IS -インフィニット・ストラトス- 〜恋夢交響曲〜 Another side story Capter2 |
「紅椿の稼働率は絢爛舞踏を含めて42%かぁ。まあ、こんなところかな?」
空中投影のディスプレイに浮かび上がった各種パラメータを眺めながらその女性、篠ノ之束は無邪気に微笑んだ。
鼻歌を歌いながら、今度は別のディスプレイを呼び出す。そこには白式第二形態の戦闘映像が流れていた。
「は〜。それにしても白式には驚くなぁ。まさか操縦者の生体再生まで可能だなんて、まるで――」
「――まるで『白騎士』のようだな。コアナンバー001にして初の実戦投入機、お前が心血を注いだ一番目の機体に、な」
森から音もなく千冬が姿を表す。
「やあ、ちーちゃん」
「おう」
二人は互いの方を見ない。背中を向けたままだったが、そこには相手がどんな顔をしているのか手に取るようにわかる、確かな信頼関係があった。
「ところでちーちゃん、問題です。白騎士はどこへ行ったでしょうか?」
「・・・白式を『しろしき』と呼べば、それが答えなんだろう?」
「ぴんぽーん、さすがはちーちゃん。白騎士を乗りこなしていただけのことはあるね」
かつて『白騎士』と呼ばれていた機体は、そのコアを残して解体され、第一世代作成に大きく貢献した。そしてそのコアは、とある研究所襲撃事件を境に行方がわからなくなり、いつしか『白式』と呼ばれる機体に組み込まれていた。
「それで、うふふ。例えばの話、コア・ネットワークで情報をやり取りしていたとするよね。ちーちゃんの一番目の機体『白騎士』と二番目の機体『暮桜』が。そうしたら、もしかしたら、同じワンオフ・アビリティを開発したとしても、不思議じゃないよねぇ」
「・・・・・・」
「それにしても不思議だよねぇ。確実にあのコアは初期化されたはずなんだけどね」
「不思議なこともあるものだな」
それについてはわからないというのが本当のところである。それは束も同じ。
しかし、束はわからなくても問題はない。
「・・・そうだな、私もひとつたとえ話をしてやろう」
「へぇ、ちーちゃんが。珍しいねぇ」
「例えば、とある天才が一人の男子の高校受験場所を意図的に間違わせることができるとする。そこで使われるISを、その時だけ動けるようにする。そうすると、本来男が使えるはずのないISが使える。ということになるな」
「んー? でも、それだと継続的に動かないよねぇ」
「そうだな。お前はそこまで長い間同じものに手を加える事はしないからな。それにもう一人の男子の例もある」
「えへへ。そうだよねぇ」
「・・・で、どうなんだ? とある天才」
「どうなんだろうねー。うふふ、実のところ、白式がどうして動くのか、私にもわからないんだよねぇ。いっくんはIS開発に関わっていないはずなのにね」
「それは天加瀬も同様、か・・・。まあいい。次のたとえ話だ」
「多いねぇ」
「嬉しいだろう?」
「うふふ、違いないね」
「さて、とある天才が、大事な妹を晴れ舞台でデビューさせたいと考える。そこで用意するのは専用機と、そしてどこかのISの暴走事件だ」
束は答えない。そして、千冬も言葉を続ける。
「暴走事件に際して、新型の高性能機を作戦に加える。そこで天才の妹は華々しく専用機持ちとしてデビューというわけだ」
「へぇ、不思議なたとえ話だねぇ。すごい天才がいたものだね」
「ああ、すごい天才がいたものだ。かつて、十二カ国の軍事コンピュータを同時にハッキングするという歴史的大事件を自作した、天才がな」
千冬の言葉に束は何も答えない。
「――しかし、そのデビューすらも霞んでしまうほどの衝撃的なISを、私は見たんだがな」
「・・・・・・」
「瞬間移動とも言える力で突如現れた福音に似た謎の無人機、ISの兵器としての定義を覆した『ブリリアント・アイリス』、そして透き通るような白い粒子を様々な形に変えて戦う『プラチナ・ヴァルキュリア』。これらについて、お前はなにか知っているのか?」
「・・・私から言えることは何も無いよ」
束は一呼吸おいて、再び口を開く。
「ねぇ、ちーちゃん。今の世界は楽しい?」
「そこそこにな」
「そうなんだ。私はね――」
一陣の風が強くうなりをあげる。その風の中、何かをつぶやいて・・・束は消えた。
「・・・・・・」
千冬は息を吐き出して木に寄りかかる。その口元から漏れる声は、潮風に流れて消えた。
◇
「・・・以上が戦闘の記録」
モニターが並ぶ部屋の中、一人の少女がつぶやくように言った。
「作戦は成功だな・・・。『ヴェルダンディ』、『スクルド』共にまだ力を出し切れていないとはいえ覚醒したと言える」
声の主の口元が愉悦で歪む。
「でも、こちらの損害もある・・・」
「構わないさ、所詮、『堕ちた福音(ファーレン・ゴスペル)』は使い捨て。搭載してある空間転移装置も一回きりの不完全なもの。『ファーレン・システム』に至っては『ニーヴェルン・システム』に遠く及ばない」
「・・・・・・」
「『過去(ウルズ)』、『現在(ヴェルダンディ)』、そして『未来(スクルド)』。神を含め、ありとあらゆる万物の運命を司る三姉妹。全知全能の神『ヴォータン』ですら逃れられなかった運命(ラグナロク)を決め、世界を破滅へと導いた存在」
「・・・・・・」
少女はまるで興味がないようにその言葉を目を瞑りながら聞いている。
「神の運命すらも決定する力、いずれ我が手に――」
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恋夢交響曲・Another side story Chapter2 |
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