夜天の主とともに 27.異変 |
夜天の主とともに 27.異変
「闇の書、蒐集。」
闇の書が淡く紫色に輝き開かれる。蒐集対象のサソリのような姿をした大型魔法生物の中からリンカーコアが浮かび上がり闇の書に吸い込まれていく。
「…ゴホッゴホ。五ページか。まぁそれなりに稼げたかゴホッ。」
「ちょっと健一君、大丈夫なの?」
一緒に同行していたシャマルが心配そうな顔を向ける。
「問題ないよ。こうしてる時間も惜しいし次にいkゴホッ。」
「やっぱりダメよ。魔法はかけてるはずなのに最近効きが悪いみたいじゃない。」
ここ最近健一とシャマルは一緒に行動している。理由はただ一つ、喘息の発作を抑える魔法の効きが若干悪くなってきているからだ。悪くなってきていると言っても軽くせき込む程度なので本人は大丈夫だと言ったがそれでも心配で治癒魔法が唯一使えるシャマルが同行することになったのだ。
「今日はさっきのも合わせれば十分ノルマ達成どころかそれ以上蒐集できたわ。だから、ね?」
「………わかったよ。」
健一は渋々と言った感じだったがそれに応じることにした。どの道今いる世界で蒐集できそうな大型危険魔法生物はもういない。ちなみに危険魔法生物ばかり蒐集しているのはそれがそこらにいる大型の魔法生物よりも効率がいいからだ。
二人を光が包みそしてその世界から地球へと転移した。転移が完了し健一が目を開けるとすでにそこにはシグナムがいた。
「首尾はどうだったシャマル。」
「順調よ。そっちの方はどうシグナム?」
「こちらもまぁ順調だ。健一、調子はどうだ?」
「多少咳こむが軽いものだから心配ない。それよりもヴィータとザフィーラはどうしたんだ?もうそろそろ合流する時間じゃなかったか?」
ヴィータとザフィーラはここのところ一緒に行動していることが多かった。そして今日もそうだった。しかも今日は海鳴市周辺での活動だ。一番についていてもおかしくはなかった。
「もしかしてヴィータちゃんとザフィーラになにかあったんじゃ。」
「その可能性は捨てきれんな。……管理局の連中に見つかったか?」
「急ごう。前と違ってあっちも戦力を整えてきてるかもしれない。あの二人が負けるとは思わないけど。」
三人はすぐさまヴィータたちが活動していたであろうポイントへ急行した。到着するとそこには半円球状の結界が展開されていた。
「対象者を中に閉じ込めるタイプの結界か。シャマル二人の反応は?」
「いるわ。前に蒐集した子達もいるみたいよ。」
「状況的には不利みたいだね。これ壊す?」
健一が拳を構え攻撃態勢に入ろうとした。しかしそれをシグナムが手で制した。
「いや私が斬ってその隙間から入ろう。どうやらフェイト・テスタロッサもいるようだしな。レヴァンティン!!」
〈Explosion!〉
炎を纏いそのまま一つ気合を入れて結界を袈裟懸けに斬りつけできた隙間から侵入していった。
「…前から思ってたことだけどシグナムって戦闘狂?」
「違うわよ、ただ…えっと、ちょっと戦うのが好きなだけじゃない?」
「俺に聞かないでよ。そういえばあの銃使いはいないの?いたら俺が行くけど。」
「ん〜〜、どうやらいないみたいだわ。予想以上にあなたの攻撃が効いたんじゃない?」
「おかしいな。一応威力そのものは抑えたからもう完治していると思ったけど…。」
その当の本人はというと寝坊した上に賞味期限切れの物を食べて腹下し状態になってしまい目下踏ん張り中だったりする。
「まぁいないならいないでいいか。俺たちはどうする?」
「そうね、見たところのこの結界は複数の局員魔導師で維持しているようだからその局員を叩きましょう。そうすれば結界の強度も落ちるし魔力を蒐集できるから一石二鳥だわ。でも大丈夫なの?」
「さっきも言ったけど咳は軽いものだから問題なし。じゃあ行こう。闇の書はどっちが持ってる?」
「健一君が持って行って。私は戦闘能力はみんなに比べて高くないからここで待機・観察してるわ。」
健一は闇の書を受け取ると局員探しに行った。
(シャマルの話によれば効率よく維持するために結界に沿うようにしているみたいだけど………目標発見!)
〈Jet move.〉
一瞬で局員の背後へ移動した健一は首筋へ打撃を与え、接近に気付くことができなかった局員は訳の分からないまま気絶した。
「闇の書、蒐集。」
苦しげな声をあげている局員から魔力を奪い取る。影響はわずかながら結界にもあり、強度がわずかながらさがった。それに気付いたのは結界内で捜索中だったユーノだった。
『クロノ結界の強度がわずかに落ちた。多分外から局員を狙ってる。』
『わかった。ユーノも出てきてくれ。おそらくそのことも含めて闇の書の主は外にいるはずだ。』
『わかった。』
健一はそのままほかの局員も見つけて蒐集しようとしたが一向に見つからなかった。先の襲撃で一気に警戒レベルがあがったためと判断し、シャマルのところへ戻った。
「どうだった?」
「ダメだ。一人だけ蒐集できたけどそっからは警戒されて見つからない。中の状況は?もう勝った?」
どうせこちらの勝利で終わっているだろうという顔で聞いた健一に対してシャマルは顔を曇らせた。
「‥‥まさか押されてる?」
「どうにもデバイスを強化してきたみたいだけど予想以上に強くなってるみたいなのよ。」
『シャマル、健一聞こえるか?』
突如二人の頭にザフィーラの声が響いた。
『ええ聞こえるわ。』
『こっちも同じく。それでどうなんだ?』
『あまり芳しくないな。シグナムとヴィータが負けるとはぬんっ!!思えんが攻めきれていないのも事実だ。ここは引くべきだ。』
どうやらザフィーラも戦闘しながらの念話のようだった。
『こちらで何とかしたいのはやまやまだがどうにも手が空かん。そちらでなんとかできるか?』
『私の魔力じゃ無理よ。せめてシグナムのファルケンかヴィータちゃんのギガント級ぐらいじゃないと。』
『俺はまだ無理そうだ。調整中で発動できない。』
『そうか。仕方ない‥‥シャマル、闇の書を使え。』
『でもあれは。』
『状況が状況だ、仕方あるまい。』
どうやら闇の書の力を借りて壊す方針のようだった。ページが少なくなってしまうが確かにこの状況なら仕方ない。そう思った直後、健一は何かを感じ取り咄嗟にシャマルを横へと突き飛ばした。
「きゃっ!?」
「ぐっ!」
突き飛ばしたのと同時に健一の体を何重にもかけたであろうバインドが縛った。
「健一君!?一体どこかr「動くな!」っ!?」
突然バンドに縛られた健一を見て動こうとした時、シャマルの後頭部に何かが押しつけられた。そして誰かを確認することなくシャマル意識を絶たれた。力が失われたシャマルはそのまま襲った魔導師、クロノに抱えられた。
「時空管理局魔導師執務官クロノ・ハラオウンだ。悪いが先手は取らせてもらったよ。」
「シャマル!!くっ!!」
シャマルを助けようとするが動こうとすると痛みが走る。
「無理だよ。何重にもかけさせてもらったからね。」
「ユーノ、ナイスだ。さてと‥君には色々と聞かなければならない。まず「‥‥どけろ。」なに?」
重く低い言葉が流れた。見れば健一がものすごい形相でクロノを睨む。バインドを壊そうとしている体が震えている。
その途端シャマルの横に落ちていた闇の書が淡く黒い光を放ち始めた。最初にそれに気づいたのはシャマルを脇に抱えていたクロノだった。
「一体何が‥‥。」
「シャマルを‥‥離せ。」
そして変化があった。
闇の書が一つ鼓動するたびに健一の震えが大きくなり魔力が膨れ上がっていく。まるで闇の書の鼓動に反応しているかのように。
そしてジェットナックルを起点に徐々にいつもの薄緑色のではなく黒い魔力光がオーラのように出る。しかしそれでもバインドは壊れない。
「無理だって言ったよ。念入りに掛けさせてもらったからね。」
「離せ……離せぇ!!!」
顔を痛みでゆがめながらも健一は構わず魔力の放出を続ける。オーラはすでに体からも黒い魔力が漏れ出し大きくなっていく。すると健一を縛っていたバインドに少しずつ亀裂が走った。健一の体を傷つけながら。
それを見たクロノとバインドの維持をしていたユーノの顔が驚きへと変わる。
「ま、まさか力づくで破壊する気か!?」
「やめるんだ!!そんなことをしたら君の体が持たないよ!!」
「うぉぉぉぉぉ!!」
制止をも構わず魔力はバインドを破壊するためどんどん大きくなっていく。健一に傷が増えていくたびにバインドに走る亀裂も大きく広がっていった。
「シャマルを離せぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
そしてついにバインドが甲高い音を鳴り響かせながら砕け散った。しかし、健一も無事では済まず至る所に裂傷が走っていた。
ここで普通の人間ならば痛みによりその場を動けなかったりするのだが健一は違った。バインドを破壊したと同時に高速移動した健一はユーノを背後に一瞬で回った。
『Jet blow.』
魔力をありったけに込めさらに加速魔法を使用した拳がユーノを襲った。あれだけの傷を負いさらに攻撃されると思っていなかったユーノは背後からの一撃対処することが出来ずビルへと撃墜された。
「ハァ…ハァ…ゲホッゲホ!!」
少しの間だけユーノが落ちていった場所を見た健一は振り返りクロノ見た。その眼を見たクロノは一瞬だが寒気がした。
魔力が少なくなり傷を負って肩で息をするほどに弱っている。比べてこちらは無傷なうえに相手の仲間を捕えている。状況的には間違いなくクロノが有利である。なのにその眼はギラギラしていた。何が何でも刈り取るといわんばかりの眼光で。
「シャマルを‥‥離せ!!」
だが当の本人は自覚はないようだがすでにフラフラで浮いているのがやっとのようだった。これならば冷静に対処さえすれば無力化させれる。そうクロノがわずかに安堵したその時だった。
「がはぁっ!?」
突然横合いから何者かがクロノを蹴り飛ばしたのだ。突然の出来事とその蹴りの威力に対応することができずビルのフェンスまで飛ばされた。その何者かは支えを失い落ちていくシャマルを抱えて健一のところへと行った。
「くぅっ、仲間か?」
健一は健一で困惑していた。それもそうであろう。眼前の敵がいきなり見知らぬ物に蹴り飛ばされたのだ。
それと同時に健一を覆っていた黒い魔力は霧散していた。
シャマルを抱え健一の横に降ろした仮面をつけた男が健一に手をかざした。淡い青の光が降り注ぎ少しばかり健一の傷が治る。
「治癒魔法は不得手でな。これで我慢してもらおう。」
「あ、ありがとうございます。でも、あなたは何者「使え。」えっ?」
「闇の書を使ってあの結界を破壊しろ。それまでの間あの魔導師は私が押さえる。」
「ちょ、ちょっと待て。」
健一が止めるのも無視し仮面の男はクロノへと向かった。
(あの男は何者だ。助けてくれたから仲間と判断するのは危険だが。いやそれよりもいまは‥。)
「闇の書よ、来い。」
健一の呼びかけにスゥッと現れる。
〈サポートは私が。マスターは闇の書に指示を。〉
「ああ。」
『みんな、今から砲撃を撃つ。それを合図に散ってくれ。』
『『『おう!!!』』』
闇の書を開き目を閉じ意識を集中させる。先ほどの治癒魔法のおかげで少なからずとも魔力は回復している。あとは闇の書のページを使って命令し発動するだけ。
「闇の書よ。疾風の騎士、時野健一が命じる。汝がマスターの騎士たちを阻む眼前の壁を打ち砕く力を今この場に‥‥わが拳に‥。」
開かれた闇の書から魔力が迸りそれが次第に健一の右拳に収束されていく。手のひらを前にかざすとそこに収束された魔力が球体となって現れた。闇の書からの光が発せられる度に右拳に収束され球体へと変換され大きくさせていく。一つ大きくなる度に球体から黒い|雷(いかずち)のようなものが辺りに撒き散らす。
「ぐぅぅぅぅぅっ!」
〈マスター!!やはり今のあなたの状態では無理です!!〉
「俺は‥‥大丈夫だからそのままサポートするんだ、ジェナ!!」
あまりの魔力の巨大さに健一の体が悲鳴を上げる。しかしそれを無理やり抑え込み魔力制御に集中する。そしてその大きさがとてつもなく巨大になり健一すらも覆い隠すほどになった。
「うち滅ぼせ、‥‥破壊の雷!!」
健一が自らの拳をそれに叩きつけると同時に凶暴なまでの砲撃が結界へと発射された。激突と一緒に轟音が鳴り響いた。初めのうちは拮抗しているかに見えたがその黒き雷の破壊力は凄まじく次第に亀裂が蜘蛛の巣状に一気に広がっていき結界を破壊した。砲撃は破壊するだけにとどまらずその中心で広範囲に衝撃波を発生させた。
「ハァハァハァ……よし、みんな離脱したな。」
シグナムたちはタイミングを合わせて離脱に成功したようだった。健一はいまだに気絶しているシャマルを抱えると転移してその場を後にした。
――――八神家
「ほんとにすみません!!もっと早く終わると思っていたんですけどなかなかみんなと合流できなくて。」
『ええんよ、私怒っとらんし。すずかちゃんと二人で鍋はちょい寂しいから誘ってもらってご馳走になったし。冷蔵庫に鍋の材料入っとるから調理はけん君ができるやろ。』
「はい…わかりました。健一君はい。」
「いや、俺はいい。すまなかったってことだけ伝えといて。」
健一は受話器をヴィータに渡すと、シャマルと一緒にシグナム、ザフィーラがいる庭に行った。
「シャマル、シグナム、ザフィーラ。これからどうする?」
「そうね、今日使用してしまった分のページはまた稼がないといけないけど管理局が邪魔してくるだろうからちょっと遠出しないと。」
「やつらもそれなりに戦力を増強させてきている。蒐集を優先するならば鉢合わせないようにしなければならない。」
「そうだな、まぁ鉢合わせたら鉢合わせたらで返り討ちにして蒐集するだけだ。ページも稼げるし。」
「「‥‥‥‥‥‥。」」
次にどうするかを話し合うつもりだった健一は急に黙った二人をどうしたのかと思った。無口になってしまうような性格ではないことは健一はよくわかっている。
「健一、お前は無理に参加しなくてもいいのだぞ。」
「そうよ、管理局も出てきたしこれからより一層危険になるわ。適当に嘘をついて保護してもらうって手もあるわ。」
どうやら健一のことを心配してくれていた様だった。それ嬉しく思った。
「そんなことできるわけないだろ。これは俺の意志で始めたことだ。途中でやめるつもりはない。もう前に進むしかないんだ、俺たちは。それに今の状況で戦力が減るのは好ましくないだろ?」
「それはそうだが‥‥。」
「ならこの話は終わりだ。悪いけど今日はもう帰るよ。」
「待て今日はもう遅い。ここに泊まっていったらどうだ。」
シグナムの言葉に健一は首を横に振った。
「いや今日は帰るよ。」
そう言って玄関へ向かおうとするとザフィーラが前に出た。
「ならば私も同行しよう。構わんか?」
健一は少し考え首を縦に振った。そして2人はは家を出て自宅へと帰った。
自宅へと帰った健一は自分の部屋まで戻る気力はなくリビングのソファーに深いため息をついて座った。ザフィーラもそのすぐ隣へ寝そべった。
「健一疲労の色が濃いようだが大丈夫か?」
「まぁ…ね。今日は‥‥かなり疲れたな。ジェナご苦労様。」
〈いえマスターこそ。それよりも体は大丈夫ですか?全く無茶をしたものですね。まさか自分を媒介にして闇の書を発動させるとは。〉
「あの時はそうするしかなかったしな。仕方ないdゲホッ!!ゲホゲホ!!……ちょっとトイレ行ってくる。」
「ああ。」
ザフィーラにそう言ってトイレへ向かった。鍵を閉めそして自分の掌を見る。見るとそれは自分の血だった。そう認識したと思うと立て続けに咳を何度もしその度に口から吐血した。
〈マスター!?〉
「ゲホッゲホ!大丈夫だ。」
すぐにトイレの外に耳を澄ませたがどうやらザフィーラには気づかれなかったようだ。
「‥‥‥時間の問題かな。」
日を追うごとに少しずつだがこういったことが増えてきている。今日の自分を媒介にしての闇の書の発動はかなり影響があったようだった。
〈やはりこれ以上はマスターは加わるべきではないです!!このままやっていけば死にますよ!!〉
「‥‥だろうな。たぶんこのまま同じようなことしてれば俺はきっと死ぬ。」
〈!?〉
あまりの事態にジェナ何も言えなかった。まさか主そこまでの状態だとは思わなかったのだ。
「でもやめないぞ。これは俺が決めたことだ。」
〈ですが!!〉
「すまない。」
〈‥‥‥‥マスターはいつも抱え込まれる。〉
「すまない。」
〈いつも頑固で他人に何と言われようと一度決めたことは変えない。〉
「……すまない。」
〈そうやって誤って。〉
「………すまない。」
〈…………なら私はこれ以上マスターが苦しまずに済むようにこれまで以上に全力でサポートします。〉
「ああ頼むよ。……ありがと。」
そして健一はトイレから出るとザフィーラにおやすみと言って自分の部屋に戻りそのまま倒れこむようにしてベッドに身を預け眠りへとついた。
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