IS~音撃の織斑 三十六の巻:遅過ぎた帰還
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一夏の目が覚めたのはきっかり一週間後だった。音角とディスクアニマルはちゃんとある。白式も右腕に着いたままだ。手の中にはラウラのペンダントがある。ずっと握っていたのか、鎖の痕が手に刻まれている。データの確認を行って何の問題も無いと言う事を確認すると、携帯を取り出してメールを打った。

 

『二人共、心配かけてすまない。たった今目が覚めた。傷が完全に塞がるにはやはり時間はかかると思うが、当面命に別状は無い。休みが完全に潰れたが、今度また個別にデートに連れて行く事は約束する。箒の事は憎いだろうが俺が戻るまでは何もしないでくれ。後、急で悪いが、ファントム・タスクの事について調べて欲しい。どんな些細な事でも構わない。一週間も病院にいたら何をされていたか分かった物じゃないからな。

最後に、俺は二人の事を何よりも大切に思っている。退院が待ち遠しい。

 

一夏』

 

それを送信し、もう一通メールを打ち始めた。

 

『ラウラ、お前のお守りのお陰で早く目が覚めたのかもしれない。ありがとう。箒の事だが、彼女を責めないで欲しい。許せとは言わないが、元はと言えば、俺が彼女の気持ちに気付かなかったのが悪いんだ。鬼の修行もISの訓練も手を抜かない様に。師匠に俺の事を伝えたかどうかは知らないが、また少し休暇が必要だと言ってくれ。

 

起きて早々こんな頼みは急だと思うが、ファントム・タスクの事について調べて欲しい。俺が昏倒していた一週間の間の出来事を全て。どんな小さな事でも良い。退院したらお前の頭をいつも通り撫でてやりたい。お前の様な妹分がいる事を、誇りに思う。

 

一夏』

 

それも送信すると、今度は束に電話をかける。

 

『ハロハロ?、いっくんお元気?』

 

「微妙だな。あんたの妹に串刺しにされたよ、刀で。」

 

『えええええええ?!な、何でそんな事に?!何で箒ちゃんが』

 

「命に別状は無い。ギリギリだったらしいけど。一応生きているが、肺に風穴を開けられた。それはさておき、アメリカの国家代表のナターシャ・ファイルスを知っているな?」

 

『・・・・・それがなーに??』

 

精一杯動揺を隠しながら束は受け答えする。

 

「彼女と連絡を取りたい。どうにか出来るか?」

 

『任せなさい、いっくん!私に任せなさい!ちょちょいのちょいで、はいどうぞ!』

 

連絡先を送信したのか、電子音が白式から鳴る。

 

「ありがとう。」

 

携帯を一度切り、送信されたデータでナターシャに電話をかける。

 

『はい。』

 

「ナターシャ・ファイルスさん?」

 

『貴方は・・・・!どうやってこの番号を?』

 

「ちょっとコネがありまして。それはさておき、警告をする為にこんな強引な手を取りました。ファントム・タスクの事は知ってますよね。」

 

『っ・・・ええ。』

 

彼女の声が低くなった。

 

「奴らは恐らく福音を奪うかもしれません。これはあくまで勘です。軍用ISと言う強力な物をを放って置く筈が無い。どこに保管されているかは知りませんが、出来る限り警備の強化をする事、そして警備に当たる人物全員を監視、そして彼らのプロファイルをこちらに送って下さい。(暗部ならば気付かれない筈だが・・・・やって見るしか無いか。)」

 

『・・・・・分かったわ。上が掛け合うとは思えないけど。まあ、こっちもこれ以上ISを奪われる訳にも行かないしね。』

 

「(既に奪われていたのか?!)どれをですか?!」

 

『第二世代のアラクネよ。あと、確かイギリスもサイレント・ゼフィルスを奪われていたわ。それ以外の事は、まだ何も・・・・』

 

「分かりました。ありがとうございます。」

 

『礼を言うのは私よ。ありがとう、白い((騎士|ナイト))さん。』

 

電話を切った後、一夏は徐に携帯の電池パックを外して、内部を調べた。すると、案の定黒い小さなドットを見つけた。盗聴器だ。

 

「クソッタレが!」

 

今までの会話も、メールも、全てが筒抜けになっていた。何時から仕掛けられていたかは不明だが、あれで束の現在地を突き止める事が出来たら・・・・それに幾つかIS改造のリクエストもしていた。それを実現させる事が出来たら更に戦いが厄介になる。

 

「ん?」

 

メールボックスに新たに受信したメールがある。市からだ。

 

『一夏、お前が今どんな状況かにいるかは妹分と更識の奴らから全て聞かせてもらった。多少のリハビリ運動は多目に見るが、今は兎に角しっかり治療に専念して、前線復帰に全力を挙げろ。学園の方での魔化魍退治は俺がどうにかする。後お前を刺した((女|バカ))の事だが、その内俺が会いに行くからそのつもりでいろ。

 

市』

 

「一夏・・・・・」

 

顔を上げると、向かいのベッドで横になっていた箒が起き上がって来た。一夏はしばらく彼女の顔を見つめていたが、目を背けた。

 

「何で俺を刺した?」

 

だが箒は俯いたまま答えない。

 

「答えろ。何で俺を殺そうとした?」

 

「違う!私は殺そうとした訳では・・・!」

 

「俺の左肺を貫いた奴が言うのか?心臓から外れたから良かった様な物の、一歩間違えば俺は死んでたぞ。別にお前を責めている訳じゃない。何がお前をそれ程までに駆り立てたのかを知りたいだけだ。」

 

「私、は・・・・お前が・・・・・どこか遠くにに行ってしまうんではないかと、怖くなったのだ。生徒会長や更識と一緒にいる事が多くなって、私には見向きもしなくなった。私の相手をする時も簡単にあしらって・・・・・」

 

「つまり、またお前の事を忘れてしまうのではないか?そう思ったのか。」

 

箒は小さく頷いた。体が震えているのが分かる。

 

「で?気は済んだか?」

 

「は・・・・?」

 

「俺を刺して気が晴れたか?」

 

だが、箒は何も言えなかった。

 

「俺を刺した所で何も変わらなかったろう?ああ、確かに俺は今進行形で楯無や簪と関係を持っている。ラウラも俺の妹分だ。だが俺を刺した所で、物事が好転する筈が無いだろう?俺はお前の気持ちには気付かなかった。その事実は揺るぎようが無い。だが、お前が自分自身の意思をしっかり伝えなければ、お前の気持ちが分かる筈も無い。で、結局の所どうなんだ?」

 

箒はやはり俯いたまま黙っている。

 

「虚しいだけだろう?心の中でも分かっていた筈だ、こんな事をしても何の意味も無いと。」

 

「ではどうしろと言うのだ!?私のこの気持ちは・・・・・もう、止められないのだ・・・・・・溢れてしまって、私は・・・・」

 

「だったら、何で今までその気持ちを俺にぶつけなかった?何故遠巻きに見ているだけに留まった?伝わらなければ、意味が無いだろう?どう返事を返されようが、潔さと言うのも、武人に取っては大事な物だぞ?お前はもう退院する頃だろう。さっさと荷物を纏めていろ。」

 

だが、そんな時に一夏の携帯が鳴る。相手はラウラだった。

 

「ラウラか。どうした?」

 

『兄様!学園が・・・・学園がファントムタスクに!!』

 

「何?!」

 

『延期された学園祭の時を的確に狙って・・・・更に訓練器も殆どが点検・修理の為に回収されています!代表候補生や教師達が戦っていますが、このままでは・・・・!』

 

(ちきしょう・・・・・やはり来たか・・・・!)

 

一夏はシーツの下で印を結び、傷口に当てた。

 

(師匠、すいません!『((寿換癒転|じかんゆてん))』!

 

これは緊急の時にしか使わない一種の禁術なのだが、緊急事態である故に使用する事を決意した。外傷と肺を貫いた傷は瞬時に治った。

 

(消費した寿命は・・・・数年か。)

 

一夏は畳まれていた自分の服と私物を回収し、屋上に上った。

 

「一夏!どこへ行く!?」

 

「学園が襲われている!」

 

「何だと?!」

 

一夏はそのまま屋上まで駆け上り、誰もいないのを確認してからディスクアニマルを巨大化、そのまま学園まで飛び去った。箒も病院を後にして紅椿を全速力で飛ばす。

 

学園の入り口に付くと、既に引き上げた後だったらしく、教師達や生徒が怪我人を運んだり、瓦礫の後始末をしていた。

 

「遅かったか・・・・・」

 

一夏は悔し紛れに手近にあったコンクリートの壁を蹴り飛ばした。新たな穴が開通するその一撃は、一夏の怒りのボルテージの程度を物語っている。両手両足に白式を部分展開させ、瓦礫をどけて行くと、保健室に進んだ。部屋の中は怪我人でごった返しており、野戦病院宛らの眺めだった。

 

「「一夏?!」」

 

振り向くと、簪と楯無がそれぞれ体のどこかしらに包帯を巻いた状態で現れた。

 

「お前ら・・・・!」

 

「「どうしてここに?!」」

 

「何があった?!」

 

三人は同時に口走る。

 

「俺はラウラから連絡を受けてすっ飛んで来たんだが・・・・被害状況は?」

 

「教師と生徒を会わせて百十数名が重軽傷。ISもいくつか半壊状態よ。それと・・・虚先輩の意識が戻らなくて・・・・本音が見てるけど・・・・」

 

「俺が行く。俺なら治せる。」

 

「治すってどうやって・・・?!」

 

「師匠から習った秘術の一つだ。禁術だが、緊急時には判断を任せると言われた。そして俺は今使う。」

 

「待って。禁術ってどう言う事?」

 

楯無は眉を顰めて問い詰めた。声が鋭くなっている。

 

「禁術の使用は使用に応じて対価が必要だ。この術の対価は、術者の寿命。一度発動する度に、俺の寿命は五年削れる。ここに来る前に俺の傷を治してここに来た。」

 

「そんなの駄目!!」

 

「今度使ったら寿命が合計で十年縮むんだよ?!そんなの絶対駄目!!」

 

当然二人は猛反対した。

 

「だが、このまま放っておいて容態が悪化するよりはマシだ。俺と彼女を秤に掛けろなんて卑怯な事は言わない。俺は彼女を助ける。異論は認めない。止めたければ好きにしろ。これ以上ファントム・タスクがISを奪う前に奴らを倒さなければ、面倒になるのは目に見えている。ある程度人が出て行って落ち着いたら使う。」

 

一夏は簡易ベッドで横たわっているラウラを見つけると、ラウラがした様に自分と彼女のペンダントを握らせた。

 

「すまない・・・・・」

 

一夏は頭を冷やし、現状の整理をする為に屋上に上った。

 

「随分と派手にやられたな、イバラキ。」

 

「し、師匠?!」

 

そう、屋上にはいつからそこにいたのか、涼し気な表情に鋭い目付きの五十嵐市が立っていた。腕を組んで欄干に凭れ掛かっている。

 

「よう。お前『アレ』、使ったな?まあ、お前の寿命だ、好きに使うが良いさ。俺達鬼も中々気が抜けないな。それと、夏だからなのか、魔化魍の活動が活発になって来ている。考えたくないが・・・・まさかとは思っている。」

 

「まさか・・・・オロチ、ですか?」

 

「それだけじゃない。血狂魔党の一部が復活しているかもしれないんだ。吉野でも全力で調査を続けているが、確証も無いし、まだハッキリとした物証も出て来ない。」

 

それを聞いて、一夏は絶句した。血狂魔党は戦国時代の魔化魍達が作り上げた組織であり、オロチを頭目にその童子と姫、ヒトツミ、そして紅狐と白狐の大群により構成されている。その時代のヒビキを始めとする日本各地に点在するヒビキを加えた合計七人の鬼達が協力して倒したと古い文献に記されていた。

 

「そんな・・・・!こんな時に・・・・」

 

「こんな事はあまり考えたくはないが、いっその事そいつらにファントム・タスクの奴らを食わせちまえば良いんじゃないか?厄介な敵も減る。」

 

「待て!!それはどう言う事だ?!」

 

突然扉を蹴り開けた千冬がそう叫んだ。

 

(チッ、こんな時に・・・・・って師匠はいつの間にかいないし・・・・)

 

「アンタには関係無い。ファントム・タスクの奴らに俺が不在の間かなり手酷いやられ方をしたみたいだけど。これからどうする?奴らは恐らく・・・・いや、間違い無く俺と俺のISを狙って来る。携帯にも盗聴器を仕掛けられてた。」

 

「それについては対策を練っている所だ。だが、お前のあの会話・・・・・魔化魍とは、血狂魔党とは、鬼とは一体何だ?!」

 

「何の話をしている?鬼?自分の事を言っているんじゃないのか?」

 

一夏は千冬に接近すると、携帯の液晶を見せた。

 

『その事がIS委員会にバレれば俺は恐らく実験施設に拉致されて一生を過ごす事になる。当然組織の事もバレてしまい、兵器に転用するしか脳の無い政府に悪用されてしまう。その状況を避けたければこれ以上深入りするな。』

 

「兎に角、相手はよっぽど強いんだろうな。アンタでも太刀打ち出来ないんじゃ。」

 

「その中の一人は・・・・・私と瓜二つだった。」

 

「・・・・・・クローンか何かか?」

 

「分からん、だがサイレント・ゼフィルスを操っていた。フレキシブルも何の苦も無く使える。私を姉さんと呼び、エムと名乗っていた。他の二人はそれぞれオータム、スコールと呼び合っていたな。」

 

「エム・・・・?(((秋|オータム))に、((土砂降り|スコール))・・・・)」

 

「その内の一人は、アラクネを使っていたか?」

 

「何故お前がそれを・・・?!」

 

「ナターシャ・ファイルスに直接聞いた。国家代表クラスかそれ以上のIS乗りが今だけで三人いるとは面倒だな。そこまで戦力が揃っているなら、恐らく別のISを狙う。その警戒態勢を可能な限り敷く様にも頼んでおいた。」

 

「まさか、奴らの狙いは・・・・?!」

 

「シルバリオ・ゴスペル。福音だ。」

説明
一夏が不在の間、学園は・・・?そしてファントム・タスク、魔化魍達との戦いの行く末は?
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コメント
恐らく次回位にはそうなります。(i-pod男)
箒弁解ばっか、一言ぐらい許されるとは思っていなくとも謝るぐらいしろよwww束の反応人生で一番大きかったんじゃね?(氷狼)
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