緩く握り締めても、そこには決して何もない。

 

ギャリー、ギャリー、わからないの。世界はとても穏やかで、貴方がいなくても優しくて。貴方が握り返してくれないから、だからまるで、いまだにすべてが夢のようで。

 

九歳の子供が大学に通い出す、そんなにも長い時間があっという間に流れ落ちて、暗い穴の中に少しずつ、時間が溶けていくようで。そう、私は恐ろしかった。記憶と共に更に遠ざかる貴方が、容赦ないこの現実が。だから、だから、ね、どうしても、縋ってしまうの。

 

(貴方の、最後に、私は、いた?)

 

閉ざしそうな唇で、名前を呼んでくれたかな。息が苦しかったなら、思い浮かべてくれたかな。目が開かなくなったなら、瞼の裏に描いてくれたかな。ねぇ、ギャリー、最期の、最後に、貴方の世界に私は。

 

「ギャリー…!」

 

壊れてしまわないように、浚われてしまわないように、大切に大切に、名前を呼ぶ。顔を覆う掌は、あの頃よりも大きくて、けれど結局ちっぽけで。頬を伝う熱に溶けることもなく、小さな声はゆっくりと、青い空に吸い込まれていく。このまま、声が枯れればいいのに。頭上に広がっている青に、イヴはどうしようもなく強請った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

憂鬱な色に沈む

 

 

( 縋るように もがく私は 実に滑稽で )

 

 

 

説明
*忘れられた肖像ED後、大学生になったイヴの記憶が戻っている設定 *シリアス注意 *html版→http://shiki.lomo.jp/ib02.html
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