乱世を歩む武人〜第三十五話〜
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桂枝が倒れてから3日後のことだった。

 

先日、凪と沙和が賊の討伐に行ったことで真桜以外の全ての武将がいないいまのタイミングで劉備率いる蜀軍が侵攻を始めたのだ。

 

華琳

「この短期間で南部の平定を終わらせ軍を差し向けてくるなんてね・・・・あの娘の力量を少し甘く見ていたということかしら?」

 

桂花

「・・・やはりあの時、首を跳ねておくべきだったわ。」

 

桂花はやるせないと言った表情でそういった。確かにあの時殺しておけばこの状況には陥っていないが・・・

 

華琳

「それを悔いても仕方ないわ。・・・さて、一刀。戦の準備は?」

 

華琳は楽しそうだった。おそらくこの危機的状況も自分ならば乗りきれるという絶対の自信からくるものだろう。

 

一刀

「・・・もう真桜と風が始めてる。各地に散ったみんなにも伝令を出したけど・・・相手がここまで来る方が速いって。霞がかろうじて間に合うかどうかだそうだ。」

 

桂花

「桂枝が心配だって言ってあのあとすぐ行ったものね・・・変な妨害さえなければおそらく一両日中には帰ってくるでしょう。」

 

すっごい息巻いてたもんなぁ霞のやつ。あのあと本来の計画をはやめて即座に出ていったし。

 

さっさと帰ってくるついでに桂枝に精のつくものくわせてやるんだーって張り切っていた。あのテンションのままならば確かに間に合うかもしれない。

 

華琳

「そう、でも今いないのなら仕方ないわ。軍は私が率いるとして・・・将は真桜と風、桂花もいるわね。あとは一刀。あなたにも軍を率いてもらうわよ。」

 

一刀

「えっ!?俺もかよ!?」

 

桂花

「か・・・華琳様!それは無謀です!そうだ!それなら今から桂枝を呼んで・・・」

 

華琳

「ダメよ。先日様子を見たけどまだ本調子には程遠かったわ。病み上がりの人間になれない指揮を取らせるより警備隊や凪たちを率いた経験がある分一刀のほうが幾分か安心して使えるわ。」

 

一刀

「いや、あれとは桁が違うような・・・」

 

それにしても桂枝はまだダメか・・・もとより頑丈なあいつが倒れるくらいだもんな。きっと相当無理をしていたんだろう。

 

華琳

「死にたくなければ軍を率いて戦いなさい。いいわね?」

 

仕方ないだろう。今は非常時だ。ならばあいつが安心して休める環境を作るために戦うのも悪くない。

 

一刀

「ああ、わかったよ。」

 

そうして俺達は劉備軍を迎撃するべく出城へと移動を開始したのであった・・・

 

 

 

 

 

一刀

「うわ・・・大軍団だよ。」

 

華琳

「そうかしら?」

 

出城に移動して城壁から見る光景、平野に広がるのは劉備たちの大軍団だ。

 

風にたなびく旗は、劉に関、張、趙、そして旗のない部隊が一つ。

 

一刀

「あの旗のない部隊が少し気になるな・・・誰だろう?」

 

華琳

「さてね、旗がなければ兵数が減るわけでもないけど・・・ちょっと不気味ね。警戒だけはしておきましょう。」

 

一刀

「了解。でも・・・籠城戦じゃないのか?霞達が戻るって言っても明日までかかるっていう話だろ?」

 

出城内では出撃の準備が進められている。華琳の本体など既に最前列で準備が完了しているのだからすごい。

 

だが、こちらには兵数も将も少なく圧倒的に不利だ。俺はてっきり籠城を選択すると思っていたのだが・・・

 

華琳

「最初から守りに入るようでは、覇者の振る舞いとは言えないでしょう。そんな弱気に手を打っては、これから戦う敵全てに見くびられることになる。」

 

一刀

「・・・だからってこの戦いに負けたら、劣勢で攻めに出た暗君って言われるんじゃないか?」

 

華琳

「だからこそよ。ここで勝てば我軍の強さは天下に轟くわ。こちらを攻めようとしている連中にもいい牽制になるでしょうよ。」

 

なるほど・・・そうすることで他の皆の負担を一気に軽くしようということか。流石は華琳。一手、二手先まで考えている。

 

華琳

「その為には一刀、あなたにも命をかけて貰う必要が有るわ。・・・頼むわよ。」

 

一刀

「・・・ああ、頼まれた。」

 

そういえばこうやって面と向かって「頼む」と言われたのは初めてかもしれないな・・・

 

桂花

「華琳さま!出陣の準備、終わりました!いつでもいけます!」

 

桂花が城壁の上に現れた。進撃の準備を終わらせているあたり流石といったところだろうか。

 

華琳

「流石ね桂花。よくわかっているわ。前曲は私が率いるから左右は桂花、アナタがお願いね。風には城の防備を任せるわ。」

 

桂花

「はっ!」

 

 

一刀

「俺はどうする?」

 

華琳

「一刀は真桜と共に後曲で全体を見渡しておきなさい。戦場全てを見渡しなにかあったらすぐに援護に回すこと。いいわね?」

 

なるほど。後詰ってことか。しかし・・・

 

一刀

「・・・それだけで勝てるのかな?」

 

俺はなんともいえない不安にかられていた。単純な兵力差で勝っていないのに奇策もなし。コレで勝てる相手なのか・・・と。

 

華琳

「勝つのよ」

 

そんな不安を一蹴するかのように華琳は言い放つ。

 

一刀

「・・・そうだな。」

 

そう、もう始まる戦に対して勝てるも勝てないもない。勝つだけだ。今考えても敵は待ってくれない。

 

今はただ勝つと信じて全力を尽くそう。

 

・・・何もせずただ信じるだけ、か。こんなことどこかの苦労性が聞いたら呆れるかな?

 

そんなことを考えながら俺達は城をでて劉備軍の元へと進軍を開始した。

 

 

 

 

 

 

 

 

城をでて少しの距離のところにいる劉備と華琳が向かい合う。戦場における舌戦の開始だ。

 

華琳

「よくきたわね劉備。ちゃんと私の寝首をかきにきたことをみると・・ようやくこの時代の流儀が理解できたようね?」

 

劉備

「曹操さん・・・曹操さんのやり方は間違ってます!」

 

・・・彼女はどれだけの思いをこの言葉に込めているのだろうか。

 

華琳

「・・・何を言うのかと思えば」

 

劉備

「そうやって、力で国を侵略して、人を沢山殺して・・・それで、本当の平和が来ると思ってるんですか?」

 

華琳

「力がモノを言う時代・・・ねぇ。」

 

華琳は呆れたようにため息をつく。

 

劉備

「そんな・・力が全てなんていう時代は黄巾党の時代に終わらせるべきだったんです!」

 

 

華琳

「なら、どうしてアナタは反董卓連合に参加したの?あれこそ、袁紹達諸侯が力で董卓をねじ伏せただけのただの茶番じゃない」

 

劉備

「それは都の人たちが困っていたからです!」

 

困っていた・・・か。

 

要約すると劉備の話は「力で支配をするお前のやり方は間違えている。私は誰も戦わない世界を作るからお前の国をよこせ」であり華琳は「力なき理想などただの毒でしかない。欲しいのならば力で奪え」と返したという話だ。

 

もとより曹操軍にいるので華琳の考えに賛同してしまうというのもある。しかしそれを除いたとして劉備の話はおかしいと言えるものだった。

 

反董卓連合の時の話。劉備は「都で悪政に苦しんでいる民が放っておけなかった。そのために力が必要だったから連合に参加した。」と言った。

 

しかし霞や桂枝から話を聞いていた俺はそれが嘘であり、実際はむしろ善政を敷いていたという事を知っている。華琳はある程度それを承知であえて成り上がるために行った。しかし彼女はどうだろう?もし本当に戦いを避けたかったのであれば、話し合いで解決したかったのであれば使者とまではいかずともせめて現状を確認するべきだったのではないだろうか?そうすれば少なくとも劉備は戦いに身を投じることは無く、義勇軍が死ぬことはなかったはずだ。

 

桂枝に劉備はどんな人なのか、と聞いたことがある。その時こんな会話をしたことを思い出した。

 

 

〜回想〜

 

 

桂枝

「劉備ねぇ・・・簡単に言うと・・・本人は夢見る少女かな?」

 

一刀

「少女って・・・一軍の大将に対する感想じゃないだろう。

 

桂枝

「そうだよな・・・まぁ会ってみればわかるよ。ただな・・・劉備の軍は怖いよ。何が怖いってあそこは兵を人だと思ってないからな。」

 

一刀

「兵を人と・・・?」

 

あの仁徳の劉備に対する評価だとは思えない。いったいどんな理由があるというのだろうか。

 

桂枝

「ああ。あそこは「か弱き民」を守るっていうのを基本方針にしているのは知っているよな?実際商人や農民に対してはいい政治をしていると思うよ。だけど兵となれば話が違う。劉備本人が「兵は民である」という簡単な事を完全に忘れてるからな。」

 

一刀

「忘れてるって・・・・そんな当たり前のこと忘れる王がいるのか?」

 

桂枝

「あそこは武将と軍師は劉備に、もしくは劉備の理想に感銘を受けて心酔している連中だ。わかりやすいのだと・・・黄巾党の流れが近いかな?とにかく劉備の臣下が「劉備の為」っていう旗を掲げて思い思いに国を動かしてるんだよ。だから劉備にとっての一般兵は「勝手に集まってくる仲間」程度の認識なんだとおもう。」

 

一刀

「な・・・なるほど。」

 

桂枝

「そして劉備自身戦いが嫌いだから意識して戦いに・・・犠牲者に対して目を向けない。おそらく死んだ兵士に対してもどこか対岸の出来事に見てるだろうよ。」

 

とほぼ確信をもった目で桂枝は語る。

 

一刀

「でもさ・・・そんな人間がこの時代の一大勢力になれるのか?」

 

桂枝

「なれるさ。優秀な軍師と優秀な武将がいればいいんだから。軍師は大変だと思うよ。何せ兵に意識を向けさせないように戦をさせなくちゃいけないんだから。」

 

そうか・・・コイツの言い分だと別段、劉備が大将じゃなくても回る国だから劉備がいても問題ないってことなのか。

 

そんなこいつに俺は疑問が一つ。

 

一刀

「・・・一度少し話しただけの人のことをなんでそんなに理解出来るんだ?」

 

 

そう、こいつが劉備と話したのは袁紹のときにだけのはず。なのになぜここまで理解できているんだろうか。

 

桂枝

「ああ、難しい事じゃない。会った時の少しの会話とその時の「目」そして劉備の国の現状から計算しただけだ。そして・・・この計算に間違いはないと思う。」

 

一刀

「目?」

 

桂枝

「ああ、あの時の劉備の純粋な目・・・純粋すぎるというべきだな。あんな目それこそ子供にくらいしかできないんじゃないかな?それをあの年までできるってだけでも十二分に才能だけどな。」

 

といって一呼吸。

 

桂枝

「自分たちの軍が壊滅寸前の危機に追いやられていてあんな目ができるやつが兵一人ひとりを憂いているわけがない。あの時他の道をどうこう言ったんだろ?それも多分主人が「かんう」を差し出せと言った後だったんだろう?兵一人ひとりの安否を考えている人間が「他の道探す」なんて即答できるわけがないだろうが。」

 

主人が止めてなかったらおそらくそのまま別の道行ってたんじゃないか?と言う桂枝。

 

そこでこの話は終了しとりとめのない雑談に紛れた・・・

 

 

〜回想 out〜

 

こんなことを言われてから見ているせいかな・・・彼女の言動の一貫性のなさが目立つような気がする。

 

「ちゃんと話しあえば戦わずとも理解ができる」と言っているのに使者も出さずに率いているのは戦う気満々の兵団だ。

 

そしてそこを華琳に指摘されただけで何もいえなくなってしまっている。自分のやりたいことと行動が咬み合っていないことに今はじめて気づいたかのような態度だ。

 

あんな態度はそれこそ自分でやると決めた人間の態度ではないよな・・・

 

一刀

「・・・桂枝の言っていた事も的はずれじゃないのかもな」

 

っといけない。戦前に考えるようなことではないか。集中しないとな・・・

 

華琳

「力ずくはきらいじゃないわ。・・・けれど、まず私を打ち倒してからそういう話はしなさい。」

 

劉備

「・・・分かりました。私も負けるわけには行きませんから全力で戦わせてもらいます。」

 

 

そう言って華琳、劉備ともに自陣営へと戻ってくる。・・・そしてそれは

 

華琳

「一刀、!全軍を展開するわよ!弓兵を最前列に!相手の突撃を迎え撃ちなさい!」

 

戦の開始を意味する。

 

一刀

「了解!」

 

そうだ。華琳の理想のためにも、城で待っている桂枝のためにもこの戦、勝たなくてはいけない。

 

華琳

「その後、一刀は下がって後曲に。第一射が終わり次第左右両翼は相手の撹乱!その指揮は桂花。アナタに任せるわ!」

 

桂花

「御意!」

 

もし勝てなくてもその場合は・・・

 

華琳

「聞け!勇敢なる我が将兵よ!この戦、我が曹魏の理想と誇りを賭した試練となる!この壁を超えるためには皆の命をかけてもらうことになる!」

 

 

華琳

「私も皆とともに剣をふるおう!死力を尽くし、共に勝利を謳おうではないか!!」

 

なんとしてでも華琳を連れ戻すことが俺の役目になるだろう。

 

華琳

「これより修羅道に入る!すべての敵を打ち倒し、その血で勝利を祝いましょう!全軍!前進!}

 

俺は俺のやれることを全力でやってみせる!

 

兵士たち

「「「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」」

 

 

 

 

兵の雄叫びとともに今、倍以上の兵数をもった相手に対する突撃が始まったのであった。

 

 

〜一刀 side out〜

 

 

 

 

 

 

「むむむ・・・これはちょっとまずいかもしれませんねー」

 

 

城に残った風は、防衛に徹しているこの状況はよく思っていなかった。。

 

流石に籠城を目的とした出城だけあり、部隊戦の片手間に落とされるようなやわな作りはしていない。

 

だから問題は平野戦を仕掛けている彼女の主人、華琳のほうだ。

 

具体的な策もなく人材、兵数ともども負けている状況での戦い、覇道を進むためとはいえそれは兵法としては最低の悪手だ。

 

例え華琳が不出生の天才とはいえ崩壊は時間の問題だろう。

 

 

 

 

 

 

この状況を打開しうる可能性のある人物が二人いる。

 

一人は戦場に出ている「天の御遣い」北郷一刀。この状況下で華琳に対して唯一意見できるであろう人物だ。

 

彼が華琳の眼を覚まさせ、現状を冷静に見つめさせることが出来れば華琳はきっと撤退、籠城を選択するはず。

 

そしてもう一人、華琳が撤退を選んだ時、殿となり彼女たち護る人物が必要だ。

 

今現在、関羽や趙雲などという人物を相手に互角に渡り合える人物は城にいるはずの武人ただ一人。

 

本来ならば城にいる「彼」を呼び出すのが彼女の仕事になるのだろうが・・・

 

彼女はそれをせずに城の専守防衛に徹することを心に決めていた。

 

 

 

 

「味方にいるとほんとうに頼もしい人ですからねー。あの人がこんな中でじっと待っているなんてありえないのですよ。」

 

 

 

 

 

一人ごちるその表情にはどこか安心感すら感じ取れる。

 

そこにあるのはその人物を知るがゆえの行動に対する確信とその人物に対する絶対の信頼。

 

だからこそ彼女は帰る場所を護るために城の防衛と扉の確保に全力をつくすのであった・・・

説明
劉備軍襲来。彼らの主観により劉備アンチが混ざっているような気がするので嫌な方は見ないほうがいいかもしれません。
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コメント
>> 不知火 観珪 さん 二人がどう動くか・・・次回にはちゃんと分かるようになってますのでゆっくりとお待ちください。(RIN)
>> shirouさん   期待を裏切らないよう全力を尽くさせて頂きます! (RIN)
>> アルヤさん 王道ですね。熱い展開がおもいつけばいいのですが・・・がんばりますので応援お願いいたします。(RIN)
ピンチの時に颯爽と登場してくれることに期待してますよ、桂枝くん! 一刀くんもここで気張って欲しいですね ふぁいとー!(神余 雛)
まぁこの戦いは華琳唯一の汚点が出た戦いだったなぁ、そして一刀の見せ場だったけどこの作品ではどう表現されるのか?次回も期待しております。(shirou)
一刀と桂枝が同時に動く展開とか熱いだろうなぁ。次回を期待しております。(アルヤ)
>> のんぐりさん  あ、残ってましたね。思いついた時に携帯でメモしておいたんで「劉備」が検索できなかったんですよ。なのでRで代用していた名残です。ご指摘ありがとうございました。(RIN)
とうとう劉備が攻めてきましたね。桂枝がどのような活躍をするのか期待してます。あと、回想あたりにでてくる「R」というのは劉備でしょうか?(のんぐり)
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恋姫 恋姫†無双 一刀 華琳 桂花 劉備 

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