咲-saki-月宮編 第20局 圧倒 |
---月宮女子控え室
『ぶちょーおつかれっ!』
『お疲れさまです部長』
戻ってきた羽衣を迎える月宮女子麻雀部一同。
『私たちの失点…埋めてきてくれて助かりました、本当に感謝してます』
泉がそう言い、あかりも横でこくこくと頷く。
『もーちょっと何いってるのよぅー、そんな事気にしなくていいのよっ』
全然気にしてないといった様子でそういう羽衣、りりあも華南もそれに頷く。
『まっ、それは置いといてー、ぶちょー、昔白糸台で活躍したって事、何でいままで黙ってたんですかー』
『ん、確かに…知っていれば色々聞いたり出来たかもしれなかったのに』
全員の視線が羽衣に集まる。
『うふふーだってそんな事訊かれなかったし、乙女には秘密の一つや二つあるものなのよー、ねっ、華南ちゃん!』
『…何で私に振るんですか』
何故か華南に話を振って追求を逃れようとする羽衣。
『んーしかし残念ねえ、流石に一位は取れなかったわー華南ちゃんのちゅーがー』
『あははー、確かにぶちょー超がんばってたよねー、でもあれ私が適当に言っただけだからっ』
『なっ、騙したのね…!りりあちゃん、なんて酷い女なのっ…!』
『そ、そこまでいう事だったのっ』
ふと対局前のやりとりを思い出してそんな事を言い出す羽衣、そこからなにやらりりあと小芝居が始まってしまった。
ふぅ、と溜息をついて華南が歩みよる。
『…部長、ちょっと目を瞑って横向いて下さい』
『んん?こう?』
突然華南にそう言われ、その通りにする華南。
『あっ』『わぁ…』『おお!?』
羽衣の頬にキスする華南。その感触にはっとして目を開く羽衣。それを見ていた他3人がびっくりして声をあげる。
『…まあ、確かに頑張っていたので、でも、今回だけですから』
少しの間、時間が止まったような月宮女子高校の控え室。
『か…華南ちゃん!ツンデレね!ツンデレなのね!いやーうふふうふふふふー!』
自分の両頬に手を当て、くねくねする羽衣、思わず距離を取る華南。
『じゃ、じゃあ私、対局がありますから』
『あ、華南、頑張れよっ』
『かなっち!いつもみたいにぶちかましちゃえー!』
『し、城山さん、頑張って!』
足早に控え室を出て行く華南。
残された4人、羽衣はまだくねくねしてあっちの世界に行ってしまっている。
『し、しかしびっくりしたなあ、華南があんなことするなんて』
『そ、そうですね…見てるこっちがドキドキしちゃいましたっ…』
驚いた様子でそういう泉。当事者ではないのに顔を赤らめているあかり。
『いずみん、ホントは羨ましかったんじゃないのー?』
『なっ、ばかっ!そ、そんな訳ないだろ!華南は大事な妹だっ!』
意地悪い笑みを浮かべてそういうりりあ、急いで否定する泉。
『…と、とりあえず部長をこっちの世界に呼び戻そうか』
『あははー…そうだね』
ふと視界に入った部長の様子を見た泉がそう言う。二人もそれに頷いた。
---吾野高校控え室
『誤算だったな…まさか月宮にあんな伏兵が居たとは…』
戻ってきた詩音は、いまいち納得がいかなかったといった表情を浮かべていた。
『まーでもきっちりプラスで戻ってくる辺り、さっすが部長だよねー』
『そうだなあ、私があの”天衣無縫”とやったら、ぼろくそになってきた気がするよ』
『絶対放銃しない打ち手って、京子ちゃんにとっては天敵だもんねー』
『いや凪原先輩、誰にとってもそれは脅威だと思うんですが…』
茜の意見に正論を述べる雛姫。
『…と、行って来ます、先輩達が作ってくれたリードをきっちり守ってみせますよ』
『雛姫の事だ、心配はしてないよ、勝ってきな』
『軽く捻ってきちゃえ、全中王者!』
『雛っちファイトー』
『有栖川、まあ油断はするなよ』
部屋を出て、対局室へ向かう雛姫。
(…負けるわけがない、麻雀を賭け事としか見ないような人なんかに…!)
---越谷女子控え室
『ごめん…高天原…止められなかった…』
『気にするな里子、あれ位で済んだなら良かったほうだ』
肩を落として控え室に戻ってきた里子、今にもくずれそうな里子を抱き寄せ慰める樹。
『そうそう、全国クラスの化け物相手に健闘したよ里子はっ!』
『そうですよ、先輩の連荘阻止で最悪の事態は免れた訳ですし!』
他の部員達も里子をフォローする。
『次は…私の番ですね、個人戦ベスト16の坂上穂波と全中王者の有栖川雛姫相手に私がどこまでやれるかわかりませんが…』
『やる前から弱気になるなよ、期待のルーキー!』
『幸い坂上の居る名細相手には3万点近い差がある、有栖川さえ攻略出来れば、勝機はあるはずだ』
『はい…やれるだけ、頑張ってきます!』
越谷女子一年、((藤金|ふじがね)) ((千尋|ちひろ))はそういって、部屋を後にする。
---名細高校控え室
『うちら、今のところいい所ないなあー』
『鮫島、高天原、双柳、小野崎…これだけの選手相手にここまで打てれば十分だよ』
『しっかし、天衣無縫の登場にはヒヤっとしたよねーホントなんでこんな所にいるんだってゆう…』
『まあでも…うちにも坂上穂波がいる!ねっ、ほなみん!』
『そうだね、穂波ちゃんならきっと大丈夫!』
『そ、そんなに期待をかけられると緊張するんだが…とりあえず、行ってくるよ』
『『いってらっしゃい!』』
皆に見送られ、前年度個人戦ベスト16、坂上穂波が部屋を後にする。
第20局 圧倒
---対局室
一番最初に着いたのは華南だった。卓上にある4つの裏向きの牌の内、一つを手に取り、めくる、南だった。
すぐ後から雛姫がやってくる、残り三枚から一つをめくる、東だった。
すぐに席に着かず、隣で立っている華南を見る。
『貴女にだけは、絶対、負けませんから』
強い口調でそう言い放ち、席につく雛姫。
(会長の娘なんだっけ…じゃあ雀荘の事も知ってるのかな…でもごめんね、私も、負けられないから)
自分への敵意の理由が思い当たる華南は、言い返しもせずに、席につく。
程なくして名細と越谷の選手も入ってきた。そして2人も場決めを済ませ、席につく。
東家 1年 有栖川 雛姫 (吾野)
南家 1年 城山 華南 (月宮女子)
西家 2年 坂上 穂波 (名細)
北家 1年 藤金 千尋 (越谷女子)
(城山…華南…?)
和は団体戦の選手の名簿、月宮女子の大将戦の選手の名前を見つけ、何かに気づいたのかふとモニターに視線を移し、月宮女子の制服を着た選手を見やる。
(華南という名前…アバターと同じ黒髪ロングの少女…もしかして…かにゃんさん…?)
探していた人物かもしれない人が、そこに居たのだった。
『さて、いよいよ地区大会も大将戦を残すのみとなりましたね!吾野からは高校麻雀連盟会長、有栖川真紀子氏の娘にして、全中王者の有栖川雛姫!名細からは昨年度個人戦ベスト16の坂上穂波が登場!本日観戦に来た方の中にもこの対局を楽しみにしていた方は多いのではないでしょうか!原村プロはこの対局、見所は何処にあると思われますか?』
そういって和に話を振る松浦、しかし和は何か上の空のようで返事が無い。
『あ…あのー原村プロ?』
再度かけられた松浦の言葉に気づき、はっとする和。
『…あっ、はいそうですね!特に初日では見られなかった有栖川選手の対局は楽しみです』
『はいっ、原村プロ、ありがとうございました、丁度選手の方も揃いましたね、それでは!大将戦前半戦、スタートです!』
東1局 親・有栖川 雛姫
(まずは様子見したかったけど…起家になってしまいましたね…どうしましょうか)
『立直』
雛姫がそんな事を考えていると、5順目にして華南から立直が入ってしまった。
(早い立直、まあここで私が押す理由もないよな、ツモられてもトップとの差は縮まる訳だし)
ノータイムで華南の現物を打ち出す名細の坂上穂波。
(名細はオリ、かあ、通ってないけど、ここはいけるよね)
逡巡し、生牌では無いが比較的通りそうという見立てをした牌で押す越谷女子の藤金千尋。
(一向聴、降り、越谷もなんだか押して来てるみたいだしね、とりあえず見せてもらいましょうか、貴女の麻雀を)
雛姫も迷わず安全牌を打ち出す。
そして華南のツモ、引いてきた南をそのまま卓に叩く。
『自漠、立直一発ツモ東南…』
そして裏をめくる、そこには東。
『裏3、4000・8000』
(開幕から倍満…!?)
(なっ…一発高目!)
(即ツモ裏3とは…ツイてるなあ…)
『自漠です!大将戦最初の和了は月宮高校、城山選手です!一発裏3で倍満を和了しました!』
『この和了りでトップの吾野に親被りで一気に点差を詰めましたね、これは大きな意味を持つ和了です』
(今の和了…あの時かにゃんさんが見せたものと同じような…?)
東2局 親・城山 華南
『立直』
4順目、またも華南から立直が入る。
(は、早すぎる…親リー、ここも攻められないか…!)
渋々現物を打ち出す穂波。
(またこんな早い立直なのー…?しかも今度は親だし…流石にいけないかぁ…)
穂波に続き、今度は安全牌でオリる千尋。
(くっ…こっちはまだ二向聴なのに…!)
唇を噛み締めつつ、北の暗刻落としでオリる雛姫。
同順、華南のツモ、引いてきた1筒を叩き、手牌を倒す。
『自漠、立直一発ツモ…』
淀みない動作で裏ドラをめくる、そこには9筒。
『…裏3です、6000オール』
(二連続一発裏3!なんなのよ…これ…!)
(デタラメすぎる…どうなってるんだ…)
(何なのよこれはもー…!)
華南以外の3人は心の中でこの不条理に叫ぶ。
『月宮女子、城山選手!またも一発ツモ!そして裏3!今度は親跳で6000オールの和了です!あっという間にトップの吾野との点差を5300点まで縮めました!』
『す、素晴らしい和了でしたね、これでトップの背中が見えてきました』
(間違いない…!城山さんが…あの時の…かにゃんさん…!)
この2回の和了で和は華南がネット麻雀で出会った打ち手、かにゃんであると確信した。
東2局・一本場 親・城山 華南
解説室に、切羽詰った表情のテレビ局の職員が入ってくる。
松浦に耳打ちし、数枚の原稿を渡し、部屋を後にする。
『っと、今入った情報によりますと月宮女子の城山華南選手、なんと、9年ほど前に飛行機事故で亡くなられた、故、城山華恋プロの実の娘であることが分かりました!』
『そうだったのですか、私も生前の城山プロとは何度かお会いし、対局をしています、とても人柄が良く、それでいて凛とした力強い麻雀を打つ方で…本当に痛ましい事故でした、日本の麻雀界の大きな損失とも言われてましたね』
『そうでしたか、私も一個人として城山プロのファンでした、しかし、その娘である城山選手がこうして決勝の舞台にいるというのは、なんとも感慨深いものですね!』
『そうですね、城山プロの実の娘である城山選手がどの様な闘牌を見せるのか、注目です』
『立直』
6順目、またも最初の立直をかけたのは華南。
(止められ…ないのか…?)
到底和了りにいけるとは思えない自分の手牌を見て、またもオリる事に決めた穂波。
(…強い、有栖川や坂上よりまずこっちをどうにかしないと…!)
1向聴ではあるが、懸命に危険牌を通し、突っ張る千尋。
(一発消しも出来ない…またこれで和了ると言うの…!?)
雛姫は千尋の打った牌にあわせる。そして…
『自漠、立直一発ツモ三暗刻…』
南を引き入れ、ツモ三暗刻。
『…裏3、8000オールの一本場、8100オール』
説明 | ||
---月宮高校麻雀部での城山華南と麻雀部の仲間達の紆余曲折ありながらもインターハイ優勝を目指していく、もうひとつの美少女麻雀物語--- |
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