真説・恋姫†演技 異史・北朝伝 第十一話「三姉妹来訪」 |
それは相当の衝撃をもって各地へと通達された。
安定という地方の小さな軍閥に過ぎなかった董卓の突然の相国就任、それだけでも異例中の異例である上に、『天の御遣い』を自称する、身元さえも不明な人物である一刀が何進亡き後の大将軍に任じられたという、漢の十三代皇帝劉弁の勅令。
これに対する各地の諸侯の反応は、大きく二つに分かれた。すなわち、皇帝である劉弁の大英断に対し、あからさまに反発する者とそうでない者とに、である。
反発自体は、劉弁にとっても元より計算の内の範疇である。自身の考えを理解し、受け入れてくれる者など、ほんの一握りしか居ないであろう事は、彼も重々承知の上でこれを行ったのであるから。
「……で。白亜の次なる手は、各地の諸侯を((洛陽|ここ))に集結させて、その彼ら彼女らと直接、直に腹を割って話し合うつもりだ、と?」
「うむ。ただ勅をもって問答無用で事を進めては、これまでとなんら変わることはないからな。朕の独りよがりな考えだけではなく、皆が一同に集い、そうして皆で熟考した上で、古き慣習から取捨選択をし、新しき慣習を作ること。それが、まずは何よりすべきことだと、朕はそう考えたのじゃが」
「へう。みんなで話し合って、ですか。それはとても素晴らしいことだと思います」
「と、相国は既に賛成してくれておる。……一刀よ、おぬしはどうだ?」
「……」
確かに、劉弁の考え自体はとても良い事だと、一刀はそう思う。話し合いだけでことがすべて済み、世が安定するのならばそれ以上の理想的なことはない。
しかし。
「……正直、危ういって言うのが、俺の率直な感想かな。話し合いで収まるのはもちろん理想だよ?けど、その前に大事な大前提があれば、だけどね」
「大前提……ですか?」
「……詔勅に、諸侯が素直に応えるかどうか、さ」
つまり、話し合いの場を如何に丁寧に設けようとも、相手がそのテーブルに着かなければ、すべては絵に描いた餅に過ぎない。それが、一刀のするただ一点の危惧であった。
「大将軍殿は、諸侯が勅に応える、その可能性が低いと、そうお思いで?」
「大長秋殿の仰るとおりです。……はっきり言って、漢朝の威光そのものが、今はかなりその威を失いつつあります。亡き先帝、霊帝陛下の御世、いえ、それよりもさらに前の桓帝陛下の御世よりすでに、その兆候は現れ始めていました。それに加え」
「……先の乱では、相当数の民たちが黄巾を是とし、漢朝を打ち倒して新たな王朝を創ろうとした張兄弟を支持した。……その事実は否めません、か」
「ええ、相国閣下」
諸侯の方はともかくとしても、大陸に生きる者の大多数を占め、その根底を為しているのは民である。その民の多くが、漢に対する見切りをすでにつけ始めていたこと、それをまざまざと見せ付けられることになったのが、あの黄巾の乱であった。
そして諸侯というのは結局、民なくして生きることなど出来ない存在である。そんな諸侯が、民の支持を得て己の存在を強くアピールするそのために、倒れ掛かった王朝を捨てることを選ぶのは、けして想像に難くないことである。
なお、先ほど一刀がその口にした『大長秋』というのは張譲のことであり、宦官達の長にのみ与えれらる官位の事である。
「……ではもし、このまま諸侯に都への出仕を命じた場合、一刀、お主は諸侯がどう出るとおもう?」
「……詔勅そのものには唯々諾々と従うだろうね。けど、都に入った次の瞬間には」
「世を混乱させるしか出来ない勅を出す暗愚な皇帝を“退位”させ、“真っ当な”政の出来る((皇帝|傀儡))を担ぎだす、か」
「……たぶん、ね」
過去に例のないこと。まったく新しいこと。そう言った事を、他人や世の中に先駆けて行う者というのは、いつの時代でも万人にはすぐに受け入れられず、大体が不当に愚者扱いされるというのが、悲しいことに世の習いである。日本で言えば、かの織田信長が、まさにその代表的な例であろう。彼もまた、あまりに革新的過ぎるその思考と理想によって、最終的には世の中によって排除されてしまった、そう言っても過言ではないのだから。
「……ならば、尚のこと諸侯をこの地に集めようではないか」
「……白亜?」
「陛下……よろしいのですか?」
「一刀よ、前におぬしが言うたことであろう?人を信じ、けして一人よがりになってはならない。それが、人の世の頂点に立つ者の心構えだと。……ならまず、朕の方から諸侯を、いや、人々を信じてみようではないか。……それで裏切られるのであれば、朕など所詮その程度の器だった、それだけのことよ」
「へう……素晴らしいです、陛下」
「……分かった。けど、念には念を入れておくに越したことはないから、俺の方で禁軍をいつでも動かせるようにはしておきたい。いいかい?白亜」
「うむ。では相国、そち達も一刀に協力してやってくれ。清那、諸侯へ送る詔勅、すぐにしたためるゆえ、支度を」
『御意に』
そうして、紆余曲折の末、劉弁の最初の判断どおり、洛陽へと各地の諸侯に集結するよう、その勅書がそれから二日後には発せられた。そしてその勅によって、確かに諸侯は一つ所に集結することになる。
劉弁からの詔勅が届くことになる、その少し前。所は、一刀たちの以前の拠点であり、現在は冀州の牧となった袁紹が拠点を移した、?の地。その政庁の謁見の間にて、奇声というか怒鳴り声を大音声で上げている人物がいた。
玉座に座り、その手に書簡を握った、この地の主である袁紹、その人である。
「何がどうしてですの!?私の一体何が悪いというのですか、この人たちは!」
「れ、麗羽さま、少し落ち着いてください」
「こおれが、落ち着いてなどいられますか!この、商工ご、ごじょかい……ですの?この人たちは、一体何が不服だというのですか!私の出した法令のど・こ・が!納得いかないというんですの!?」
怒りに任せ、袁紹は手に持っていた竹簡を無造作にその場に放り捨て、怒りのまなざしでもってそれを見つめながら、その息を荒くして怒声を撒き散らす。そんな袁紹の前に進み出て、今しがた彼女が床に叩きつけた書簡を拾い上げ、その内容を見ながら少々大げさに肩をすくめる、一人の人物がいた。
「……ふむ。これは確かに、それがしも納得いきませんな。何ゆえこの互助会とか申す者たちは、本初さまのご指示を不服とするのでしょうなあ。まったく、嘆かわしいことこの上ございませんな」
「そうでしょう、そうでしょう?!商人の寄り集まりだか何か知りませんが、私が皆さんのことを思って、前の得体の知れない太守なんかが出した法令より、も〜っと!優れた、それでいて優雅で華麗な政策だといいますのに、そ・れ・を!こんなことをしたら前より悪くなるだなんて、到底信じられないことですわ!」
袁紹が一刀から引き継いでこの?の街を治めることになるにあたり、彼女はまず、街を見たその直後の感想をこう述べた。
『地味でまったく優雅さに欠けますわ』と。
利便性と効率、そして民の安全を最優先して創り上げられた、一刀達による?の街の整備。
それは、袁紹の政治的感覚、というより、美的感覚から遠くかけ離れたものだった。人々がまず優先的に利用するであろう施設を、一番目立つ大通り沿いに、業種ごとに区分して配置してあるのが、この?という街の基本的な造りなのであるが、それがどうやら袁紹にはお気に召さなかったようで。
一番人の目に付く大きな通りに、彼女からすれば下世話にしか過ぎない歓楽施設(この場合は酒家や湯屋など)や、鍛冶屋などの職人店、生鮮食料店などけしてあってはならない。街の美的観点からは裏通りなどの人目につかない場所にこそ、そういう類の店はあってしかるべきだと。
それゆえに、袁紹はすぐさま、街中のそういう店舗に対して通達を出した。今すぐ、店を裏通りの奥まった場所に移すように、と。特に、辻ごとに設けられた交番などは、もっとも彼女の癇に障ったらしく、兵士がそこかしこにいる風景など美しくない、と、すぐ、問答無用で撤廃させたほどだった。
この袁紹の施政方針に対し、すぐさま反発してすべての令の撤廃を求めたのが、?の街の商工業者たちの寄り合い組、つまり『商工互助会』である。
「我々は先の太守さまの造られたこの街の今の姿の方が、我々にとっても、外から来る者達にとっても有意義で利便性に富んだ姿だと確信しております。それを変えるというのは、新太守さまにとってもけして得にはならない事です。どうか、先の触れをすべて撤回し、そして、街の治安の為にも、交番制度の復活をして頂きたい」
以上の意見書を、互助会所属のすべての店舗の主の連名の下、袁紹に対して出したのが、先ほどその彼女が激昂しつつ床に叩き付けた書簡だったのである。
「ではいっそ、力ずくで移動させてはいかがで?」
「ちょ、なんて事を言い出すんですか、田豊さん!」
「そうだそうだ!そんなことしたら街の連中、もっと怒り出しちまうんじゃ」
「文醜将軍のいうことも分かりますが、なに、所詮それは一時だけのこと。結果的に街が美しくなり、それによってさらに繁栄する様を見れば、街の者たちも袁紹様を褒め称えましょう。袁紹様こそ民のことをよく考える真の為政者、美しく、優雅にして華麗なるその差配、まさしく名門袁家の御当主様であらせられます、と」
「おーっほっほっほっほ!さすがは我が配下一の頭脳の持ち主、田豊さんですわ!斗詩さん、猪々子さん!すぐさま兵を連れ、私のこの街を美しく優雅な街に変えておいでなさい!」
田豊の持ち上げですっかり上機嫌になった袁紹は、部下である顔良と文醜に対し、問答無用で店舗の移転をさせてくるよう命じた。顔良と文醜はその命令に戸惑いつつも、こうなった主君は何を言っても聞き入れないことを、長年の付き合いで熟知しているため、渋々ながらもその場を退出していった。
そんな袁家の二枚看板と言われるこの二人に、もしこの時、もうほんの少しだけでも、主君を諌めるだけの知識と知恵、そしてしつこさのようなものがあったのなら、後々、彼女らが大いに後悔する事はなかったであろう。
そしてさらにいえば、高笑いする袁紹のその傍で、さらに太鼓持ちよろしくご機嫌取り発言をしている、この肉の塊が衣を着ているような、そんな姿をした、ここ半年の間に台頭してきた自称軍師田豊を、わずかでも、過去、二人が見知っていたのなら、主君と自分たちの悲劇を回避することが、可能だったかもしれない。
そして、それからしばらくして袁紹の下に届いた劉弁からの詔勅に関しても、田豊さえその場にいなかったのなら、袁紹があのような軽挙な行動に出ることも、もしかしたら、無かったのかも知れなかったのであった。
所代わり、こちらは再び洛陽。董卓が相国に、そして一刀が大将軍に任じられてから、まだわずかに三月ほどしか経ってはいないのだが、すでに、いくらかの変化の兆しをこの街は見せ始めていた。
相国となった董卓はまず、皇帝である劉弁の許しを得て朝廷内の人事にその鉈を振るった。悪徳官吏は言うに及ばず、たとえ誠実な人柄の人物であっても、位に見合った働きを行っていない者は容赦なく降格。そしてそれとは逆に、能があっても性格や出自のために重職に就けないでいた者たちを大抜擢し、朝廷内の要職に就かせてその能を思い切り振るわせて、政の大改革を推し進めたのである。もちろん、反発は相当に大きかったが、董卓配下の張遼、華雄、呂布という豪傑たちの睨みと、皇帝の勅という伝家の宝刀を要所要所で巧みに使うことにより、表面的にはほぼスムーズに、内部改革は進んでいるといって良いだろう。
一方で、大将軍となった一刀の方であるが、こちらはこちらで、街と周辺地域の徹底的な治安回復にいそしんだ。街中であれば、たとえわずかの銭をせしめたりした程度のものであったとしても、一切の容赦もかけずに刑に処すことで、罪に対する人々の意識改革を断行。?の地でも行っていた交番制度や割れ窓理論の導入の効果もあいまって、洛陽の街の治安は短期間でかなりの回復を見せていた。また街の外においても、彼直属の禁軍を率いる徐晃達によって、黄巾の残党を初めとした賊徒たちを飴と鞭、つまり、一方を見せしめに殲滅し、その一方で降る意思のある者は取り込むといったそんな手法で、都から長安にかけての地域の治安を回復させていった。
董卓にしても一刀にしても、少々強引な手法を使っている、その自覚は両者ともにもちろんある。そしてあまりに急激な変化は、それと同じぐらいの不平不満を生み出すであろう事も。しかし、改革には大きな痛みが伴うのは、時代と場所がいくら変われども伴うのは必然であり、憂うべき、そして考えるべきは恐れや躊躇ではなく、勇気をもって前進すること。そう己に言い聞かせて、非情と温情をバランス良く使い分け、皆、それぞれに日々を送っているのだった。
「……ようやく着きましたね、桃香さま」
「だね。それにしても、聞いていた以上の賑わいぶりだね、愛紗ちゃん」
「あっちこっちから元気な声が聞こえてくるのだー!鈴々、なんだかとってもわくわくしてきたのだ!」
一刀たちがこの洛陽に赴任して以降、三本ある街の大通りはそのすべてにおいて、荷車や馬車などが通る空間と人が歩く空間とが、通行のスムーズさと安全性を考慮されてはっきり区分されるようになった。その、三本ある内の東側の通り、門の近くの道を雑多な人々に混じって歩く三人の少女達がいた。
一人は、三人の中央に立つ、桃色の髪の少女。腰にしっかりとした、それでいて厳かさを感じさせるこしらえをした鞘を差し、とても穏やかな顔立ちをしている。
今一人は、その桃色の髪の少女の右側に立ち、偃月刀という分類に区分されるソレを持った、鮮やかな黒髪をしたりりしい顔立ちの少女。
さらに今一人は、先の二人を急かすようにして元気に声を上げる、赤い髪の少女。その背には、とてもその体格には似つかわしくない、彼女の背丈の倍はあろうかという矛を背負いながらも、それをまったく気にする様子すらなく、道々に開かれた屋台を目を輝かせて見つめていた。
「少し落ちつけ鈴々。初めて都に来て浮かれるのは分かるが、はぐれて迷子になったら義姉上にご迷惑をかけるぞ?」
「ふーんだ!鈴々はちっちゃな子供とは違うのだ!迷子になんかならないのだ!」
「鈴々ちゃーん!ちゃんと前見て歩いてねー?人にぶつからないようにだけは、十分気をつけて!」
「分かってるのだー、早々人にぶつかるなんて鈴々は、にゃっ!?」
「おっと!」
そういうが早く。二人の少女の方を見ながら歩いていたその少女は、反対側から来た誰かとぶつかってしまい、そのまま後ろ向きに倒れそうになる。だが、彼女がぶつかったその人物がとっさに少女のその華奢な腕を掴んだ事で、少女は道の石畳に寸手のところで倒れこまずに済んだのだった。
「ご、ごめんなさいなのだ。鈴々、ちゃんと前を見てなくて、お兄ちゃんに」
「ああ、別に気にすることは無いよ。子供は元気なのが一番さ。な?」
「鈴々ちゃん!あの、すいません!どこか服とか汚したりとか、してませんか?」
「ああ、大丈夫だよ。見たとこ旅人さん……かな?またずいぶん、すごい武器を持ってるけど、ここには?」
「あ、はい。ちょっと、色々事情があって今は三人だけなんですけど、ここに居る筈の知り合いに会いに来たんです」
桃色の髪の少女が、赤い髪の少女の前にかがんで微笑んでいるその青年に、連れの失礼を詫びながらそう語って聞かせる。そこに、もう一人の黒髪の少女も近づいて来るのを見た青年、昼の休憩中にたまたま街に出ていた一刀は、すっと立ち上がり、改めてその三人のことをそれと気づかれぬように観察をする。
(……へえ。三人とも、それなりの腕をしてそうっぽいな。まあ、桃色の髪の子はまだまだって感じだけど、他の二人は蒔さんや霞、華雄将軍にも匹敵しそうだな……関羽とか張飛とかだったらビックリなんだけど、ハハ、まさかね)
立ち振る舞い、身に纏うその雰囲気から、一刀は三人のことをそう分析する。そしてそれと同時に、これほどの力量をもっている人物となれば、その候補はかなり限られてくるはずとも。とはいえ、いくらなんでも、かの有名な桃園の三兄弟、いや、ここでは姉妹の可能性も十分に高いが、そんな三人がまさかこの時期に、都に来るはずも無いと、一刀はそう思っていたのだが。
「失礼ですが、貴殿はこちらの将官か何かを?立ち振る舞いからして、それなりの武は嗜んでおられるよう見受けましたが」
「うん、まあ、そんな感じかな?」
「では、こちらで大将軍閣下の配下、徐元直という御仁をご存知では無いでしょうか?」
「へ?か……元直……さんを、お知りで?」
「あ、はい。私は以前、今は引退された慮植将軍の、その私塾に通っていたんですが、その時知り合った友人なんです。あ、そういえばまだ名前も名乗ってませんでしたね。私は、姓を劉、名を備、字を玄徳と申します」
「……え?」
今何か。とんでもない名前が彼女の口から出なかったか?と。一瞬、予想こそすれありえないと頭の隅に追いやったその名前に、一刀の思考がピタリと止まる。そんな彼にさらに追い討ちをかけるかのように、残る二人も、そのそれぞれの姓名を一刀に対して告げた。
「私は性を関、名を羽、字を雲長。こちらの劉玄徳さまとは、義姉妹の契りを交わしております」
「鈴々は性を張、名を飛、字を翼徳っていうのだ!愛紗と同じ、桃香おねえちゃんの((義妹|いもうと))なのだ!」
「……うっそお……」
その後。放心状態からかろうじて立ち直った一刀は、劉備たち三人に対して、城の外廷部にある禁軍兵の詰め所へ向かうよう伝え、身分証明のための割符を手渡して後、自分は別に用事があるからと彼女らと別れた。
その一刀から詰め所に向かうよう言われた三人は、言われたとおりにその足で詰め所へと向かい、そこに居た兵士の一人に割符を見せ、自分達の来訪目的を告げた。すると、驚くほどにあっさりと、その兵士は彼女らを信用してその場に待機させ、他の者に彼女らの事を城に居る徐庶に伝えるべく走らせた。
「……そういえば桃香さま。先ほどの御仁、名を聞きそびれてしまいましたね」
「あ、ほんとだ。……困ったなあ〜、後でお礼を言いたかったのに」
「でも、さっきのお兄ちゃんもここの武官さんなら、また近いうちにでも会えると思うのだ。だからそんなに気にする事は無いと、鈴々は思うのだ」
「……そうだね」
三人がそんなことを話していると、とんとん、と。外から詰め所の戸を軽く叩く音が聞こえた。
「入りますよ〜?……わっ!ほんとに桃香じゃない!久しぶり〜!」
「あはっ!輝里ちゃんだ!元気にしてた〜!?」
ツインテールの黒髪を揺らして中に入ってきたのは、もちろん言うまでも無く徐庶であった。そして劉備と二人がその顔を合わせたその途端、二人は互いの手を取り合い、文字通り小躍りしての再会を喜び合った。
「うん!もう、すっごく元気!……でも、いつ以来かな?こうして顔をあわせるのって」
「んー。私が慮植先生の所を出てからだから……五年ぐらいかな」
「そっかー、もうそんなに経つんだねえ……あ、そっちの二人が、桃香の?」
「うん。私と義姉妹の契り結んでくれた、愛紗ちゃんに鈴々ちゃん」
「始めまして、徐元直殿。関羽、字を雲長にございます」
「元直のお姉ちゃん、始めましてなのだ!張飛、字を翼徳なのだ!」
「うん、始めまして、二人とも。徐庶、字を元直だよ。よろしくね」
初対面となるその二人との挨拶を笑顔ですると、徐庶は再び劉備へとその視線を転じ、改めて、今回の来訪目的を問いかけた。
「で?三人ともここにはどうして?桃香は確か黄巾の乱の功をもって、平原に県令として赴任したんじゃ?」
「あー、うん。確かに平原には赴任したんだけどね。ただ、その」
「我らが平原に赴任して暫く後、巡検にやって来た役人が居たのですが、それが」
「アイツ、鈴々たちにお金を沢山渡せって言って来たのだ!でないと、都にいい報告をしないって、そう言ったのだ!」
「……まさか、とは思うけど、桃香……その役人、張り倒したりなんか」
「あ、アハハ……その、まさかだったりしたりしちゃんだよね、これが」
詰まるところ、劉備たちはその役人の恐喝を突っぱね、それが基で激怒した役人が、あること無い事を中央に報告しようとしたのを、気の短い張飛や信義に篤い関羽が成敗してしまった上に、さらには劉備自身さえもがその役人に平手打ちをして一喝し、そのままその人物を追い払ってしまった、そういう経緯だったそうである。
「……で、そんなことしちゃった以上、平原の県令を私が勤め続けていたら、そこに住む人たちにも迷惑をかける事になっちゃうかも知れないでしょ?」
「そこで、我々は桃香様の提案のまま、我々に着いて来る意思のある者達だけを集め、義勇軍を作り、そのままあちこち移動して居りました」
「なるほどねえ。……あ、でも義勇軍にしては、今は三人しか居ないみたいだけど……?」
「それが……」
途端。劉備の顔に翳が差し、先ほどまでの明るかった表情は一変、沈痛な面持ちのそれとなった。
「……義勇軍を率い、各地を転々としながら賊の討伐などを行って居た我々だったのですが、その」
「冀州を出て黄河を渡って、豫州に入ったまでは良かったんだけど、許昌の近くまで行った所でその」
「……ご飯が無くなっちゃったのだ」
「……あー……そゆこと」
数百人程度の義勇軍とはいえ、それだけの人数を維持するにはやはり、それなりの物資というものが必要になるわけで。討伐した賊の食料などでしばらくは繋いでいた彼女ら義勇軍だったが、それも限界に達するのにはさほど時間のかかることは無く。義勇兵達は一人一人と夜毎にその数を減らして行き、結局そのまま、最後に残ったすずめの涙ほどの物資を皆に分配し、幽州義勇軍は解散の憂き目にあったと。そういう経緯だったそうである。
「で。私を頼ってきたって事は」
「うん。今度大将軍になった人の所に、輝里ちゃん、徐元直って名前の人が居るって話を、旅の商人さんから聞いてね?藁をもすがる思いで頼ってみようって思ったの。……働き口、無いかな?」
「……そうねえ。まあ、桃香のことは私も良く知ってるし、貴女なら一隊の将も勤まるとは思うけど。……そっちの二人はどうなのかな?」
「我々ではお役に立て無いかも、と?」
「初めて会った人間の力量なんて、誰にも分からないでしょう?いくら一刀さんの推薦があるとしても」
「……それって、ひょっとして、さっき街で会った人のこと?」
「……名前、名乗ってないの?あの人」
『うん(はい)(なのだ)』
はあ〜、と。大きくため息を一つ、思わず吐いてしまう徐庶。おそらく、彼はわざと、自分の名を名乗らなかったのだろうことが、十分すぎるほどに予測できたからである。
「……いたずらが好きなんだからもう……。まあいいわ。そういうことなら、関羽さんと張飛さん」
「あ、はい」
「にゃ?」
「……お二人には、ちょっとした試験を受けていただきましょう。あ、試験といっても、筆記ではありませんし、至極簡単なことですから」
「……我々の、武を検分される、と?」
「そういうことです。じゃ、私に着いて来てください」
そうして、徐庶は劉備たちを連れ立って、城内にある練武場へと移動する。そしてそこに居たのは。
「あ、さっきのお兄ちゃんなのだ!」
フランチェスカの制服の上に、銀の胸当てだけを身に着けた一刀が、一人、愛用の朱雀と玄武を腰に差して、彼女らを涼しげな顔で出迎えたのであった……。
〜続く〜
説明 | ||
ども。 似非駄作家の狭乃狼です。 今回更新はもう一つの北朝伝、その続編にございます。 主に自分のせいですが、連載物が増えすぎて、何を書くか毎日悩んでますw で、結局今回はこれを更新です。 それでは本編をどうぞw |
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久しぶりに北朝伝読んだら細部が結構違ってた! 楽しく読ませていただきます。(kuorumu) しかし、タグからすると肥満文官の正体は韓馥ですかね?(飛鷲) 袁紹配下の肥満文官は田豊よりも必敗軍師として有名な郭図の名の方が似合う気が…。(飛鷲) 楽しく読ませていただきました。一気に読んだおかげで若干寝不足の感が・・・。続き楽しみにしています。(パピコ) 真・北朝伝〜全話見てきました!どの作品も見応え抜群です。私は監視専門ですが、これからも頑張って下さい。(ロキ) 駄名家の迷惑が、時代が動き始める切欠のような気が・・・(匣) ハーデスさん<・・・海より深く反省orz ・・・そして後悔もしております。・・・短い予定のモノだけ、先に集中して終らせようか・・・な?(狭乃 狼) では、一言だけ…ちょっと短期間に連載するss多すぎないっすか?私的に前の話忘れて読み返すのが大変です(泣)。(ハーデス) レオンハートさん<どうぞお楽しみにwww・・・続きはまた大分間が空くと思われますがね(えw(狭乃 狼) 続きが楽しみだー♪(レオンハート) たこむきちさん<駄目駄目ですねwww(狭乃 狼) 駄名家・・・か。ふむ、駄目駄目ね!(たこきむち@ちぇりおの伝道師) きたさんさん<違和感が無い、そう言ってもらえて何よりですwココまではまだ小さな変化。大きな変化の時は果たしていつか・・・?w(狭乃 狼) 以前の北朝伝から徐々にはずれてきてますね。でも違和感がありませんし、早く続きを見たいです。(きたさん) 雪猫さん、M.N.Fさん、summonさん<今回はまあ構いませんが、以後、そういうお話はショトメ等、個々でしてくださいね?w ・・・まあ、あの作品はおいらも好きなんで、その意見には同意しておきますがwww(狭乃 狼) 雪猫さん<ここで返事をしていいのか不安ですが、その作品なら読みました。ちび恋もでてきて、非常にいい話でしたね。(summon) その話は知ってますよ。無印愛紗EDから始まるストーリーでしたよね。麗羽が以下省略w(M.N.F.) summonさん<満足するかは別としてflowenさんという方が出している『恋姫?無双 真・北郷√』という作品の麗羽はまともですよ(雪猫) summonさん<どっかにあるかもしれませんね、そういう外史もwww(狭乃 狼) むしろ、いつか平常運転しない、まさに名家!な袁家を見てみたくなってきましたね。(summon) 雪猫さん<自分のすることが正しい、そう思っているうちは、彼女はなんともならんでしょうな。・・・そこに気付く日がやってくれば良いんですが(苦笑(狭乃 狼) さすが駄名族俺達でもやらないことをやってのけるそこにいらつく、腹が立つ!(雪猫) mokitiさん<良き仲間となるか否か。それは・・・も少し先でw そして駄名族は・・駄目ですね。ハイ、次ぎ逝って見よ~(おw(狭乃 狼) h995さん<銀英伝はまたナツいですなwセリフまでは覚えてませんが、確かにその通りかもですねww(狭乃 狼) 一丸<舌打ちし取るしwww 桃香たちの動向はまた次回、お伝えできる予定ですw(狭乃 狼) 氷屋さん<えと、その、あー・・・ノーコメントです。(狭乃 狼) ★REN★さん<変わりありませんw(狭乃 狼) しっけいさん<平常営業ですwww(狭乃 狼) 叡渡さん<駄名家さんの序盤テンプレですw 旧版の時と同じか、それとも・・・三姉妹というより、桃香の反応は、さてさて?ww(狭乃 狼) 不知火 観珪さん<美羽がマシかどうかは・・・もちょっとだけ内緒ですww 三姉妹はさて、どうなりますかね?w(狭乃 狼) アルヤさん<さあ実際はどうでしょうね?www(狭乃 狼) revolution1115さん<麗羽が大丈夫かどうかはさておき(え)、セリフについては仕様ですwww(狭乃 狼) 乱さん<お楽しみにw(狭乃 狼) ……銀英伝のヤン・ウェンリーの言葉が思い出されるなぁ。「テロでは時代の流れを変えることはできない。しかし、遅らせることはできる」確かこんな内容だったはず……(h995) チッ、この駄名族が・・・・・さてはて、このまま劉備たちは一刀側についてくれるのかなあ〜?だと、うれしいなあ〜〜〜・・・・まあ、前作のを見るとどうなることやらww・・・続き&他作品の続きも楽しみに待ってます。(一丸) まさか詔勅きたらいいように言いくるめられて連合組んで攻めるとかしないだろうな(^^; 3姉妹は今の時点で一刀の所にいるのは面白いですね、ちょっと楽しみです(氷屋) 駄名家は本当にいつもどおりのようで・・・(リンドウ) 駄名家は通常運転ですか…(紫蒼の慧悟[しっけい]) ここで三姉妹の登場ですか、良き仲間になるといいですが。しかし駄名族は…ダメだこりゃ。(mokiti1976-2010) わおww 駄名家丸出しww 美羽ちゃんはマシであって欲しい…… そして、桃園の三姉妹は禁軍入りかな?(神余 雛) なんかどんどん連合組まれても問題ないんじゃないかって状態になってきたなぁ・・・(アルヤ) 一刀いたずら大好きだなおいwなんにせよ麗羽大丈夫か?あと麗羽のセリフの「こおれが落ち着いて〜」は仕様です?(RevolutionT1115) 続き、楽しみです。(乱) |
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