IS -インフィニット・ストラトス- 〜恋夢交響曲〜 第三十七話 |
「プラチナ・・・ヴァルキュリア・・・?」
一夏たちの目の前に現れたのは闇夜をも照らす白金の戦乙女。それは、奏羅のIS、プラチナの本来の姿であり、最強のフレームを装備した姿――
「なにあれ・・・光る雪・・・?」
「わかりません。でも、とても綺麗ですわ・・・」
鈴とセシリアが声をあげる。プラチナの背部、天使の翼のような形をしたウイングスラスターから出てくる白く光る粒子、『エーテル・スノウ』に、そこにいる全員が見惚れていた。
『――未確認ISを『スクルド』と断定。これより、優先的に排除する』
そんな中、黒い福音が改めてプラチナ・ヴァルキュリアを認識。『イヴィル・サーヴァント』を従えて奏羅に向かって突撃してくる。
「一夏!」
「お、おう!」
「この黒いISは俺が相手をする。その間みんなを頼む!」
「わ、わかった!」
一夏に指示を飛ばすと、奏羅は突撃してきた黒い福音を上昇しながら回避する。しかし、別方向からサーヴァントが襲いかかってきた。
「未来、ニーヴェルン・システムは?」
『大丈夫だよ! 一人の想いじゃ暴走(ダメ)だったけど、奏羅と私の二人の想いでなら!』
プラチナ・ヴァルキュリアのハイパーセンサーにニーヴェルン・システムが起動したサインを確認すると、奏羅は武装をコールした。
「『ストライク・クロス』と『レーヴァテイン』を!」
――ニーヴェルン・システム、起動。コールされた武装をエーテル・スノウにより生成します。
未来がニーヴェルン・システムが起動させ、奏羅の頭の上に天使の輪のようなものが現れる。それと同時に奏羅の目の前に、ウイングスラスターから排出されていた物質構成粒子『エーテル・スノウ』が集まり、遠隔操作式攻防支援兵装『ストライク・クロス』二機と、IS専用銃複合対IS大型剣『レーヴァテイン』として形をなした。
「――はあっ!」
奏羅はすぐさま、生成されたレーヴァテインを手に取ると、前から迫る二体のイヴィル・サーヴァントをまるでその行動を見切っているかのように避け、カウンターで真っ二つに切り裂いた。
――敵機後方より接近
「未来!」
『任せて!』
プラチナ・ヴァルキュリアから警告が入ると同時に、未来がストライク・クロスを操作。背後から迫るイヴィル・サーヴァントの攻撃に対し、ストライク・クロスの防御形態(シールド・モード)によって発生させたエネルギーシールド『レディアント・ヴェール』で防御する。そしてすぐさま奏羅がレーヴァテインを射撃形態(バースト・モード)に変形させると、ストライク・クロスによって阻まれたイヴィル・サーヴァントの頭部に正確無比に銃弾を叩き込んだ。
「これで三つ!」
残り二体のイヴィル・サーヴァントが挟みこむように迫ってくるが、奏羅は後方から襲い掛かってくるイヴィル・サーヴァントの腹部に回し蹴りを入れて吹き飛ばす。それと同時に前からの攻撃を紙一重で避けながら、カウンターでレーヴァテインの銃弾を頭部へと打ち込むと、ストライク・クロスの攻撃形態(スパイク・モード)『アルヴァレスタ』を展開し、吹き飛ばしたもう一体のイヴィル・サーヴァントに追い打ちをかけて撃破した。
「一体どうなってるんだ? まるであいつらの行動が最初からわかってたみたいに・・・」
「あそこまでの『見切り』など・・・いや、アレは『見切り』といえるシロモノなのか・・・?」
奏羅の攻撃が全てカウンターにより行われていることに、一夏と箒が驚きの声を上げる。
この二人自身、小さい頃からの剣道をやっていることもあり、剣道の達人が相手の行動を見切るという事を耳にしてはいる。実際、二人もある程度は『見切り』というものが出来る領域にいる。しかし奏羅の異常なまでの行動は、二人の中の『見切り』という物を遥かに超えるものだった。
「残りは――」
『あの無人機!』
奏羅が黒い福音の方へと視線を向けると、黒い福音は体中の『銀の鐘』を最大展開させており、すでに攻撃へと移れる状態になっていた。
『敵ISを攻撃レベルAで処理。『銀の鐘』を全方位展開』
黒い福音がつぶやくと同時に、周囲に莫大な量、密度のエネルギー弾が降り注がれる。
「奏羅!」
シャルロットが叫ぶが、すでに奏羅は黒い福音の射程圏内であり、離脱することは不可能。
「――悪いな。俺達はもう未来を過去にしてるんだ。それはもう、通用しない!」
奏羅はエネルギーが降り注ぐ位置がまるでわかっているかのように回避し、かわしきれない最低限の被弾を『レディアント・ヴェール』で防ぎながら、黒い福音へと接近していく。
「馬鹿な・・・あの弾幕を最小限の防御だけで回避しただと・・・!?」
目の前で行われた、奏羅の異常なまでの回避にラウラが夢でも見ているかのように口にした。
ワンオフ・アビリティ『恋夢交響曲(ソウル・シンフォニア)』は、奏羅、未来、もしくは対象の思念(おもい)を共有、共鳴により増幅させることが出来る。思念の共有により、未来のISを使用した経験、それにより身につけたスキル、その才能を奏羅自身が使用することが可能であり、想いの共鳴・増幅により、ニーヴェルン・システムで想いの力をエネルギーに変えるプラチナ・ヴァルキュリアの出力を向上させることにダイレクトにつながっている。そして、さらには数秒、一瞬、刹那の後の自分との思念共有をすることにより、選択した“未来”を“過去”にする、いわゆる“未来予知”を可能としている。先ほどの奏羅の異常なまでの『見切り』は、相手の攻撃という“未来”に対して回避・攻撃を選択し、それを“過去”にするという、『恋夢交響曲(ソウル・シンフォニア)』によって引き起こされた必然だったのだ。
『これでっ!』
奏羅はレーヴァテインをふるい、『銀の鐘』を切り裂く。そしてそのままレーヴァテインの剣戟形態(ブレードモード)による連撃を黒い福音へと叩きこむ。そして奏羅の攻撃に黒い福音が怯んだ隙をついて、レーヴァテインを射撃形態(バーストモード)へと切り替えながら回し蹴りを腹部に決め、黒い福音を吹き飛ばした。
「その身に刻め!」
黒い福音に向けて、変形させたレーヴァテインで銃弾を数発打ち込む。それが着弾する瞬間に打ち出された銃弾が空中で物質構成粒子『エーテル・スノウ』を纏い剣に変化し、未来がストライク・クロスによって展開していた『レディアント・ヴェール』に黒い福音を剣で磔にした。
「コード・VA!」
そして、ウイングスラスターから溢れ出す『エーテル・スノウ』が天使の翼のように広がり、レーヴァテインを核に奏羅の手の中で巨大な槍を創りだす。
『神技――『戦乙女の断罪(ヴァルキュリア・ジャッジメント)』!』
各部に貯蔵した莫大な粒子の一斉排出、さらにはウイングスラスターの瞬時加速も合わさり、爆発的なスピードで接近し黒の福音へと槍を突き刺す。加速による勢いも加わって深々と突き刺さったそれを離し、奏羅はその場から離脱。その瞬間、形成されていた槍が『エーテル・スノウ』に戻ると共に拡散・大爆発を起こし、黒の福音は光りに包まれた。
それは文字通り『戦乙女の断罪』。黒の福音は浄化されたかのように、其の光とともに姿を消した。
「――なんだよ、今の」
全てを終わらせた光が消えて行くのを見送りながら、奏羅は呟いた。
『プラチナ・ヴァルキュリアの必殺技、っていうか戦闘パターンっていうか・・・ちょっと危険な技、かな?』
「いや、それじゃなくて、必殺技みたいな名前」
『あ、ああ、そっちツッコむんだ・・・。決め技には名前がないとってことで私がつけたんだけど、どうかな? 私はカッコイイと思うんだけどな』
「・・・さいですか」
奏羅は未来の言葉にやれやれとため息を吐く。
「でも――」
『でも?』
「みんなを守れてよかったよ」
近づいてくる一夏たちをみて、奏羅はふっと微笑んだ。
◇
「あー、疲れた・・・」
お説教のフルコースの後、怪我などの診察を受けてようやく解放された俺達は、昨日と同じく他の生徒と一緒に夕食を食べていた。
なんだかんだで一件落着というわけだ。しかし――
「ね、ね、ふたりともいい加減教えてよ〜」
「・・・ダメ。機密だから」
まわりはゆっくりと夕食を食べさせてはくれないみたいで、俺と右隣に座っているシャルに数名の女子が群がってあれこれと質問をしてくる。まぁ、俺たち二人 は人当たりが良くてとっつきやすいから訊けると思ってるんだろう。まあ、俺もシャルも責任感はあるので喋ったりはしないが。
「ちえ〜、ふたりともお固いなぁ」
「あのねぇ、聞いたら制約つくんだよ? いいの?」
「あ〜・・・それは困るかなぁ」
「だったら、はい。この話はこれでおしまい。もう何も答えないよ」
「ぶーぶー」
いや、制約つくは困るのに答えないといってブーイングするのはちょっとおかしいような・・・。まぁ、気になっても俺はツッコミを入れないわけですが。
「そういえば、旭はどうしたの?」
シャルがぼそぼそと小声で俺に質問してくる。ちなみに旭も俺達と一緒に織斑先生にこっぴどく叱られていた。
「あー、俺たちと一緒にお叱りを食らった後に部屋に戻ってそこでご飯食べてるよ。みんなに顔を晒したから変装してもできるだけ接触しないほうがいいって」
「まぁ、そうだよねぇ・・・」
しかし、俺たちが帰ってきた後もみんなの話題は旭のライブの話だったのには驚いた。あいつのアイドルとしての求心力はよっぽどのものらしいな。
「あー、二人して内緒話〜?」
俺たちの様子を見ていたのであろうさっきの女子たちがニヤニヤしながら話しかけてくる。
「その話聞かせてくれたらさっきの話は聞かないよ〜」
「な、なにいってるの!?」
その時、一人の女の子がシャルロットの耳元に。
「シャルロット浴衣の胸元緩んでるよ〜」
「へっ!?」
小声で聞こえなかったが、ぼそぼそっとつぶやかれた瞬間、まるでトマトの成長をハイスピードで見ているようにシャルの顔が真っ赤になっていく。
「ぼ、僕は別に誘惑とかそんなこと考えてなんて――」
「私、誘惑だなんていってないよ〜? それに、浴衣は緩んでません」
「!!」
再び囁かれた言葉にすでに真っ赤な顔が更に真っ赤になる。内容はわからないが、これがガールズトークというやつなのだろうか・・・?
「それにしても、シャルロットってば、えっちぃなぁ」
「ち、違うよ!? 僕は、その、ねっ?」
「いや、俺に同意を求められても困るんだけど・・・」
全く話しについていけないが、どうやらシャルはえっちぃらしい。まあ、シャルがエッチということがわかったくらいで、いまいち流れが理解出来ないので、会話には入らないようにしよう。
「ふむ・・・誘惑か・・・」
誘惑という言葉に反応する俺の左隣の女の子、というかラウラ。
「奏羅はどんな誘惑をされたい?」
「・・・なにをいってるんだよ?」
突然過ぎて質問を質問で返してしまう。いや、そりゃそうだろう。飯時になんて質問しやがるんだこの子は。
「最近私がお前の布団に裸で入っていてもなんの反応もしなくなったじゃないか」
「あ〜、なんかもう慣れたから・・・」
改めて思うが、自分の順応力にもびっくりするな。むしろ、最近ではちょっとした抱き枕状態な気がする、ていうかもう抱きまくラウラだ。・・・同級生を安眠グッズ呼ばわりするのはどうかと思うけど。
「そういえば、奏羅はスク水ふぇちというやつだったな」
「へっ?」
「なら、こんどスクール水着を着て忍び込んでおいてやろう」
「いやいやいやいや、それ本人に予告しちゃダメでしょ!? ていうか、やっぱり忍びこむのね・・・」
「ああ、裸は飽きたのだろう?」
「ちょっ、あのね、まわりに誤解を招く言い方はやめてくださいませんか・・・?」
「?」
「キョトンとするなよ・・・」
なんか、あまりにも学園の日常すぎてさっきまでの作戦が夢みたいな気がしてきたよ・・・。
(まぁ、いつもの日常に越したことはないよな。ありがとな、未来)
誰にも聞かれないこの思いを、俺は心のなかでそっと呟いた。
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