残念美人な幼馴染が勇者として召喚された 第8話 |
「俺たちが魔法を使う事が出来るってことか?しかも、他国でも?」
俺が質問すると、リングは頷いた。
「まぁ、勇者召喚なんて数百年もやっていないから、必ず出来るとは言えないんだけど。それでも、三百年前に召喚された伝説の勇者は、超強力な魔法を駆使して、邪神を倒した・・・とあるね。でも、君が魔法を使えるのは確定しているし、凛音さんも使えるんじゃないかな?」
・・・ん?俺が魔法を使えるのが確定している?
「どういうことだ?俺が魔法を使えるのが確定って?」
と俺が聞くと、凛音もリングもロリっ子も、何とも言えない表情をした。
「はぁ・・・やっぱり分かっていなかったか。いいだろう、あの時お前が何をしたのか、読者の皆さんにもわかり易いように私の視点で説明してやろう。・・・途中で飽きないことを祈るんだな。」
凛音が凄く意味不明な事を言っているが、気にしたら負けな気がする。読者とか私の視点とか、絶対に突っ込まないからな。
「じゃぁ、あの時サフ・バランが攻撃を放つ瞬間からスタートだ。」
side 天上凛音
まだ短いとはいえ、濃密な経験をしてきた自信のある私の人生の中でも、一番ヤバイと即座に分かる存在が、目の前にいる。それは、この赤い男。サフ・バランとか言ったか。やっぱり、外から巨大な気配が近づいてくるのを感知した時に全力で逃げるべきだったかな・・・。でも、私の全速力に耐えられるのは龍騎だけで、この子供は耐えられないだろう。かと言って、ここに置き去りにして自分たちだけ逃げるのは不味いと私の勘が言っている。・・・多分、この男はこの子供も標的にしているから。
あぁ・・・でも、昔数百人の犯罪組織の人間と戦った時だって、ロケランを担ぎながら細菌兵器を体内に宿したサングラスの男と戦った時だって、ここまでの重圧を感じた事は無かったのに・・・本当にあのメタボには、キツイお仕置きをしてやらないと気がすまない。
「・・・それも、ここを生き残れたらの話か・・・。」
さっきから隙を探しているんだけど、このバランって男は本当に強い。隙は無いし、あの巨大な筆をひと振りすると空中に出現する槍の大群は、その一つ一つが即死級の威力を持っているのが感じられる。でも、今の私に出来るのは近接攻撃のみ。辺りに散らばっている瓦礫を投げるのも試してみたけど、障壁みたいなのに阻まれた。近接攻撃を仕掛けようにも、私が動いた瞬間に標的を龍騎やあの子供にされたら守りきれない!
「では・・・死んでくれ。」
・・・・・・駄目だ、詰んだ!!
「・・・っく!」
「発射。」
せめて、この二人だけは逃がしてみせると私が動こうとしたその瞬間、死の雨は放たれた。・・・あ、やっぱり駄目だ、間に合わない。
走馬灯というのだろうか?見えているものが物凄くスローに見える。銃弾くらいなら見てから避けることが出来る私でも体験したことの無いほどのスロー感。あの血のように真っ赤な槍の大群は、これから私の事を貫くのだろう。私の体の動きも遅く、とても二人を守ることは不可能だった。・・・そう、私には不可能だった。
「良い訳ねえだろーーーー!!!」
スローになった私の視界の中で尚、紫電のような超スピードで私の目の前に現れた龍騎は、両手と両足、そして背中から真っ赤な・・・いや、((緋色|ひいろ))といった方がいいか?の何かを吹き出していた。最初は血液だと思ってギョッとした私は、一瞬あとにそれが血液ではない、別の何かだということに気が付いた。そして、それはあのバランという男の((赤|・・))とは違い、暖かく包み込んでくるような色の((朱|・・))だった。
「だ・・・!!」
駄目だと、そう叫ぼうとした。お前では、アレには敵わないと。アレは、お前が一つ喰らうだけで死んでしまう類の災害だと。
でも、言えなかった。・・・ううん、言わなくてもいいと思ったが正しい。何となく、龍騎なら何とかしてくれるような気がした。
そしてそれは、事実だった。
「おおおおおおおおおおおおおおお!!!!」
普段の龍騎からは考えられないような、魂の叫び。そして、その叫びに応じるかのように、彼の体から吹き出る何かは爆発的に多くなった。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!
まるで爆心地にいるかのような轟音。私達の前に出た龍騎が、真っ赤な死の雨を殴って、そして蹴り落とす。弾かれた槍は砕け散るか、弾道を逸らされて天井や壁に衝突して爆発していく。
「ああああああああああああああああああああああああ!!!」
叫ぶ、叫ぶ、叫ぶ。彼が叫ぶ度に朱い何かが吹き出て、それが彼の力となる。両手足から吹き出るソレは彼の手足が槍を殴った衝撃で傷つけられるのを防ぎ、そして、何らかの方法によって攻撃力を強化している。
そして、槍の雨が残り僅かになる。
「な、何故だ!お前は・・・勇者に付いてきただけのオマケのはずだろう!!」
バランが吠える。そうだろう、彼は私たちに油断など全くしていなかった。彼の持てる力を惜しみなく注ぎ込んで、苦しませることなく全員を一撃で確実に殺せる攻撃をした筈だ。それが、まさか私ではなく、オマケとしか認識していなかった龍騎に打ち砕かれようとしているのだから。
「・・・貴方、思い違いをしているわ。」
少し落ち着いた私はバランに話しかける。
「何をだ!」
苦しげな表情を見せて、バランが私に叫ぶ、よくよく見てみると、真っ赤に染まっていた筈のあの((真紅|しんく))という筆の穂先が、白く白くなっているのが分かった。つまり、恐らく、あの真紅という筆に何らかの力を充填して発動するのだろう。私はあまりやらないからよくわからないんだけど、RPGなどの魔術師の持つ杖と同じ役割をしているんじゃないかしら?
「龍騎はね、私が唯一認めた男。私が、生涯一緒に居たいと思った、ただ一人の男。・・・龍騎は、何時だって私を守ってくれる、支えてくれる。・・・そんな彼が、弱い訳がないじゃない?」
「・・・っ!」
バランの顔が驚愕に染まる。それは私の言葉のせいか、それとも真紅の穂先が完全に真っ白に戻ったせいか?恐らく後者だろう。
真紅の穂先が元に戻った瞬間、龍騎は背中の何かを今まで以上に噴出した。ソレはブースターのように、彼の体を一瞬で加速する。その余波だけで、残り少なかった槍は爆散した。
「あああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」
「お、おおおおおおおおお!?」
龍騎の右拳がバランの顔に突き刺さる。その威力は推して知るべし。私は、これで勝負が決まったと思った。・・・だけど、
「が、ああああああああああああああ!!」
「ぐっ・・・!?」
「龍騎!?」
吹き飛ばされる直前、バランが放った一本の槍。それが、龍騎の腹に突き刺さり、爆発した。バランは、そのまま壁に空いた穴から逃亡してしまった。
「龍騎!?龍騎!!」
私は顔色を変えて走り寄った。彼の顔は真っ青になっていて、彼のお腹からは血が止まらない。
「あ・・・あぁ・・・・・・。」
だって、大穴が空いていたんだ。こんな傷じゃ、即死していたって可笑しくない。私は万能ではない。こんな傷を修復することなんて・・・出来ない。
「ど、退いて下さい!」
だけど、そんな龍騎を救ったのは、空気になっていた子供だった。彼女は手が血で真っ赤に染まるのも関係無しに、龍騎のお腹に触った。すると、真っ白な不思議な光が溢れ出す。
「な、何をしているの・・・!?」
顔にビッシリと汗を浮かばせる彼女は、龍騎から目を離さずに
「時を固定しているんです。まだ彼は死んでいない!リングの手を借りれば、助かる可能性があります!」
先程までの子供っぽさは何処に行ったのか、今の彼女は、誰がどう見ても女王だった。周囲を優しく包み込み、言うことを聞かせるカリスマ。恐怖ではなく信仰、慈愛で国を動かす事が出来る、優しい女王の姿がここにあった。・・・普段からこんな姿を見せていたら、あんなリンドラ大臣なんて小物っぽい人に傀儡にされなくて良かったのに。
そこから先は大変だった。王女を連れて、リングっていう人の所に行く途中で、何度もリンドラ大臣の妨害に会った。時を止める魔法っていうのは燃費が凄く悪いらしくて、彼女の体力が尽きる前にリングって人の所に辿り着かなければ龍騎が死んでしまう。多分、バランもこのメタボの差金なんだろう。今度会ったら、地獄より酷いものを見せてやる。必ず。
そして、何とか私たちは間に合い、それから二日間、龍騎は眠ったままだった。
・・・ふぅ。説明するの飽きたしここまででいいよね龍騎?読者の皆も。
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説明 | ||
口癖は「飽きた。」熱しやすく飽きやすい幼馴染と俺が、異世界に勇者として召喚された。・・・俺はオマケだったらしいが。・・・だけどさぁ、この『残念美人』を制御出来ると思ってる訳?最悪の場合、コイツに色々されて世界滅ぶんじゃないの?しょうがない、俺が手綱を握ってやるかね。 | ||
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