IS~音撃の織斑 三十四の巻:心身と血の流動 その二 |
「ふー、久し振りに良い気分だ。」
数馬がジュースを飲んで喉を潤していた。
「ああ、胸がすかっとした。とりあえず鈍っていなくて何よりだよ、全員。」
一夏はコーラを啜って満足そうに三人を見やる。
「お兄、頭大丈夫?あんな頭でやる技って・・・・禿げるよ?」
「その事に関しては問題無い。少なくともお前より髪の毛はあるからな。」
「お兄、死にたい?」
「はっはっはっはっは!一本取られたな、蘭!」
「一夏、凄かった・・・・・」
「うん。私でもあんなの出来ないよ?」
「まあ、やろうと思ってやれるモンでもないからな。やって見ると意外と面白いが。」
「いやいや、一部結構命懸けだぞ?俺なんか一回ヘッドスピンの途中でバランス崩して首がイカレちまったんだから。」
「素人の癖にやろうとするからだよ、弾。一夏が僕らとは出来る技の次元が違う事位分かってるでしょ?」
落ち着いた声で数馬が嗜める。
「もう少しここにいるか、一夏?」
「微妙な時間帯だからな・・・・俺達は兎も角、蘭は家に帰した方が良いだろう?もし夜に魔化魍が出たらシャレにならない。こっちはまだ後二日は残ってるからな。出来るだけ満喫したい。休暇中だから、この二人に筋トレその他を禁止されてるからな。俺が働き過ぎだとさ。」
「へー・・・やっぱ夏は忙しいんだな。」
数馬が感慨深そうに言ってジュースの残りを飲み干した。
「さて、まだ少し帰るには早いかもしれないが、二人はどうしたい?」
「私は、ちょっと一夏君と踊ってみたいかな??何と言うか、音の流れを掴むって言うのが何か分かった気がする。」
「ほーう?」
楯無の挑戦的な物言いに一夏もにやりと口角を吊り上げる。
「じゃあ、やって見るか?」
「良いわよ?でも、スローな曲が来たら簪ちゃんにバトンタッチね?」
「ちょ、お姉ちゃん!私ダンスなんてやった事無いよー!」
簪がワタワタと顔を真っ赤にして慌て始めた。
「こけたらカッコ悪いし・・・」
「そんな事は絶対無い。俺がリードする。慣れの問題だ、なあ?」
意味深に蘭と数馬を交互に見ると、楯無の手を握ってフロアに向かった。丁度曲が終わったらしく、少しインターミッションが入っている。
「どういう風に踊る?」
「私が合わせてあげる♪」
「オッケー。随分と自身がおありの様だな?曲は俺がリクエストするけど。」
「良いわよ?」
一夏はDJの所まで歩いて行き、テーブルに乗っているラップトップで何やらキーを操作し始めた。
「さて、行くぞ、楯無?弾、キャップ借りるぞ。」
二人はダンスフロアの中心まで移動し、音楽が始まると同時に二人は歩き始めた。二人は挑戦的な動作で互いの顔を突き付ける様に接近させ、時には殴る様なジェスチャー、時には如何にもと言う様な扇情的な動作。一夏はワルそうな男、楯無は情熱的な女。二人はその様に振る舞い、息ぴったりのダンスを披露した。
「結構やるな、お前も。」
「一夏のリードのお陰♪」
間髪入れず、今度はスローな曲が流れ始めた。
「簪、おいで。」
差し伸べられた手を、簪はゆっくりと掴み、一夏はゆっくりとステップを踏んで簪をリードした。簪は一夏の取る行動に度々顔を赤くするが、そう思う間も無く次の動作へと進んで行く。最後は胸に手を当てて簪の前に跪いた所で曲が終わった。二人は拍手と指笛の雨霰に捉われた。
「面白いだろう?ダンスってのは、間違ったやり方は無い。好きな様に踊れる。そして人と心を通わせる事が出来る、コミュニケーションの方法の一つだ。まあ、好きな曲ってのは人それぞれだけど。」
「うん・・・・でも、やっぱり恥ずかしい・・・・・・」
「悪い悪い。良い時間だし、俺達もそろそろ帰るか。」
スタジオを後にし、一夏は三人と別れて帰路に着いた。
「楽しかったわ、あの踊り方、癖になりそう。」
「程々にな。」
二人の手を握って帰る途中、一夏は微かに足音を耳にした。夜に魔化魍が出たとなれば、二人を守りながら戦うのは難しい。何より、もし誰かに見られたとなれば更に面倒な事になる。一度立ち止まると、間違い無く足音を聞いた。それも、自分達にかなりのスピードで接近している。そして一夏の鼻を突いたのは、何かが焼ける焦げ臭い悪臭・・・・
「二人共、隠れろ。」
低い声でそう告げると、一夏は音角を取り出した。楯無は簪を連れて物陰に身を潜める。
「はああああああ・・・・・ハッ!」
瞬時に変身し、白蓮を使って振り向き様に走って来る魔化魍、カシャを力一杯殴り付ける。炎の車輪となっていた状態が解除され、体中に文字をあしらった二足歩行の白い犬の様な化け物が現れた。
「うし、やって見るか。はあああああ・・・・・」
一夏の体がバチバチと激しく放電し始め、それが手先から二の腕、二の腕から肩と徐々に伸びて行く。右手を空に掲げ、そこに落ちた巨大な赤い稲光が、一夏の姿を変えた。全身が荒々しい真っ赤な獣の様になり、隈取りと二の腕が黒く変化した。これが強化された荊鬼・((朱天|しゅてん))である。
「やった・・・・これが・・・・二段変身・・・?!うらあ!!」
拳をダウンしたカシャの頭に叩き付けた。打撃を行う度に電流が走り、カシャは苦しみ始めた。
「グエエエン!グエエエン!!!」
「逃がすかよ!音撃打、((雷神散打|らいじんさんだ))!」
炎零天を使わず、そのままカシャを太鼓に見立てて叩くと、清めの音が流れ込み始めた。縁の部分も加えてスピーディーに叩いて行き、最後に一度大声で鳴き声を上げながら土塊になって散った。だが、変身を解いた一夏を異変が襲った。突然左の背面に痛みを感じ、それが胸にまで伝わって来る。見下ろすと、左胸から刃が自分を後ろから貫いている事に気付いた。
「な・・・・ん、だと・・・?!」
喉の奥で血の味がした。
「「一夏!!!!!」」
二人の悲鳴を聞き、一夏はゆっくりと振り向いた。そこには、虚ろな目で自分を刺し貫く刀を手にした幼馴染みの、箒の顔があった。
「一夏は私の・・・・私の、私の幼馴染み・・・・渡さない・・・・渡さ、ない・・・」
壊れたテープの様に何度もまごつきながら呪詛の様にそれを繰り返した。
「お前・・・・とうとう、トチ・・・・狂ったか?」
一夏はがっくりと膝をつき、倒れた。そこから血が一気に広がり始め、箒に抱きつかれた。愛おしく一夏の頭を撫でて頬擦りを始める。
「これで、私の・・・・一夏は・・・・私の物だ・・・あはは、はははは・・・」
「ふざ、ける・・・なよ・・・・」
一夏は彼女の手を振り解こうとしたが、上手く呼吸が出来ず、力も入らない。恐らく肺を貫かれたのだろう。だが、一夏は獣の様に吠えながら箒の腕を振り解き、当て身を入れて顎に肘を叩き付けた。
「一夏!!!」
簪は目から涙を溢れさせながら一夏の背中を支え、応急処置の止血をしようとしたが、一夏の体温が下がり始めて焦りを覚えた。
「死なないでよぉ・・・・一夏ぁ・・・!」
「心配するな・・・これ位で死ぬようなら、とっくに死んでる。肺を貫かれたのは、確かだな・・・・しかし、まさかあの時点で襲われるとはな・・・・俺もヤキが回っ、た。」
簪の頭を撫で回し、頬に手を当てた。その手は恐ろしい程冷たくなっていた。
「今、救急車を呼んだから、頑張って!!喋らなくていいから!」
楯無も涙で顔をぐしゃぐしゃにしながら一夏を揺する。
「これはギリギリかもな。傷口を押さえてるが、この様子じゃ止まらない。悪いな、二人共・・・・・今頃になって分かった事がある・・・・・あいつは、箒は俺の事が好きだったんだ。俺がアイツを庇ったあの日から・・・・なのに俺はそれに気付けなかった。昔から恋愛には疎い方だったからなあ・・・・・う、く・・・」
痛みを堪えながらも一夏はそう語った。
「あいつに、言っといてくれ。気付かないで済まなかったってな・・・・確かにアイツは俺を殺そうとした。が、元はと言えば俺が気付いてれば避けられたんだ・・・・アイツを、責めないでやってくれ。」
再び血反吐を吐きながらそう頼み、一夏は視界が霞み、体の感覚が無くなって行くのを感じた。
「二人共、ありがとうな・・・・・」
二人の頬に触れていた両手がどさりと地面に当たり、動かなくなった。二人の声も調子の悪いラジオの様な雑音にしか聞こえず、意識を手放した。
(あーあ、死にたくねえな。もっと一杯やりたい事あったんだがなあ、あの二人と。一人ずつデートに連れて行って、それから・・・・・)
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今度は一夏x楯無、一夏x簪のデュエットです。そして壊れた箒は?! | ||
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コメント | ||
なん・・・だと・・・(銀ユリヤ) え?(MAK) 一夏、ログアウト・・・(デーモン赤ペン) |
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