然シ私ハ珈琲ヲ飲ムノデス |
何故此の様な苦イモノを飲むのですかと聞かれた。
勿論其処に何の哲学的意味も政治的意味も、ましてや悪意などと云うモノが存在しないのは明白だ。
極自然に、極々自然に会話を円滑に進める為の材料としての質問に相違ないだろう。
然し私は返答に窮しているのであった。
何故だろうか。
悩ませる事を意図としている訳では無いだろうに、私は真剣に悩んでいるのだ。
何故だろうか。
確かに、確かに珈琲と云うモノは苦い。
良薬口に苦しとは言うが恐らく此は害毒に極めて近いモノだろう。
毒薬もまた苦いモノなのだ。
酒然り煙草然り、嗜好品とは須く毒物としての性質を持つ可キというのは万人が首肯するであろうし私もそれについては敢えて否定しようとは思わない、だからといって肯定をする訳でも無い辺りがどうにも優柔不断なのだが、然し何故なのだろうか。
テヱブルの向こうでは男が難しい顔をしている。
数分前、相席宜しいデスかと尋ねられた私は、構イマセンと言ったのだ。
ダカラ斯うして珈琲について難しく考えているのだ。
ふうむと二人で悩んでいると、犬の紳士がいつの間にか私の隣に座っていた。
紳士はコチラを一瞥すると
「毒ヲ溜メ込ムノデス、珈琲ヲ飲ムノデス、スルト社会ノ毒ナドニハ毒サレナクナルノデス」
そういうものかと思った。
「ソウイウモノナノデス」
なので私はスピリタスを一ビン頭から浴びせ、マッチを擦り、投げたノダ。
亡(ボウ)と音がし、ギヤアと声がした。
何故だろうか。
店を出ようとするとヤハリ「四百円になりマス」と言われたので、
私はイリマセンと言ったのだ。
勿論其処に何の哲学的意味も政治的意味も、ましてや悪意などと云うモノが存在しないのは明白だろう。
然し何故だろうかと思った私は元居た席をチラリと見、得心が行った。
私は相席が嫌いなのだ。
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喫茶Voilaのお話。 酷いめに会う犬の紳士が大好きです。 |
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