魔法幽霊ソウルフル田中 〜魔法少年? 初めから死んでます。〜 花子さんの波動球が108式までありそうな29話
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『崖の男』

 

それは、ある男女が車で旅行に行く途中であった。

 

目的地は山の中にある温泉で有名な旅館、二人は大型連休を利用してデートと洒落込むつもりであった。

 

車の中でいちゃつく男女とは正反対に、天気は5月とは思えない程冷え込み、霧が立ち込めていた。

 

この山道はガードレールを外れてしまえば崖へと真っ逆様、気を付けなければ事故の可能性もあるのだが、浮かれている二人はお構いなしである。

 

だか、二人が今日気を付けるべき事は『それだけではなかった』。

 

 

「あれ、何だ……?」

 

「どうしたの?」

 

運転をしている男が、まず『ソレ』に気がついた。

霧の向こう側に、ポツンと一つ影が浮かんでいるのだ。

 

助手席に座っていた女も影に気づく、ちょうど人間と同じぐらいの大きさの影に。

 

「ったく、なんだよ。危ないなあ……」

 

男は道路上に人が立っているのだろうと考えて、避けようと進路を変更し舌打ちする。

 

 

 

そして、少し疑問が湧いた。

 

『なんでこんな山奥に人が、それも一人で突っ立っている?』

 

 

――――その時だった

 

 

「っ!? うおおっ!!?」

 

「きゃああっ!?」

 

突然、男はハンドルを思いっきり右に切った。

急ハンドルだったために慣性が働き、車内で二人はシートベルトに引っ張られる形となる。

 

「もう! どうしたのよ!」

 

男のいきなりな行動に女は声を荒げて文句を言う。

 

だが、男は「よく見ろよ!」と先程まで影のあった場所を指差した。

 

 

「あそこ、ガードレールが壊れて崖になってる! 霧でカーブだったのも気づかなかったから、あの影を避けようとしてなかったら落ちてたんだよ!」

 

「え……!?」

 

その後、無事に温泉旅館に辿り着いた二人がその影について聞いてみたところ、『昔、あの崖で事故が起きて男性が一人崖から落ちた』という話が聞けた。

 

 

二人はその男性が『自分達が同じ目に遭わないように助けてくれた』と思い、帰りにその崖を通る時に感謝しながら帰ることにした。

 

そして、例のカーブを曲がり終えた二人は気付く――――

 

 

 

 

 

「お前達も……死ねば良かったのに……!」

 

――――血みどろで後部座席に座る男に。

 

 

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「――――っていうお話が、この海鳴温泉の道にあるんだけど。アリサちゃんどう思う?」

 

「いやあぁぁあぁっ! こわいこわいこわいぃぃぃ!!!」

 

車内でアリサの叫び声が響き渡る。

今日はゴールデンウイークを利用して、月村家、高町家、+アリサで海鳴温泉へ行こうとする道中である。

 

もうそろそろ目的地に着こうというところで、すずかが『ねえ、知ってる?』とどっかのCMみたいに怪談話を始めて今に至る。

 

 

 

 

では何故お化けが人一倍苦手なメンツがいる中、すずかがこんなことをするのかというと…………。

 

 

「ねぇ……もうやめてよぉ……ぐすっ。すずかぁ……」

 

「ふふ、どうしようかな〜」(普段強気なアリサちゃんの泣き顔……恐怖で私にしがみつく姿……イイ! スッゴくかわイイ!)

 

百合が悪化していた。

すずかに秘められしサドと無自覚な百合が合わさり、黒すずかと化している。

 

 

「それじゃあ、この話はおしまいにして――――

 

(よ、よかった。もう聞かなくて済むんだわ!)

 

――――こんな話は知ってる? 『障子に百目』って言うんだけど」

 

「いやああああ!!!」

 

 

しかも終わらせる気はないらしい。

この旅行に備えすずかはアリサの怖がる顔を見るためマイナーな怪談も残さず覚えているという充実っぷり。

ちなみに話のネタはテケテケから聞いてたり。

 

「すずかちゃん、いつからあんなに怪談話詳しくなったんだろ……?」

 

すずかの隣に座っていたなのはが、最近距離がなんとなーく離れた気のする親友に疑問を抱いている。

 

 

(ねえなのは、今の話って本当のことなのかな? この世界じゃ『怪談話』って昔の事件の話なの?)

 

(ユーノくん、ええと……本当だったら怖いんだけど。一部誇張があったり、人を怖がらせるための作り話なんだよ……多分)

 

ひょこっと、なのはの膝の上にいるユーノが念話でそんな事を聞いてきた。

 

ちなみに、なのはも怪談話が怖かったので美由紀から癒やしを求めてユーノを拝借している。

 

(っていうか、ユーノくんの世界じゃ『怪談話』って無かったの?)

 

気になったので少し聞いてみる。

 

 

(うーん……、僕の部族は基本的に色んな世界の遺跡を発掘してるから。怖い話はあったりするけど、『人の魂がこの世に留まる』っていう発想はなかったな……)

 

 

どうやら幽霊とかの発想は地球特有のものらしかった。

地味に勉強になるなのはである。

 

 

(あ、それと。出かける前にも言ったと思うけど。今日はゆっくり休むんだよ、最近のなのははずっと訓練ばかりだったからね)

 

(にゃはは……、了解しました)

 

思い出したように忠告するユーノに、苦笑するなのは。

 

このあいだフェイトと戦闘をしてからジュエルシードが一つも見つからなかったのだ。

 

恐らく、いや間違いなくフェイトが先回りして回収しているのが分かる。

 

『もう一度フェイトと話すため』。

それには強くならないといけない、だからなのはは訓練の時間を増やしていくので、ユーノは心配しているのである。

 

(今日の訓練ももう終わったし、ジュエルシード探しはお休みするね)

 

(うん、そうしよう)

 

とりあえず、今日一日は休むことに集中して、楽しむこととなった。

 

 

「――――それでね、誰かに見られてると感じた男の人が振り向くとそこには……!」

 

「ひいぃいいい!!!」

 

 

 

(…………ごめんユーノくん。私の気を休めるためにもうちょっとだけ、そばにいて)

 

(う、うん。いいよ)

 

すずかちゃんが自重してくれないせいで気が休まらない件。

本当にお化けが出てくるんじゃないかと不安で仕方ないなのはであった。

 

 

 

 

 

「まったく、随分とのんきな子供達だね……」

 

ところがどっこい、本当に幽霊が出ていた。

なのはの少し上で浮かび、ため息をついているのは花子さんである。

 

彼女はどうしても田中の事が心配になったので半ば無理矢理旅行についてきたのだ。

 

 

 

その時の様子としては。

 

『田中、アタイも一緒に行かせてもらうよ。拒否権は無い』

 

『え、花子さん? でもリニスさんはどうしても俺が戦わなくちゃ』

 

『別にアンタの戦いに口出しはしないさ。アンタの師匠として、弟子がどれだけ成長したか見てやるよ。…………本当に危なかったらリニスって奴ぶちのめしてやるけど(ボソッ)』

 

『へ〜、良かったじゃない花子。2人っきりで』

 

『――――ッ○×□△!!? べ、別□○二人き△を狙っ○××……!』

 

『花子さん!? 会話文の殆どが○×□△に支配されてますよ!?』

 

『あたしははやてとハワイ旅行いくから、じゃあね〜』

 

 

といった感じである。

相変わらずのツンデ霊乙。

 

 

とまあ、そんなことはどうでもいいのである。

決して、決して花子さんは今回の旅行を2人っきりになるチャンスなんて、微塵も思っては無いのだ。

 

 

 

問題はなのは達が『怪談話』をよりによって『現地』で話している事だ。

 

前に説明したと思うが都市伝説や学校の怪談は、基本的に『いる』と思い込んでしまえばしまう程『遭いやすい』。

 

 

――例えば肝試し。

『幽霊が出た』という場所で行い、いくら上辺ではいないと思っていても『いるのではないのか?』と不安になればカメラとかに移ってたり。

 

――例えば『テケテケ』もそうだ。

彼女の怪談の中には『自分の怪談話を知った者を斬り殺す』なんていうものもある。

 

――よく聞くのは『お化け屋敷』。

スタッフの仮装かと思えば『ホントにいた』なんてザラにある。

 

 

とまあこの様に、『意識』してしまえば幽霊にはいくらでも遭ってしまうので、現地で怪談話は危険な事なのだが……。

 

 

 

「もう来てるけどね」

 

 

「事故らせろおぉぉ! ごぶっ!」

 

「させるかよおぉぉ! ぐあっ!」

 

高町家の車上空で、田中と『崖の男』がリアルファイトしていた。

拳と拳である。

特に深い意味など無い。

 

「田中ー! ホントに大丈夫なんだろうねー!」

 

「大丈夫ですよ! 花子さんが出ることはありません、俺一人でコイツは充分!」

 

「私を舐めるなぁ!」

 

性懲りもなく死亡フラグを建ててはいるが、一応は大丈夫そうだった。

殴り合いではあるものの、両者の力に大差は無かったのだ。

 

 

(……まあ、海鳴に長くいるアタイでもここに幽霊がでるなんて話聞いたことないからね)

 

すずかが話した怪談通りに、車を崖から落とそうとしている男はなんというか、地味な男だった。

 

バーコードハゲの、眼鏡かけたおっちゃんである。

ただし血まみれの。

 

幽霊というか、ただの交通事故者だった。

こんなにインパクトが薄かったらさほど有名ではなかったのだろう、田中と良い勝負だ。

 

 

「ちくしょう! 家族でドライブ行く奴らなんか死ねばいいんだぁ! 私なんか、私なんか死んだ後妻の事心配して守護霊になろうとしたら不倫相手にあっさり乗り換えやがってぇぇ! しかも娘までアイツに懐いてるし! みんな死んでしまえぇぇ!」

 

「うおお超ドロドロの未練もってる!? 急に強くなったぞお前!?」

 

前言撤回、未練だけなら圧勝していた。

負のエネルギー的な何かで急に『崖の男』が押し始めた。

 

流石に心配になってきたので、花子さんは助けに入ろうかと車から離れて人魂を作ろうとする。

 

しかし、田中は「まって下さい」と崖の男に右手を向ける。

 

 

「俺も負けてたまるか、お前には言いたい事がある! いつまでお前は生前にとらわれてるんだよ、確かにお前の人生は不幸だったかもしれない。でもな、終わったんだよ! お前の人生は、もう家族にも仕事にも縛られ続けてきたお前の人生は終わったんだ! 引きずらなくていい、生前を忘れて生まれ直したと思って、やりたかったことを新しく始めようぜ『崖の男』!」

 

「アンタはどこの幻想殺しだ」

 

 

長々と崖の男相手に説教を始めだした田中。

『あんなにドロドロ未練の悪霊が言葉だけで改心するわけない』と思う花子さんだったが。

 

 

「わ、私は……自由……なのか? もう、家庭も仕事も考えないで、レーサーの夢を追ってもいいのか……?」

 

「って、素直に聞くのかい!?」

 

崖の男は驚愕に目を見開き、ワナワナと震えていた。

『というか夢がレーサーって、もしかして崖から落ちたのはドリフトなんかしたんじゃないだろうね』なんて思ってしまう花子さん。

 

 

「食らえ対リニスさん説得用、『説教パンチ』!!!」

 

「ぐはあああっ!」

 

「説得できそうでも結局殴るのかい!?」

 

見事にアッパーカットを決め、勝敗は決した。

こうして、何気に田中は初勝利を上げて海鳴温泉へ向かったのである。

 

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「いや〜、アイツも改心したみたいだし一件落着!」

 

「あれで改心したのか甚だ疑問なんだけどね……」

 

来るまでに一騒動あったが、ついに来ました海鳴温泉!

崖の男は「君のお陰で目が覚めたよ……! 今後はレーサーの夢を叶えるために『道を走る車に片っ端からドリフト走法を広める』ことにする! 私の幽生はこれからだ!」って言ってたし、もう大丈夫だろう。

 

 

「それにしても、良い景色ですよね。海鳴って都会かと思えばこんな田舎っぽい所もあるから飽きませんよね〜」

 

森によって深緑に染まったた山、新鮮な空気、さらには温泉まであるなんて至れり尽くせりだ。

 

「まあね、アタイも何年この街に留まってるけどこれだけ住み心地のいいとこは無いよ」

 

 

現在、俺達は旅館の上空で景色を眺めるために浮いている。

花子さんは学校の怪談だけれど、ここは学校じゃないから実体化できないし怪しまれることは無い。

 

ちなみになのはちゃん達も、森の景色を見に行っている、温泉に入るのはもうちょっと先らしい。

 

 

「んで、リニスさんと戦うのは夜中ですから。それまで温泉入ったり、山で魚釣りとかバーベキューとか! 遊び通しましょうよ!」

 

希望に満ちた声で俺は花子さんに提案する。

最近はゴールデンウイークなのに特訓ばっかしやってたからここは一つ遊びまくろうという訳だ。

 

なのはちゃんと同じく『息抜き』をしたいのである。

 

この『息抜き』は精神力そのものである幽霊にとっては重要なもので、心を休めるイコール回復に繋がっている。

 

さっき崖の男と闘ったせいで俺は少し消耗しているのだ。

リニスさんとの戦いに備えて体調は万全にしておきたいしね。

 

 

「田中、アタイ達今実体が無いから。全部できないよ」

 

 

しかし返ってきたのは無情な現実だった。

そうだった……、幽霊だから温泉入っても熱くもなんともないし、魚釣りは道具もってきてないし、物食べれないし、無理じゃん!

 

ショックだ……ショックすぎる。

思わず膝から崩れ落ちる俺、せっかく温泉旅館に来たのに温泉入れないとか鬼畜過ぎる、山に来たのに遊べないとか残酷すぎる……。

 

 

「いやまだだ! まだ『山彦』がのこってる! 山といえば山彦だよな、やっほーーーー!!!」

 

「だから実体化してないと声は返ってこないって」

 

なん……だと……?

虚しく響く事すらしない俺の叫びは空へと消える。

 

もう打つ手は無い、さよならゴールデンウイーク。

血と汗の特訓づくしだったよ……。

 

 

「仕方ない奴だね……。アタイが幽霊なりの楽しみ方ってのを教えてやるよ」

 

「は、花子さん……!」

 

ここで降臨なされた我らが天使、花子さん!

どうやら、この暇な状況を打開する策をもっているみたいだ。

 

花子さんがついて来てくれてホント良かった……!

 

「ここは『温泉旅館』だろう? なら『アレ』があるはずだよ」

 

そうして俺たちは、『幽霊流、ゴールデンウィークの過ごし方』を実行するのであった。

 

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それから少し時間が経ち、温泉旅館周辺を散策していたなのは達は再び旅館に戻っていた。

理由は言わずもがな、温泉に入るためである。

 

高町家+ユーノ、アリサ、月村家+メイド二名の10人と一匹は期待に胸をふくらませて温泉の入り口まで歩いていく。

 

 

「そういえば忍。御手洗さんは来なかったのか?」

 

と、ここで恭也が違和感に気付いた。

メイド二人――――ファリンとノエルのことだが、この面子の中には最近住み込みでメイドを始めた御手洗さん(テケテケ&トコトコ)がいないのである。

そのことに対して忍は「ああ、それはね」と理由を話すことに。

 

 

 

「この間恭也と御手洗さんが闘った被害がまだ残ってるから、直しておきたいんだって」

 

「…………すまない」

 

恭也、沈黙す。

乗せてきたテケテケもテケテケだが乗せられた恭也にも原因はある、反省するしかない。

 

 

――――だが、実際の所はそうではなかった。

テケテケが温泉旅館に来なかった本当の理由とは……。

 

 

 

『えっ旅行!? 温泉!? 行くい『なのはちゃんの家族とアリサちゃんも一緒なんだけど』きませんよまだお家完璧に片付いてませんからーっ!』

 

 

ぶっちゃけ、一緒に来るなのはにビビってただけだった。

 

まあそんな事は知るよしもなく、一行は「それは残念」といった感想を抱くのみである。

 

「俺も御手洗さんと『手合わせ』願いたかったんだが……」

 

「もうあなたったら、今日はゆっくりしようっていったじゃない」

 

「ははそうだったゴメンゴメン」とノロケる3児の子供をもつ夫婦。

場の空気もそれにつられて更に和気藹々としたものになった。

 

 

 

(ねえなのは、なのはのお父さんと御手洗さんが戦ったらどうなると思う?)

 

(間違いなく旅館が吹き飛ぶの)

 

2名を除いて。

さっきの会話はユーノとなのはとしては『じょ……冗談じゃねぇ……』と言わざるを得ない。

正直いってジュエルシード暴走体より強い二人の激突なんてまっぴらごめんだった。

 

(まあ今日は御手洗さんは来てないし、ゆっくり温泉を楽しもうよ。あ、ユーノくんって温泉入ったことあるの?)

 

(公衆浴場なら入ったことはあるけど。温泉は初めて入るよ)

 

(そうなんだ! 温泉は気持ちいいよ〜、お風呂よりずっと広いし! 特別な効能があったり、サウナとかお風呂以外の場所もあるし! お風呂上がりの飲み物は最高なの!)

 

(そうなんだ! 楽しみだなぁ……)

 

 

念話による会話で温泉の素晴らしさを語るなのは、そして温泉初体験に期待を大きくするユーノ。

会話の内容は本当に平和なもので、この温泉旅行で体と心を休めるという目的は十分に果たされているようだった。

 

 

 

 

 

『ここまでは』。

 

 

 

「あ! 皆さん温泉の入り口見えてきましたよ!」

 

「着きましたね」

 

廊下を進み、青色の『男』と書かれたのれんと赤色の『女』と書かれたのれんが見えてきた。

先頭を歩くファリンとノエルが声を上げる。

 

待ちに待った、温泉タイムが始まろうとしていたのだが……。

 

 

 

 

 

「さ〜てユーノ! きれいにしてあげるわよ〜!」

 

「えっ」

(えっ)

 

ガシリ、とアリサがなのはの肩に座るユーノをつかんだ。

なのはとユーノはなにをいってるのかまるで分からず、フリーズしてしまう。

 

「そうそう! ずっとなのはばっかりユーノ触ってるんだから、その分取り戻さないと!」

 

美由紀もワキワキと両手を動かす。

どうやら道中ユーノと触れ合えなかったストレスが溜まっているらしい。

 

「そうだよなのはちゃんわたしもユーノくんさわりたいなー(棒)」(お風呂……アリサちゃんと一緒にお風呂。お風呂で怖い話をしたら、アリサちゃんは生まれたままの姿でわたしにすがりつく……濡れるッ!)

 

すずかに関してはスルーの方向で。

もはや性犯罪者より質が悪くなっている気がしないでもない。

 

 

「えっ、ええ……?」

 

なのはの頭にあるのは困惑、目の前の友人と姉は一体何をしようとしているのか理解ができないのだ。

 

(マスター、私たちがここに来た理由を一から考えた方がいいですよ)

 

レイジングハートにいわれるがまま、なのはは順序立てて考え直すと……。

 

 

 

Q.自分たちはどんな目的でここに来た?

 

A.温泉に入るため、温泉旅館に来たのだから当たり前。

 

Q.では目の前にあるものは?

 

A.女湯の入り口、自分は女だからこれも当たり前。

 

Q.ではアリサが掴んでいるものは?

 

A.ユーノくん、フェレットとおもってたら実はかっこ良い人間だった友人。

 

Q.では最後の質問、これから誰と一緒に温泉に入るでしょう。

 

A.お母さんとアリサちゃんとすずかちゃんとお姉ちゃんとファリンさんとノエルさんと忍さんと…………『ユーノくん』?

 

 

『ユーノくん』?

 

 

「ッだ、だだ駄目えぇぇぇぇぇ!!!?」

 

 

ボフンッ!!! と顔が爆発したんじゃないかという勢いで真っ赤になったなのはは、砲撃もビックリの叫び声をあげた。

 

(な、なのはー! 助けてー!!!)

 

なのはと同じように一から考えて、ようやく自分の置かれた状況が理解できたユーノが念話で助けを求めてきた。

 

逃げようと必死にもがいているが、アリサにガッチリと捕まっているので逃げ出せない。

 

 

「何よなのは、別にいいじゃない。減るものじゃあるまいし」

 

アリサが突然叫び声をあげたなのはに驚きつつも、文句をいいたげに首をふる。

 

 

だが違う、違うのだ。

減るものどころかどえらい事態に陥りかけてるのだ。

 

 

このままでは『ユーノと一緒に温泉に入ってしまう』!

『人間』の!

『男の子』の!

『ユーノ』と!

 

『HADAKA』のお付き合いをしてしまうのだ!!!

 

 

(はわ、はわわわわわ……!)

 

 

『HADAKAのお付き合い』の辺りで人間になったユーノと自分が温泉に入っている光景を想像してしまい、ますますパニックに陥るなのは。

恥ずかしいなんてレベルじゃあない、軽く10回は悶死できる程の光景だった。

 

 

このまま温泉に入る訳には絶対にいかない。

なのはは頭をフルに回転させ、なんとかユーノを男湯にはいらせようとする!

 

(頑張ってなのはー! 男なのに女湯に入るなんていやだぁぁぁ!!!)

 

 

 

「だっダメだよアリサちゃん! ここ混浴じゃないし!」

 

「当たり前じゃない、私たち今から女湯にはいるんだし」

 

「だからダメなの! ユーノくん男の子だよ!?」

 

「だから当たり前じゃない。ユーノは『フェレットのオス』でしょ」

 

「にゃうっ!? なっ、なら動物を勝手に温泉にいれちゃいけないと思うのっ!」

 

「なのはちゃーん、今旅館の人に聞いたんだけど小さな生き物なら一緒に入っていいってー」(アリサちゃんとお風呂アリサちゃんとお風呂アリサちゃんとお風呂アリサちゃんとお風呂アリサちゃんとお風呂アリサちゃんとお風呂)

 

「すずかちゃん仕事速すぎるのぉぉぉ!!!」

 

しかし説得は困難を極めた。

それもそうだろう、なのはから見ればユーノは『人間の男の子』だが魔法やらジュエルシードを知らないみんなからしてみれば『フェレット』なのだ。

 

オスだろうと、小動物一匹を洗う目的で女湯に入れることに抵抗がないのだ。

 

 

(そ、そうだっ! ユーノくん今から人の姿にもどって)

 

(落ち着いてなのは!? それは最悪の選択肢だよ!!?)

 

追い詰められすぎて本末転倒になってしまっていた。

まあ、これ以上返す言葉も思い浮かばかったので仕方ないのだが。

 

「じゃあユーノ、覚悟しなさい!」

 

「お姉ちゃんが隅々までキレイにしてあげるからね〜!」

 

「キューー!!!」

 

 

もはや万事休すなのか、『HADAKA』のお付き合いなのか、9歳にしてなのはとユーノは大人の階段を上ってしまうのか。

 

(お姉ちゃんできればユーノくん洗うの私がやりたいなじゃなくてっ、絶対ダメなのユーノくんにはっ……はだ……見られるなんてヤダヤダお願い何か思いついて私――――ハッ!)

 

 

神はまだなのはを見捨てていなかった。

この土壇場にきてひらめいたのだ、上手いことユーノを男湯に入れる口上を。

 

「あっ、アリサちゃんっ!!!」

 

「なによなのは。まさか温泉に入りたくないんじゃ――――

 

 

 

 

 

 

「ユーノくん! 女の子と一緒にいると『発情』するのっ!!!」

 

 

1秒、2秒、3秒と間が空く。

 

「「「「「「「「「な、なんだってーーー!!!」」」」」」」」」

 

 

 

その場の全員が震撼するほどの衝撃的カミングアウト(嘘)である。

いや、間違ってはいないのかもしれないが、ユーノだって男の子だし。

 

 

(最悪だよぉぉぉぉっ!!! 正体ばらすよりマズすぎる反論だよぉぉぉ!!! というかなんでそんな答えに行き着いちゃったのさ!!?)

 

(ごごごめんねユーノくん!? あの、その、『ペットが発情期に入ると色々大変』ってよく聞くから)

 

(それは猫だよっ! フェレットになってるけども僕は人間だよっ!)

 

 

思わず念話でツッコミをいれるユーノ。

上手い言い訳なんかではなくただのトンデモ発言だった、なのはがパニックになっていたとはいえ、コレはない。

 

ショックすぎて固まってしまった女性陣、どう収拾をつけるんだこれなんて二人は考えていると。

 

 

 

「なんだ発情か」

 

「発情なら仕方ないな。アリサちゃん、俺にユーノを渡してくれ」

 

 

思いのほか男性陣が普通の反応だった件。

恭也がアリサの手からユーノをヒョイと取り上げた。

 

「キュ……?」

 

「お、お兄ちゃんにお父さん?」

 

助かったという意外すぎる結末になのはとユーノが呆けた声を出してしまう。

 

 

「ペットは発情期に入ると大変だしな」

 

「なあに、変わりに俺達がきれいにしてやるから安心しろユーノ」

 

 

((ち、チョロくて助かったああああ!!!))

 

なんということでしょう、この二人ホントにユーノが女性と一緒にいると発情するとモロに信じていたのだった。

 

ユーノを連れて男湯へと入っていく恭也と士郎、これでもうユーノが女湯へ連行されることはなくなったのである。

 

「……って、あっ! ユーノもう温泉はいっちゃった!?」

 

「残念だったねアリサちゃん」(アリサちゃんの生まれたままの姿アリサちゃんの生まれたままの姿アリサちゃんの生まれたままの姿アリサちゃんのHADAKAaaaa!!!)

 

「ううー……。なのはばっかりずるい……」

 

「にゃはは……」(た、助かったの……)

 

こうして、原作とは大きくかけ離れた『温泉イベント』は幕を閉じたのだった。

 

 

 

 

 

「しかしアレだな、女性といると発情するのは厄介だ、なのはや美由紀が触る度に面倒になる」

 

「うーん、なあ父さん。いっそのこと『去勢』してしまうのはどうだろう」

 

「そうだな、考えておくことにしよう」

 

「キュウゥウウゥゥ!!?」

 

 

なんということでしょう。

 

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一方、なのは達が温泉に入っている間にもう一人、温泉へ向かっている人物がいた。

 

「さあて、あたしももう一風呂入ろうかねえ」

 

オレンジ色の長髪に浴衣をきたナイスバディな女性。

フェイトの使い魔のアルフである。

 

(アルフ、気を付けて。近くにあの二人も居るみたいだから)

 

(大丈夫だって、フェイトと戦った魔導師達もこんなに人が多い所でやり合ったりしないだろうし。様子見だけだよ)

 

温泉旅館の外にいるフェイトから念話が届くが、アルフは心配ないとばかりに返事を返す。

 

ジュエルシードの反応が僅かにあったこの場所に来ていたのだが、まさか例の魔導師達とはち合わせするとは予想外だった。

まあアルフは本当に様子見と忠告をしておこうかぐらいの気持ちだったし、少なくとも『今すぐは』戦う気などこれっぽっちもない。

 

「でも、フェイトに酷いことした落とし前はいつかつけさせてもらうけどね」

 

(……? アルフ?)

 

もっとも、自らの主人に刃を向けた者達を許す気もないのだが。

 

ビリッ……とほんの少しだけ辺りに殺気が漂ったが、念話が途切れたことを心配したフェイトの声を聞き、アルフは直ぐに怒りを抑える。

 

(あー、なんでもないよ。そんな事よりフェイトも温泉に入ればいいのに)

 

 

アルフはフェイトを心配させないようごまかすために話題を変えることにした、とはいえ半分以上は本心であるが。

 

(ここの温泉、本当に気持ち良かったよ。あたしがもう一度入ろうと思うぐらいなんだから――――

 

(ありがとうアルフ、でも私はいいよ。早くジュエルシードを見つけないといけないからもう少しこの辺りを見て回る。アルフもあの子達の監視、頼んだよ)

 

(フェイト……)

 

またこれだ、フェイトはいつも『母さんのため』自分の身を省みず無茶をする。

例の魔導師達と戦闘をしてからはより一層その傾向が強くなってしまっていた。

 

なのは達にジュエルシードを回収されないためにここ数日殆ど休まずに動き回っているのだ。

だからこそ、半分以上の本心からアルフはフェイトに休んでもらいたかったのだが。

 

 

(……わかった。でも無茶はしないでおくれよ)

 

(うん)

 

主人の意を汲み取り、完全に納得はしないままアルフは頷いた。

フェイトの頑固さもよく知っている、こうなったら止められないことも知っていた。

 

「……絶対に、これ以上フェイトを傷つけさせはしないよ。あたしはそのためにいるんだから」

 

小さく決意を呟く、たとえあのフェイトを捕まえかけた相手でも、『自分とフェイトが一緒なら誰にも負けない』。

 

 

だからまずは、相手を見定める。

アルフは温泉の入り口までたどり着いた。

 

 

「……って、まだ入ってるみたいだね」

 

少し中を覗いてみると、更衣室を通して温泉内から複数の声が聞こえてきた。

本当は温泉から出てきた所で適当に声をかけて接触するつもりだったのだが、早すぎたようだ。

 

「フェイトを傷つけた奴らなんかと風呂には入りたくないし、どうしようかなー……」

 

ポリポリと頭を掻いて辺りを見回す、魔導師達が上がるまで少し時間潰しになるものはないか探していると。

 

「ん? 『休憩室』? そういやそんなのもあったね」

 

 

すぐそばに『休憩室』なるものを発見。

風呂から上がったらジュースを飲んだり、マッサージチェアに腰掛けたり、場所によっては温泉卓球なんかできるあの部屋である。

 

「うん、いいものみつけた♪ あの椅子に座っとこ!」

 

『これは暇つぶしになる!』 とばかりにアルフは休憩室の扉を勢いよく開いて――――

 

 

 

 

 

カッ! コンッ!

 

「ふっ! はっ! やりますね花子さんっ!」

 

「まだまだアンタには負けてやる気はないよっ! 得意なポルターガイストでもねっ!」

 

「ならこれならどうです! 『ブーメランス○イク』!」

 

ギュルルルッ! ガカッ!

 

「今のを返したっ!?」

 

「甘いね田中……。アンタはアタイの『花子ゾーン』に嵌っているのさ」

 

「なん……だと!?」

 

 

 

アルフは見た。

卓球台の上でピンポン球とラケットだけが試合をしている様を。

 

意味不明なシチュエーションにフリーズする、頭の中では『世にも奇妙な○語』の音楽が流れていた。

 

「うわ、わわわわあああっ!? ふぇ、フェイトーー!!!」

 

数秒後、フリーズが解けパニックになったアルフは『なのはとユーノの監視』の目的も忘れてフェイトの下へ逃げ出した。

 

 

 

「超楽しいですコレ!」

 

「だろう? アタイも久々に打ち合える相手がいるから嬉しいねっ!」

 

「ふっふっふっ! どうです花子さん『一人ダブルス』! 2つ同時操作だあっ!」

 

「なんのっ! ならアタイは『一人トリプル』だよっ!」

 

 

「「あっはははははっ!!!」」

 

結局、前代未聞の『10対10』勝負が始まりました。

これがきっかけで、海鳴温泉には『独りでに試合が始まる卓球台』があるという心霊スポットが出来たとか出来なかったとか。

 

-6ページ-

 

 

オマケ、お風呂上がりのなのは達。

 

「あー、いい湯だったね。ユーノくん♪」

 

(去勢怖い去勢怖い去勢怖い……)

 

「? 『きょせい』ってなになに?」

 

(マスター、手術によって動物をおとなしくすることです)

 

(そうなんだ、でもユーノくんは人間だからしなくても大丈夫だよね。さて……ちょっと早いけど今日はもう寝ちゃおっかな、アリサちゃん達も先に寝てるみたいだし……)

 

 

ガラッ

 

 

「すずか、その、一緒の布団で寝ていいかしら。べっ、別にお風呂の中で聞いた怪談が恐くて一人じゃ寝れない訳じゃないんだからねっ! ……怖い話もうしないでよね……?」

 

「うん、いいよアリサちゃん?」(――――計画通り)

 

「すずかちゃん鼻血でてますー」

 

 

 

「一人部屋にチェンジでお願いするの」

 

説明
ついに、ついにやってまいりましたっ! 温泉回!
温泉回なのにタイトルがアレなのはスルーでお願いします。

そして今回新たに幽霊登場、まあ諸葛モブキャラですけどね!
役割があるにはありますけど。

そして文字数が多い気がする……、もう少しまとめた方が良いんでしょうか?

あと一つ申し訳ございませんでしたああ! オチの人物間違えてました!!
すずかちゃんです! 鼻血は! 見てくださった方本当にごめんなさい!
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コメント
ノッポガキさん、感想ありがとうございます! わたくし感想コメントいつでも誰でもバッチ来いですので、問題ありません! さて、すずかの調整も順調、いずれぶつけるネタへの準備も整ってますよフフフ。ユーノくんは、まあ、その、……どうフォローするか(ぼそっ)(タミタミ6)
ちょっと感想書くの遅れましたが。いやぁ、すずかが黒いなぁ。 そしてユーノが危ない。というかなのはさんのせいだし、将来困るのは貴女じゃ……まあ、周囲が見ていられない状況ですから。はやくフォローしないといけないですけども(ノッポガキ)
ネフィリムリストに戦慄走ったさん、darkbaronさん、コメントありがとうございます! 間違っていた部分は修正入れときました、予測変換って怖い……。 すずかはアリサと一緒に寝ることだけではなく、夜中のトイレも一緒に行くことも計算してます。大した奴だ……。(タミタミ6)
「フェレットの使い魔のアルフである。」と言う部分があるんですが……。(darkbaron)
あの頃の純粋なすずかは犠牲になったのだ……(ネフィリムフィストに戦慄走った)
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魔法少女リリカルなのは ソウルフル田中 幽霊 ギャグ 

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