デジモンクロスウォーズ 絆の将と魔道の戦士 |
朝も早い時間ではあるが、機動六課隊舎の演習場は喧噪で包まれていた。なのは達教官組が、スバル達新人組を鍛えているのだ。
最後の訓練が終わってから、
「さて、みんなの今の実力だけど。二人はどう思う?」
新人四人の前で、なのははフェイトとヴィータに訊いた。
「私は合格だと思うな。」
フェイトは即答し、
「まあ、あれだけやってるんだ。これくらいは出来てもらわねえと。」
少し考えてからヴィータも答えた、
新人四人には何のことかよく分からない、
「これからはみんなのデヴァイスのリミッターを一つ外して、もっと上の訓練をしようと思うんだ。」
と、なのはが皆に告げ、
「とりあえず、次の訓練は明日からな。」
と、ヴィータが言った。
「え?明日からって?」
新人四人が訊くと、
「最近は毎日訓練漬けで、ましてこの前はリリスモンに襲撃されて大騒ぎだったでしょう。だから隊長たちと相談して、今日一日はお休みにしようって事になったの。」
と、フェイトが説明し、
「だからみんなは今日一日、町に出てくるといいよ。」
と告げた。
新人たちは皆大喜びである。それもそうである、どんなにその競技や分野の練習をするのが好きな人でも、休みを喜ばない者はいない。
「所でさ、タイキ知らねえ?」
突然、ヴィータがその場にいる皆に訊いた。
「今日だけじゃなくて、この間もいなかったろ。何かあったのか?」
タイキは今日ばかりではなく、以前にも訓練にいなかった事があるのだ。
「あ、ええと、出動中です。」
スバルは言いにくそうに言った。
「出動中って、事件は何も起きていないのに。」
と、フェイトが言うと、
「ああ、事件じゃなくて、スポーツの助っ人です。」
と、ティアナが付け足した。
そして、そのタイキがどこで何をしていたかと言うと、
ミッドチルダの首都、クラナガンにある中規模な運動場。ここでは、腕と足にサポーターを付け、ヘルメットを被った選手が、楕円型のボールを小脇に抱え走り回っている。いわゆる「ラグビー」が行われているのだ。
その中でも、特に助っ人として参加しているタイキの活躍は目覚ましかった。
「おい!七番に三人つけろ!奴を止めれば流れは変わる!!」
タイキのチームの相手チーム選手の一人が叫んだ。タイキは七番の背番号を付けて試合に出ており、今まさにボールを小脇に抱えゴールの近くまで来ているのだ。
タイキは、自分が囲まれる直前に、
「ルーク!頼むぞ!!」
と言って、同じチームの選手のルーク少年にボールを渡した。
「よし!ナイス!!」
ボールを受け取ったルークは、そのままゴールに突っ込みトライした。これでチームに点が入り、その瞬間、
「試合終了!!」
ホイッスルの音と共に、審判の声がグラウンドに響き渡り、タイキ達のチームの勝利が決まった。
「ありがとうタイキ、あのタイミングで俺にパスしてくれて。」
最後のトライを決めたルークは、涙ながらに礼を言った。
「ルークがいつもトライの練習してること知ってたから。」
タイキはルークにこう言った。
「なあ、せっかくだし正式にうちのチームに入らないか?」
喜びの中で、選手の一人がタイキに訊いた。
「タイキ、マジで才能あるよ。試合中ずっと走り回れる持久力はさることながら、あんなに相手に囲まれて周りが見えてるなんて。」
他の選手も、この試合でのタイキのプレイを振り返り、それを称賛しながら言った。
「悪い、その話はまた今度な。」
しかしタイキは、即答ともいえるタイミングで答えを出した。
選手が、なんで、と訊いている中で、
「彼はこれからバレー部の助っ人に行くんですよ。」
美の神、芸術の神、そして造形の神が一堂に会し、何日もの試行錯誤を繰り返して至った結論のように、美麗な容姿の女性が言った。髪の色は銀なのだが、老けた感じはまるでなく、大人びた感じを醸し出している。男も女も見とれるようなこの美女は、肩からスポーツバッグを提げているのでタイキの助手か何かなのだろう。
「はい私特性のエネルギー飲料。おにぎりも作っておきましたから向かう途中で食べて下さい。」
すぐさま次の会場へ向けて走り出したタイキに、彼女は水筒を渡し、会場への道順を説明したり、次の試合で使うユニフォームを渡したりと甲斐甲斐しく働いている。
ちなみに彼女は、戦闘用の装備をはずし現代風の服装をしたディアナモンであり、特に謎ではない。
「魔法の技術の進歩と進化はすばらしいものである。しかし、それゆえに我々を襲う危機や災害も十年前とはくらべものにならない程危険度をましている。」
演台では厳つい顔をした、いかにも武闘派と言える男が演説を行っている。その様子を、放送されているニュース番組の中で見ているルーチェモンは、
「何なんですか?このシャウトモンに引けを取らない暑苦しい演説をするおじさんは?」
新鮮な野菜がたっぷり入った鱈子スパゲッティを口に運びながら、隣のテーブルについているなのは達に訊いた。ちなみに彼のテーブルには、ワイズモン、ドンドコモン、チビカメモン、ジジモン、スパーダモンが付いている。
「ああ、時空管理局地上本部総司令のレジアス・ゲイズ中将だよ。」
と、フェイトが説明すると、
「このおっさん、まだこんな事言ってるよ。」
「レジアス中将は昔から武闘派だからな。」
演説を聞いたヴィータは呆れ、シグナムはルーチェモン達に補足説明をした。
「俗に言う”頑固者”カメ?」
チビカメモンが同じ席についている面々に訊くと、
「それはともかく、隅の方の席にいる三人は何者ぞい。」
ジジモンが自分の杖で、レジアスの隣にいる三人の老人をさした。
「右から、ミゼット提督、キール元帥、フィリス相談役や。管理局を創設以来支え続けている人なんよ。」
はやてがジジモンに説明した、
「これがいわゆる”大御所”カメ?」
再びチビカメモンは同じ席にいる面々に訊ねた、
「………」
ワイズモンは画面を見ながら考え込んでいる。フードで顔は隠れているので表情はうかがえないが、きっと難しい顔をしているのだろう。
「どうしたの?ワイズモン?」
と、スパーダモンが訊くと、
「いや、あの男の事がとても気になるんだ。」
と、ワイズモンは答えた。
「怪しいとかそんな感じですか?」
ルーチェモンが訊くと、
「そんな感じではないんだ。ただ我々はあの男に振り回されそうで。」
と、ワイズモンは言った。すると、
「振り回されそうなんやなくて、実際に振り回されるで。」
と、はやてに言われた。はやてが言うには、レジアスは自分たち機動六課を目の敵にしているのだという。
「なんとしてもタイキ君の事が公になりすぎないようにしないと。それがばれたら大目玉になるからな。」
はやては最後にこう言った、
そして、スバルとティアナが町を回って買い食いをしたり。エリオとキャロが海辺の道を散歩している時に、タイキが何をしていたかと言うと、
クラナガンにある中規模な体育館にて、タイキはバレーの試合に参加していた。
高くジャンプし相手のボールを止め、トスでボールを高く上げ相手のコートへボールを入れようとする。そのうちにタイキの放ったスマッシュが相手のコートに入り、その瞬間試合終了のホイッスルが鳴り響いてタイキのチームの勝利が決まった。
試合終了後、タイキ達は近くの河原でぶっ倒れていた。午前中だけで二試合を一度にこなしたので、当然と言えば当然である。
「よし、二つとも勝てた。」
「はあ、ラグビーもバレーも初心者なのに、一気に二試合助っ人なんて普通ならやりませんよ。」
ぶっ倒れるタイキに、ディアナモンが言った。タイキはこの世界にきてからも、時折元の世界にいた時と同じようにスポーツの助っ人を行っている。そしてここではディアナモンが、かつての陽ノ元アカリのように彼のマネジメントをしているのだ。
「でもさ、ラグビー部のルークは今度違う次元世界に引っ越すから今回がこのチームでの最後の試合だったんだ。バレー部のケビンも折角仕事で忙しい両親が見に来てくれる試合だったのに、メンバーのけがで人数が足りなくなっちゃって。」
そして彼は、涙ながらに頼みに来た二人の姿を思い出しながら言った。
「だから、ほっとけなくて。」
「アカリさんの苦労が良く分かりましたよ。いつもこれでは我々の体力が持ちませんよ。」
タイキにディアナモンはこう言って、
「この後は何もありませんし、先ほど今日一日休みだという連絡が入りました。貰った給金使ってみんなで何か食べに行きませんか?」
と、言った。ちなみにみんなとは、チームクロスハートのメンバーの事である。
なので機動六課隊舎に戻り、皆を連れて町に出るため、タイキが立ち上がろうとすると、
「いた!ようやく見つけました!工藤タイキ!!」
薄緑色の髪の、両目の虹彩の色が違う少女に声をかけられた。
「えっと?誰だっけ?どっかで見たような?」
タイキは突然の事に驚き、自分の記憶を必至に整理した。
「ほら、この間出なくてもいいと言われたストライクアーツの個人組手の大会でタイキに負けた娘。」
ディアナモンは少しだけ覚えていたらしく、タイキにこう言った。
ちなみに、以前怪我のため出られなくなった選手の変わりにストライクアーツの大会で、団体組手部門だけでなく、本人からでなくてもいいと言われていた個人組手部門にも律儀に出場し、決勝戦で彼女に勝利したのだ。
「名前なんでしたっけ?」
とディアナモンに訊かれたタイキは必至に記憶の中を捜索し、
「確か…パインアップルとかなんとか…」
苦し紛れに浮かんだ単語を言った。そしたら、
「アインハルトです!アインハルト・ストラトス!!」
少女は自分の名を名乗り、
「工藤タイキ、あなたに仕合を申し込みます!!」
と、単刀直入に言った。
「これまで戦った相手の中で、唯一あなたが覇王流を打ち負かしたんです。今こそあの時の雪辱を……」
「いや、あれはまぐれで。普通にやって俺が君に勝てる訳ないって。」
意気込みに燃えるアインハルトにタイキがこう言うと、
「まぐれでもなんでも、あの時私に必殺の一撃を打ち込んだあなたの目は正真正銘のグラップラーでした。」
「あのですね、タイキは今日午前の間だけで二試合をこなしてるんです。たかが格闘技やってる暇はないんです。」
アインハルトとディアナモンの間で言い合いが始まってしまった。
「たかがとはなんですか?これは格闘家の誇りとプライドをかけた……」
「何が誇りとプライドですか?っていうか同じです二つとも。」
その陰でタイキは、
(クラナ川の流れは今日も穏やかだ)
と思っていた。
するとそこへ、エリオとキャロから連絡が入った。路地裏で小さな女の子がレリックのケースを持って倒れているとの事だ。
「ディアナモン!」
タイキがディアナモンに呼びかけると、
「はい!!」
ディアナモンは素早く荷物を取り、現場へ向けて走って行った。
「え?あの、ちょっと?!」
いきなりの事にアインハルトが驚いているうちに、
「ごめん、また今度な。」
タイキはこう言い残して去って行った。
「あ、待って下さい、話はまだ……」
しかし、アインハルトの声は彼に届かなかった。
「もう。」
仕方がないのでアインハルトはいったん家に帰ることにした。この時はまだ想像もしていなかっただろう、これから二人である事件に立ち向かう事を。
カットマン
「カットマンと。」
モニタモンズ
「モニタモンズの。」
全員
「デジモン紹介のコーナー!!」
カットマン
「さて、今回のテーマはジジモンだ。」
モニタモンA
「ジジモンはエンシェント型デジモン。デジタルワールドが創生された時から存在するといわれるもっとも古いデジモンの一体ですな。」
モニタモンB
「とても物知りで、なおかつ大樹のように老練な力を持つデジモンでもありますな。」
モニタモンC
「見た目はよぼよぼだけどね。」
カットマン
「ジジモンはクロスウォーズを始めとしていろいろな作品に登場しているけど、ただ一つ共通しているのは長老として主人公たちの前に現れる事だな。」
全員
「それじゃあまたね。」
次回予告
一人の少女を保護した機動六課の面々は、レリックを求めて地下へと赴く。そして、レリックを探す謎の黒い少女と出会う。
次回「機動六課のとある休日、中編」
説明 | ||
第九話 機動六課のとある休日、前偏 | ||
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