真・恋姫†無双 異伝 「伏龍は再び天高く舞う」外史動乱編ノ一 |
反董卓連合との戦いが終わってから約一年、表向きは忙しいながらも
平穏な日々が続いていた。
しかしこの日、洛陽からもたらされた報告は俺達を驚愕させるに十分の
内容だったのである。
「陛下が…危篤!?」
「はっ、陛下はかねてより体調を崩され療養中でありましたが、昨日容態
が急変し、今は侍医達による懸命な治療が続けられているとの事です!」
そんな馬鹿な…数ヶ月前にお会いした時はあんなに元気だったのに、危篤
になるほどの病気になっているなんて…。
「ご主人様、すぐに洛陽に向かってください!私も残務を終わらせたらすぐに
行きますから。輝里さん、あなたはご主人様についていってあげてください!」
こうして俺は輝里を連れて洛陽へ向かったのであった。
「公孫賛様、北郷様が御到着です!」
「北郷か!思ったより早かったな!!」
洛陽に到着した俺を出迎えたのは白蓮…公孫賛だった。
「白蓮、陛下の容態は?」
「今は何とか落ち着いているが…」
俺と白蓮はそう話しながら陛下の寝室に向かう。
……えっ、何で公孫賛がここにいるのかって?話せば長くはなるのだが…。
反董卓連合に与していた公孫賛軍は呂布軍によって壊滅し、公孫賛自身は何とか
離脱には成功したものの重傷を負っていて回復するまでに二ヶ月を要し、そして
何とか回復したものの、今更自分の領土でもない幽州に戻れるわけでもなく、仕方
無しに洛陽の警備兵に仕官したのであった。本来なら連合にいた諸侯の一人である
彼女が入れるはずは無いのだが、何故か誰にも咎められる事も無く普通に警備兵と
なり、そして堅実な仕事ぶりから普通に警備隊長に出世していたのだが、そんな
ある日、陛下により無実の罪を解かれ車騎将軍として復帰した盧植(公孫賛の師匠
でもある)が普通に仕事をしていた彼女を見つけ、力量を知る彼の推挙により今や
衛将軍へと出世していたのであった。
(連合に参加した罪については陛下より赦免が出ている)
しかし衛将軍になったからといって彼女の貧乏くじ的なものが解消されたわけでも
なく、いまだ謹慎中の袁紹ご一行の世話は押し付けられるわ、師匠の盧植は領土として
賜った青州へと行ったきりになり、盧植がやるべき宮中の雑務の大半は彼女に押し付
けられた格好になっているわで、彼女からぼやきとため息を聞かない日は無いとまで
言われている。
ちなみに彼女からは既に真名を預かっている(それは董卓・馬騰・孫策軍の面々からも
であるが)。
「しかしどういう事だ?陛下のお体がお悪いなんて話は聞いてなかったぞ」
「それについては…陛下か月に聞いてくれ。私も詳しくは…」
白蓮はそれだけ言うと後は無言になる。
そして俺達は陛下の寝室へと到着した。
「あっ…一刀さん」
陛下に付き添っていたらしい月が俺に気付き声をかけてくる。
「月、陛下は?」
「今は何とか落ち着いてお休みになられています」
「…陛下は何時から具合が悪かったんだ?」
「連合との戦いの時には既に…」
月のその言葉に俺は驚く。
「なっ…もしかして華佗が冥琳の病気を治した時に言いかけていた事って…」
「はい、陛下のお体はあの時で華佗さんより余命半年と宣告されていました。ここまで
もったのが不思議な位だと華佗さんも言っておられました」
なんて事だ…何で俺は今の今まで気付かなかったんだ。俺は自分自身に対する失望を
感じずにはいられなかった。
その時、陛下付きの侍女が俺を呼ぶ。
「北郷様、陛下がお目覚めになられました。北郷様が来ている事を告げると、寝室に呼ぶ
ようにとの仰せです。こちらへ…」
それに従い、俺は中へと入った。
「よく来てくれました…一刀」
俺が寝室に入ると陛下は首を俺の方へ向ける。もはや起き上がる力も無いという事か…。
「陛下…申し訳ございません」
「何を謝るのです?」
「陛下のお体の事にもっと早く気付くべきでしたのに…」
「ふふ、私の体の事は秘密にしてくれと私が月に頼んだのです。あなたが気に病む必要は
ないのですよ」
陛下はそう言って微笑む。しかしそれはまったくといっていい程に力がこもっていない
ものであった。
「ところで一刀、あなたを呼んだのはあなたにお願いしたい事があるからです。間違い
なく私からあなたへの最後のお願いになるで…ゴホッ、ゴホッ!!」
「陛下、最後だなんて言わないでください!」
「残念ながら私はここまでのようです。でもこのままでは間違いなく私が守ろうとした
ものは崩壊してしまう。それを防ぐ為にもあなたに頼みたい事があるのです。あなた
ならあの人をきっと呼び戻せる…そう信じています」
陛下は一息ついてから再び話し始める。
「私では無理でした…この一年、あの手この手でお願いしてみたのですが。でもあの人
でなければ…いえ、あの人こそ私が守ったこの漢を治めるにふさわしいのです」
陛下のその言葉に俺はある名前が浮かんだが、まさかという気持ちもあり、陛下に改
めて聞かずにはいられなかった。
「陛下…その人って、一体」
「その人こそ…」
・・・・・・
陛下の告げた名前は、俺の想像していた通りのものだった。
「やはり…」
「ふふ、あなたはやはりあの人の存在を知っていたのですね」
「いえ、その、知っていたとかそういうのではなく…」
「いいのです。あなたが天の御遣いである事は聞いています。その天の知識であれば、
知っている事もあるとは思っていました。ならばこそ、これが如何に重要な事かは
わかっていますね」
確かにこれは漢にとって最重要事項である事は間違いないだろう。しかし…。
「陛下、何故あの方はそのような…?」
「あの人はその位、自分自身の身分と流れる血を嫌っておられるのです。だけどこれは
もう個人の問題ではありません。そしてあなたなら…お願いします。これは私の遺言
と思っていただいても…ゴホッ、ゴホッ!!グッ、ガハッ!!!」
陛下は激しく吐血し、その吐いた血が寝台や壁を赤黒く染める。
「陛下!しっかりしてください!!今貴女に死なれたら…」
「残念ながら私はここまでのようです…最後の頼み、お願いします。大丈夫、あなたなら
きっとあの人も…だって私はあなたの事が…だからあの人も間違いなくあなたを…」
陛下はその言葉を最後に意識を失う。
「陛下!陛下!!しっかりしてください!!誰か、誰かいないか!!」
俺の叫びを聞いて侍医達が駆けつけ、再び懸命な治療が始まったのだが…。
・・・・・・・
「陛下におかれましては、先程崩御されましてございます」
侍医長より告げられたのは最悪な結果であった。
後漢第十三代皇帝・劉協、崩御。これはこの一年平穏を保っていた大陸に再び動乱をもた
らす事となる兆しであった。
「ご主人様…」
「朱里、また動乱が始まる」
「はい、そして私達はそれと戦って再びこの外史に平穏をもたらさなければなりません。私は
その為とあなたの為に持っている知識と知恵の全てを使うつもりです」
「ああ、俺も頑張らないとな。頼りにしているよ、朱里」
「はい!」
・・・・・・・
俺は部屋に戻ると輝里を呼ぶ。
「お呼びですか、一刀さん」
「輝里に聞きたい事があってね。陛下が君ならわかるだろうって言ってたのでね」
「…陛下が?私に?」
「ああ、君は『李儒』という人の居場所を知ってるよね?」
「…はい!?何で、陛下が…しかもよりによってあの人の…?」
輝里は驚きと共に少し不機嫌そうな顔になる。何だか聞きたくない名前を聞いたかのようだ。
これは前途多難そうだ…。
〜南皮にて〜
「お呼びですか、曹操殿」
この地を治める曹操の客将となっていた劉備の軍師である姜維が曹操に呼ばれて執務室へと
やって来た。
「ええ、あなたにお願いしたい事があってね」
「…私で出来る事であればどんな事でも」
「ありがとう。間違いなく劉備にもあなたにも悪くはない話よ」
(洛陽にいる間者からの報告ではどうやらそろそろのようだしね…ふふふ、今度こそは)
曹操は一人笑みをこぼしていた。
続く(予定です)
あとがき的なもの
mokiti1976-2010です。
今回より第二部・外史動乱編の開幕です。
いきなりで申し訳ありませんが多分次回以降の投稿はかなり不定期に
なっていくと思いますので、ご勘弁の程をよろしくお願いします。
当然、早めにいける時はそうさせていただきますので。
一応、次回は華琳さん陣営の動向と陛下が亡くなる前に一刀に頼んだ
あの方の登場の予定です。
それでは次回外史動乱編ノ二でお会いいたしましょう。
追伸 何故『李儒』と輝里が知り合いなのか、何故それを陛下が知っている
のかは次回以降に語らせていただきます。
説明 | ||
長らくお待たせいたしまして申し訳ありませんでした。 それではこれより第二部・外史動乱編の開幕です。 今回は序章という事で少々短めになっております。 それではご覧ください。 |
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コメント | ||
動乱が起こるのを知っていながら無能な董卓にしか病気のことを伝えなかったとも読めるのがなんとも。 反董卓連合が、なんの教訓にもならず。(翠湖) オレンジペペ様、ありがとうございます。そう、彼女こそ潜入工作のスペシャリストで…なんて特技があったらもっと活躍してると彼女はそこで拗ねております。(mokiti1976-2010) きたさん様、ありがとうございます。陛下は役目を終えて旅立たれ、それを引き継ぐ方が…。姜維が曹操と組んだというよりは実は曹操が姜維を…という事で。そして白蓮さんには頑張ってもらいますよ。(mokiti1976-2010) 劉協陛下の出番がほとんど無かったのが残念でした。しかしそれ自体が伏線なんですね。姜維(黒い!)も史実では初めは魏の将だったのだから、曹操と組んでもおかしくは無いんでしょうし。 第2部楽しみです。 白蓮がんば!(きたさん) 殴って退場様、ありがとうございます。戦乱の幕の前に少々政治的な駆け引きからですね。(mokiti1976-2010) 氷屋様、ありがとうございます。曹操はともかく姜維はするかもしれません。しかしそうはいかない可能性も…。(mokiti1976-2010) さてさて曹操が何か悪巧みを、これから戦乱の幕が切られるか。(殴って退場) 曹操と姜維が裏で何か暗躍し始めましたかな、何かあったら桃香に責押し付けて逃れそうだな(氷屋) きまお様、ありがとうございます。意外と最後は彼女が覇者になってたりするかも(マテ。(mokiti1976-2010) 真一様、ありがとうございます。白蓮さんは「塞翁が馬」な感じの人生です。出番はありますのでご心配なく。(mokiti1976-2010) ハーデス様、ありがとうございます。そういう伏線なのです。曹操さんも皇帝がずっと元気だったら諦めたのでしょうが…。(mokiti1976-2010) 黄金拍車様、ありがとうございます。彼女は大陸一のステルス機能の持ち主です。(mokiti1976-2010) h995様、ありがとうございます。その方は治世だろうが乱世だろうがあまり気にしないのです。自分の思うまま生きるようで…。(mokiti1976-2010) 陛下の崩御からついに覇王様が胎動する時がきましたか・・・。今まで張った伏線がどう絡んでくるのか楽しみですね。そして最後の勝者は皆が争っている隙?をついて、影の薄さを生かして大外一気に駆け抜ける白なんとかさん!(え(きまお) 劉協様、安らかにお眠りください。 だがそれよりも、白蓮様〜〜☆*:.。. o(≧▽≦)o .。.:*☆ 何も無かったかの様な登場に惚れ直した? これからも出番が...あると...イイナ...。(真一) ここでも「例のあの人」出てくるんですか。まあ他の外史でもあの人は聡明な人でしたが…。と言うか、読んでる途中で「劉協は第十三代ではなく、第十四代皇帝でなかったかい?」と心の中で突っ込んでいましたが、こういう伏線でしたか。そして曹操(あえて真名は言わない)も懲りないね。白蓮に関しては皆さん弄ってるのでスルー。これこそ白蓮クオリティ。(ハーデス) >何故か誰にも咎められる事も無く普通に警備兵となり 日頃嫌がってる影の薄さで助かるとは・・・^^;(黄金拍車) 反董卓連合からわずか一年で皇帝が崩御……。また変な噂が立ちそうな気配がしますね。その黒幕であろうお方に誰か教えてやってはくれませんか。何で人物評が治世と乱世で分かれているのかを。(h995) ataroreo78様、ありがとうございます。白蓮さんは位だけみれば栄達してますが、領土は猫の額の如き程度しかありませんからね…。肩書きが名目のみのままになるのかどうかは…さて。(mokiti1976-2010) 一丸様、ありがとうございます。劉協陛下は一生懸命に命を燃やされました。そして李儒は…想像通り。お楽しみに。(mokiti1976-2010) さらば劉○陛下・・・。白蓮さんは太守位よりも遥かに高位な衛将軍ですか。ある意味栄達してますね。尤も名目だけの肩書きになる日も近いけど・・・(ataroreo78) 劉協陛下・・・・御立派な最後でございました。・・・・・さて、李儒の名前が出てきたことということは、李儒は本名でない可能性が高いと・・・・そして、劉家の関係で李儒の偽名・・・・そして、ある作者からキャラを借りるということは・・・・・あの娘ですね!?・・・・・すっごく楽しみに待ってます!!(一丸) yoshiyuki様、ありがとうございます。予想通りだとだけ申しておきましょう。そして白蓮さんは最新鋭戦闘機ばりのステルス機能を発揮しました。(mokiti1976-2010) 迂闊にも今気付いた、史実と「第十三代皇帝」の名が違うことに。つまり“あのお方”が生存している可能性に! そして白蓮さん、普通に生存して普通に出世して苦労しているなんて、ある意味ズルイ(チート)ですね。でも、良かったと言いたい。(yoshiyuki) 狭乃 狼様、ありがとうございます。陛下には安らかに眠っていただけるよう一刀達には頑張ってもらいます。そして「あの人」の活躍もお楽しみに。(mokiti1976-2010) 協さま・・・どうか安らかに・・・。ついに動乱の時来たれり、“彼女”の存在がどう影響するのか、楽しみにさせてもらいます。(狭乃 狼) |
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