ハイスクールD×D〜魔乖術師は何を見る?〜 |
コカビエル襲撃の事件から数日後。イリナ達は聞き込みを始めた。俺は何もしないが、大体動向については把握している。それよりも面倒なのは…
「どうしてお前がここにいるんだよ…桜」
桜「いちゃいけない理由は無いじゃないか。それに君こそどうしてこんな所にいるんだい?ライト」
はい、俺の【女王(クイーン)】こと絶端(たちばな)桜が俺の所に来ました。言っていないと思うが、俺の眷属の駒は1つ足りとて同種の駒が存在しない。何故なら、俺がそうなるように作っているから。これが【王】にのみ許された特権、【駒の創製】だ。
俺の息子や娘、それに孫も何人かは【王】の駒を取り込んでいる。もちろん眷属を作る上で制約も存在する。それは本人の同意無しでは眷属に出来ないこと。もちろん死にかけなら話は別だが。その場合は当人に駒を取り出す資格を与える。
俺は色んな奴らを眷属にしているが、その中で唯一チェスで使用されるのと同じ駒は精々7人程度だ。まあ、だからと言って特に身体能力が上昇する訳じゃないんだがな。
「俺は仕事だよ。そっちは…最近出来たっていう弟子の所か?」
桜「うん。なかなか才能はあるね。神器は多分【魔剣創造】だろうね。なんせ魔剣で修行してたくらいだからね」
「中々度胸のある少年だな。そんなの三大勢力に襲ってくれって頼んでいるようなものだぞ?」
桜「まあ、今なら中級堕天使くらいは殺せるけどね。…ところでライト」
「うん?何だよ」
桜「最近、【魔刀】を使ったね?」
「…あぁ。使ったよ」
桜「相手は?」
「…コカビエル」
桜「あんなのにそんな武器は要らないよ。その気になれば、無手でだって殺せるでしょう?」
「あいつは、あいつだけは今回何十回殺しても問題ないと思っているからな」
桜「アリーの剣が奪われたから?悪いけど、それじゃあ理由にならないよ。分かってるでしょ?あれは使えば使うほど、使用者を蝕む。…戻って来れなくなるよ」
「もう遅いんだよ」
俺は目の擬態を解いた。そこにあったのは黒色と金色の目だった。俺の本来の目は茶色だった。たまに左目で千里眼を使った時は紫色になったが。
桜「…ライト。いつからそんな目になったの?」
「俺の体感時間で言うなら30年前からかな?でもこれで分かったろ?もう遅いんだよ」
桜「どうしてそんな風になるまで誰にも言わなかったの!?」
「相談したってどうしようもないだろ?無駄に心配かけるくらいなら、俺は黙っている方を選ぶのさ。それにもういいだろう。結果的に見て何ともなかったんだから」
桜「そういう問題じゃないでしょ!分かってるんでしょ?君はもう人間には戻れないんだよ!?」
黒曜石のような漆黒の色は魔神の証。黄金のような金色は真なる神の証。つまり、俺はもう色んな意味で人間ではない。
両者の力で打ち消しあっているから身体の変調などは存在しないが、神の領域に至った俺はもはや何人にも負けないだろう。
でも、力の代わりに矜持を失った。俺を俺たらしめていた【人間】という部分が。
「それがどうした。確かに今の俺は人間じゃないよ。でも、それがどうした。人間じゃなくても、神になったとしても、俺は俺なんだ。どんな奴にだって誇れる」
「俺は明人(ライト)・シュトレンベルグだ、ってな」
桜「皆が悲しんでもいいの?」
「死んでいるよりはマシだろ」
桜「怒られるかもよ?」
「俺は自分の選択に後悔していない。なんと言われようとも、後悔はしない」
桜「…はぁ。しょうがないね。昔から一度言い始めたら梃子でも動かなかったもんね」
「悪いな。でも、これが俺だから。お前に愛されたライト・シュトレンベルグだからな」
俺は静かに桜を抱きしめた。桜は静かに涙を流していた。俺は髪を撫でながら、ただ黙っていた。
桜「…もういいよ。ありがとう」
「お礼なんか要らない。ただこれまでと同じように、傍にいてくれればそれでいいんだ」
桜「何を今更。あの時から僕は君のことを愛しているんだから」
「…本当に、ありがとう」
こういう揺るがないところに俺は何回も救われてきた。俺は何度も失敗を繰り返して来たからな。失った命も幾つもあるし、後悔した回数なんてそれこそ数え切れないぐらいある。
それでも俺が変わらなかったのは、桜のこういう揺るがない心のおかげもあるんだろう。
桜「それじゃあ僕はそろそろ戻るね」
「ああ。送って行こうか?」
桜「別にいいよ。これからやるのは魔獣討伐の仕事だしね」
「…仕事は達也がやっているだろう?なんでお前に仕事が回って来るんだ?」
桜「さすがにあの子だけじゃあ完全には機能しないよ。なんでも屋が機能していたのは、君の【究極魔法使い(ガイア・ウラノス)】としての力が大きかったんだから」
「そりゃあ【召喚せし者(マホウ使い)】の頂点に立つ者の称号だからな。そんじょそこらの奴には負けないが…それでもあいつには魔乖術を第五術法まで教えたんだぜ?」
桜「魔乖術だけで何とかなるほど世間は甘くないよ。それに、そうでなくても経験の差があるでしょ?あんまり厳しい事を言っちゃ駄目だよ」
「…しょうがない、か。俺も最初は結構失敗したもんな。気長に待つしかないか。これで上手く出来たら、あいつに二代目の座を渡すか」
桜「もう隠居気分?あの子が悲鳴を上げるね。それはもうちょっと先じゃない?」
「そうか?俺は結構有りだと思うよ。もう力が物を言う時代は終わったんだ。俺自身、【最強の英雄(アインヘリヤル)】なんて呼ばれちゃいるがな、これから先の未来、戦乱なんてあるべきじゃない。人が安心して暮らすためには、平和が必要なんだからな」
桜「正論だけど、それは無理だよ。どうあっても、人はその拳を握る。武器を手に取る。そして…敵を殺すんだから」
「分かってるさ。俺の言っていることがとんでもなく甘い、ってことぐらいな。でも、力がなければ争いは無いって言うのと同じだろう?それは。
そうじゃなくて、お互いに思い合える事の出来る世界。【個の力】ではなく、【輪の力】と呼ばれる絆こそが、至上であるべきなんだ」
それが理想論だと分かっていても。それでも叫び続ける。【絆】こそが世界を導くのだと。
桜「ライトの意見には口は出さないよ。そもそも意見なんて人それぞれだからね。他人がどうこう言う物じゃない」
「ありがとう。そろそろ時間か。【開け】」
俺がそう呟くと、空間が軋み人1人分の穴が開いた。これは俺がガイアに習った空間を移動する術だ。これなら人間界から冥界へ行くことも冥界から天界へ行くことも可能だ。
だがこの技の真価はそこではない。この技は本来、時空を操るものだ。この技なら並行世界…俗に言うパラレルワールドに行ける。この力で色んな世界に行っている所為で、俺の体感年齢は800歳を超えているんだ。自業自得なんだがな。
桜「ありがとう。それじゃあライト、また今度ね」
「ああ。元気でな」
桜は笑いながら扉をくぐった。桜がくぐり終えると、扉は消滅した。…あ、そう言えば。
「俺が神になったって桜以外皆知ってるんだよな…」
この後、次元の狭間にある俺たちの家では桜の大声が響き渡ったらしい。
零「相変わらずどっか抜けてるよな」
「零二さんか。ところでさ、俺の精神空間で合体するの止めてくれ。龍一さんもそうだけど、感覚と喘ぎ声が聞こえて寝にくい」
龍「それでも眠れるあたり、君はさすがだと思うよ」
そういう問題じゃないんだがな…。俺がベランダに出るとそこに【白】がいた。
龍「白龍皇…二天龍の片割れ」
「久しぶりだな。ヴァーリ。何か用か?」
ヴ「コカビエルが動いた」
「へぇ…。わざわざ呼びに来たのか?ありがたいことだ」
俺はベランダのてすりに足をかけて、一気に空中に躍り出た。家の屋根を跳びながら駒王学園に向かった。色んな気配がするな。アルトリアとイリナ、それにゼノヴィアとリアス嬢とソーナ嬢とそれぞれの眷属たちの気配がする。
まったく少しは連絡を入れろっての。俺とヴァーリは気配を消して、校舎の屋上に立った。コカビエルたちはまったく気が付いていなかった。なんでこんな奴が幹部をやってるんだろ?
それから少しして結界が張られ、グレモリー眷属とアルトリアたちが現れた。アルトリアはその手に聖剣を持っていた。
「そんな紛い物でどうにかなる程、相手は弱くないぞ。アルトリア」
あれはおそらく、【聖剣創造(ブレード・ブラックスミス)】から生み出された聖剣だろう。だが、アルトリアはまだ【禁手化(バランス・ブレイカー)】に至ってはいない。相手どるには出力不足だ。
ヴ「…どちらが勝ちそうだ?」
「当たり前なことを訊くなよ、ヴァーリ。コカビエルたちの方さ。あんな紛い物じゃあさすがのアルトリアと言えども、勝てない」
ヴ「…ではあの赤龍帝では?」
「…こんな場所で戦うなよ?まあ、数年後ならまだしも今の段階じゃあ無理だな。いざって時は介入するけど、まだその時じゃない」
ヴ「なら待たせて貰うとしよう。未来のライバル君の力も知っておきたい」
「お前が落胆するだけだぞ?…ところで、さっきから何故アルビオンは黙っているんだ?」
ア「話す必要があるか?…それよりもヴァーリ。さっさとあれを捕まえて戻ろうではないか」
ヴ「アルビオン、それでは面白くない。分かってはいるが、ライバル君の実力を知っておくのも悪くはない」
どうやらヴァーリは傍観を決め込んだみたいだな。グレモリー眷属はケルベロスを殲滅し終えていた。そして木場君が相手のはぐれ悪魔祓いの…フリードだっけ?と戦っていた。
木場君は聖剣の因子を取り込み、そして至った。【魔剣創造(ソード・バース)】の【禁手(バランス・ブレイカー)】。【双覇の聖魔剣(ソード・オブ・ビトレイヤー)】、聖魔剣か…。やっぱりメリアが世界に関わらなくなったからか?
次はコカビエルが相手か。さてはてどうする?グレモリー眷属の諸君。相手は聖書に名を連ねるほどの猛者だぞ?
ヴ「あれはやはり神と魔王がいなくなったからか?」
「まあ十中八九そうだろうな。…さて」
俺は立ち上がって身体をほぐした。いざって時には俺が動くしかないだろうしな。俺は空間に穴を開けてそこに手を突っ込んで一本の太刀を取り出した。
「頼むぞ、秋雨。力を貸してくれ」
ヴ「先に行くぞ。【禁手化(バランス・ブレイク)】」
白龍皇の神器【白龍皇の光翼(ディバイン・ディバイディング)】の【禁手】、【白龍皇の鎧(ディバイン・ディバイディング・スケイルメイル)】になって出て行った。
そしてコカビエルが声高に言い始めた。
「フハハハハッ!そうだ!かの三大勢力の戦争で神と四大魔王は死んだのだ!」
〜アルトリアside〜
くっ!まさかこんな時にその事を言うなんて…。せめてこの剣が本当の聖剣ならこんな奴、すぐに倒せるのに!
イリ「そんな…神は死んでいる?そんな事が…ッ!」
「落ち着いて!イリナちゃん!」
まずい!アーシアさんとゼノヴィアちゃんも今は役に立ちそうにないし…。やっぱりライトに頼るしかないの!?
〜side out〜
正確には隠しただけで亡くなった訳じゃない。誰も知らないことだから、しょうがないことではあるんだが…
「やっぱりムカつくよな…」
俺を好いてくれる女性を悪く言われるのは…怖気と嫌悪感が湧いてくる。あれの許可を取らずに使うのは気が引けるがしょうがないな。
「絶端流剣術 神喰狼牙」
剣に気と魔力を纏わせることで、擬似的に狼の牙を再現し切り裂く技だ。一撃でコカビエルの体中をズタズタにした。
コ「ぐぁっ!貴様…よくも!」
「ブリテンの騎士王が振るいしかの剣よ。
我が敵を切り開け。我が道を切り開け。かの高貴なる輝きよ、命を絶えし勇者よ英雄よ。汝らの光を持って、この世界に輝きを!
総ての勝利を約束する剣よ、今一度その力を示せ」
かのブリテンの騎士王が泉の乙女に貰い国の民のために振るい、湖の乙女に返された剣。
今は7つに分けられた剣。その名もーー
「エクス……カリバー!!!!」
一筋の閃光がコカビエルを包み込んだーー様に見えた。
『Divid!!』
この音声と共に光は急速に半減されていき、最後には最初とは比べ物にならない程に光が弱まっていた。厄介な物だな…白龍皇の力は。
「【白龍皇の光翼(ディバイン・ディバイディング)】の【禁手(バランス・ブレイカー)】、【白龍皇の鎧(ディバイン・ディバイディング・スケイルメイル)】。赤に惹かれたか、白よ。邪魔立ては…」
この後、ヴァーリはコカビエルの翼の全てを剥ぎ取り力も中級堕天使レベルにまで落としていた。こりゃもう無理だな。
「我が名はアルビオン」
この後、ヴァーリはコカビエルとはぐれ悪魔祓い…確かフリードだったかな?を回収して去っていった。イリナが精神的にヤバそうだったので、ゼノヴィアをグレモリーさんに預けた。
「【開け】、我が望みし場所へ」
俺は戻った。久方ぶりの我が家へと。
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