咲-saki-月宮編 第24局 約束 |
東二局・一本場 親・城山 華南
『自漠、タンピンツモドラ1、2600は2700オール』
6順目、またも立直をかけずにダマでツモ和了りする華南。
(うん…ズラされなければ…和了れる!だけどどうしようか…)
しかし立直をかければ当然雛姫にズラされて和了りを阻止されてしまう、だがこのまま小さな和了りを重ねるだけではトップになることは難しい。
(やっぱり…麻雀って…楽しいな…)
活路を見出せた訳ではないが、華南の表情は明るい。
『月宮高校、城山選手!後半戦に入って開幕から3連続和了ー!今度は2700オールを自漠しまして尚も親番を継続しトップの吾野を追うー!』
第24局 約束
---10年前。
埼玉にあるとある家の一角、黒い長い髪の美しい女性、精悍な顔つきの若い男、どことなくその男に似た初老の男性、そして、小学生にも満たない小さな黒髪の少女が雀卓を囲っていた。
『ぽ…ぽん!』
その少女が対面にいる初老の男性の牌を鳴く。
『ちー!』
その次順、今度は上家の若い男の牌を鳴いた。
(で、できたっ♪)
どうやらこの鳴きでテンパイしたらしい、だが。
『立直』
少女の下家、黒髪の美しい女性が即座に立直をかける。その様子をみた少女はみるみる表情が暗くなってしまった。
同順、少女のツモ、和了り牌ではなかったそれを特に気にもかけずに場に切り出す。
(これじゃないのっ、南か東!)
『あら、ロンねーメンタンピン一発三色で、12000点ねー』
『えー…』
少女が振り込んでしまった、しかもこれでオーラスだったようだ。
『母さんがまたトップだなあ、華南、あそこであんな危ないところをきっちゃったらダメだぞー』
猫なで声で優しくそう言う若い男、しかし少女は一層しゅんとしてしまった。
『だ、だってかなんもあがれそうだったんだもんっ!』
自分も聴牌していた事を主張する少女…華南はそう言い返した。
『まあまあ、じゃあ今日はもう遅いから華南はおねんねしましょうねー』
ぐずりだした華南をなだめつつ、寝室に連れて行こうとする女性。
『華恋、じゃあワシはそろそろお暇しますかな、華南ちゃん、またオジサンも遊びにくるからねー』
『あ、すいません伯父さん、玄関まで送りますよ』
その様子を見た初老の男性が立ち上がりそう言うと、若い男が続く、どうやら華南の家族とその伯父のようだった。
『グス…どうして一回もかなんはかてないの…?』
寝室についた華南は華恋にそう訊く、華南は既に泣きそうである。
『ほらほら華南、泣かないの、泣いてたらいつまでも強くなれないわよー』
目に溜めた涙を優しく拭ってやりながら華恋はそう言う。
『だって…ママはプロだからつよいんだもん…』
『うん、でもママもね、最初は全然勝てなかったのよ?』
華南を抱き寄せ、優しく撫でながらそう言う。
『…そうなの?』
『そうよ、最初は勝てなくて、悔しくて、泣きたくなってしまったこともあったわ』
『…そうなんだ』
『うん、だけどね、ぐっと我慢したの、泣かないで、前を向いて頑張るって、そう決めたのよ』
『…』
黙って華恋の話を聞く華南、華恋はそのまま続ける。
『華南も泣かないで、前を向いて、頑張っていれば、いつか麻雀の神様から”ご褒美”がもらえるかもしれないわ』
『ごほうび?』
『…そう、ご褒美、だから泣かないの、約束、ね?』
華恋は両手で華南の手を取り指切りをする。
『…うん、かなん、もうなかないよ…』
『よしよし、じゃあおやすみなさい、華南』
『おやすみ、ママ…』
程なくして華南は眠りについた。愛おしい娘の寝顔をしばらく見つめる華恋…。
明くる日、また華南とその家族達は麻雀を打っていた。
華南の上家の華恋が華南の鳴ける牌を切り出す。
(ないちゃダメ…なかないって、やくそくしたんだもん)
そのまま鳴かずにスルーする。
どうにか一向聴まできた、そして9順目、聴牌する。
(できた…えーっと…)
点棒をがさがさと漁りながら、千点棒を探し出し。
『り、りーち!』
緊張した面持ちで、立直をかける華南。
『おお、華南ちゃんがリーチか』
下家の華南の父親がそう言い、そして現物を打ち出す。華南はまだ麻雀を始めて1年にギリギリ満たない位だったが、門前で聴牌し、立直をかけたのはこれが初めてだったのだ。
(はやくこないかな、はやくこないかな…?)
期待と不安に胸を躍らせ、牌をツモる華南。
『わぁ…!つもだあ!』
そのツモは、待ち牌の南だった。
『おお一発かあ、すごいなあ』
『おめでとう華南ちゃん』
『えへへ…えっとー、りーち…いっぱつ…つも…えーっと』
父親とその伯父に褒められて喜ぶ華南、そして小さな指をひとつずつ折りながら点数計算をしようとするが、まだちゃんと覚えきれていなかった。
『華南、とりあえず手牌を倒してごらんなさい?』
『あ、うん』
手牌を倒す華南、華恋はその手を確認する。
二三四@@@111南南白白 ツモ南 ドラ一
『立直一発ツモ三暗刻ね、さあ華南、裏ドラをあけてごらんなさい?もしかしたら、ご褒美があるかもしれないわよ?』
『わかった!』
喜び勇んで王牌に手を伸ばす、そして裏ドラをめくる、東がめくれた。
『あら、裏がみっつね、倍満で8000オール、おめでとう華南』
笑顔の華恋が8000点分の点棒を華南の手においてあげる。
『すごいなあー華南は、パパ降参だよー』
ちょっと大げさにそういって華恋と同じように点棒を渡す父親。
『はい、華南ちゃん、どうぞ、これで今回は初めての一位だね』
伯父さんも同じように笑顔で点棒を華南に渡した。
『わあ…こんなにいっぱいもらえたのはじめて!』
自分の点棒を籠にいれて、満面の笑みでそういう華南。
『華南が頑張ったから、神様がご褒美をくれたのね』
そういって華南の頭をなでてやる華恋。
『えへへ…もういっかい、もういっかいやろっ!』
『あら、ご機嫌ね、今度はママも負けないわよ?』
『おっ、ママ本気だしちゃうのかな?怖いなあー』
『おっと、華南ちゃんもやる気だし、あと一局やっていこうかねえ』
その日は華南がそのまま卓の前で眠ってしまうまで対局を続けていたのだった……。
東二局・二本場 親・城山 華南
華南はふと、過去に家族で対局した楽しい過去の思い出をを想いかえしていた。
(うん…麻雀をしていると…おかあさんやおとうさんと…繋がってる気がするよ…)
配牌を理牌し、不要牌を打ち出す。その度に楽しかった思い出が蘇るようで。
(そう…一緒なんだ、私は1人じゃない)
思い出されるのは記憶の中の両親…そして。月宮女子麻雀部の皆の顔…。
(…だから…なかないよ…皆と一緒だから…私は負けない!)
聴牌する、しかし立直はしない。
そして次順、華南のツモ、和了り牌である白を引いた、だが…。
『立直!』
ツモってきた白を切り、立直をかける華南。
(えっ)
(ツモ切り立直!?)
驚いた表情を見せる穂波と千尋、これまで必ずといっていいほど即リーをかけてきた華南だっただけに意図が分からない。
(白…そこは鳴けない…!というかツモ切り立直って…!)
そして雛姫は、ただ焦ったような表情を浮かべる。七対子一向聴にしたが、白の対子はなかった。
『…え、えっと、月宮女子、城山選手、ここでツモ切り立直です…これは一体…?』
『わ、分かりません…高目の和了り牌だった筈なのですが…』
困惑しているのは卓にいる3人だけでは無かった、解説室の松浦も和も全く意味が分からない和了り牌をツモ切りしての立直にただ唖然としている。
そして会場で対局を見ていた観客達もざわつき始めている。
『月宮の、アレ、一体何がしたいんだ?』
『わ、分からないよ…』
『あまりの点差におかしくなったのか…?さっきもあんな手で立直かけないと思ったら…』
そんなような声があちこちから聞こえてくる。
---月宮女子控え室
『城山さん…どうしたのでしょう…?』
心配そうな表情を浮かべるあかり、だが。
『きっと…華南なら大丈夫だ』
『そうだね、かなっちにはかなっちの考えがあるんだよ、きっと!』
『そうねー華南ちゃんを信じて待ちましょう』
『は…はいっ!』
泉も、りりあも、羽衣も、そんな華南の暴挙ともいえるような打牌を見ても、ただ信じていた。
(仕方ない、とりあえず何処からでも鳴いてズラさないと…!)
穂波は華南の現物を打ち出す、鳴けない。
千尋は現物がないのか、筋の切れてる7萬を打つ。それも鳴けない。
(このままじゃ…誰か鳴いて!)
生牌の中を切って誰かが鳴くのを期待する雛姫。だが誰も鳴かない、そして…。
『自漠、立直一発ツモ三暗刻…』
『なっ…』
(嘘…!)
(何だ、なんなんだ、それは…!)
全員が華南の倒された手牌を見て驚愕していた。当然といえば当然だった、華南の手牌はこうだった。
二三四@@@111南南白白 ツモ南 ドラ一
一巡前のツモは白、それをツモ切りしての立直、フリテンな上に高目の方をツモっての満貫の和了を一度捨てているのだ。結果的に一発でツモだったおかげでこのままでも満貫なのだが…。
素知らぬ顔で華南は裏をめくる、そこに居たのは…東だった。
『…裏3、8000オールの二本場は、8200オールです!』
華南の表情は明るい、この和了りにはとても大きな意味があったのだ。
(はじめて和了った倍満、あの時と…同じ!)
そう…10年前、華南が初めて和了った倍満と、全く同じ形だったのだ。
『え…あ、つ、自漠です!月宮高校、城山選手!倍満をツモ和了!なんと…なんという事でしょう!高目和了牌をツモ切り立直し、次順で一発ツモ、しかも裏3で満貫の手を倍満にしてしまった!これは…これはすごすぎるぞー!』
『あ、す、素晴らしい和了りでしたね、えっと…この和了りで月宮女子と吾野高校の点差が24400点まで縮まりました』
一巡前に理解不能な事が起きた直後に更に理解不能な事が重なってもはや訳が分からないといった様子の二人。
『…嬉しそう、ですね』
和了後の華南の様子をみて思わず雛姫はそう口にする。
『あ、うん…この手はね…昔お父さんとお母さんが生きていた頃…、家族麻雀で私が始めて和了った倍満と…同じ手なんだ』
それに気づいた華南はそう言った。そう話す華南の表情はとても優しげで、思わず雛姫は見惚れてしまっていた。
『…そう、でしたか、対局中に変な事を聞いてすいませんでした』
雛姫はそう返し、牌を卓に落としていく。
『…麻雀って、楽しいよね』
誰に言ったか分からないが、卓に牌を落としていた華南がそう呟く。
(((…!)))
全員の手が止まった。その言葉に、3人は何か想う事があったのだろう。
『…城山さん、一つだけ、聞いていいですか?』
『なんですか?』
やがて雛姫が一言、そう華南に問いかける。
『…貴女は麻雀、好きですか?』
半ば答えは分かっているような物だった、それは最早確認のようだった。
『…大好きです、きっと貴女よりも、誰よりも!』
華南は力強く、そう返した。
『そう、ですか』
そう一言だけ呟き、雛姫はそれ以上言わなかった。だが、その表情には笑みが見え、迷いが晴れたように見えた。
東二局・三本場 親・城山 華南
(私は…何故こんな当然の事を忘れてしまっていたのだろう…)
雛姫は目を閉じ、華南の言葉を思い出す。
…麻雀って、楽しいよね。
…大好きです、きっと貴女よりも、誰よりも!
(私も…麻雀が楽しくて、大好きで、だから今まで頑張ってきたんだよね…)
初めの初めは、高校麻雀連盟である母親の薦めで、毎日麻雀教室に通うようになった。
親の薦めで始めた麻雀だったけど、小さな頃の私も、麻雀は楽しかったと感じていた。
そしてその楽しい麻雀で勝てるように一生懸命努力した。
やがて、中学生になって、自分から麻雀部に入った。
中学でも、ひたすら努力は欠かさなかった、それを苦だとは思わなかった、麻雀は、楽しかったから。
いつしか全中王者になっていた、嬉しかった。
大好きな麻雀で、日本の中学生のトップになったという事が。
そして今、名門吾野高校の大将として、この場に居る。
(そうですよ…楽しまなくちゃ…大好きな、麻雀を!)
そうだ、楽しんで、そして勝つんだ。
城山華南、この勝負に勝って、一言だけ言わせて貰いましょう。
(私の方が、麻雀を愛しています!ってね!)
『自漠!タンピンツモ三色赤3!4300・8300!』
そう力強く宣言し、牌を倒したのは雛姫だった。
(これが…私の麻雀です!)
説明 | ||
---月宮高校麻雀部での城山華南と麻雀部の仲間達の紆余曲折ありながらもインターハイ優勝を目指していく、もうひとつの美少女麻雀物語--- |
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