さみしい場所。
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「かみさま、こんばんは」

 

少女はどこからともなく現れると、にっこり笑いながら親しげに目の前に立つ白い影に

戸惑うことも恐れることもなく話しかけました。

ひさしぶりだねぇ、と懐かしそうに彼女は言います。

かみさまと呼ばれた白い影も、彼女を当然のように歓迎しました。

そこは暗くて冷たくて、それからとても悲しい場所でした。

 

「ここはなぁに?」

少女はぐるりとあたりを見渡しながら、率直に問いました。

何もなくただ闇が広がるだけでした。

光も音も、あって然るべきもの全てを拒み、底知れない闇は其の場に偏在しておりました。

 

かみさまは応えました。

「ここは良い行いができなかった人が来るための場所だよ

 迷って、そして決めたんだ

 誰かのために、誰かを想って何かをした人には

 わたしは其の人が人生を終えた後も温かい場所で幸せに暮らせるように約束するけれど

 そしてそれをしてこなかった人、よい行いを忽ちひっくり返す程の業を繰り返した人には

 この場所へ送ることを」

 

ふぅん、と、少女はさも興味のなさそうに答えました。

 

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「これからね」

かみさまはいいます。

「これから、一人の男の子が亡くなってしまう

 其の子はわたしに素晴らしいことを教えてくれたんだ

 だけどね」

 

かみさまは、そこで一息つくと、

闇の中に一本の細い木を植えました。

触れれば折れそうなほど細かった木は、みるみるうちに大きく美しく成長しました。

其の木の根からはいくつもの幹が生え、

互いに混じりあって絡みあって連理していきます。

少女はただ黙ってかみさまを見ています。

 

「だけどね、

 その男の子は誰かのために何かをすることを、ひとつも出来ずに死んでしまうんだよ」

少女は思案するような、或いは悲しむような素振りをするかみさまをじっと見上げました。

何を思っているのか、はたまた何も考えていないのか、

可憐な少女は、まだ幼さを残す井出立ちとは裏腹に、そんななんとも言えぬ面立ちでした。

 

「君はそれをどう思うだろう」

 

ふいに話題を振られた少女はにっこり笑って、樹に触れました。

触れながら闇の静寂を壊さぬ静かな声で、囁くように言いました。

 

「あたし、其の子にあってみたいな

 きっとかみさま、また其の子からいろんなお話が聞けるよ

 そうしてかみさまが其の子に与える場所が、此処がいいとおもったら黒い光を、

 アナタと同じ場所に居させたいと思ったら白い光を投げかけてあげたらどうかな」

 

かみさまは笑いました。

少女も笑いました。

闇の中で二人、ひどく明るく在りました。

 

少女は問いました。

「どうしてかみさまは人にみっつの場所を創ったの?」

 

かみさまは静かに目を瞑りました。

「幸せになってもらいたいからだよ

 生きているうちもそうでないうちも、いつでもずっと

 それはもちろんたった一人ではなくて懸命に生きる全ての命にね

 人の考えなど千差万別だけれども、

 きっとぼくの考えだって、誰とも同じではないのさ」

 

 

 

 

それから幾らかたったあとのことです。

男の子がおりました。

病弱で頬がこけ、その足取りは赤ん坊のようにあまりにも不安定でした。

上等な皮のコートを着込んだ男の子はゆっくりと空を見上げました。

 

 

 

説明
その星のかみさまは、どうしたら人々が幸せになれるものかと日々悩んでおりました。
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