暑い日、寂しい気持ち
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 前に叔母と姪の関係ということに気づかされた、同い年の女性二人。

色々不明瞭な部分が明らかにされて、逆に清々しくいらえることもあった。

 

 彼女の紅葉(クレハ)と私こと、早矢女はお互いの仕事が忙しくて同じ家に

住んでいてもなかなかスキンシップをできないでいた。

時折、暇を見ては話はするが、それ以上のことがまるで出来やしない。

 

 私の心の中はもやもやが溜まっていた。紅葉の方は寂しいと思ってくれないのだろうか。

そんな、子供じみた不安が広がっていく。

 

 真夏の日差しがきつくて、休日は冷房を強めにかけてごろごろしている。

普段フル回転している脳みそを休ませるのにはちょうどいい時間である。

これで紅葉がいれば大満足なんだけどなぁ。

 

 社会だとしっかり者と言われるけれど、私生活に入ればけっこうぐうたらだったりする。

いや、ぐうたらでもなかったか。紅葉がそこに居てくれるだけでしっかり出来てた

気がする。

 

「はっ・・・それって私は紅葉がいないとダメになるってことじゃない!」

 

 あの子を支えなくちゃって思っていた私はどこへ行ったのだろうか。

ちょっと凹んでいたのに更に気分が落ち込んでしまうではないか。

 

「ただいま〜」

 

 その時、聞きなれた声が玄関口から聞こえてきた。まだ帰ってくる時間ではないのだが。

もしかしたら、寂しさのあまり私の耳に届いた幻聴なのかと思われたが。

もう一度、同じ声が聞こえてきたから、本人のものだと確信できた。

 

「くれはっ・・・」

「こんにちは〜」

 

 紅葉の横には小さいお子様が元気よく私に挨拶してきたので、私は紅葉に甘える気

満々でハグをしようとする体勢を戻して笑顔を作り直した私は、お子様に挨拶を返した。

心の中では舌打ちをしたが。

 

「はい、こんにちは〜」

 

 私たちのやりとりを見た紅葉は嬉しそうに微笑んでいるのを見てしまうと、

そんな自分の心の中の態度に反省するのであった。

 

「せんせー、今度はこれで遊ぼう」

「うん・・・」

 

 言葉は少ない彼女も、態度が柔らかいからか子供達に人気があるようだ。

だから二人のやりとりをしながら何だか落ち着かない上に胸がもやもやしている。

 

(子供相手に何をムキになってるのやら、私は・・・)

 

 頭の中も上手くまとまらない私は、少し顔を洗ってスッキリしようと思い。

洗面所の鏡を見る。やや、薄い青みのある髪と瞳。涼しげのある色合いに対してこの

きつい面構え。

 

「普段はこうじゃないのに・・・。いや、自分はそう思っていても実はこうなのかも」

 

 ちょっと凹む。紅葉が良い方に変わってから、私は悪いほうへ向かっているように

感じる。

 

「前の方がよかったかな・・・」

 

 いや、それは私の勝手で紅葉にとっては今の状態が良いはずだ。悩んで私にしか

頼れなかった彼女にとっては・・・。

 

「はぁっ・・・戻るか」

 

 気持ちを整えてお子様と紅葉のいる部屋に戻って二人の様子を眺めている。

いつまで続くんだろう。紅葉の膝の上に頭を預けて戯れている子供に軽く嫉妬を覚える。

 

「せんせー、ばいばい〜」

「ばいばい・・・」

 

 それからしばらくして、子供は母親が迎えに来て帰っていった。けっこう礼儀正しい

母親のようだった。共働きで預ける場所がなくて、紅葉に電話をしたら了承をしたらしい。

 

 仕事だと思っていた今日は実は休みだったようだ。会社で缶詰みたいに仕事していると

時々曜日感覚がおかしくなるなぁ。

 

「ごめんね、早矢女」

「別にいいよ」

 

 軽く嫉妬していても、それ以上の感情は湧いてこなかったし。本当に別にいいよって

感じではあった。彼女を見つめるととても瞳が輝き生き生きしているようで。

私には少々眩しい。

 

 私にとっては太陽のような存在。燃え上がるように赤い髪と瞳と違いとても静かで

繊細な子なんだ。けっこう過酷な教育の仕事に長く続くか心配していたが、それも杞憂で

あった。

 

「待って、早矢女」

 

 部屋に戻るとテーブル前にちょこんと座って膝の上を手でポンポンと叩くと。

 

「したいんでしょ? さっきそういう風に見えた」

 

 何を、というのを言わないわかりにくい彼女の言葉は私の心にすごく沁みる。

その通りだったし、嬉しいし、でも悔しいし。色んな感情がぐちゃぐちゃになって

私は目に熱いものがこみ上げてくるのを感じた。

 

「どうしたの?」

「・・・」

 

「早矢女?」

 

 そんな優しい声を聞くと、寂しい私の気持ちが爆発しそうで怖かった。

でも、彼女はいつも手を広げて待っていてくれているんだ。変なことに意地を

張っていた自分がバカみたいだった。

 

「くれはぁ・・・」

「泣いてるの・・・?」

 

 情けない声を上げて私は紅葉の方に額を乗せる。涙でボロボロ流れている顔を

見られたくないっていう感情が無意識にそうさせているのか。

 

 でも、ここんとこイチャつけなくて、溜まっていたものが一気に噴出したのか。

紅葉にずっと言いたかった言葉を呟いていた。

 

「今日はずっと紅葉に甘えさせて・・・」

「うん、いいよ」

 

 少し低い声だけど、とても温もりを感じる声が私の心をそっと包み込んでくれる。

涙で頬を濡らしつつ、私は紅葉の頬に軽く口付けをする。その後に、ギュッと

彼女を抱きしめる。Tシャツとジーンズの単純な格好。でもそういう大雑把なとこも

好きだったりする。

 

 抱きしめた際に柔らかさが伝わり、少しずつ気持ちが落ち着いていくようだった。

その時だ。紅葉の手が急に私の背中に回して力強く引き寄せてくる。

 

「あ・・・ん・・・」

「んぅ・・・」

 

 紅葉からキスをされ、その後に舌を口内へと這わせてきた。

紅葉から積極的に何かをされることはほとんどないから、私は内心驚いていたが。

一生懸命に私を気持ちよくさせてくれようとする気持ちが伝わってきて、また涙が

溢れそうになる。

 

「んん・・・!」

 

 お互い、貪るようにしていた接吻を終えて放すとツゥッと糸が引いた。

すごい興奮した状態が続いたものだから、息を整えるのにも少し時間がかかった。

 

「早矢女」

 

 私。と真剣な表情で呟く紅葉を見て、荒かった呼吸も思わず止まってしまう。

しばらく溜めると、紅葉は照れくさそうに人差し指で頬を掻いてこう言った。

 

「ずっと、早めに甘えてばかりだったから。これからはもっと・・・早矢女が

甘えられるような私になるように頑張るから。もっと幸せになりたいから」

 

「ふっ・・・ふふ」

 

「早矢女?」

 

 もう既に私は紅葉に甘えていたことに気づかなかったのだろうか。なくてはならない

存在で、こうやっていられるだけで私は幸せだということも。

 

「私、これ以上幸せになったらどうなるのかしらね」

 

 笑った後に、もう一度軽く紅葉の唇に触れると。いつもの元気な私に戻ったような

気がした。お互いに気持ちよくさせたくて、幸せになりたくて。そんな気持ちが

通じただけで、こんなにあっさりともやもやが晴れるなんて。

 

「ずっと貴女という存在に甘えて癒されていたのよ。気づかなかった?」

「早矢女・・・」

 

「嬉しいわ、紅葉」

 

 ようやく私の言葉の意味が通じたのか。紅葉も顔を赤らめながら、それでもやや無表情。

いや、うっすらと笑みを浮かべているのに気づいた私は。

 そんな可愛い紅葉をもう一度味わおうとしたときだった。

 

ガタッ

 

 という物音がして、二人でその音がした方向へ視線を向けると。さっき帰ったはずの

女の子が顔を真っ赤にして私達を見ていた。いや、正確には両手で隠している

つもりだろうけど、指の間からはしっかり目が見えていた。

 

「なな、なんでここに」

「あのね、忘れ物しちゃったの」

 

 そういうと、女の子は私達の傍にあった絵本を持ってそそくさと出て行こうとしたのを

紅葉はすぐに気づいて追いかけていった。いきなりすぎて何が起きたのかわからなかった

が、シーンと静まり返った部屋の中、私は本当に滅多にない気恥ずかしさに悶えそうに

なったのだった。

 

 これを機に私達のことをこっそり話しに付け加えて、仕事仲間から評価をもらったのは

また別のお話で。

 

「また休みの日が重なったらどこか行きたいねえ」

「私は早矢女がいればどこでもいいけど」

 

 手を繋ぎながらスーパーへ向かい、献立を考えながら先のことを二人で想像するのが

日課になったのだった。

 

お終い

説明
昔書いた同い年の叔母と姪の話の続き。とはいっても、
読みきりなので前のを見なくても何の問題もないっていう。
早矢女・シナリオライター 紅葉(くれは)・保育士(?)
の二人のほのぼの百合SSです。
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タグ
百合 依存 夫婦 

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