いきなりパチュンした俺は傷だらけの獅子に転生した |
第六十五話 力が抜けるからそういう事はやめてくれ!
ヴォオオオオオオオオ!!
地球にいるサイをグロテスクに変形させたかのような怪物が灼熱を思わせる炎と極寒を表している冷気を纏って突進してくる。
俺と怪物の間にいるレオーもお構いなく。
その太い足で踏み潰し、そのサイの象徴とも思える角で粉砕しながらこちらにつっこんでくる。
アレの突進を喰らったらマズイ。
というか、あれは闇の書の暴走体を小型化したものだ。触れた瞬間に取り込まれるかもしれない。
しかも、見た目がモービディック。
俺は以前とは違い、『揺れる天秤』をクロウから強制的に持たされている。これって死亡フラグじゃねえだろうな?
「こなくそっ!」
(駄目ぇえええ!あんなおっきいの受け止めたら、私(高志・ガンレオンを含む)壊れちゃうよ!)
「力が抜けるからそういう事はやめてくれ!」
((児童ポルノ法とPTA|アリシアサイド))も怖いが、((うほっ。|俺サイド))な感じも怖い!というか嫌だ!
アリシアの不謹慎な物言いにつっこみを入れながら、ずっこけないようにモービディックの攻撃射線上から逃げることにする。
防護よりも回避優先!
レオー達を粉砕し続けたせいで残った体力は五割。魔力は三割強。
スフィアの恩恵で徐々に回復しているはずの魔力も何故かこの間よりも少ない気がする。
周りにいるレオーを振り払いながらモービディックを回避しようとした瞬間。ガクンと足元が引っ張られる気がした。もしかして本当にずっこけたのか?!
ガシッ。ガシッ。
と、周りにいたレオーは何を思ったのかその鋭い爪で攻撃することはなくガンレオンの足元にへばりつく。それを振りほどこうにも既に目の前にはモービディックの角があった。
メリィッ。
と、ガンレオンの頑強な装甲を凹ませた瞬間。
一瞬意識が飛ぶ。
そして、
ゴォオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!
「っ。ガァアアアアアアアッッ!!」
((白クジラ|モービディック))。
その名称で呼ばれている通り、熱波と冷気で周りの空気は蒸発と凝固を繰り返し、赤黒かったその肉塊もいつしか白く染まっていた。
バキッ。…ベキキ。
熱波でガンレオンの装甲が溶かされ、冷気で冷やされることで装甲板が一枚。また一枚と破壊されていく。
ゴァアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!
「こ、ん、のぉおおお!」
未だに音程の高い叫び声をあげならが突進し続けるモービディックにライアット・ジャレンチの矛先を開き、モービディックの頭部に押し付ける。
「ノット・バニッシャッアアアアアアアアアッ!」
ズドオンッ!
ライアット・ジャレンチの中に隠されていたパイルバンカーでモービディックの頭部を突き破る。
その攻撃でモービディックの動きはぴたりと止んだ。
もし、モービディックが普通の生き物だったらこれで戦いは終えていた。だが、目の前にいる怪物は『闇の書の欠片』。
グゥオオオオオオオオオンッ!
「まだ動け…」
ギチギチギチギチギチィッ。
モービディックは攻撃を受けて止まったのではない。照準を定めていたのだ。
先程の攻撃で開けられた頭部の穴を埋めるかのように蠢く肉。そして、肩や脇に備え付けられた四つの砲身がガンレオンに向く。
ゼロ距離砲撃?!
高志がそう悟った瞬間、モービディックの砲身が紅く輝いた。
「…やれやれ。君の方から出てくるとはね『悲しみの乙女』」
「…アサキム。お前が狙うのはスフィアなのだろう。ならば私を殺して私のスフィアを」
「リインフォース!?」
海しかない世界でフェイトが闇の書の欠片を倒しているとアサキムが現れた。そして、それを追うかのようにリインフォースがガナリーカーバーを持って自分の目の前に現れたフェイトは彼女に守られるような語りで彼女の後ろに位置している。
最初は戸惑っていたはずの彼女も二人の会話聞いて割って入ろうとするがリインフォースはそれを制す。
「駄目だよ!そんなことをしたらはやてが悲しむよ!」
「だが!そうするしか…」
彼女以外に援軍が来るには遅すぎる。
しかもアサキム相手だと下手な援軍は逆に足手まといになる。
それこそ守護騎士かなのはかクロノ。
はやては魔法の才能があり、覚醒して間もなく強力な砲撃も行うことも可能だがいかんせん、実戦経験が少ない。その為、固定砲台としてか役に立たないだろう。そんな彼女がこの目の前の奴を相手にしたら…。
「…見くびらないで欲しいな。『悲しみの乙女』。君と高志とではリアクターとしての格が違う。君を見逃してでも彼には様々な事態を経験してもらう」
「…どういうことだ」
「彼はそこの魔導師や君達守護騎士に比べると遥かに弱い。だが、弱くなければ『傷つく』こともない。『悲しむ』こともない。…無論、無理強いを『選択』することもね」
「そんなことはない!高志は強い!私の母さんやアリシアだって救ってくれた!今ここにいるリインフォースだって…」
フェイトはアサキムの言葉を否定するかのように叫ぶ。
自分の家族を助けた恩人を侮辱されたかのように感じたフェイト。普段は心優しい彼女は今のように声を荒げるような真似はしない。
だが、アサキムの言葉はそれを看過するには過ぎた言葉に感じた。
「それは獅子の力があったからだ。あの強大な力があれば大抵のことはどうにでもなる。それこそ世界を制することもね。…だが、彼は獅子の力に振り回されている状態だ」
「お前の言い草だと彼はお前よりも強いみたいに聞こえるが…」
「彼は強いよ。いや、彼以上にリアクターとしての適格者を僕は知らないな。非情な考えは出来ても、それが自分より弱い相手だと出来ないお人好し。誇り高く、寂しがり屋な道化。…なにより今も必死に孤独に耐えている」
「…孤独?」
「…忘れたのか?彼は『異世界人』だ。『悲しみの乙女』」
「…あ」
フェイトは思い出した。
高志は自分と目を合わせることを嫌がっていた。そして、詫びた。
何故か?
フェイトがきっと戸惑うから。きっと自分を恨むだろうから。きっと『悲しむ』だろう。心を『痛める』だろう。
そして、自分がテスタロッサの家の子になるかもしれないと聞いた時の彼の顔は何を表していた?
驚愕?後悔?哀れみ?悲哀?嫉妬?
…少なくても本当の家族がいるのに一緒に暮らせない彼女の事を思ってどんな感情を出した。
人が善と捉える感情ではないのは確かだった。
「…なら彼は」
「羨ましかっただろう。特に君達二人の事が。彼は君達を救うことが出来た。だが、自分自身は何一つ救えていない。そして、君達と関わることで彼は負の感情が募っていくだろう。だが、それはいけないことだと自覚しているから((性質|たち))が悪いね」
高志は他人なんか世界中。それこそ次元世界を挟めば一日に何千、何万人も死んでいるから別に名前の知らない人間がどうなろうとどうも思わないだろう。
だが、自分が救いたいと思った人が窮地に陥ったらきっと助けに行く。そして、それが家族のいる者ならなおさらだ。
だけど…。
その助けた人が家族と一緒に笑って暮らせるのに自分自身がそれに嫉妬してはあまりにも格好が悪いし、助けた意味も分からなくなるだろう。
しかし、それが高志の人間性だとしたら…。
人を助けて、その後でその人とその家族を見て心を『痛める』。
見捨てたとしたら、良心を『痛める』。
見殺し何ていうのももってのほかだ。
「…うあ」
「…く」
フェイトは、自分がどれだけ彼に辛い思いをさせてきたを知った。
リインフォースもまた同様だ。
彼に救われて、彼の前でどれだけはやてや守護騎士達と幸せに接してきた。
自分達は彼を心の底から満足に笑わせていないというに…。
(…『悲しみの乙女』のスフィアは未だに成長の余地が見られる?まだ希望が残っていると思っているからか?)
アサキムは悔しそうに、そして後悔の色に染まっている表情を見ながらリインフォースの持つ棺桶にも似た砲身。ガナリーカーバーに視線を移していた。
「…さて、おしゃべりはもういいかな。どちらにせよ、君達は彼のスフィアの促進剤だ。出来るだけ惨たらしく、惨めに、盛大に殺す。その悲鳴が彼の心に届くように、ね!」
「っ!」
ガギャンッ。
シュロウガが一瞬で黒い疾風に変化のように見えた瞬間。少し遅れてフェイトも閃光となって、雷の鎌から大剣と化したバルディッシュでアサキムとせめぎ合う。
ギギギギッ。
「この短期間でよくここまで出来るようになったね。剣の師匠でも見つけたみたいだ」
「シグナムとあれからも模擬戦を何度も行っていますから…。これくらい!」
[カートリッジロード!]
バルディッシュから二つの弾丸が吐き出される。
カートリッジシステムで更に速度を上げてアサキム連撃を加えるフェイト。それを見てリインフォースは逆に二人から離れてガナリーカーバーに魔力を込めてスフィアの力を可能な限り使わない状態で放てる砲撃の準備をする。
ヴォオオオオオ…。
獣唸り声のような重低音が響くとともにガナリーカーバーの砲身の奥底から見える赤紫の光。それがチャージ時間をかけると共にその光の強さが増す。
「…離れろ!テスタロッサ!撃ちぬく!」
「っ」
ドオオオオオオオオオオオオオ!!
レイ・ストレイター・レイト。
なのはのスターライトブレイカーを元にして作られた収束砲。
効果範囲を絞り、魔力の消費を抑えたものだ。ただし、射程・威力は変わらない。
ガナリーカーバーにより放たれた魔力の収束砲は先程までアサキムとフェイトがお互いに切り結んでいた空間を薙ぎ払うかのように光が覆い尽くす。
「…直撃!これなら!」
フェイトはなのはのスターライトブレイカーを受けたことがるのでわかる。
リインフォースが放った砲撃はそれに近い威力の物だという事を。
これを受ければいくらあのアサキムでも…。
そう、二人は考えた。だが…。
「…失望したよ。『悲しみの乙女』。((加減|・・))をして勝てるとでも思っているのか?」
ドンッ。
「な…?!」
と自分の背後から声をかけられたと認識したと同時に、自身の背中から生えている羽が眼前に散っていることに気が付いたリインフォース。
そして、恐怖の色に染まりつつあるフェイトの瞳。そこに映し出されていたのは…。
「この僕と戦うのなら、その命。スフィアで燃やしてかかってこい。でなければ…」
シュロウガに身を包んだアサキム。
その黒い鎧はあの砲撃を受けながらも煙をあげながらもほぼ無傷の状態だった。
「君の死により、彼のスフィアの糧に変わり果てる!」
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