おやこ 番外編episode@ 「おたんじょうび、おめでとう」
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 2012/05/05 AM0:00

 

 奥の部屋で、ピピピッ、と目覚まし時計が鳴る音がした。

「……なんだ?」

 こんな時間に目覚ましをセットした覚えはない。もしかして銀時がいたずらでもしたのか?

 いくらゴールデンウィークとはいえ、マンションの住人の多くは寝静まる頃だ。いつまでも鳴らしておくわけにはいかない。

 きりの良い所までデータを打ち込み、パソコンデスクから離れて奥の部屋へ向かう。

 リビングを抜けて銀時が寝ている寝室へ近付いた時、不意に目覚まし時計の電子音が止まった。

(ん……?)

 閉じたままのドアを静かに開き、手探りで壁のスイッチをパチン、と押す。

「銀時……、うぉっ」

 明るくなった部屋から、急に飛び出してきた小さな身体。ぼふん、と下肢へ抱きつかれた衝撃で、思わず一歩後ずさってしまった。

 ぎゅうぎゅう抱きついてきたのは、寝ていたはずの子供・銀時。

「どうした、目覚ましで起きちまったか」

 腰よりいくらか低い位置にある銀髪の頭を、くしゃくしゃにかき回す。生まれつきの銀色のねこっ毛が、指へふわふわと絡みつくこの感触は、自分の髪質とは異なるもので。微かにシャンプーの香りの残る銀時の髪が、俺はとても気に入っていた。

「ちがう、じぶんでおきた」

「目覚ましは銀時がセットしたのか」

「うん」

 眠そうに目を瞬かせながら、くいっとスウェットのズボンを引っ張ってくる。

「あのね、あのね」

 もじもじしながら、背伸びをして顔を近づけてくる。その様子からすると、何か言いたいことがあるのだろう。

 ベッドの端へ腰掛け、銀時の両脇へと手を差し込む。そのままひょい、と抱き上げて、膝の上へ座らせた。

 子供の話をちゃんと聞く時は、目線の高さを合わせる。そうすることで、子供は安心して話が出来るようになる。これは今の仕事で身についた知識と習慣だ。

「へへっ」

 同じ位置に並んだ顔を正面から見つめると、嬉しそうに笑った。出会うまではこんな風に対等に扱われることがなかったせいか、こういう状態で向き合うと、普通の子供以上に銀時は喜ぶ。

「ん、なんだ?」

「パパにね、おはなししたかったの」

 はにかんだ笑顔を浮かべながら、耳貸して。と言い、そっと耳元へ顔を寄せてくる銀時。

 言われるがままに片耳を寄せると、小さな手を耳へ添えて、そっと打ち明けてきた。

 

 

「パパ、おたんじょうびおめでとう」

 

――だいすき。

 

 

 その言葉を聞いた瞬間、胸の奥がぐっと締め付けられるような痛みに襲われた。

「…………っ、」

 眉根が寄る。鼻の奥がつんとする。身体の真ん中の、手の届かない部分が痛い。

 嬉しい言葉を言われたはずなのに、喜ぶべき場面なのに、心がズキズキと痛んで止まらない。それはきっと、銀時の過去を知っているからで。

 ともすれば歪んでしまいそうな視界の中、銀時は返事のない俺を見て、不思議そうに小首を傾げていた。

(子供は、強ぇんだな)

 目の前にある小さな銀時の身体を、力いっぱい抱きしめてやる。

 

 ふふっ、と笑い、頬へ柔らかい髪を擦り寄せてくる、愛らしい小さな子供。

 血の繋がりはなく、本当の親の顔も知らない、他人だったはずの子供。

 その子供が、こうして俺を父親と呼び、誕生日を祝ってくれる。

 生まれたことの奇跡や感謝を知る前に、絶望を知ってしまった子供が、祝福をしてくれる。

 それが苦しくて、切なくて、……嬉しくて。

「おめでとうっていうとね、みんなうれしくなるんだって。うれしくなったら、ありがとう、っていってくれるんだって。先生がおしえてくれたんだ」

 辿々しい言葉で、種明かしをしてくれる銀時。

「パパもうれしくなった?」

 ほんの少し不安げに、そっとしがみついて問いかけてくるから。腕の中に在る確かな存在を、もういちど力いっぱいに強く抱きしめた。

「あぁ、すげぇ嬉しい。ありがとな」

 すれば、この喜びは確かに伝わったようで。

「えへへ。うん、オレもうれしい」

 白い歯を見せてニッと笑ってくれた。

 その顔は、きっと自分よりも純粋な嬉しさを感じ取った証拠だろう。

 

 

 そのまま小さい身体を抱き上げ、ベッドの中へ潜り込む。羽毛の掛布団をするりとかけて、サイドボードへ手を伸ばし、シーリングライトのスイッチを切った。

 その一連の動作を布団の中から見ていた銀時が、もぞもぞと寄り添ってきて。

「いっしょにねてくれるの?」

 暗くなった部屋の中に、小さなあくびをふわりと漂わせる。

「あぁ、寝るよ。銀時と一緒だ」

「へへっ。ありがと、パパ」

 ぎゅっ、と抱きついてくる、わたぼうしのような丸い頭。くるくる、ふんわり、気ままに跳ねる髪を撫で、胸元へ抱き寄せた。

 ふかふかの羊に包まれる幸せは、俺一人が知っていれば良い。

「……愛してる」

 頬をくすぐる銀色の髪へ顔を埋め、小声で静かに呟く。掛け値なしの、誰にも言ったことのない本音。

「あいしてるってなぁに?」

 布団の中から、銀時が上目遣いに訪ねてくる。

「んー、言葉で説明すんのは、ちっと難しいかもな。でも、好きってことだ」

「オレにもわかる日がくるかなぁ?」

「あぁ、大きくなったら解る日が来る」

 だから、安心して眠れ。

 髪へちゅっ、と口付けを落とし、二人で瞼を閉じる。

 5月5日。

 今までで一番幸せな誕生日をありがとう、銀時。

 

 

――『愛してる』なんて、誰にも言うなよ。

(そう言ったらきみはきっと、怒るかな)

 

 

 

 

 

2012/05/05

 

一色 唯へのお題:ふかふかのひつじにつつまれる/(そう言ったらきみはきっと、怒るかな)/ぼくにも解る日がくるかな

 

説明
【Updata:2012/05/05、Remove:2012/09/18】

養子親子設定のお話で、土方誕生日に合わせた番外編@。
二次創作だけど、半分フィクション、半分ノンフィクション。
(pixivで公開していたものを移転)


[設定]

ショタコンではなく、養子家族の親子の絆をテーマにした純粋な家族愛のお話です。
主要キャラは土方と銀時(仔銀)。

土方十四郎:臨床心理士として働く、未婚の養親。男手一つで銀時を子育て中。
銀時:物心付く前に親から捨てられ、十四郎に養子として迎えられた子供。保育園児。


☆140字SSまとめ(Ep.1〜24)
Last: Aug 19,2012.
http://www.tinami.com/view/485555

★番外編episodeA 「こどもの日」
Wrote on May 7,2012.
http://www.tinami.com/view/485560
★番外編episodeB 「短冊に願いを」
Wrote on july 9,2012.
http://www.tinami.com/view/485561
★番外編episodeC:「おやすみ。」
Wrote on Aug 20,2012.
http://www.tinami.com/view/485562
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坂田銀時 土方十四郎 銀魂 家族 親子 仔銀 

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