MATERIAL LINK / 現代の魔法使い達01
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1 現代の魔法

 

 

 魔法呼ばれて多くの人々がイメージするのは、古ぼけた杖を使って遠くの物を動かしたり、ヘドロみたいな色をした大窯を、真っ黒なローブを着て夜な夜な掻き混ぜていたり、そんな想像をするヒトが多いだろう。過去に魔女と呼ばれた人物だって居たわけだし、あながち間違いではないとは思う。

 実際、そういうイメージが一般的なものだ。

 では、魔法使いと言ってイメージするのはどのようなものだろう?

 古き良き西洋のイメージでなぞらえるなら、まずは体全体をスッポリと覆うようなローブは必須だろうか。身の丈ほどの大きさの杖も必要かもしれない。もしかしたら、服の中に変な液体が入った小瓶なんて小道具も用意しなければならないだろう。

 この2つのイメージを重ねれば、ほら、魔法使いの完成。

 などと、そんなわけない。

 このご時世、そんな酔狂な格好して、酔狂な実験みたいなことをやってるヤツなんて居るはずもないし、居てもあまりお友達にはなりたくない。危険なニオイがプンプンする。

 想像してみよう。大窯がないからって、ステンレス製の鍋でヘドロ色の物体を煮込んでいる様子を。

 どうだろうか? 完全に、デスクッキングをしているようにしか見えない。例え、絶世の美女や国民的美少女と呼ばれる女の子が作って食べさせてあげると言っても、全力でお断りだ。命は粗末にするものじゃない。

 さておき、魔法の話だ。

 現在2030年の春。具体的には、4月の頭で高校の入学式当日。

――魔法は、存在している。

 

 

 

 

 ゆったりと頬を撫でる『熱風』を纏ったそよ風が――鼓膜を破るような轟音と共にグラウンドに突き刺さった。

 本日ハ晴天ナリ。

 なんとなくいたたまれない気分になり、視線をズラすと――空に向かって地面から雷が伸びていた。

 朝食は食パンと牛乳。あと、賞味期限ギリギリの安売りベーコン。

 視線を戻すと――何かデッカイ石柱が正面に立っていた。

 ニュース番組のアナウンサーのお姉さんによると、本日の運勢は良好。

 背後へ振り返れば、氷で出来た美女の彫刻が立っている。ちなみに裸。

 ただし、頭上には注意とのこと。

 空を見上げれば――、金髪の少女が降ってきた。

「――邪魔よ!」

 そのまま自分にぶつかり、ラッキースケベ的なイベントが起こるわけでもなく、少女はヒラリと空中で体制を整え着地。彼方へと姿を消す。チラリと見えた水玉色の布生地は、この絶命的な状況に対する自分へのご褒美と思っておこう。

 その間にも、野球ドームが2、3個は入りそうな広さを持つグラウンドでは阿鼻叫喚が渦巻いていた。

 飛び交う光弾。

 渦巻く流水。

 燃え上がる火球。

 この全てが、魔法によるものだ。

「MATERIAL LINK(マテリアルリンク)」

 それが、現代に置ける魔法の正式名称。通称、ML。

 今から三十年ほど前に、突如『海』と呼ばれる大規模ネットワークが発生した。

 このネットワークの発生により、世界の技術レベルは一変。瞬く間に発展を遂げる。

 また、海が世界に与えた影響は技術レベルには留まらなかった。

 ある日を境に、海にアクセスすることによって、超常現象を発生させることのできる人々が現れる。手を触れずに物を動かしたり、何もない空間から炎を生み出したり。つまり、現代の魔法使いだ。

 これにともない、各国政府は魔法に関する研究と機関、若年層を対象とした教育施設、法令の整備などを早急に行い、世界はあらゆる意味での新時代を迎えることとなる。

 そして、現在。

 この戦場と見間違える状況となっている場所は『国立南ヶ丘学園』の屋外グラウンド。

 本日は、入学式である。

「そこー! 突っ立ってると流れ弾食らうぞ!」

 なとど外野の教員から声が飛んでくるが、入学式である。正確には、入学式のオリエンテーションと言ったほうがいいだろうか。

 魔法使いを育成するための教育機関である南ヶ丘学園の伝統とも言われる行事。簡単に言えば、新入生VS在校生による魔法合戦だ。策略あり、魔法あり、勝利条件は相手をノックダウンするか腕に巻かれた色違いのスカーフを奪うかの集団バトルロワイヤル。軍務関係の進路を希望しているのならまだしも、学者勢にとっては地獄の洗礼。一応、魔法の使い方と有効性及び危険性を実践を通して学ぶ、という大義名分があるらしいのだが。

「参加してる身からすれば――帰りたい」

 ぼやきながら、なるべく安全そうな場所を探してグラウンドを掛ける。

 隣を同じ新入生らしき男子生徒が飛んでいったような気がするが、気にしていてはこっちがヤラれるのだ。南無三。

 しかし、ヤラれる前にヤレといった度胸も実力も持っていない自分は、こうして安全地帯へ向けて全力疾走するのが精一杯。このままでは、遅かれ早かれ先ほど飛んでいった男子生徒の二の舞である。既に砂や泥で悲惨なことになっている下ろしたての男子制服が、コレ以上残念なことになるものよろしくないのだ。新しいものが届くまで、入学早々体育服で授業を受けるハメになる。

「……想像して嫌になった。いや待て!? 今日は体育服なんて持ってきてないから、最悪パンツ一枚で下校じゃないか!?」

 さもありなん、パンツが残っていればの話だが。

 

 全力で脳裏に浮かべてしまった最悪の未来を振り払いつつ、誰かが造った石柱の影に滑りこむ。

――途端、先ほどまで頭のあった位置を、オレンジ色の閃光が通り過ぎた。

「おいおい、マジで死ぬって……」

「死ぬわけ無いでしょ? ここにいるってことは、魔法使い。障壁張ればいいじゃない」

 誰だか知らないが簡単に言ってくれる。あんなバカみたいな速度の光線、恐らく熱エネルギーを圧縮したものだと思うが、障壁張る前に撃ち抜かれて終わりだ。

 降りかかった埃を払いつつ、声の主へ視線を向ける。

最初に視界に広がったのは、どこかで見たような金の髪。勝ち気そうな印象を受ける黄金の瞳は燦爛と輝き、少し幼さが残るものの十二分に整った容姿と肢体は、魅了の魔法にでもかかっているかの如く見る者の視線を離さない。

掛け値なしの美少女というものは、きっと彼女のことを言うのだろう。身に纏っている制服と腕に巻かれるスカーフの色を見る限り、自分と同じ新入生のようだ。

 なぜか彼女は、ターゲットを仕留め損ねた殺し屋みたいな目をしてこちらを眺めていた。

「仕留めたと思ったんだけど…‥、悪運強いわね」

「――って、さっきの光線お前の仕業かよ!?」

「はい、私の仕業です。というわけで、今度こそ――当たってね?」

「うぉい!?」

 直ぐ様その場を飛び退くと、背後にあった石柱に野球ボール大の穴が開いていた。しかも、煙と岩が溶けたジューシーな音付きで。

「オイコラ、何で新入生の俺を狙うんだ!? 風穴開けるなら上級生の方だろう!?」

「いや、折角の入学レクリエーションだし、今後の為に泊を付けておきたいじゃない? 最初の掴みが肝心っていうか、とりあえず伝説でも作っておこうか的なノリで。新入生及び参加者全員――ぶっ飛ばすとかね」

 おーけー、コイツ見た目と違って中身がクレイジーだ。

 というか、どこかで見た金髪だと思ったら、

「さっきの水玉か」

「はい?」

 ヤバイ、と思った時には既に遅し。

 彼女は一瞬考えこむような仕草をとった後、直ぐ様頬を真っ赤に染めてスカートの裾を抑える。その姿は可愛らしいが、変な死亡フラグ立てちまった。

「――死ね」

「だが断る!」

 避けた! 避けたよ! 髪が少し焦げたけど、人間頑張れば光線避けれるものなんだね!

 などと思った瞬間、前言を撤回したくなった。

「――接続(アクセス) 光熱収束鏡(コードアイギス)」

 甲高い音を立てながら、少女の周囲に大小計四対、光のレンズが展開される。レンズに収束された光は、砲身を形成するように配置されたレンズへと飛び、循環、反射を繰り返し、膨大な熱量を伴った光弾へと変化する。

「……マジ?」

「大マジよ」

 あれだけの熱量を制御していることもそうだが、光熱エネルギの反射を全て計算して、なおかつ循環、収縮、放出させるなんて真似事、常人にはとてもじゃないが真似できない。彼女の占有トラフィックと所有メモリは、新入生の中でも群を抜いてトップクラスだろう。

 もしかしたら、この学園全体でも上位に位置するかもしれない。それだけの高等技術を、彼女は一瞬にしてやってのけたのだ。

「撃つ前に忠告しといてあげる。さっさと障壁を張りなさい。そうすれば、保護システムが作動しているここなら死にはしないから」

 砲身の中の光が、出番はまだかまだかと膨張する。彼女が一言命令すれば、岩を貫通する程の衝撃と熱量が自分に向かって牙をむくことになるだろう。それに、あれだけの速度だ。今度はもう、避けれるなんて甘いことは思っていない。

 どうあがいたって、保健室行き&パンツ一枚で下校確定なのだ。なら、

「――装填(GET SET)」

「一応、同じ新入生のよしみで名前くらいは聞いておいてあげるけど、自己紹介でもしてみる?」

 確定された勝者の余裕というヤツか、サディスティックな笑みを浮かべながらそんなことを言ってくる金髪。いいだろう。ノってやろうじゃないか。

 小さく、息を吐く。吸う。吐く。もう一度、吸う。そして、

「1年2組所属予定の久我真! 童貞だ!」

 あ、また顔真っ赤にして固まった。

「――発射!(リリース!)」

 怒声と共に、迫り来る四条の光と熱の放流。

 大丈夫だ。

 既に、海には接続した。

 必要なデータを取り込む時間も稼いだ。

 トリガーにも指を掛けた。

 さぁ、仕上げの言葉を紡ごう。

「言っておくが――、俺は障壁なんて張れねぇよ! 入学試験最下位の落ちこぼれナメるな!」

 ギアを廻せ。

――最弱にして最強(アクセスコード) お伽話の魔法使い(マテリアルリンク)。

 

 

 視界が白に染まり、鼓膜の震えが静止する。

 意識が途切れる寸前に見えた、金髪の妙に驚いた顔が可笑しくて、

「――ああ、パンツ下校確定か」

 そんな自分の呟きに自笑しつつ、夢の中へ旅立つのだった。

 入学オリエンテーション結果、ノックダウン。

 損害、下ろしたての制服と羞恥心。

 自己評価、自分にしては頑張った方。

 結論、あの金髪いつか啼かす(誤字にあらず)。

 

 

 

 

説明
突如『海』と呼ばれる大規模ネットワークが発生した。
このネットワークの発生により、世界の技術レベルは一変。瞬く間に発展を遂げる。
また、海が世界に与えた影響は技術レベルには留まらなかった。
ある日を境に、海にアクセスすることによって、超常現象を発生させることのできる人々が現れる。手を触れずに物を動かしたり、何もない空間から炎を生み出したり。通称ML、現代の魔法使い、進化した人類。ネットワークヒューマン。
これにともない、各国政府は魔法に関する研究と機関、若年層を対象とした教育施設、法令の整備などを早急に行い、世界はあらゆる意味での新時代を迎えることとなる。
そして、現在。
魔法教育機関の一つである、国立南ヶ丘学園の入学式。
これは、思春期の魔法使いと魔法少女たちの物語である。

※この作品は小説家になろう様にも投稿させて頂いています。
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