Masked Rider in Nanoha 三十三話 結ばれる絆 繋がる思い
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 朝日がカーテンの隙間から差し込む室内。そこにある二段ベッドで五代と翔一が寝ている。そしてソファベッドにも誰かが横たわっていた。その人物は、窓から差し込む光に若干見じろきするが起きる気配はない。

 代わりに二段ベッド上段で寝ていた五代が目を覚ました。上段で寝ているので窓からの光が入ってくるために大抵彼が一番に目を覚ますのだ。翔一は下段なのでその光があまり差し込まないので五代より早く起きる事は少ない。

 

 五代は静かに目を覚まし、天井に腕を当てないようにしながら伸びをした。若干眠いのか目を細めたまま、彼はゆっくり梯子を下りて窓のカーテンを完全に開け放つ。

 

「……翔一君、真司君、朝だよ」

 

 その声にソファベッドに寝ていた真司が目を覚ました。翔一も同じように目を覚まし、その場で伸びをしようとして上のベッドに腕をぶつける。その音に五代と真司が少しびっくりし、視線を翔一の方へ向けた。

 

「……すいません」

「またやったんだ」

「またって……あ、いつもの事なんだ」

 

 苦笑する翔一へ五代がそう言って笑う。それを聞いて真司がやや呆れるように笑みを見せると、翔一と五代が揃って苦笑しながら頷いた。そう、あの後真司は五代と翔一と同じ部屋に割り当てられた。ジェイルと同じ部屋がいいのではと真司は思ったのだが、それはそのジェイル自身が断ったのだ。

 理由は真司が五代達異世界のライダーから様々な話を聞いて自分の糧にして欲しいと彼が考えたから。それにジェイルも一人で考えたい事がある。故に、彼ははやて達に一人の部屋にして欲しいと頼んだのだから。

 

 こうして真司は五代達と同じ部屋となり、本来ザフィーラが使うはずだったソファベッドが真司の寝床になったのだ。

 

「……さ、じゃ顔とか洗って食堂の仕込みに行こうか」

「そうですね」

「はい」

 

 五代の言葉に頷いて二人も動き出す。それぞれ洗面所へ向かい、順番に顔を洗いながら他愛もない話をし身支度などを整えてから部屋を出て行く。そこでも歩きながら互いの世界の話をし、三人は寮の入り口で光太郎と出くわした。

 彼はザフィーラと毎朝手合わせをしている。今もそれを終えて一旦寮の部屋へ戻ってきた後だったのだ。真司はその事を聞いて自分も何か鍛える事をした方がいいのかと思ったのだろう。光太郎へそう質問したのだ。それに光太郎は少し考えたが、軽く笑って答えた。

 

「真司君の好きにすればいいよ」

「好きに?」

「そう。俺だって最初から鍛えていた訳じゃない。でも、怪人と戦うなら体は鍛えた方がいいと考えたんだ。変身出来ない時やする前に襲われた時、少しでも対抗出来るようにね」

 

 光太郎の話を聞いて真司だけでなく五代達も納得するように頷いていた。彼らも怪人と変身する前に戦闘するはめになった事がある。その際、確かにいいように翻弄されてしまったのだから。それを思い出し、五代と翔一は光太郎の意見から彼が実に多くの怪人と戦ってきたのかを理解した。

 きっと光太郎は自分達よりも変身する前を襲われる事があったのだろうと。だから、そのための対処法を必要とした。二人はそう判断し同時に思う。自分達もこれからそういう機会があるかもしれないと。ナンバーズと外見が似ている改造機人は、暮らしの中に入り込んでくる可能性もあるのだから。

 

 と、そこで翔一がある事を思い出した。それは光太郎と手合せをしていた相手の事。

 

「あ、そういえばザフィーラさんは?」

「訓練場の方へ行ったよ。今日は彼女達の初訓練を兼ねた全員での模擬戦だからね。はやてちゃん達もいるはずだ」

 

 翔一の言葉に光太郎はそう答えて視線を訓練場へと向けた。それにつられるように五代達も視線を動かした。その先からは微かに爆発音のようなものが聞こえてくる。

 

「……ちょっと見に行こうか?」

「あ、俺行きます」

「じゃあ……俺も。ティアナちゃんの頑張ってるところ、見てみたいし」

「……なら、俺も行こうかな」

 

 五代の提案に真司が是非と賛同し、翔一もティアナの訓練風景を一度見てみたいと思い賛同した。光太郎は、ふと今後戦うであろう怪人戦を見越した助言を与えるべきかと考え、頷いた。

 

 こうして四人は揃って訓練場へと向かって歩き出す。その間の話題は四人の中でも異質な真司の世界のライダーについてだった。個人が作り出したシステムにより変身すると聞いて三人は驚きを浮かべた。

 更に、改造などしなくてもデッキがあれば変身出来るという話に、三人は感心すると共に少し暗い表情を見せた。気付いたのだ。それが何を意味し、そして何を引き起こすのかを。

 

「……それ、極端な話、誰でもライダーになって恐ろしい力を使えるって事だよね?」

 

 五代の告げた言葉に真司は真剣な眼差しで頷いた。分かったのだ。何を三人が考えたのか。彼らと違い、ライダーになる事に条件も何もいらないとなれば単純に子供でも極悪人でもなれるという事。

 それは、本来正義を、平和を守るための存在であるライダーをまったく逆の存在へと変える事になりかねない。実際、真司は知っている。犯罪者である浅倉がライダーの力を手に入れ、欲望のままにそれを振るっている事を。

 

 だが、それを真司は五代達に言う事はしなかった。言えばそれが愚痴になる。更に、それから発展してライダーバトルの話になろうものなら、きっと五代達は何とかしたいと考えるだろう。真司の世界を助けたいと。出来るのなら、そんな悲しく理不尽な戦いを止めたいと。

 それは、真司にとっては甘い毒。自分の力で自分の世界を変える。そう決意した以上、五代達の優しさに甘える事は出来ない。そう結論付け、真司は自分へ言い聞かせる。

 

(その優しい気持ちを向けてくれるだけで十分だ。俺は、五代さん達の姿と生き方から戦う勇気と諦めない希望をもらったんだ。俺達の住む世界は、俺達で守る。それは、決して忘れちゃいけない事なんだから)

 

 故に三人に心配や不安を抱かせる事はあまり言わないようにしよう。真司はそう考え、三人へ話したのはどのライダーもミラーモンスターと契約しているので、定期的にミラーモンスターを倒さなければ契約が維持できずに力を失ってしまう事だった。

 それを聞き、ならば永久にモンスターを倒し続けなければいけないのではと三人は考えたが、真司はそれにこう告げた。必ず戦いを止める術はあるはずだ。それをいつか見つけ出して戦いを止めてみせる。そう言い切ったのだ。

 

「……そっか、真司君も仮面ライダーだもんね」

「はい! 俺、仮面ライダー龍騎ですから!」

 

 五代の言葉に真司は笑顔で頷き、力強く宣言する。それを聞き、光太郎が少し考えて呟いた。

 

「龍騎、か。中々迫力ある名前だね」

「え? 俺は光太郎さんの方が凄いと思いますよ。太陽の子なんて名乗るんですから」

 

 名乗りが一番強そうなのはRXだと、そう翔一は告げた。それを聞いた真司がなら自分も何か考えようかなと言い出し、五代も翔一もそれに考えこむ。光太郎はそんな三人に苦笑した。彼が太陽の子と名乗ったのは生まれ変わったからこそのものなのだ。

 以前は、ただ仮面ライダーBLACKとしか名乗っていなかった。その事を光太郎が話そうとした時だ。前方から凄まじい爆音が響き渡ったのは。

 

「……凄いな」

 

 光太郎の呟きは、五代達の呟きでもあった。訓練場を舞台になのは達隊長陣とスバル達四人がチームとなり、ナンバーズを相手取ってした。数の上では勝るナンバーズだが、なのはとフェイトの二人が揃って主戦力たるトーレとチンク、そしてセッテを抑え、シグナムがディードとオットーを、ヴィータがなのはとの戦闘経験を活かし射撃型のディエチとウェンディを苦戦させていた。

 スバルとノーヴェが一騎打ちの様相を呈すれば、ティアナはクアットロと幻術対決をしているし、エリオは素早い動きでドゥーエを撹乱している。キャロはフリードの背に乗り、上空からセインを攻撃していた。彼女のISによる奇襲を出来なくするために。

 

 ウーノはそんな妹達を何とか支援しようと戦略を練るが、それを上回る速度でなのはやフェイト達隊長陣が戦術をかき乱すのでそれが上手くいかない。ここになのは達とナンバーズの経験の差が出ていた。

 今まで姉妹全員で連携などを取った事のないナンバーズと違い、なのは達隊長陣は何度も連携を取ってきている。スバル達は四人での連携こそ取った事がないものの、それぞれ所属していた部隊での連携などは当然経験済み。

 

 つまり集団戦の経験値が違い過ぎたのだ。大勢で動く事の難しさはナンバーズよりもなのは達の方が知っていたと、そういう事だ。はやてやシャマルは模擬戦の様子を見つめてそれを感じ取っていた。

 ナンバーズは、今まで集団戦をやる機会などなかった事や実力的に上の相手が複数いる状況を体験した事がないのだと。それは彼女達の環境を考えれば当然なのだが、それでもすぐに敗北しない事に驚きも感じていた。

 

 五代達もそんな光景を見て沈黙する。そこへ彼らに気付いたザフィーラが静かに近付いていく。その動きを知るはずもなく真司は思った事を素直に呟いた。

 

「嘘だろ……トーレ達が完全に抑え込まれてる」

「フェイトちゃんは元々高速戦闘が得意だ。そしてなのはちゃんは、そんな彼女と幼い頃から模擬戦などを通じてその速さに慣れている」

「シグナムは、そんなフェイトやなのはが未だに苦戦する実力者だ。ヴィータはそのシグナムをして、守りに徹すれば勝つ事が出来ないと言わしめる相手だからな」

 

 光太郎がなのはとフェイトの両隊長の説明を、ザフィーラは両副隊長の説明をし、真司はそれに頷いて納得の表情を見せた。

 

「スバルちゃんは、ノーヴェちゃんだっけ? あの子と同じような戦い方だけど、お母さんやギンガちゃんから色々教わってるから」

「ティアナちゃんは、どうも相手を抑え込む事だけ狙ってるみたいだし、エリオ君やキャロちゃんも相手に勝とうとは思ってないみたいですね」

 

 五代と翔一は揃ってスバル達四人の説明をした。それを聞いて、真司はやはり六課に来たのは間違っていなかったと感じていた。彼は集団戦をした事がない。つまり、ナンバーズへ集団戦の方法を教える事は出来なかったのだ。

 だから、今回はそれが差として出てしまった。いかにウーノが指示を出そうにも、それはなのは達からすれば簡単に理解出来る事。いくらデータ共有があるとはいえ、実際やってみなければ分からない事は往々にしてある。それを真司は嫌と言う程見せられていた。

 

 そう、真司はナンバーズを数ではなく実力で抑え込んでいるなのは達を見て驚きを感じていた。そして光太郎達が告げる内容がその驚きに納得を与えていく。しかし、五代達はそんな風に感心する真司に対し逆に自分達も感心している事を伝えた。

 何せかなりの実力者であるなのは達を相手に五分の戦いをしているのだ。特に、シグナムやヴィータは守護騎士として幾多もの戦いを経験している。それを相手にし、数がいくら多いとはいえ互角に渡り合うのなら大したものだと。

 

 そう感じたからこそ五代達もナンバーズへ賞賛を送る。それに真司は我が事のように喜んだ。そのまま実に五分以上もナンバーズはなのは達を相手に善戦を続けた。しかし、セインがキャロが空から降りてこないと踏んで、苦戦する姉妹の応援へ向かったところからその膠着が崩れた。

 そう、セインが動けばキャロも動ける。しかもフリードのブレスは上空から地上へ攻撃出来る手段のために厄介といえる。更にセインが向かった相手も悪かった。援護対象はノーヴェだったのだ。それは彼女が完全に陸戦だったからこその選択。

 

 しかし空を飛べない三人に対し、キャロは限定的ではあるが空戦の手段を有していた。つまり、結果としてスバルは空からの支援を受けて戦う事となった。セインがISでスバルの不意を突こうとしても無駄だった。常にマッハキャリバーで動き回るスバルを捉えるのはセインでは厳しかったのだ。

 こうしてセインとノーヴェがスバルとキャロの前に敗北し力の均衡が崩れた。そこからはまるでドミノ倒しのような展開となる。スバルがティアナの、キャロがエリオの援護へ向かい、コンビとなった彼らを相手にする事となったドゥーエとクアットロはやや押していた展開から一転苦しくなったのだから。

 

「……良くも悪くも経験になる展開だ。スバルちゃん達は味方を信じて戦い続けて、その努力と辛抱が必ず報われるという事を知っただろう。逆に彼女達は、どれだけ相手を抑えていても、相手が一人増えるだけで簡単にそれを覆される事もあると思い知っただろう」

「そう、ですね」

 

 光太郎のどこか満足そうな言葉に翔一が神妙な顔で頷く。これが訓練だからこそ光太郎の言う言葉は正しかった。経験として積める時に積む。実戦では、これは危険に繋がるのだから。

 

「均衡って、崩れ出すと早いんだ……」

「うわぁ……こりゃ、後でセインがみんなから怒られるかな?」

 

 五代は初めて見る集団戦の怖さと凄さを象徴する光景に息を呑み、真司はそのキッカケを作った妹分へ苦笑いと同情の想いを送る。そうして、四人の見ている前で最後に残ったトーレがフェイトに負け、訓練は終了となった。

 

 

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 激戦後の訓練場。そこにいるは疲れ果てたナンバーズと息を弾ませるなのは達。しかし、なのは達四人はともかくスバル達四人はナンバーズと同じように疲れ果てていた。

 

「……凄いな。さすがはエースオブエースと言ったところか」

「あー、やっぱりその呼び方を知ってるんだ」

 

 チンクの言葉になのははそう苦笑い気味に答えた。それにチンクも苦笑を返し頷いた。知らない方が珍しいだろうと告げて。それになのはが小さく笑みを見せた。認めたくないがそうだろうと思ったのだ。

 彼女は管理局員の中でも露出度が高い。そのため至る所でその称号は言われていたのだ。チンクはそんななのはの笑みを見て柔らかい笑みを浮かべた。やはりどれだけ凄いと言われていても、人の子なのだと感じたからだ。そうして、二人はそのまま笑みを見せ合う。

 

「騎士の名は伊達ではないと言う事ですね。感服しました」

「是非、また手ほどきを」

「いや、私は物を教える事が不得意なので遠慮させてくれ。しかし、確かお前達は双子だったか。見事な連携だった」

 

 オットーとディードの言葉にシグナムはやや苦笑したものの、二人の戦い方を思い出し心から誉めた。歴戦の騎士からの言葉に二人は嬉しそうに光栄だと返して笑みを見せる。シグナムはそんな二人に優しい笑みを浮かべた。

 仲の良い双子だと思っただけではない。見ていて、実に心が穏やかになる笑顔だったのだ。故に思う。こんな二人が戦いの中ではなく平和な暮らしの中で生きられるようになって欲しいと。まるで姉のような表情でシグナムは二人を見つめ続ける。

 

「驚いたよ。まさか、私にここまでついてくるなんて」

「いや、私こそ同じ気持ちだ。さすがはチームライトニングの隊長なだけはある」

「お見事でした」

 

 感心したようなフェイトの言葉にトーレが同じような声を返し、セッテがそれを肯定するように頷いた。そして、三人は同時に笑みを見せた。口に出さずとも分かる。いつかまたやろうと思っているのだ。高速戦闘に対処出来る者はいる。だが、高速戦闘が出来る者はそう多くない。

 だから、不覚にも訓練中彼女達はこう思ってしまったのだ。楽しいと。全力で速さを追求し、動き、戦える。翻弄するのではなく、速度の限界を迎えてからが勝負となる感覚。それが堪らなく嬉しかったのだ。故に、無言ではあるが視線で約束する。またやろうと。

 

「中々やるじゃねぇか。実戦経験がないのに立派なもんだ」

「……それほどでも」

「いやぁ〜、ヴィータさんこそさすがッス。ベルカの騎士は、二対一でも強いんスね」

 

 笑みさえ浮かべるヴィータ。それにディエチは小さく苦笑を返し、ウェンディは疲れた表情のままそう答えた。そんな二人の対応にヴィータは満足そうに頷いた。そう、二人はヴィータが気にするであろう子供扱いをしなかったのだ。それどころか、ちゃんと年上として敬意を払い、敬語さえ使っているのだから。

 ヴィータは知らない。二人にはチンクという身長が低いが立派な姉がいる。故に、ヴィータへの態度はそこからの経験によるものだ。チンクも身長を気にしている。そう、二人はそれに触れる事が自分達にどういう結果をもたらすかを熟知しているのだから。

 

 そんな風に隊長陣と戦っていた者達は比較的明るい雰囲気だったのだが、新人組と戦っていた者達はそれとは違う空気感を漂わせていた。

 

「……色々と似てるね、私とノーヴェ」

「……ああ」

「今度さ、ゆっくり手合わせしようよ。シューティングアーツ、教えるから」

「……考えとく」

 

 スバルの申し出にノーヴェは嬉しく思うも素直に頷けず、そう返す事しか出来ない。自分のモデルとなった相手。そう知っているからこそ彼女はスバルにどう接していいか分からなかった。会いたいと思っていた相手であり、クイントからある程度話を聞いて理解は深めたつもりだったのにだ。

 なのに直接面と向かった途端、何を話したらいいのか分からなくなってしまった。それでもこれだけは言っておこう。そう思ってノーヴェはスバルの方を向いて告げた。

 

「あ、ありがとな……スバル」

「……うんっ!」

 

 名前で呼んでもらえたのが嬉しかったのか、それともノーヴェが礼を告げたのが嬉しかったのか。どちらにしろ、スバルは心から笑顔を見せて頷いた。それにノーヴェはやや照れくさくなったのか再び顔を背ける。

 そのやり取りを眺め揃って微笑んでいる者達がいる。ティアナとクアットロだ。二人は訓練場に再現された瓦礫を椅子代わりに腰掛けていた。両者共に顔には若干の汚れがある。

 

「それにしても驚いたわぁ。まさか、魔法でISに対抗するなんて」

「……かなり危なかったけどね。今回勝てたのは運が良かっただけ。今のアタシ個人じゃ貴方には勝てないわ」

 

 どこか感心したようなクアットロへティアナはそう答え苦笑した。実際、あと少しでもスバルが来るのが遅れれば魔力が底を尽き、クアットロの幻影に飲み込まれていただろう。そう思うからこそ彼女は正直にクアットロの力を認めた。

 するとクアットロがそれを否定するように小さく首を振った。たしかに個人ではティアナはクアットロに勝てないだろう。だが、現時点で既にティアナは一点に置いては彼女に勝っている部分がある。そう思ってクアットロは告げた。

 

「でも、貴方の力は上手く使えば戦局を変える手段となる。私のISよりも精巧だもの」

「嘘……アタシは貴方の方こそ精巧だと思うわよ? だって出現させる数だけじゃなく動きまでつけられるんだから」

「私のISは元々戦闘機人にも通用するようにしてある。けど幻術はそうじゃないでしょ? それなのに貴方の幻影は私にも判別出来なかった。それが理由よ」

「……そう。それはスバルがいたからなんだけど、そう言われればそうかも」

 

 そこで会話は途切れる。だが互いに表情は笑っていた。仲良くやっていけそうな気がする。そう二人は感じていたのだ。そのまま無言で笑みを見せ合う二人。そこから少し離れた場所ではエリオがドゥーエと話をしていた。

 

「やるじゃない坊や。まさか、勝てる勝負を捨てるとは思わなかったわ」

「どういう事です?」

「その気になれば勝てたでしょ? 坊やのスピードに、私はまったくついていけなかったのだから」

「……本当にそうならそうしてます」

 

 エリオは声にやや警戒するような気持ちを込めた。それにドゥーエは意外そうな顔をしたが、すぐに笑みを浮かべて頷いた。理解したのだ。彼が自身の狙いをどこかで感付いていた事を。

 

「……気付いてたの」

「僕だって、ただ何も考えずに槍を振るっている訳じゃないんです。相手の動き、思考、そういう事を予想したり考えながら戦っているつもりです」

 

 エリオはそう言ってドゥーエへ尋ねた。自分がここぞと思った瞬間、必ず何か嫌な予感がしたのは何故なのかと。それにドゥーエは嬉しそうに笑う。まるで姉が弟を誉めるような優しい笑みで。

 ドゥーエは、エリオの動きにはついていけなかった。だが、見えてはいた。だからこそ、エリオが勝負を着けに来た瞬間を狙おうとしていたのだ。その感覚をエリオは直感的に察知していた。故にいつも決め手を放つ事が出来なかったのだ。

 

「……て訳よ」

「やっぱりそうだったんですね。目線が僕を追ってたんで、もしかしたらと思って正解でした」

 

 そんなドゥーエの狙いを聞いて、エリオはどこか納得したような表情を浮かべていた。その顔を眺めドゥーエはやや意外な印象を受ける。幼いのに凛々しさがそこから見えたからだろう。なので笑みを浮かべて彼の頭へ手を置いた。

 

「クスッ、小さくても騎士って事かしら」

「そんなんじゃないです。でも、誉めてくれてありがとうございます」

 

 エリオはドゥーエの妖艶な笑みと頭を撫でる手にドギマギしながらそう答える事しか出来なかった。それにドゥーエが余計に可愛らしく思い、その体を軽く抱き寄せ囁く。

 

―――ね、年上のお姉さんは嫌い?

 

 それにエリオは赤面した。無論、それがからかいだと理解はしている。だが、理解していても間近に感じる女性特有の諸々がエリオに与える影響は大きい。フェイトとは違う接し方。それは、親代わりを心掛けたフェイトとは違い、ドゥーエは長年姉をやってきたからだ。

 同じようで違う心構え。それにドゥーエは弟を持った事はない。だからだろう。エリオの事を少し気に入ったのだ。素直で謙虚。実にからかい甲斐のある相手なのだから。

 

「ふふ、冗談よ。でも、好きになってくれると嬉しいわ」

「それは……なるかもしれませんけど」

 

 楽しそうに笑うドゥーエにエリオは微妙な顔を浮かべた。彼女の雰囲気や性格は嫌いにはならない。だが、今のだけで彼には分かった事があった。それをエリオは告げる。

 

―――僕、ドゥーエさんみたいな人、苦手かもしれません。

 

 エリオのどこか困ったような声にドゥーエは小さく微笑む。きっと、この子は好青年になるだろう。その時、隣にいる相手は幸せ者だ。そんな感想を抱き、ドゥーエはエリオへ告げた。なら嫌われないように気をつけると。

 あちこちで明るい会話がされる中、一人膝を抱えている者がいた。その後ろには困惑するキャロとフリードがいる。そう、彼女の視線の先にいるのは先の模擬戦の敗因となってしまったセインだった。

 

「……えっと」

「いいんだよ。あたしが動いたせいで負けちゃったんだしね」

 

 キャロは目の前で落ち込むセインへ何と声を掛ければいいか分からなかった。確かにナンバーズを敗北へ導いたのはセインの行動だったのだから。だが、キャロはセインが悪いとは思っていなかった。彼女が逆の立場でもあそこで動いたのだ。

 状況を変えなければいけない。そう思い、行動したセイン。その気持ちも考えも分かる。だから、キャロは何とかセインを励ましたかった。勝負は時の運とも言う。今回こそセインの行いは悪手になったが、もしかすればそれがキッカケでキャロ達が負けていたかもしれなかった。

 

 そう考えてキャロは小さく頷いて息を吸った。

 

「それは違うと思います」

「へ?」

 

 キャロはセインの言葉を否定したかった。悪い訳ではない。それが今回は良くない方向へ転がっただけなのだとの気持ちを込めて。

 

「セインさんは自分に出来る事を一生懸命にやっただけです! それが、たまたま良くない結果に繋がっただけで……行動自体は、良かったと思います!」

「……キャロ」

「だから、自分を責めないでください。私、セインさんが動いた時、少しだけ焦ったんです。セインさんのISは姿が見えなくなるから」

「でも、何故かどこ行ったかが分かったんだよねぇ。……ん? もしかして、見破った方法とかある?」

 

 キャロの言った言葉に少しだけ嬉しくなり、セインは笑みを浮かべる。だが、改めてキャロが語った姿が見えないとの部分からいかにして自分の位置を把握したのだろうと思った。その質問にキャロは少し申し訳なさそうな表情をし、視線を隣にいるフリードへと向けた。

 それからセインは何かに気付き、まさかと思いつつ尋ねた。もしや、フリードが匂いか何かで見つけたのかと思いながらどうやってと。それにキャロが返した答えは彼女の予想通りだった。

 

 セインが移動した際、キャロは一度フリードを地上へと降ろしたのだ。自分を危険に晒す事でセインをおびき出そうと考えて。だが、セインがそれで姿を見せない事に焦りを感じたキャロは、早く位置を把握しなければスバル達の誰かが危ないと思ってフリードを上昇させようとしたのだが……

 

「……そうしたら、フリードが顔を地面に近づけて急にスバルさん達の方へ動き出したんです」

「それで、か。ははっ、動物の五感を甘くみちゃいけないって事だね」

 

 セインは若干呆れ気味に笑ってから息を吐いてキャロを見た。それにキャロが不思議に思い首を傾げる。

 

「何です?」

「……ん。さっきはありがとって。あたしさ、ああ言ってもらえて嬉しかったよ。優しいんだね、キャロはさ」

 

 そう言って笑顔を見せるセイン。それにキャロはセインも優しい人だと言って嬉しそうに笑顔を返す。そんな風にそれぞれが互いに小さくではあるが絆を結んでいくのを見て、ウーノははやてと共に苦笑いを浮かべていた。

 

「まさか、模擬戦一回でここまで良い方に転ぶなんて、ね」

「やね。しかしウーノも凄かったなぁ。一度傾いた流れ、何とか少し食い止めたやないの」

 

 セインの動きから傾いたナンバーズ敗北への流れ。それをウーノは懸命に阻止しようとした。切り崩されたノーヴェ達をただ犠牲にするのではなくそこへ奇襲としてセッテを送り込み、更に一時的にではあるがそれぞれの隊長陣の応援へ向かおうとしていたスバル達へディエチによる砲撃を行なわせ大いに苦しめたのだ。

 

「本当に少し、よ。結局それが原因でウェンディがヴィータさんに追い詰められ、ディエチの支援も間に合わず敗北。私が出来たのは、精々負けるのを先延ばししたに過ぎなかったわ」

「それでも、や。実戦ならあの稼いだ時間は必ず活きる。他の部隊から援軍が来てくれるかもしれんし、仲間の誰かが態勢を立て直す事も出来る。指揮官として精一杯の事をした言うんは立派や」

「……そうかしら?」

「わたしはそう思うよ。それに、初めての集団戦でこれだけやってくれた事が頼もしいとも感じた。さすが姉妹やな。息ピッタリやった」

 

 はやての言葉にウーノは少し自慢げに笑みを浮かべ、断言した。

 

―――当然よ。私達はナンバーズなんだもの。

 

 その言葉が聞こえていたのかナンバーズ全員が頷いてみせる。そんな光景を見たなのは達が小さく笑みを見せサムズアップを送った。それに一瞬驚くナンバーズだったが、同じような笑みを見せてそれを返した。それが何を意味するかを悟り、全員に笑みが浮かぶ。

 そんな心和む風景を見つめ、五代達は笑顔が絶えなかった。まだ少しぎこちないがナンバーズのサムズアップも良く似合うと思ったのだ。しかし、五代と翔一には気になった事があった。それは、ウーノの言ったナンバーズという表現。

 

「……真司君、ナンバーズってどういう意味?」

「えっと、確かジェイルさんが言ってたのは、昔アルハザードとか言う世界があったらしいんです。で、そこの言葉の数字とみんなの名前の響きが一緒だったはず」

「へぇ……だからナンバーズなんですね」

 

 真司の思い出すような言葉に五代と翔一は納得する。だが、その名を直訳して五代は若干表情を曇らせた。

 

「でも、数字達ってあまりいい意味じゃないね」

 

 それに翔一も頷いた。真司は言われてみれば確かにと思ったのか、やや意外そうな表情で考え出した。これまでナンバーズとの意味を深く考えてこなかったからだ。一人光太郎だけはそんな五代の発言から今後の展開を予想して苦笑する。ザフィーラもどうやら同じ想像に至ったのか苦笑いを浮かべていた。

 

 そしてその予想通り、五代が視線をナンバーズへと向け大きな声で尋ねた。その内容に光太郎やザフィーラだけでなくなのは達さえ苦笑する事となる。

 

「ねえ! ナンバーズじゃなくてシスターズじゃ駄目かな〜?」

 

 五代の問いかけにナンバーズが一斉に同じような声を返す。それに苦笑しながら彼はその場から走り出しなのは達の近くへと動き出した。それに呼応するように翔一と真司も走り出したのを見て、光太郎はザフィーラと互いに苦笑しながらその後を歩いて追う。

 そしてナンバーズ達の近くへ着いた五代は自分の思った事を話し出した。数字達という意味はあまり良くない気がすると。だから、それに代わる総称を考えてもいいのではないか。そう彼から伝えられるとウーノ達は揃って困惑した。

 

 今までそんな事を考えた事も無かったからだ。確かに数字達というのはどこか実験対象や機械の管理などを連想させる。そこまで考え、ならばとウェンディが手を挙げて五代へ尋ねた。

 

「なら、何か良い案ないッスか?」

「あれ? さっきのは駄目?」

「駄目ッス。もう少し捻りが欲しいッスねぇ」

「厳しいなぁ……」

 

 容赦のないウェンディの返しに五代はそう言って苦笑する。そこへ翔一と真司もやってきて次々と思いついた名前を告げて始めた。女の子だからガールズはどうだと翔一が言えば、それにウーノが自分はもう少女という見かけじゃないと拒否。

 ならばと真司が告げたのはキャンディーズ。しかし、それに五代と光太郎が揃ってセンスが古いと突っ込み、却下。そのやり取りの意味が分からないウーノ達へ、翔一が自分達の世界にいた昔のアイドルグループの名前だと告げ、それになのは達までが笑った。

 

 結局良い案は出ず、総称はナンバーズのままでいこうとなりかかった時だ。突然翔一がこれだという顔をして全員に言った。

 

「ヴァルキリーズはどうでしょう!」

「……戦乙女達、か。確かにそれはいいかもしれんな」

 

 翔一の告げた言葉の意味を訳し、シグナムが意外そうな表情で頷いた。そして視線をウーノ達へ向け、意見を伺う。それに十二人が顔を見合わせた。若干の間の後、彼女達が揃って頷いた。

 

「……いいと思うわ。最初ガールズと言った人とは思えないぐらい」

「そうね。少なくてもガールズよりはマシよ」

 

 ウーノとドゥーエがそう言って翔一へからかいを込めた笑みを向ける。それに翔一は多少すまなそうに頬を掻いた。

 

「異論はない」

「いいんじゃない? 私は結構気に入ったわ」

「うむ、私もだ。私達を指すに相応しいような意味だしな」

 

 トーレ、クアットロ、チンクは共に肯定し見直したという視線を翔一へ送る。その視線を受け、翔一が嬉しそうな笑みを返した。

 

「カッコイイね。じゃ、あたしはヴァルキリー6ってとこか」

「スターズやライトニングと同じように呼称するのなら、そうですね。私はヴァルキリー7か」

 

 互いに意見を言って、揃って自身の呼称を呟くセインとセッテ。それに五代が反応し7って何かカッコイイねと告げて二人から理由を聞かれていた。五代がそこで教えたのは某有名映画のエージェントだった。その簡単な話に二人は感嘆の声を上げる事となる。

 

「……でも、戦乙女か。一体どういう存在なんだろう」

「知らねぇよ。聞いてみたらどうだ」

 

 オットーの言葉にノーヴェはそう返し視線を翔一へ向けた。だが、それを聞いていた光太郎が小さく笑みを浮かべて二人へ声を掛ける。地球の神話に出てくる存在との説明を始め、二人はそれに興味深そうに耳を傾けた。

 

「何か、思わぬ展開になったね」

「そうッスねぇ。でも、新しい呼び方に新しい家。新しい事づくめで嬉しいッス!」

「心機一転にはいいかもしれません。私達も六課の一員として、これから邪眼と戦うのですから」

 

 それぞれの様子を見てディエチがそう言えば、ウェンディが頷きつつ明るく笑う。ディードもそれに笑顔を浮かべ頷き返した。そこへ真司が顔を出し、何を話しているのかと尋ねて三人が先程の話を聞かせ出す。

 

 そんな光景を見てなのは達も微笑みを浮かべていた。本当なら戦っていたかもしれない存在。それとこうして笑い合う事が出来る。そのキッカケは、やはり仮面ライダーだったのだから。

 真司がジェイル達と出会ったからこその現状。そして、それを比較的簡単に受け入れている自分達。それも五代や翔一、光太郎と出会えたから。そう、改めて思ったのだ。自分達の縁を強く深く繋いでいるのは、やはり仮面ライダー達なのだと。

 

「……勝てるよ、これなら」

 

 なのはの呟きにフェイトとはやてだけではなくシグナムやヴィータも視線を動かした。

 

「絶対勝てる。邪眼がどんなに強い怪人を送り込んできても……」

「そうだね。私達にスバル達、五代さん達仮面ライダーが四人……」

「もしもの時はリーゼ姉妹もおるし……」

「更にヴァルキリーズ、か。確かに戦力としては十分だ」

「それだけじゃねえ。ゴウラムにアクロバッター、ライドロンもいんだ。呼び出しゃ、ドラグレッダー……だったか。それまでいるんだしよ」

 

 ヴィータの言葉に四人は揃って頷き、笑う。バイクであるアクロバッターや車のライドロン。それに巨大クワガタのゴウラムさえ、自分達は平然と仲間として受け入れている事に気付いたのだ。意志を持つ三体の存在。

 更に、頼もしい赤龍に高性能バイクであるビートチェイサーや空飛ぶバイクのマシントルネイダーもある。実に多彩な仲間達だ。そう考え、五人は視線を五代達へ向けた。そこでは、ヴァルキリーズやスバル達から仕込みはいいのかと言われ、五代と翔一、真司が揃って慌て出しているところだった。

 

 それを見つめ、なのは達は心から願う。こんな平和な時間を、出来ればもっと長く過ごせるようにと。

 

 

 

-3ページ-

 六課の食堂は密かに管理局内でも有数の充実振りを誇っている。翔一のレストランに五代の喫茶店、そして真司が加わった事により簡単な中華が出せるようにもなったためだ。まぁ、ほとんど注文されるのが餃子になるだろう。

 ともあれ、三人はエプロンをつけて忙しく動いている。リインは五代と翔一を補佐しながら、真司を補佐する新しく加わった存在へと目を向けた。そこには、五代作のクウガマーク入りエプロンをつけたセインとチンクがいた。二人は真司の助手として食堂預かりとなったためだ。

 

「……手際がいいのだな」

 

 そんな二人の動きを見て、リインは感心したように告げた。それにセインとチンクは笑みを返す。何せあのラボでの暮らしで真司の手伝いを始めたのはこの二人だったのだ。故にこういう事の経験値は少なくない。

 

「まぁ……」

「慣れているからな」

 

 そう言いながらも二人は手を止めはしない。餃子の餡を練っているのだ。真司は一人黙々とそれを皮に包んでいる。ちなみに彼のエプロンもクウガマークだが、五代達と同じように自分用の龍騎マークを入れた物を作ろうと密かに決意している真司だった。

 

 そんな光景を見つめる者がいる。それはアギト。彼女は一応部屋割りとしてセッテやトーレと同じ部屋となったのだが、立場としては真司の融合騎。故に日常では真司の傍にいようとした。しかし、真司は料理中なので邪魔をしないようにと考え、こうして食堂のテーブルに文字通り座って眺めているという訳だ。

 

「……暇だ〜」

「なら、リインのお仕事を手伝って欲しいです」

 

 アクビをし呟いた独り言。それに答えが返ってきたので、アギトは視線をそちらへ向けた。そこには、やや拗ねたようなツヴァイの姿があった。両手を腰に当て、いかにも不満気といった様子でアギトを見つめている。

 

「……何だ。リインか」

「何だじゃないです。アギトも少しは仕事してください。ロードの傍にいたいのは分かりますけど、お料理のお手伝いは私達の大きさじゃ難しいです」

「う……それは……そうだけど」

「だから、リイン達はリイン達で出来る事をしてロードのお役に立つです。さ、来〜る〜で〜す〜!」

 

 そう言ってツヴァイはアギトの手を掴む。それにアギトは躊躇いを見せて若干抵抗するも、すぐにツヴァイの言う事が正しいと判断したのか肩を落とした。それを見たツヴァイは彼女が観念したのだと理解し満足そうに頷いた。

 こうして二人は仲良く連れ立って飛んでいく。目指す先ははやて達の働く指揮所だ。それを見送り、リインは苦笑した。妹の気持ちが良く分かったからだ。ツヴァイも翔一の手伝いがしたい。だが、それをするには色々と不便な事が多いのだ。故に、ツヴァイははやての傍でデスクワークをしている。アギトにも、同じように出来る事を与えたかったのだろう。

 

(同じような意識を抱いているのだろうな、ツヴァイは。アギトと良き友人となってくれる事を願うばかりだ)

 

 リインはそう思い、視線を時計に向けた。もう一時間程で昼休みの時間になる。そうなれば戦争だ。そう考え、リインは気持ちを切り替えて動き出す。

 

「……リインさん、ちょっと味を見て」

「分かった」

 

 五代の言葉に頷き、リインは手渡された小皿を受け取る。そして、そのカレーを口に入れて頷いた。それに五代は小さく満足そうな声を出し、カレーの入った鍋に蓋をする。ちなみに五代もリインさんとリインちゃんと呼び分ける事でアインとツヴァイとの区別をつけている。翔一と同じ呼び分けだ。

 

「五代、そろそろ……」

「あ、そうだね。翔一君、真司君、準備は間に合いそう?」

 

 味見を終えたリインが時計を見て五代へ声を掛ける。それに五代もリインの言おうとしている事を理解し、二人へ視線を向けた。

 

「大丈夫です!」

「……うし! 任せてください!」

 

 二人の声に頷き、五代は視線を動かす。

 

「セインちゃんとチンクさんは?」

 

 チンクをちゃん付けで呼ぼうとした五代だったが、そう呼んだ時彼女がどこか嫌そうな顔をしたため、こうしてさん付けに直した経緯がある。そう、チンクは男性陣の誰にもちゃん付けをさせなかったのだ。真司以外には。

 その理由はチンク本人にしか分からない。それでも、何となくだが六課女性陣は気付いていた。真司だけの呼び方にしたいのだろうと。五代や翔一はそうではなかったが、雰囲気からそれを感じ取ったのだ。

 

「だいじょーぶだよ!」

「ああ、昼休みまでには終わらせる」

 

 その二人の返事に笑顔を返し、五代は周囲に告げる。

 

「じゃ、もう少し頑張ろう!」

 

 それに全員が威勢よく声を返し作業を再開する。それからしばらくして昼休みとなり、ぞくぞくと現れる課員達で食堂は活気づく事となる。それに五代達は忙しく対応しながら笑顔を浮かべるのだ。何気ない日常。それこそが何よりの幸せだと感じながら。

 

 

-4ページ-

 五代達が食堂で最後の準備を終わらせようとしていた頃、指揮所ではグリフィス達の他にクアットロにオットーとディードの姿があった。クアットロはシャーリーの場所に座り、アルトやルキノと話しながらデスクワークをこなし、オットーはグリフィスと共に雑多な作業を処理していた。

 ディードはそれぞれへコーヒーや紅茶を淹れ、雑用を担当している。シャーリーはジェイルやウーノと共にAMF関連の作業をしているためここにはいない。その代わりとしてクアットロがその穴を埋めているのだ。

 

「で、シンちゃんが後始末する事になったのよ」

「あらら……」

「真司さんって、結構面倒見いいんですね」

 

 クアットロの話す昔話を聞いてアルトとルキノは思わず手を止めて苦笑する。昼休み近くなったのでいつでも切り上げられるような仕事をしつつ軽い雑談をしていたのだ。昼食はシャーリーが戻って来てから四人で行こうと約束しているため、もうしばらくはこの状況だろう。

 アルトとルキノは真司と会ってまだ二日目。だが、その話の中の真司が実に想像し易く二人は思わず笑ってしまう事ばかりだったのだ。そしてさり気無く語られるジェイルの話も二人には意外だった。特に、徹夜したため風呂で寝てしまい、風邪を引いて寝込んだ話などは笑い話かと思うぐらい面白かったのだから。

 

 そんな給湯室のOLのような雰囲気もある三人の後ろでは、グリフィスがオットーと共にディードの淹れてくれたコーヒーと紅茶で一息吐いていた。

 

「……助かったよオットー。君が手伝ってくれたおかげで、普段の半分ぐらいの時間で済んだ」

「こんな事でよければ、いくらでも」

「グリフィスさんも大変ですね。部隊長補佐といえば、何かと責任も重いでしょうし」

 

 コーヒーを飲み終え、グリフィスが告げた言葉にオットーは軽い笑みで答えた。それに彼は嬉しそうに笑みを返し再びコーヒーを口にする。ディードはそんなグリフィスを見つめ、労わるように声を掛けた。

 それにグリフィスは苦笑しながら頷いて、でもやり甲斐はあると返した。そこから始まるグリフィスの仕官学校時代の話。それは、学校という物を知識でしか知らない二人にとっては全てが驚きと感心に満ちたものだった。全寮制や多くの実習に研修。苦しくも楽しかったとグリフィスが締め括れば、二人もその言葉の意味を噛み締め、頷いた。

 

 それをはやてはぼんやりと眺めた後、視線を横へ移した。そこには慣れないデスクワークに悪戦苦闘するアギトと、それを支えるツヴァイの姿がある。

 

「……これで……どうだ?」

「そうですね……うん! 大丈夫ですよ〜」

「へへん、どんなもんだい」

「むっ、調子に乗るのはまだ早いですよ。リインだって、これぐらいはもう一人で出来るです」

 

 ツヴァイのやや嗜めるような声にアギトは少しだけ苛立ちを感じたのか不機嫌そうな表情を浮かべる。そして、その視線をツヴァイへと向けた。

 

「あのなアタシは」

「でも、初めてでミスなく出来たのは凄いです。お昼食べたら一休みして、次のお仕事を片付けるですよ」

 

 アギトの文句を遮る形でツヴァイはそう誉めるように告げた。そう、彼女もはやてに同じような事を言われたのだ。初めは失敗して当然。だから、それをしなかったのなら凄い事なのだと。故にツヴァイはアギトを誉めた。それに毒気を抜かれ、アギトはやや拍子抜けしたような表情を見せるものの、ツヴァイの笑顔に何も言わず頷いた。

 

(リインもすっかりお姉ちゃんやな。うんうん、ええ事や)

 

 末っ子の成長を感じ取り、はやては満足そうに笑う。そして時刻が昼休みとなったのを確認し、席を立ってツヴァイとアギトへ声を掛けた。食堂に行こうと。それに二人が嬉しそうに返事を返したのは言うまでもない。

 

 その頃、デバイスルームで速く正確な操作でキーボードを叩くジェイルがいた。その隣ではシャーリィが同じような事をしていて、ウーノはその後ろでISを使い作業中。すると、その二人の手の動きが同時に停止した。

 

「……理論上はこれでいいはずだ」

「でも、逆転の発想ですよね、これ。まさかAMFにAMFをぶつけて相殺させるなんて……」

 

 ジェイルの出した方法にシャーリーは感心したように呟いた。ジェイルの考えた方法。それは、機能として組み込まれているトイのAMFを同じようなシステムを搭載したトイを使い、中和もしくは相殺するという物だった。

 AMFは魔力結合を阻止するもの。だが、そのAMFも本来魔力を使って発動する事の出来る防御魔法なのだ。ジェイルはそこに注目し、AMFを無効化するAMFを作る事にしたのだ。それはAMFにしか影響を与える事が出来ないが、故にトイにはこれ以上無い対抗手段となる。

 

「でも、これからが問題だよ。素材には先日手に入れた比較的原型を留めている物を使うとして、肝心のAMFC―――アンチマギリングフィールドキャンセラーはまだ理論さえないのだから」

「まったくの0から始めるのかぁ。何か燃えてきますね」

「そうだねぇ。これが平和に役立つものであり続けるように願うよ」

「……皮肉ですか、それ」

 

 ジェイルの言った言葉が管理局から犯罪者に技術が流れる事を懸念しているように聞こえ、シャーリーは少しだけ怒ったように答えた。だが、それに彼は少し慌てた。意図しない意味が込められてしまったと気付いたのだ。

 

「ああ、すまない。そう言うつもりじゃなかったんだが……いかんね。不快な気持ちにさせて悪かったよ、シャリオ君」

 

 ジェイルが本当に申し訳なく思っていると感じ、シャーリーは小さく笑みを零しこう告げた。謝罪は言葉じゃなくて態度で示して欲しいと。だが、その声には優しさがあった。それにジェイルは頷き、手を再び動かし出す。それにシャーリーも応じるように手を動かし出そうとして時計へ目をやった。

 

「あ、こんな時間だ。すみません、私アルト達と一緒に昼食行く約束してるんで」

「そうか。なら私達も休憩としよう。ウーノ、区切りはつきそうかい?」

「はい、もう終わります。それと、クアットロへシャリオさんと一緒に食堂へ向かうと伝えておくわ」

「ありがとうございます。ならウーノさんも一緒に食べましょうよ」

「それがいい。君もシャリオ君達から色々と教えてもらう事もあるだろう。私は真司達の冷やかしでもしながら食べるとするよ」

 

 こうしてジェイル達も揃って食堂へと向かう事となる。その途中で話すのはやはりAMFCの事。ウーノはそんな二人に小さく呆れながらも笑みを浮かべる。ジェイルが研究面の討論が出来る相手などラボではいないに近かったからだ。

 ジェイルは何をするにも基本孤独。故に真司の存在がジェイルを変えた。更にシャーリーはジェイルに対してウーノ達のように敬意を払っていない。だからこそ容赦なく意見や反論を言える。それがジェイルにとっては新鮮な経験といえるのだから。

 

 一方、スバル達新人四人は揃ってデスクワークの真っ最中。昼休みとなったのでキリの良い所で中断したいのだが、ティアナはともかくスバルはこういった仕事は苦手。エリオとキャロはデスクワークとはほぼ縁のない自然保護隊だったのためかそれが遅い。

 よって、三人は今もティアナに手伝ってもらいながら頑張っていた。いや、実はティアナだけではない。ドゥーエもそれを手伝っていた。ティアナがスバルを、ドゥーエはエリオとキャロをそれぞれ手助けしていた。

 

「……ここ、綴り間違ってるわよキャロ」

「え? ……あ、本当だ」

「で、エリオはここの数字が一桁多いわ」

「……凄い。よく分かりますね?」

「ま、地上本部で少し働いてたから、ね。分からない事あったら私に聞きなさい。全部教えてあげるから」

 

 ドゥーエはなのは達隊長陣だけに自分が過去に管理局に潜入していた事を話した。そして、その経歴を見込んでなのはとフェイトがエリオとキャロのフォローを頼んだのだ。

 それに応えるように頼れるお姉さんといった感じでドゥーエはエリオとキャロのミスを指摘していく。それに二人は感謝しつつ仕事を片付けていた。そんな優しい雰囲気を見つめスバルはどこか羨ましい視線を送っている。ティアナはそれに気付いてため息を吐いた。

 

「別にいいのよ。アンタもドゥーエさんに教えてもらっても。代わりに、アタシはもう二度と手伝わないから」

「え……? あ! ち、違うんだよティア。私は」

「言い訳しない。する暇あるなら手を動かす。さっさと終わらせないとアタシ一人でご飯食べに行くわよ?」

 

 その言葉にスバルは一心不乱に画面と睨めっこ。それを横で見て、ティアナは無言で何度も頷く。そんな光景を見てなのは達は揃って微笑む。実にヴァルキリーズが馴染むのが早いと感じたのだ。

 今朝の模擬戦が一番の要因だとは思う。だが、やはり大きな原因は真司だろうと思っていた。真司の優しさがヴァルキリーズを変え、それがこの状態に繋がっているのだから。しかし、それを差し引いても思う事がある。

 

「ドゥーエさん、エリオとキャロが可愛いんだろうね」

「……私としては、かなり複雑な気持ちです」

 

 時折エリオへドゥーエがちょっかいを出すのだ。笑える事から少し笑えない事まで。キャロはそれにドキドキしているエリオを見て、ドゥーエへからかいを止めてくれるように頼んでいるが、そうすると今度は彼女がその標的にされていた。

 そんなじゃれ合いをしながらも、ちゃんと仕事を進ませてやっているので誰も文句は言えない。シグナムなどは、文句を言わないからむしろ自分の分のデスクワークを代わって欲しいと考えているぐらいだ。

 

 ドゥーエは今もエリオへ軽く胸を当てて反応を楽しんでいる。それをキャロが止めさせようとするも、今度は彼女の頬へドゥーエが頬を擦り寄せ微笑んだ。その光景は若干微笑ましくもある。それを眺めヴィータが呆れたような顔をした。

 

「でもよ、あれは年下のガキと遊んでるようなもんだぜ」

「そうだな。まるで誰かの相手をする主や翔一のようだ」

 

 その言葉にヴィータが一瞬口ごもり、睨むような視線をシグナムへ送る。それを平然と受け流し、シグナムは画面との戦いを再開していた。そんな二人を見てなのはとフェイトは苦笑。そして彼女達は示し合わせたかのようにスバル達とほぼ同時期に仕事を中断するのだった。

 

 

-5ページ-

 六課の格納庫。そこにはアクロバッターだけでなくゴウラムとライドロンの姿もあった。光太郎と五代は相談し、今後の事を含めて二体を六課に常駐させる事にしたのだ。そのため、光太郎はかねてより潜ませていた海中からライドロンを呼び出し、五代はゴウラムにここにずっと居て欲しいと声を掛けたのだ。

 ゴウラムはそれが伝わったのか現状のように格納庫で大人しくしていた。アクロバッターが言うには五代や翔一に光太郎の言う事には理解を示しているのだが、その理由まではゴウラム自身も理解していないようで、アクロバッターが良く分からないと締め括ったのだ。

 

「……これがライドロン」

「で、こっちがゴウラムッスか」

 

 作業服姿のディエチは優しくライドロンの車体を触る。何故だが不思議と暖かい気がして彼女は小さく微笑んだ。同じ格好のウェンディもゴウラムを触り似たような感想を抱く。その横で一人トレーニングウェアのノーヴェはアクロバッターを見つめて告げた。

 

「でも、アタシはこいつが一番驚きだ」

「ドウシテダ?」

「……いや、だってな」

「バルディッシュモハナス。ソレトオナジコトダ」

 

 その反論にノーヴェは返す言葉が無かった。確かにインテリジェントデバイスやアームドデバイスなども話す。それとアクロバッターの違いなどそこまでない。だが、それでもノーヴェは光太郎から聞いた事を思い出すと、こう言わずにはいられなかった。

 

「でも、大破したのに甦るとかはねえよ! しかも前よりパワーアップとかどうなってんだ!?」

「あー……それは確かにデバイスじゃ無理だよね」

「ある程度の損傷なら直せるらしいッスけどねぇ」

 

 ノーヴェの指摘に二人も苦笑いで同意。光太郎とヴァイスはそんな三人の様子を見て笑っていた。ちなみにヴァイスも初めてアクロバッターが喋った時、同じように驚いた。そして、ノーヴェが言われたような事を言い返され反論出来なかったのだ。

 そのつい数時間前の出来事を思い出し、ヴァイスは苦笑して光太郎へ視線を向けた。光太郎は今も嬉しそうにアクロバッターと話す三人を見つめている。その目が以前とは違い、心から嬉しそうに見えた事にヴァイスは一人安堵した。

 

(光太郎さんの体の事を聞いた時は色々と思う事はあったが、あの後のスバルへの言葉を考えるにやっぱこの人はすげえよ。あの時の悲しそうな目は、きっと昔の思い出とかに関係してんだろうな……。いつか、それを分かち合える相手、見つけてくださいよ……光太郎さん)

「お〜い、そろそろお喋りは終わりにしろよ。昼飯食ったら仕事の続きだ! ディエチとウェンディは俺達の整備の手伝い。ノーヴェはザフィーラの旦那か光太郎さんと組み手だかんな」

「「「了解(ッス)」」」

 

 それに三人は返事を返し動き出す。三人は整備部の預かりとなっていた。ただし、ノーヴェは本人の希望で光太郎から手ほどきを受けるためなので厳密には違うのだが。ディエチとウェンディはヴァルキリーズの中で大掛かりな特殊装備を所持しているため、その整備法を更にしっかりと磨くようにと整備部配属となった。

 

 ヴァイスを先頭に歩き出す整備員達。その一番後ろを歩きながら光太郎はノーヴェ達と話していた。

 

「……お昼後は変身して戦うから。怪人相手の生き残る方法を自分で見つけ出してくれ」

「了解。よろしく頼むな、光太郎……さん」

「あはは、呼び捨てでもいいよ。真司君が言ったのかな? 年上は敬えって」

 

 光太郎の言葉に頷くノーヴェ。それに光太郎は微笑ましいと感じ、笑顔のままで告げた。無理にそうしなくても構わない。本当の敬意は言葉遣いじゃなく態度で示すものだと。ノーヴェ達はそれを聞いて少し意外そうな表情を返す。

 それに光太郎が疑問を感じると、それを察したディエチがやや困ったように答えた。姉の一人に呼び方から拘る者がいる事を。それに光太郎は納得すると同時に誰だろうかと考え、何となくだが正解が分かった気がした。

 

(確かセインちゃんだったか。彼女、どこか真司君と似ているし、そういう事を言いそうだ)

 

 そんな事を考える光太郎。すると、ノーヴェとウェンディが彼の表情を見てそれを悟ったのかはっきり告げた。

 

「「ちなみに、それはセイン姉(ッス)」」

「……あー、そうなんだ」

 

 どう反応するべきかと迷う光太郎へ二人によるセインとの思い出話が始まった。それを聞きながら光太郎は改めて思う。やはりヴァルキリーズは人間だと。他愛もない事で喜び、怒り、哀しみ、楽しむ。感情を表し、実に様々な顔を見せるのだから。

 今も二人の話にディエチが補足したり、或いは修正したりと賑やかに話している。それを聞いて光太郎は誓うのだ。この少女達が笑顔でいられるような世界にしようと。自分に出来る事は小さいだろうが、それでも必ず成し遂げてみせるのだ。そう強く誓い、光太郎は歩く。その視線の先にある笑い合う三人の少女達の笑顔を見つめて。

 

 

-6ページ-

 六課の者達が昼休みを過ごし出していた頃、トーレとセッテは訓練場の後片付けを終えてシャマルから簡単な手当てを受けていた。二人は朝の模擬戦後もはやてに断りを入れて自主訓練をしていたのだ。シャマルは、一応の監視役兼万一のための救護員としてはやてに頼まれここにいた。

 そんな二人の視界に映っているのは、ラボに居た時はあまり見る事の無かった青空。それに何故か心洗われるような気がして、ふと二人は揃って笑顔を浮かべた。

 

「どうしたの? 空を見上げて笑ったりして」

「いや……良い天気だと思ってな」

「はい……」

 

 その言葉にシャマルも視線を上に向け、空を見つめた。気持ちの良い青空が広がっていて、シャマルは確かに二人の言う通りだと思った。

 

「そうねぇ……でも、別にそこまで珍しいものじゃないでしょ? ラボに戻ってからだっていつでも見られるんだもの」

 

 その言葉に、二人は何故か何かこみ上げるものを感じた。ラボへ戻る事が出来ると言われた喜びなのかそれともラボを失った事を思い出しての悲しみなのかは分からない。しかし、シャマルの言葉は二人にとって大きな意味を持っていた。

 

「……そうだ、な。確かにその気になればいつでも見られるか」

「ええ。もしもっといい景色が見たいなら……邪眼を倒したらみんなでお出かけすればいいわ。お弁当とか持って……ね」

 

 シャマルの告げた言葉に二人は少しだけ不思議そうな反応を見せる。ジェイルは犯罪者。故に邪眼を倒した後は罪を償う事となる。それをシャマルが知らぬはずはないと思ったのだ。それを彼女も気付いたのだろう。微かに真剣な表情でその理由を告げた。

 

「全てが終わった後、はやてちゃんやフェイトちゃんがスカリエッティの罪を軽く出来るよう動く事になってるの。だから管理世界なら出かける事も可能になるはずよ」

 

 その言葉に二人は返す言葉を失う。はやてやゼストがジェイルの罪の軽減をしてくれるだろうとは彼女達もどこかで予想していた。だが、まさかフェイトまでがそれをしてくれるとは思っていなかったのだ。

 それをシャマルも察したのだろう。真剣な眼差しを二人へ向けて教える。フェイト達はジェイルのために罪を軽減するのではない事を。そう、彼女達は真司とヴァルキリーズのためにそれをするのだ。心からジェイルの改心を信じる真司。そして、同じように改心したが故に人らしく生きるヴァルキリーズ。そんな両者のためにはやてもフェイトもジェイルを許す気になったのだと。

 

「この話、フェイトちゃんとスカリエッティには黙っていてね。本人達はまだどこか整理が出来てない部分もあるだろうから」

「分かった。教えてくれて感謝する、先生」

「私からも礼を。それと、手当てありがとうございます」

 

 トーレとセッテの言葉にシャマルは笑顔で頷き、立ち上がる。既に時刻は昼食時。なので食堂へ行こうと告げたのだ。それに二人も頷きを返して立ち上がった。先頭を行くシャマルが翔一の料理の腕を自慢すると、セッテが負けじと真司の事を自慢する。トーレはそれを聞きながら軽くため息を吐いた。

 この後、セッテはアギト御膳を。シャマルは特製餃子定食を食べて互いの認識を改める。トーレはそんな二人を他所にポレポレカレーを食べて、食べ慣れていた真司のカレーとの違いを感じるのだった。

 

 

 ベルカ自治区内ジェイルラボ。そこで邪眼は今後の事をどうするかを考えていた。フィーアからの報告で聞いた名前。それは邪眼にとって忘れる事の出来ないものだったからだ。

 仮面ライダーBLACKだった者の参戦。クウガと同じくキングストーンを持つ存在。そして、それが邪眼にとって意味するのは創世王への道が開けたという事に他ならない。

 

 ドライを始めとする四体を失ったが、既に次のコピーの創造を開始しているため戦力に何も問題はないのだ。それに、ライダーの新しい情報を得る事は叶わなかったが、それでも収穫がなかった訳ではない。龍騎達がクウガ達と合流し、手を組んだ事は分かったのだから。

 これで両者に注意を払う必要がなくなり、邪眼としては不安材料が減ったともいえる。それに今は、二つのキングストーンを手に入れる機会が生まれた事の方が邪眼にとっては大きい。

 

「予想外の邪魔者までいたようだが、かえって好都合よ。我が真の創世王になるために、必ずやキングストーンは手に入れる!」

「創世王様、それについて私に考えが」

 

 邪眼の言葉に一人の女性が声を掛ける。それに邪眼が視線を背後へ動かした。そこにいたのはドゥーエそっくりな黒髪の女性。

 

「む、ツバイか。良かろう、申せ」

「はい。ただ倒すだけでは面白みがありません。内部から……というのはいかがでしょう。それも、信じていた者に裏切られたと思いながら」

 

 そう告げてツバイは邪眼へと近付き何事かを伝えた。それを聞いてその狙いと意味する事を理解し、邪眼は愉快と言わんばかりに嗤う。

 

「……良かろう。ならば行け! 奴らに絶望と恐怖を与えるのだ!」

「はっ!」

 

 その言葉に頷き、ツバイはその場から静かに立ち去る。その背を見送る事無く、邪眼は愉しそうに嗤い出した。自分を相手に決して絶望しなかった仮面ライダー。それに、今度こそ絶望を味わわせる事が出来る。そう思いながら。

 

 放たれた闇の刺客。それは、偽りの仮面を使う相手。いつ、どこで、誰に成り代わるのか。それとも、未だに知らぬ相手に化けるのか。そして、それとは別に動くであろう怪人達。密かに、だが確実に闇の足音がミッドチルダに近付きつつあった。

 

 

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登場キャラが多い。ので、気がついたらこんな量に……

 

次回、アグスタ編序章です。アグスタ話が終わればサウンドステージへ突入。海鳴とミッドで邪眼の企みが動きます。

説明
真司達を加えた新生機動六課初日、訓練場でなのは達とナンバーズの模擬戦が行われる。
口で言うよりも体で語れとばかりに彼らはぶつかり合う事で互いを受け入れ始めるのだった。
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