キョンさんの憂鬱
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・・・なんてこった。あんな夢を見るとは。

 

時計を見ると夜中の三時。

そろそろ幽霊も寝る頃なんじゃないかな?

 

私はとても嫌な夢を見て目を覚ました。

っったく、なんであの涼宮一同が女で私が男だったんだろう?

しかもハーレム状態ってのは自分の感覚を疑うね。

寝る前の一時間、長門君に押し付けられたTS物の学園小説なんて読むべきじゃなかったな。

 

北高に入学してきたときは平凡な高校生活を送れると信じていた。

しかしその儚い願いは叶えられなかった。

後ろの席の涼宮ハルヒという男によって。

 

 

「宇宙人未来人・・・・」

流石に振り向いたね。後ろの席にはえらい美青年が居た。

かなり変な奴だが、それでも女子に人気があった。

まあ、顔も頭も良くてスポーツ万能とくれば当然だろうけど。

涼宮の場合、無愛想なのもポイントになるらしいが。

私にはわからないけど。

ある日、気まぐれに話し掛けてしまったのが運の尽きだった。

 

 ねえ、曜日で髪形を変えてるのは宇宙人対策??

「いつから気付いたんだよ?」

それから涼宮は宇宙人や未来人、超能力者、また、今の学校がいかに退屈かを切々と語りだした。

なんでも変な部活がないのが気に入らないらしい。

はぁ、ないものはしょうがないでしょう。

 

 

 放課後。

チャイムがなると同時に涼宮は私を廊下に引きずり出し、ズンズンと歩いて行く。

ちょ、ちょっと! 涼宮君、私を何処に連れて行くの!?

渡り廊下の角に手をかけて踏ん張った私をじっと見つめ、

しゃがみこむと涼宮は私の膝と脇を抱えた。 いわゆる「お姫様抱っこ」の状態だ。

「旧校舎の部室棟だ。」

それだけ言うと黙って渡り廊下を歩いて行く。

ああ、ギャラリーの視線が痛い。

 

逃げようにもしっかりと抱えられてしまい、身動きすら取れない。

こうなったらさけb

「叫んだらキスするぞ」

不意に耳元で言われ、固まってしまった。 誰か助けてえええ。

 

 

 薄暗い旧校舎。状況はどんどん悪くなる。

どこかの部室に入り、扉を閉める涼宮。

って、でdrfgてふじこlp;@: この状況ヤバイって!

窓から降りればなんとか・・・と思ったが、窓際に座り本を読んでいる人影が見えた。

扉の前には涼宮、窓にはもう一人。 逃げられない。

 

「作ることにした」

って作るって何を!!? まさか子供!!?

 

・・・齢16、今まで危ない場所には近づかないようにしていた。

ヒーローものも好きだけど、私自身はいわゆる傍観者の立場が好きだった。

だがどうだ、現実はこのとおり。 

悪の組織は向こうからやってくる、そんなことを忘れてしまっていた。

 

ぼろぼろと涙がこぼれてくる。 

やっぱり、好きな人とがいいよ。いやだぁぁ。

「ちっ、違う! 部活を作るんだよ!」

え?

そ、そういうぐっ・・うぇっ。 ことはさ、さ先にぃいって欲しいんだけっ・・ど

 

変に泣き癖がついてしまい、教室に荷物を取りに戻ったのが二時間後だった。

泣きながら戻ってきた私を見て、残っていた谷口と国木田はえらく狼狽していた。

あの涼宮も同じような顔をしてたっけ。

 

 

夜が明けた。私は幸いにも登校拒否にならなかったようだ。

だけど、あのことについて突っ込まれることは間違いない。

考えただけでも鬱々としてくる・・・・。

 

少しビクビクしながら廊下を進んでいく。

噂話が聞こえてきたらどうしよう・・・。

すれ違う人々は予想に反して平静を保っていた。

 

みんな気にしてないのか。

視線のようなものを感じるけど、振り返っても誰も見ていないからいいか。

時々、殺気も混じっているような・・・? んー?

 

教室に入ると、皆一様に豆鉄砲を食らったような顔をしている。・・・厄日だ。

ホームルームの終わりに、谷口と国木田に拉致されて尋問を受けることになった。

私は拉致されやすい体質なのだろうか・・・。 どんな体質だよ。

 

「キョン、お前大丈夫なのか!!?」

「ええ、もう来ないかと思いましたよ。 理由は聞きましたが数日は寝込むと思ってました」

 

うん、まあ眼は真っ赤だけどね。

 

 

「ところでキョン、お前ら付き合ってんのか?」

「そうそう、今日はその話で持ちきりですよ」

ああ、あれは「クラブ作らない?」ってことみたいだよ。

 

「噂ではキスだとか、好きな人とかうんぬんって言ってたな。お前まさか学校で・・・!!?」

えっ、そ、それは都合の悪い部分が編集されたというか・・・うーん。

「怪しいですね。 まあキョンがそういうなら・・・そういうことにしておきましょう」

 

一体そういうってどういうことだよ。

第一、地味で平凡な私に涼宮が興味を持つ訳がないでしょ・・・。

(・・・キョンが気付かないだけで結構人気あるんですけどね・・・)

(・・・少しくらいは気付けよな、全く)

 

二人で何を相談しているんだ?

突然の予鈴の音。そういやもうすぐ授業だっけ。

 

 

「謝りたい。 昼休み、中庭にて待つ。    涼宮」

4現の教科書からなにやらメモが飛び出してきた。

 

「昼ご飯を2週間おごること」

中庭に呼び出されて三回目、流石に折れました。

・・・といってもこの条件は厳しかったかな。

 

しかし涼宮の奴、いつもお昼ご飯を買って食べているそうだ。

案外実りのない高校生活なんだなぁ・・・。

罰は一週間で許し、週二回くらいは弁当を持っていってあげることにした。

しかし、「朝・昼・晩、毎日食べたいくらいだ。」などと言い出すとは思わなかった。

腹いせに逆・罰ゲームをやろうったってそうはいかないって。

クラスの皆も呆れているようで、皆こっちを見ていたっけ。

 

結局私は文芸部に入ることになった。

谷口と国木田は「やっぱり」と言ったきり呆れていたけど。

 

 

 

 涼宮が作ろうとしたクラブの名前は・・・「SOS団」

なんでも「世界を大いに盛り上げるための涼宮ハルヒの団」の略なんだって。

ちょっとかわいいネーミングセンスなんですけど。 そこ、笑っていいよ。

いつものぶすっとした顔で考えていたと思うと、自然に顔がニヤついてくる。

ちょっとからかっただけで顔が真っ赤になっていた。 腹が痛いです。

 

 

 「5時に光陽公園西門にて待つ」

 

長門君から借りた本。

その中に挟まっていた栞に、そう書いてあった。

まさか三日前から待っていたんじゃ・・・?

長門君の部屋に招待された私は、よくわからない話をされた。

 

「三年前、類を見ない情報フレアを観測した。その中心にいたのが涼宮ハルヒ。 不思議なことに中心部の情報が一時消失、拡散した情報が集積され、現在の涼宮ハルヒに再構成された」

 

?? ごめん、意味が良くわからない・・・。

 

「つまり、涼宮ハルヒは生まれ変わったといってもいい」

・・・わかんない。

ごめん、もう遅いから帰るね。

そういうと長門君は少し淋しげな表情で私を見送った。

 

 

 私は夢を見る。

そこには少し違った景色、もう一人の私、別のカタチの皆・・・・。

なんだか物凄い既視感。 小説の読みすぎかな・・・?

 

翌日。

 

 涼宮は背の高い、涼しげな目元をした美人を連れて来た。

あの長門君と朝比奈君がビックリしていたのが印象深い。

 

彼女の名は古泉さん。

この時期に転向してきたばかりに、涼宮に拉致されてしまった被害者である。

涼宮と並んでいると絵になるなあ。

彼女?とコッソリ聞くと「違えよ。」と一言放ち、ぶすっとしていた。

 

「メンバーもそろったし、明日は10時に公園に集合。 遊ぶぞ。」

涼宮はそれだけを言い、解散となった。

 

ハルヒの提案はこうだった。

「これから二手に分かれて市内をうろつく。不思議な現象を確認したら携帯電話で連絡を取り合う。以上」

私は結局、朝比奈くんと組むこととなった。

 

「じゃあ解散。真面目にやってくれよ」

そう言うと涼宮は勘定書きをもって店を後にした。

 

「デートじゃないんだからな」

 

涼宮は私と朝比奈君にそう釘を刺すと古泉さんと長門君を引き連れ、東の方へ向かった。

 

「キョンさん、話があります」

 

河川敷を歩いているとき、朝比奈くんがいつもの笑顔を崩した。

 

「キョンさんは、涼宮君のことをどう思います?」

 

と、突然切り出されても困るなあ・・・。 うーん・・・。 ちょっと変わったクラスメイト?? かな。

 

「わかりました」とだけ言い、ベンチに座った。

「信じてもらえないかもしれませんが、実は僕、未来から来たのです」

「今から三年前、不思議な現象が・・・」

 

やれやれ、宇宙人の次は未来人。終いには超能力者かぁ・・・。

例えそれが本当だとしてもなぜ、私にそんな事実を言うのだろう。

全部の話を信じたとしたら・・・。 でもそれじゃ涼宮は・・・・。

 

 

灰色の世界。

 

幾つもの光球が、青く光る獣【神人】を屠る。

砕ける世界、彩りを取り戻す。

「これは今の涼宮君の力。だけど、私たちの力は・・・もう消えつつあるの」

古泉さんはそう言った。

 

 

 

その後も私は幾度となく夢を見る。

 

・・・。  いつもの目覚ましの音で目を覚ます。

今日は皆に聞かなくちゃいけない、聞きたくない。

 

 

 私はSOS団のメンバー(ハルヒを除く)に、最近見るようになった夢について話した。

 

私たちの世界に似ていて、SOS団があって・・・。

夢に出てきたような異変が起こるようになった。(こちらのものは規模が小さいけれど)

偶然見る夢にしては出来過ぎている。

あなた達もそう思う・・・ううん、知っているんでしょう?

三人は黙ってうなずく。

 

でも、確実にこちらの世界とは違う。

 

・・・。

古泉さん、あなたはハルヒが「神に近い存在」って言ったよね?

長門君は、「涼宮ハルヒが消え、別の存在に変わった」と。

そして朝比奈君は、「歴史が変わったとしても、他で釣り合いが取れるから」って言ってたよね?

思うんだけど、その理屈だと私たちのいる世界ってさ、

「神のいなくなった世界・・・。いえ、神に見限られた世界」にならない?

 

・・・馬鹿馬鹿しい。 やめた。

ハルヒはハルヒだから。 

それに皆がここにいる理由も、仕事だけってことじゃないでしょ?

「SOS団が好きだから」

 

四人でハーモニーってのも出来すぎだね。

 

 

 空は重く、空気は淀んでいた。

セーラー服が肌に張り付く。 息が詰まりそう。

蛍光灯の切れかけた街頭の明滅が嫌に目に入ってくる。

 

 その日は何かおかしかった。

ハルヒは朝から具合が悪そうにしていたし、古泉さんは学校に来ていなかった。

 

朝のHR終了後、珍しく教室に朝比奈君が来ていた。

「最後まで、諦めちゃダメですよ。 困ったことがあったら、これを」

それだけ言うと、私の手に熊のブローチを握らせて立ち去っていった。

 

今日はやけに外が暗い、もう帰ったほうがよさそうだ。

放課後、部室棟に寄って挨拶だけして帰ろう。

 

ドアを開けると、そこには長門君が本も読まずに座っていた。

帰り際、私を見つめたままの長門君が「気をつけて」といったように見えた。

 

・・・もうハルヒの奴は無事に家へとたどり着いたのだろうか。

何も無ければいいけど。

 

「大丈夫、今日寝れば明日は元気になるから」

「うん、今日はゆっくり休んでね」

 

なんとなくハルヒに電話をかけた。

とりあえず家には無事に帰ったみたいだから大丈夫かな。

私もミルクを飲んで寝ることにしよう。

 

 

 「おい、キョン、キョン?」

うーん、そんなに慌てて食べたらのどに詰まらせるよ、あはは、・・だから言ったじゃない・・。

「起きろってば!」

目を開けると、そこには涼宮の顔があった。

うわわゎ、顔が近い!!!

まったく、ビックリさせないでよ! ってなんで家にハルヒがいるのさ!!

ハルヒが私を抱きしめる。

「よかった。 目覚めなかったらどうしようかと思った」

へぇえぇぇ、いいったいどうなっているんですか??

やめて、心臓が爆発するって!

 

「落ち着いて聞け、 よくわからないが今、学校にいる」

 

 

私は三度頭を振ると、まだ少し寝ぼけたままの眼で辺りを見回す。

あれ、北高? ってパジャマで寝たはずなのに!

 

「俺も確かに家で寝たはずなんだ。 何で学校に来ているんだろう」

あたっ、急に手を離すなっ。頭をぶつけたじゃない。

 

 

・・・ここはえと、東駐輪場かな。

「そうみたいだ。 何でこんなところに。 ・・・それよりも景色がおかしい。

そう言われ、ハッと気付く。   これは・・・閉鎖空間!?

「なんなんだ・・・。 人が一人もいない。」

 

ハルヒ! とりあえず部室に行こう。 何か分かるかも知れない。

私は立ち上がり、ハルヒの手を握ると走り出した。

 

部室に入ると、私は内側からカギをかけた。

はぁ、これで一安心かな。

 

ハルヒは深刻な顔をするとパソコンの電源を入れる。

だけど願いも虚しく、パソコンは反応を見せることは無かった。

 

「畜生、どうなってるんだよっ!」

 

 

 

ガツンッ! ガツンッ!

突然、ドアが鳴り出した。 何者かがドアをこじ開けようとしている。

 

ガッ、ゴッ ガッ・・・・ 周期的に扉がゆれる。

な。 何なのこれは??

 

「こっちだ!」

ハルヒに手を引かれ、窓の外に出る。

「ひさしを伝って隣に行くんだ!!」

 

丁度二人が窓の外に出たとき、ドアが半分ほど破れ相手の正体がわかった。

 

青く光る「ソレ」の身長は1mほどで、人の形をしている。

・・・ただ、ソレに頭は無く、 手には錆びた、鈍く光る刃物をもっていた 。

・・・明確な殺意を感じる。怖い。怖い。こわ・・・

 

パンッ!

 

私は頬に痛みを感じ、ふと我に返る。

「しっかりしろ、俺がついてる!」

 

どう逃げたか覚えていないが屋上まで来ていた。

「ここの扉は頑丈だから、大丈夫。 ちょっと様子を見るだけだから」

そう言うとハルヒは扉の開け、中へ入っていく。

待って! 

 

カチャッ

 

カギの閉まる音が聞こえる。

ここのカギは内側から閉まる構造になっており、外からは開けることが出来ない。

 

まって馬鹿何考えてるのああもうやめてよ

「キョン」

うううあああばかばか何やってるの

「キョン、聞いてくれ」

ううっ、ううぅ

 

「アイツは多分俺が原因でできたんだろう? 

 だったら俺が仕留めるか・・・なら消えると思うんだ」

 

「ごめん、実はあの日、ドアの外から聞いていたんだ。 皆の気持ちが凄くうれしかった。 ありがとう」

 

ドアの向こうの足音が遠ざかっていった。

 

 私はドアを背にへたり込んだまま、ただうなだれていた。

 

ハルヒ・・・。

 

 

「最後まで諦めちゃダメですよ」

不意に朝比奈君の声を思い出す。

ポケットを探ると今朝受け取ったブローチが入っていた。

 

お願い! アイツをたすけて!

 

ザ・・・ザザッ・・・

 

「つながった! ザッ 長門君!頼んだよ!」

 

「・・・キョンさん、 キョンさん?」 ブローチから朝比奈君の声が聞こえてくる。

「もう大丈夫、今すぐにそちらに向かいます」

 

 

一瞬耳鳴りがし、目の前に赤い光球が現れた。

「お待たせしました。」

光球はやがて人の形になり、古泉さんの姿へと変わっていく。

「今朝は組織の全構成員を招集していたので、ちょっと遅れちゃいました」

古泉さんらしい、涼しげな眼で笑った。

 

「はぁ、はぁ、アイツ等一体何匹居やがるんだ! きりが無い!」

 

ヒタヒタと足音が廊下に響いてくる。

不意打ち気味にイスを振り下ろす。

「当たった! これで5匹目・・ 」 

物陰からもう一匹飛び出して来ていた。 迂闊・・。

 

刹那、首に届こうとしていた刃が弾ける。

「・・・。避けて」

後ろの方から声が聞こえる、俺は思い切り横に倒れこむ。

風を切る音が聞こえ、首なし化け物の体に複数の小さな穴が空いた。

 

「・・・おまたせ」

「来てくれたのか。 ところで何をやったらあんな風になるんだ?」

「これ」

長門の手の中にはパチンコ球が握られていた。

「何処から持ってきたんだよ。 それでよくあんなことができるな」

「パチンコ研究会。 ・・・・非公認だけど。 それに、今の私にはこれで精一杯。 イスでアレを倒せるあなたも異常」

 

「そんなけんk」

「急いで、 まだ終わってない」

長門と俺は、駆け足で屋上へ向かった。

 

 「実のところ、長門君と二人でここに来るために殆ど力を使っちゃってね」

「組織の人間の力を、全部集めてやっとこれだけ。」

 

 古泉さんが言うには、今回の事件はもうひとつの世界が関わっているらしい。

異世界というと、よくパラレル・ワールドという訳があてられるが、

ここの世界との関係からすると誤訳になってしまうそうだ。

なんでも、幾つもの平面が交差して互いに影響しあっている、とのことだった。

あの化け物は異世界の力が漏れ出し、歪曲して具現化したものだという。

 

 

 カチャ

 

カギの開く音が聞こえる。 ハルヒ、生きてたんだ。 よかった。

「ダメ! 違う!」

古泉さんは右手で私の肩を掴む。

「どうしましょう・・・。これじゃ力が足りない」

 

ドアからは10数体はいるだろうか― 首無しの化け物が見えていた。

 

 多勢に無勢、いくら古泉さんの力が強くても数が多すぎる。

残り3匹、古泉さんの体から赤い光が消える。

「参ったな、もう打ち止め・・・・ にげt」

 

化け物は、力を使い果たし気絶した古泉さんを無視し、こちらに向かってくる。

少しずつ後ずさりしていたが、鉄柵が背中に当たる感触で、もう逃げられないことを悟った。

 

・・・まだ。せめて古泉さんから奴らを離さないと。

私、できるよね。 ハルヒ。

 

うわあああああ

流石の化け物も、狩るべき獲物が正面から向かってくるとは思わなかったのだろう。

奴らのうち一体の頭・・・いや、胴を踏みつけて飛び越えることができた。

よし、このまま校舎の中まで・・・ っわ!!

 

・・・どうやら希望的観測も当てが外れたようだ。

先ほどの戦いでできた窪みに足を引っ掛け、転んでしまった。

ふぅ、人生そううまくいかないかな  ・・・でも、まだ死ねない!

また走り出そうとしたが、かなわなかった。

先ほど踏みつけた一体が、片方の足を捕まえていたのだった。

 

 残りの二体がにじり寄ってくる。

はあ、よりにもよって人生の終わり方がこんな形になるとは。

現代の日本でもっともアリエナイ死に方。

 

「キョン!」

ハルヒ、あんたにしては遅かったじゃない・・・。 

 

 こちらに向かってハルヒが突進してくる。

「長門!!」

そう叫び、左に60cmほど身をよじるハルヒ。

階段の入り口に、長門君の影が見えた、 瞬間、二体の化け物が吹き飛ぶ。

「・・・これじゃ当たる! 後は何とかして!」

 

長門君が叫んだ瞬間、足に衝撃を感じ体が宙に浮くのを感じた。

思わずハルヒに手を伸ばす。

 

 キョン!!

手を伸ばす・・・指先が少し触れた。

 

・・・屋上の柵を越え、キョンは闇に吸い込まれていった。

 

届かない・・・。 手が届けば放さないのに・・・。

遅かった・・・・。

俺は柵にぶつかり、ようやく止まった。 

俺は手を伸ばしたまま、ただ俯いた。

・・・キョン。

 

 

「は、はい」

 

顔を上げると、目の前には青く光る巨人がいた。

4mはあるだろう、大きな手の上に・・・。

キョンが座っていた。

 

「ハルヒの手、届いたよ」

そういうとキョンは両手を広げ、俺の目の前に降り立った。

「ありがとう」

思わず、キョンの体を抱きしめた。

「い、痛いよ・・・」

 

 

・・・後ろから最後の化け物が近づいてくる。

二人は気付かない。

もう少しで手が届くという時、その体は消え去った。

 

「馬に蹴られて死んじまえ、ってね。 ・・・狙ってたのに、キョンのこと」

目を覚ました古泉さんは、悔しそうにそうつぶやく。

 

青い巨人は光の粒子となり、ひび割れた灰色の空を彩っていた。

・・・まるで、二人を祝福するかのように。

 

おわり。

 

説明
当時「キョン子」が流行っていた頃たまたま書いていたSS。
これを自分が書いていたと思うと死にたくなる……

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