魔法世界に降り立つ聖剣の主
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7:豚に真珠の程度が過ぎる豚は時に害獣に変貌する

 

 

 

 

 

オリヴィエは言葉を発することが出来なかった。

目の前に一番会いたかった人物が立ってたいる。

 

それがどうしようもなく嬉しくて、彼女はもう枯れ果てたと思っていた涙を止めどなく流した。

彼女の待ち人、シオン・インサラウムはオリヴィエに歩み寄って彼女の身体を拘束している鎖を素手で強引に引き千切っていく。

 

そして全身の自由が戻った途端に、オリヴィエはシオンの胸に飛び込んだ。

 

 

オリヴィエ「うわぁぁぁぁ…!!兄様ぁぁぁぁ!!」

 

声を抑える事もなく大声で啜り泣き、兄と慕った男の胸に縋り付く。

その小さく脆い肩を、シオンは力強く、それでいて壊れない様に優しく両手で包み込む。

 

 

シオン「悪いな。遅くなっちまった。もう大丈夫、怖くないよ。」

 

オリヴィエ「ひぐっ…ぐすんっ……にぃ…さまぁ……」

 

涙と鼻水で顔をクシャクシャにしながらオリヴィエはシオンを仰ぎ見た。

優しい顔付きに左右で色の違う赤と青の瞳は以前のままどこまでもまっすぐて曇りの無い澄んだ色をしていた。

 

兄の様で父の様な彼はポンとオリヴィエの頭の上に掌を移して軽く撫でつけた後、ゆっくりと立ち上がって振り返る。

 

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彼の視線の先にはヨロヨロと立ち上がり、狂気に満ちた目で此方を睨むギルガメスの姿があった。

 

 

ギルガメス「テメェ…シオン!今更ノコノコやって来て邪魔しやがって!」

 

シオン「邪魔だと?ほざいてんじゃねえぞカス野郎が。人様の妹分にふざけた真似しちゃってくれて調子こんでんな。」

 

ギルガメス「テメェこそ一体何様のつもりだ?この裏切り者が。オリヴィエ、お前も忘れたのか?コイツはお前の父親の、聖王の仇なんだぜ?」

 

ここぞとばかりに糾弾するギルガメス。いっそ露骨な程に白々しい言い口に、シオンは呆れを通り越して感心していた。

 

 

ギルガメス「何にしたってこの場に来てくれたのはラッキーだ。お前は今日こそ自分の罪を償うんだよ。その命でな!((投影開始|トレースオン))!!」

 

勇ましく声を上げ、特典能力の一つである投影魔法を起動させるギルガメス。

その手に二振りの夫婦剣が形作られる。

 

「((干将・莫耶|かんしょう・ばくや))」と名付けられた白と黒の剣を両手に携えて、今まで散々自分の邪魔をして来た相手に突進する。

シオンも鞘に収めたままのアークライナスを片手に迎え討つ。

 

自分を呼び止めるオリヴィエの声を聞きながらも、彼は逢えて彼女から離れた。

これから始まるのは間違いなく人知の介在し得ぬ死闘。

 

この場に居合わせている時点でも危険なのだ。わざわざ彼女の近くで切り結ぶなど愚の骨頂である。

故にシオンはより彼女から距離を離して戦うべく加速術を全身にかける。

 

一瞬でギルガメスの意識からシオンははみ出して、次に認識された時には既に剣を振るっていた。

 

 

ギルガメス「なっ!?」

 

突然目の前に現れた敵の姿に驚くギルガメス。しかしシオンにとっては驚愕された事が逆に驚きであった。

 

一応同じ国に所属しているのだから自分の能力も熟知しているとばかり思っていたが、この様子だとそうでもないらしい。

 

その予測は見事に的中しており、ギルガメスはシオンの能力など全く知りもしなかった。

自分の様な特異な能力を有しているわけでもなくただ魔力と膂力が高いだけの男と決めつけて完全に侮っていたのだ。

 

故に亜光速移動が可能などという反則まがいの行動にも予想がつかなかった。

しかし、だからといってそう簡単には終わらない。

 

転生特典による人外の身体能力と二人分の英霊の戦闘技能を総動員して、咄嗟に目の前で双剣を交差させる。

そこに剣を止めたモノとは俄かに思えない衝撃が走る。

 

何とか敵の攻撃を受け止めたギルガメスだったが、防げた事に一瞬気を抜いてしまい、この場に於いては致命的とも言える隙を与えてしまった。

 

 

シオン「敵を前にしてぼさっとしてんな二流剣士が!」

 

ギルガメス「がふっ!!?」

 

両手が塞がったギルガメスの鳩尾にシオンの左脚による蹴りが炸裂する。

骨が軋む歪な音の後にギルガメスは後ろに向って吹き飛んだ。

 

だが、今度は壁まで一直線と言う事は無く、途中で体勢を整えて再び此方に向き直った。

直後に、ギルガメスが手に持っていた剣をシオンに向かって投げ付けた。

 

当然の如くこれは防がれ、剣は宙に舞うが、この攻撃の前では防ぐと言う行為自体が間違いである。

 

弾き飛ばされた二本の剣は突然その軌道を変えてシオンに向かって飛来したのだ。

すぐに背後から迫る気配に気が付くシオンだったが、反応しようにも前方から既にもう一対の夫婦剣を投影したギルガメスが接近して来ていた。

 

投擲と斬撃によるコンビネーション攻撃「鴉翼三連」

回避も防御も困難な同時攻撃が一斉に襲いかかって来る。

 

だが、シオンはいたって冷静に対処した。

確かに厄介な同時攻撃だか、所詮は目に見える速度よるもの。対応出来ない程では無い。

 

再び加速してまずは背後の二振りを機能を維持出来ない程にまで粉砕し、振り返り際に二頭による交差斬りを受け止める。

 

またもや驚愕の色を顔に浮かべるギルガメス。学習しない愚かな元同僚に容赦無い頭突きを見舞う。

 

たたらを踏んで後退するギルガメスは、両手の剣を引っ込めて、おもむろに手を翳した。

そのアクションにシオンは覚えがあったが、まさかこの場で使うとは思っていなかった為に目を見開く。

 

 

ギルガメス「((王の財宝|ゲートオブバビロン))。」

 

そう呟くと、ギルガメスの背後の空間が歪みだし、その中から夥しい量の武器という武器が出現する。

 

数々の名のある宝物を弾幕の如く雨あられと発射する能力。

嘗て戦場で使用した際には味方もろとも敵を吹き飛ばしてしまう程に凶悪な威力を持ったそれを、ギルガメスは何の躊躇いも無く射出した。

 

銃弾のような速度で迫る武具の数々。それでも避ける事は出来たが、シオンは逢えてそれを剣で一つ残らず迎撃した。

 

何故躱さなかったのか、答えは簡単だ。シオンは今オリヴィエの前方に立っており、もしもここで武器を一つでも回避すればそれはそのままオリヴィエに向かって飛んで行くだろう。

 

聖王の血筋故の膨大な魔力と、ありとあらゆる攻撃から身を守る結界である「聖王の鎧」の能力を有していても、この一つ一つが驚異的な破壊力を有している武器の嵐には流石に耐え切れない。

 

故にシオンにはオリヴィエを守る為に全て打ち落として行くしか道は無かったのだ。

これを狙ってやっているのなら狡猾な戦術だが、今のギルガメスにはシオンを排除するということしか頭に無く、オリヴィエの事など視野に入っていないのだから尚のことタチが悪い。

 

 

ギルガメス「ヒャハハハハ!!どうしたよ?防ぐだけで精一杯か!!所詮テメェなんざそんなもんさ!俺の力の前ではテメェもそこらのモブ共と変わらねぇんだよぉぉ!!」

 

理性の欠片も感じられないギルガメスの高笑いに、シオンは思わず舌を打つ。

 

 

シオン(ここまで外道に落ちてやがったとはな。心が脆弱な内に強大過ぎる力に高い地位を手に入れちまって精神が歪みに歪んでやがるのか。)

 

恐らくこうして戦っているのも、特典による能力と技能によって身体を自動操作しているようなものなんだろう。

その証拠に先程もギルガメスは一流の戦士らしからぬ隙を二度も見せた。

力も技もあるが、それに心と経験が伴っていないのでは意味が無いと言うのに。

 

 

シオン(とは言え、このままじゃマズイな。弾切れを待ってても無駄っぽいし、ここは……)

 

意を決してシオンは一度大きく剣を振るう。

直後に暴風が吹き荒れて、眼前の武器の群れが一気に吹き飛んだ。

そこを見計らい、少しだけ後ろを向いて声を張る。

 

 

シオン「オリヴィエ!ここにいたら巻き込まれちまうぞ!お前は離れてろ!」

 

オリヴィエ「で、でも……」

 

シオン「この場で口答えすんな!さっさと逃げ…がぁっ!?」

 

言い切る前にシオンの左脚に焼けるような痛みが走る。

視線を落とせば、脛の辺りに一振りの直剣が深々と突き刺さっていた。

 

 

オリヴィエ「兄様!!」

 

シオン「来るんじゃねぇ!馬鹿野郎!」

 

悲痛な叫びを上げて此方へ走り寄ろうとしたオリヴィエをシオンは怒鳴りつける。

続いて迫る弾幕を、今度は振り返る事無く迎撃していくが、片脚で身体を支えている為か体勢がぐらついている。

 

 

シオン「お前がここにいても何か出来んのかよ!足でまといはすっこんでろ!!」

 

オリヴィエ「っ!!」

 

あんまりな言いぶりだが、決して間違ってはいない。

魔術も武術もまだまだなオリヴィエではこの場にいた所でシオンの邪魔をするばかりだ。

 

今現在も自分がいるせいで攻撃を避けられずに守りに徹した結果シオンは負傷した。

自分では力になれないことが堪らなく悔しかったが、オリヴィエは止むを得ず走り去る。

 

それを確認したシオンは右足だけの力で床を蹴り、王の財宝の射線上から大きく迂回してギルガメスの右方向に回り込んだ。

出来れば弾幕の間をすり抜けて直接真っ正面からの一撃を叩き込んでやりたかったが、残念ながら左脚の負傷のせいで細かいステップが踏めないのでそんな器用な真似は出来ない。

 

故に側面から遠距離攻撃を撃ち込む作戦に変更し、右手に魔力を集中させる。

 

 

シオン「ジェットマグナム!?」

 

横っ飛びに跳躍しながらのストレートパンチから繰り出された青い魔弾は吸い込まれる様に標的へ直進して行く。

だが、ギルガメスは先程のように驚愕することはなく、口元を歪ませたまま右手を突き出して叫ぶ。

 

 

ギルガメス「((熾天覆う七つの円環|ロー・アイアス))!!」

 

次の瞬間ギルガメスの前方に光でできた七枚の花弁のような障壁が出現し、魔弾を遮った。

 

 

シオン「ったく、また珍妙なモンを引っ張り出して来やがって…」

 

ギルガメス「コイツは投擲された物、つまりは飛び道具を完全に遮断する防壁だ!!これでテメェの魔法は俺には通じねぇよ!どうだ?王の財宝による弾幕で近づく事は出来ず、遠距離攻撃もアイアスに阻まれる。テメェにもう打つ手なんざねぇんだよ。いい加減に諦めて死ね!テメェさえいなくなればみんなうまく行くんだ!オリヴィエだって俺のモノになるさ!!お前さえ死ねばなぁ!!ヒャハハハハァァ!!」

 

完全にシオンを完封した気でいるギルガメスは狂った様に笑い続ける。

だがそれは間違いだ。その程度で安心してはならなかった。

中途半端な対応で勝ちを確信した今が好機と言わんばかりにシオンは駆け抜けた。

再び浴びせられる王の財宝を防御する為に今まで伏せていたカードを切る。

 

 

シオン「“冥王の鎧”最大展開!!!」

 

すると、シオンの全身を半透明の巨大な青い甲冑が包み込んだ。

そこへ武器の大群が殺到するが、それらは全て甲冑に激突すると同時に粉々になっていく。

 

そして熾天覆う七つの円環の手前に到達した瞬間、甲冑の大部分が消失し、右腕の部分だけがより金属質で実体的な物に変貌する。

 

その蒼いガントレットに覆われた腕を大きく引き絞り、もう一度先程と同じ技を繰り出した。

 

 

シオン「ジェェットマグナァァァァァァム!!!!」

 

腹の底から叫ぶと同時に繰り出した右拳は、七つの花弁を一撃で粉砕し、そのままの勢いでギルガメスの腹部に突き刺さった。

 

 

ギルガメス「ぶがああぁあぁぁああ!!?!」

 

予想だにしない一撃をもろに浴びてギルガメスの身体がくの字に曲がる。

更に、力なく前に投げ出されたその腕を引き寄せて、背負い投げの形で地面に叩きつける。

とどめと言わんばかりにまた大きく引いた右腕を突き出して、叩きつけられた衝撃でバウンドした相手を吹き飛ばした。

 

今まで何度も喰らって喰らわせて来た三連撃。

そして聖王一族が持つ能力のもう一つの形である固有能力で強化した今の自分の全力。

殺すつもりで放ったそれは、ギルガメスの心臓を内側から破裂させる。

 

投擲された武器でなくとも大抵の物は防ぎ切れる熾天覆う七つの円環と全体的に高い防御力を持つ筈の聖王の鎧の二重防御を突き破ってこの威力ーーー

 

 

ギルガメス「この野郎…!舐めやがって……だがな……!!」

 

だというのにギルガメスは立ち上がった。

流石にこれにはシオンも驚愕の色を隠せない。確かに致命傷を与えた筈だったから。

 

本来ジェットマグナムは敵の内部に打ち込んだ魔力を破裂させた直後に外部からもう一度魔力を流し込むことで内外から対象を圧迫する技だ。

 

更にそれを連続で二発も叩き込まれて一命を取り留める。

生命力云々の問題じゃない。それにシオンは確かに“ギルガメスの心臓を叩き潰した感覚”を、拳を通して感じ取っていた。

 

それが何故立てる?これではまるで一度死んで生き返ったかのようではないか。

一人疑問に思っていると、ギルガメスが気になる一言を呟いた。

 

 

ギルガメス「クソ!6つもやられてやがる!一体どんなチートを貰ってやがったんだアイツは…!」

 

「6つもやられている」この言葉で確信した。コイツはいくつか命をストックしているのだと。

その時、いつだったかユートと話した内容が思い返された。

 

それは二次創作の転生特典によくある蘇生能力。その名も「十二の試練」

ヘラクレスが神の呪いかなんかで十一個の命を貰ったとかいう話をモチーフにした能力らしいが、たちの悪い事にこれはただの蘇生能力ではない。

 

ただでさえ肉体そのものを頑強にし、更に一度使った手に対して耐性がついて他の手を使わねば殺せなくなる。

まぁ一つの手段でオーバーキルすればその分だけ命をもっていけるそうだが、時間をかけてとんでもない量の魔力を消費すれば命を補充できる。

 

流石に命を一気に回復させるなんて事は出来ないだろうが、時間をかけるとコイツを殺す事は不可能になるのだ。

 

 

シオン「あのオッサンも色々サービスし過ぎだろ……」

 

とはいえ、勝手に能力を喋ってくれたのも、命のストックが半分になったのも此方としてはありがたい。

幸運な事にこっちにはまださっきの数倍以上の威力を叩き出す手札が残っている。

 

シオン「まぁその前に時間になるだろうがな……」

 

ギルガメス「何まだ余裕こいてんだよモブ野郎が。分かってんだぜ?澄ました顔して実は焦ってんだろ?切り札が通用しなくて。残念だったな!もうさっきのは効かねぇんだよ!!」

 

 

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何かにつけて馬鹿にするような口調で喚かれて流石にシオンも気が滅入って来ていた時、謁見の間の入り口から大勢の足音が響いて来た。

 

直後に大勢の兵士や将官が雪崩れ込む。

シオンは無表情のまま、そしてギルガメスはニタァと気味の悪い笑みを浮かべる。

 

 

ギルガメス「残念だったな裏切り者。これで完全にお前の負けだ。俺を相手にしながらこの数をどうにかするなんて流石に無理だろう?いい加減に諦めな!」

 

盛大にドヤ顔を決めるギルガメスだが、シオンが不敵に笑っているのを見て表情を崩す。

何故笑っていられる?この絶望的な状況で。

何か手が残っているのか?まだ使っていない特典能力が。

 

それ以前に、奴は元々何をしに来た?自分を殺す為?ならば何故今なんだ?

疑問は一気に膨れ上がり、それは不安となってギルガメスに襲い掛かった。

 

 

ギルガメス「おい!さっさとソイツを殺せ!囲んで袋叩きにするんだよ!!」

 

あの不気味な笑いをこれ以上見せるな。

そんな思いが籠められた命令だったが、誰一人として彼の言う通りに行動しようとはしない。

 

 

ギルガメス「テメェら!軍事総括の命令だぞ!早くしろ!!」

 

一同「………」

 

尚も告げるが返答は無い。

それどころか、何と兵士達が此方に武器を向け始めたではないか。

とうとうギルガメスの頭は混乱し出した。

 

 

ギルガメス「テメェら一体何の真似だ!!俺を誰だと「ああ、知っているとも。色情狂で変態で万年発情期で特級国家反逆者のギルガメス・バビロニアだろう?」なっ!?」

 

言葉を遮って現れたのは長身の女性だった。

金髪を長く伸ばした凛々しい雰囲気を醸し出し、とてもクールな印象を受ける。

 

聖王の守護者の一族の一画であるグラシア家の現党首であるフェリス・グラシアだった。

 

街道を歩けば道行く人々が振り返る様な美貌を持つ彼女は、感情すら感じさせない程に冷め切った目でギルガメスを睨みつけていた。

 

 

ギルガメス「お、おいフェリス。何言ってんだよ?特急国家反逆者?この俺が?それはこの裏切り者のシオンの罪状で「ああ、つい先程まではな。だがそれも冤罪だと判明した。同時にその罪をなすり付けた犯人の素性も割れた。」…どう言う事だ?」

 

またも言葉尻を攫われて、表面上は冷静を装っていたギルガメスの仮面が剥がれ落ち始める。

 

 

フェリス「陛下がお亡くなりになられた日、無礼を承知で御遺体を調べた者がいたのだ。その時に陛下の死因がアークライナスによるものではない事が判明した。」

 

ギルガメス「馬鹿馬鹿しい!お前も見た筈だろ!陛下に突き刺さってたアークライナスを?魂の具現化で作られたこの世で立った一つの剣だ。しかもシオンはそれをいつも携帯していた!この時点で犯人は分かり切ってるだろうが!!!」

 

フェリス「ならあの時陛下に突き立てられていたのが形だけ瓜二つの偽物だとしたら?」

 

ギルガメスは突然押し黙った。まるで何か心当たりがあるかのように。

 

 

フェリス「知っているか?アークライナスの第二の鞘にして刃である“光速剣ジ・インサー”は斬りつけた跡に特殊な残留物を残す事を。」

 

ギルガメス「は?」

 

何の事だか分からないという様子で間抜けた声を漏らすギルガメスを、フェリスは鼻で笑う。

「やはりそんなことも知らなかったのか」と。

 

 

フェリス「この意味が分からないということはお前はシオンの能力についても熟知していないと見て良さそうだな。」

 

ギルガメス「何だと?」

 

フェリス「レアスキル“魔力変換(光)”によって、こいつは自分の魔力を特殊な粒子に変換出来るんだよ。そしてジ・インサーはその物質を武器の構造上、常時放出している状態にある。だが陛下の御遺体からはその残留物は一切検出されなかった。剥き出しの刀身で御身を貫かれたにも関わらずだ。」

 

この時点で死因がシオンの剣によるものでないことは判明した。

アークライナスの情報は既に軍部に報告済み。これだけの情報が揃えば判断の行方に迷う必要など無い。

 

 

ギルガメス「じゃ、じゃぁ仮にアークライナスで刺されて死んだんじゃ無かったとして、それでどうしてソイツが無実で俺が犯人だった何て事になるんだよ!」

 

フェリス「確かに、それだけではまだ足りないな。“それだけでは”な……」

 

含みのある言い方には、まだ証拠が残っている事を案に告げていた。

 

 

フェリス「更に検査を進めれば、傷口から微量の魔力痕が発見された。本当に塵の様に小さなモノがな。それを長時間かけて解析した結果、それがとある人物の能力によって発生するモノの一部ことが判明した。ここまで言えば分かるな?」

 

そこら辺の一般兵などとは比べ物にならない戦闘能力を持った聖王を殺害し、見た目も性質もほぼ同じ偽物の剣を作り、尚且つそれをまるで他の奴が持ち去ったかのように消滅させて証拠を消す。

そんな真似が出来るのはこの場に於いて一人しかいない。

 

 

ギルガメス「ち、違う!違うんだ!俺じゃない!やったのはソイツだ!ソイツが犯人なんだ!なぁフェリス、俺がそんなことすると思うか?お前なら分かるだろう?俺はいつだって陛下を「権力を盾に邪魔をする障害として見ていたんだろう?」……っ!!?」

 

何度目かと言う、相手の言葉を遮る行為。

だがそれは、身も心も腐り果て、王家の名を貶めた畜生の言葉で耳を穢したくなかったからこその冷え切った態度であった。

 

そしてフェリスは知っていた。

ギルガメスが、いつもオリヴィエに付き纏う自分を娘から遠ざけようとする聖王を殺意の篭った目で見ていた事を。

自分の女と勝手に決め付けたオリヴィエに慕われるシオンを疎ましく思っていた事を。

 

こんな騒ぎを起こした動機としては、いっそ感激してしまう程に取るに足らない逆恨みである。

自分の思い通りにならない者達を排除したいだけでその行為の意味を理解せず、国を崩壊せしめた男に、その場にいた全員が氷点下まで冷え切った殺意の視線を浴びせていた。

 

その中には彼女のものも含まれていた。

 

 

オリヴィエ「バビロニア卿……」

 

ギルガメス「オ、オリヴィエ!お前なら分かってくれるよな!?これは何かの誤解なんだ!俺はハメられたんだ!!お前なら信じてくれるよな!?」

 

最早そこにはいつものスカした男の姿は無い。

今のギルガメスは誰の目から見ても、己の詰めの甘さ故に下らない策謀を見破られ、必死に言い逃れしようとする餓鬼でしかない。

 

 

オリヴィエ「欲望に目が眩み、あまつさえ我が父レオンハルトをその手にかけ、王家の使命を蔑ろにし、民を顧みずに暴虐の限りを尽くした結果、このベルカを崩壊の道に陥れた貴方の罪はその命をもってしても償えるものではありません。バビロニア卿…いえ、大逆人ギルガメス・バビロニア!貴方には我が国の知り得る中でも尤も苦痛で、残酷で、惨たらしい結末を与えます。抵抗などせず縛につきなさい!」

 

父を殺し、兄と慕った男を陥れ、愛する祖国を散々に乱した男に、オリヴィエは怒りの炎を燃え上がらせた。

この男に対する慈悲の気持ちは微塵も無い。この男をかわいそうだとはちっとも思わない。

 

この恨みは何をしようとも晴れることは無いだろう。

ただこのままこの憎き仇を野放しにしておく気は無かった。

 

一方でギルガメスは、自分の企てが悉く頓挫した事で絶望の渦中にいた。

もう彼の中に今まで胸中に秘めていた「自分は主人公だから何をしても許される、何もかも上手く行く」「最強の能力を貰った自分に敗北や失敗はあり得ない」などと言う自分勝手な自身は一切無かった。

 

遂に今まで被っていたペルソナが音を立てて崩れ去り、脆弱な心が曝け出される。

 

 

ギルガメス「くそぉぉぉ!!俺がオリ主だ!ここは俺の為の世界だ!なのになんでこうなるんだよぉぉぉ!!■■■■■■!!!!!」

 

遂には声にならない叫び声を上げながら発狂したギルガメスは四方に王の財宝を乱射し始めた。

咄嗟にシオンが冥王の鎧で防御するが、謁見の間の天井に風穴が空き、ギルガメスは空間の歪みから呼び出した船の様な飛行物体に乗って飛び去って行った。

 

 

 

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フェリス「奴を放っておくと何をしでかすか分からない。追うぞ!」

 

フェリスが将兵達を引き連れて、謁見の間から走り去って行く。

そしてその場にはオリヴィエとシオンだけが残された。

 

 

シオン「随分と様になってたじゃねえか。立派に王様らしくなっちまってよぉ。身内の成長ってのはあっという間だね〜。」

 

何やら沈んでしまった空気を和ませる気で恍けてみせたが、オリヴィエは俯き何かをつぶやいていた。

そして耐え切れなくなったように、シオンに走り寄り、またその広い胸板にしがみ付いた。

 

 

オリヴィエ「ごめんなさい…ごめんなさい……。私…兄様のこと…疑って……少しでも憎いって思って……兄様はやっぱり何にもしてなかったのに…私……」

 

大好きだった。信じていた兄をほんの少しでも憎んでしまった。彼は罪など犯していなかったのに。

謀略によって汚名を着せられどれ程苦しかっただろう?

人知れず他国からの侵攻を一人で抑え続ける日々を過ごしてどれだけ孤独だっただろう?

そう、リモネシアの侵攻を食い止めていた怪異の正体はシオンだった。

ユートやフェリスの様に自分を励ましてくれたような人物も一人もいなかったに関わらず、シオンは騎士の使命を全うし続けていたのだ。

 

その孤独のどれだけ苦痛な事か。少なくともオリヴィエには想像がつかなかった。

そんな思いをさせながら何もしてやれず、自分の事で精一杯だった己の弱さがあまりにも申し訳なくて、涙が止まらない。

 

 

しかし、そんなオリヴィエの額を、シオンは手刀で小突いた。

 

シオン「馬鹿だな。お前も。」

 

オリヴィエ「ふぇ……?」

 

目元に雫を溜めながら惚けているオリヴィエにシオンは優しく言い聞かせる。

 

 

シオン「自分がもっと上手くやれてればとか、まだまだ未熟だったからとか、それって罪になるのかよ?」

 

オリヴィエ「兄様……」

 

シオン「お前は悪い事なんかしちゃいねぇよ。どうしようもなかったのさ。“無名である事は罪ではない”。

お前のお父さんがそう言ったように、未熟である事も罪じゃねぇのさ。それでも自分の青さが許せないなら誰かに頼りながら強くなれ。そういうのを頼み辛いって言うんならまずは俺にでも頼ってみな。お前のちっこい背中を支えてやるくらいなら、いくらだってしてやるからさ。」

 

精一杯の愛情と慈しみが乗せられた言葉に、オリヴィエはまだ目元を潤ませながらもニッコリと笑って頷くのだった。

 

 

 

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あとがき

いや〜難産でした〜二、三話分くらいの話を強引に繋ぎ合わせた感じだから構成不安だな……

多分ベルカ編は次で最後になると思うんで、本編の方にも期待してて下さい。

それではまたあいましょ〜(^-^)/

 

 

 

 

 

説明
次でベルカ編終わりにします。
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コメント
nightさん。ご指摘ありがとうございます。次からはなおしてみます。(駿亮)
楽しく読ませていただいています.ただ,プロローグ部分だから仕方ないとは思いますが,駆け足になってしまっているのが残念かなぁと.掘り下げればそれだけで一つの長編にできそうですし.それと,それぞれキャラの書き分けが出来ていますし,台詞は台本形式にしなくてもいいように思います.台本形式を嫌う人も多いですしね.(night)
面白かったです,次も楽しみにしていますw(KC)
感想、批判、おねがいします!!(駿亮)
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