Fate/anotherside saga〜ドラゴンラージャ〜 第四話『優しい魔法使い』 |
欠点は常に裏から見た長所である。
――徳冨蘆花
? ? ?
「一体なんだ!?」
突然聞こえてきた悲鳴に俺達は驚いて動きを止めた。
「む、奏者よ。向こうからおかしな気を感じるぞ!」
ネロがそう言って悲鳴の聞こえてきた方をにらみつけた。
確かにネロの言う通り変な気を感じる。
これは………………………………殺気か!?
だけどなんだ?
普通の殺気とは何か違うような…………?
ロバート達もネロの言葉で我を取り戻したらしく、慌てて悲鳴の聞こえてきた方向に向かって駆けだした。
俺も嫌な予感がして一緒になって走り出す。
「こら、お前達は残っていろよ!」
「なんだか嫌な予感がして気になるんです!」
「その言葉が本当にならないといいんだけど……」
俺の言葉にヴィリーがなんだか不安そうな顔をする。
しばらく走ると、向こうから誰かが走ってくるのが見えた。
どうやらここの村人らしい、ロバート達と似たような格好の男性だ。
だけど、その右手は肩のあたりから赤く染まっており、顔には苦悶の表情を浮かべている。
「ジャック!? ジャックじゃないか!?」
「その傷はどうしたんだ!?」
男に気付いたロバート達が叫び声を上げる。
どうやらあの男の人はジャックという名前らしい。
「……うっ。……お、お前か…………」
傷を負ったジャックもこちらに気づいたらしく、ふらふらとした歩みで寄ってくる。
「むう。ひどい傷を負っておるな……」
ネロの言う通り、近くで見ると肩の傷がかなりひどいものだとわかった。
肩、というより二の腕に付けられた傷は容赦なくその周囲の肉をえぐり取っており、もしかしたら骨にまで達しているかもしれないほどだった。
……正直右腕が未だにくっ付いているのも不思議だけど、これだけの傷を負っているのに未だに意識があるのも信じられない。
普通なら激痛だけでショック死する可能性だってあるし、そうでなくても歩いたりするなんてほとんど不可能だろう。
それなのにここまで走ってくるなんて…………。
「一体何があったんだ!」
バルトはそんな傷など意に関しないというようにジャックに呼び掛ける。
ジャックもまた、荒い息を吐きながらもしっかりとした声で答える。
「……オ…………オーガだ………………」
「何だと!?」
「…………オーガが…………三匹…………向こうに……」
「ちくしょう!」
ジャックの言葉にロバート達は皆いっせいに厳しい顔になる。
オーガ、つまりモンスターの類か!
さっきから感じるこのおかしな殺気はそのオーガ―の放っているものということか!
「くそ! おい、お前はジャックとそこのボウズ達と一緒に警備兵の連中を呼んで来い!」
「あ、あなたはどうするの?」
「俺はここに残ってオーガ達を足止めする」
……なんだって!?
「ああ、それなら俺も残るぜ。人手は一人でも多いほうがいいだろう?」
「すまない、ロバート。助かる」
「……ま、待て…………。それなら……俺が…………」
「バカ野郎! お前は俺の母ちゃんの面倒を見なくちゃいけないだろう!」
「……こ、こんな傷を…………負っていたら…………どうせ……面倒など……………見ることなんて……できや……………しない…………。それなら…………俺が残って……約束通り…………お前が…………俺の母さんを………………」
「そんな傷じゃ、それこそ足止めなんてできやしないだろ! お前はもっと犠牲者を出すつもりか!?」
ロバートの言葉にジャックは言葉を失う。
「待て。お主らは本当に足止めをするつもりか?」
「ああそうだ。でもお前は逃げな、お譲ちゃん。これは俺達の問題だ。お譲ちゃん達には関係ない」
「か、考え直してください! 俺はオーガをこの目で見たことはありませんけど、それがとても強い奴だってことはわかります! この人の傷を見てください! これはよっぽど強い力で斬られない限りこうはなりませんよ!」
「ああ、わかってるよ。でもな、ここで俺達が逃げたらもっと多くの人が死ぬかもしれない」
「それは……!」
「いいんだ。ありがとうな、ボウズ」
そう言ったロバートの目を見て、俺は悟った。
だって、その目は今までに何度も見てきたものだったから。
この人達は死ぬつもりだ。
それも一時の感情に任せて何の覚悟もなく死ぬつもりなんかじゃない。
これが一番いい方法だと冷静に考えて、そして確実に死ぬことがわかっているのに、それでも足止めを果たすつもりなんだ。
「さ、ボウズ達はもう行きな。ここにお前達がいてもできることなんて……」
「いえ、俺はここに残ります。ロバートさん達こそ逃げてください。オーガの足止めは俺がやりますから」
「…………」
静寂。
俺の発言にみんな固まってしまって動けないようだ。
安心させようと俺に微笑んでくれようとした、ロバートとバルトも。
泣きそうな顔をしていた、ヴィリーも。
苦しそうに息を吐いていた、ジャックも。
皆、俺の言葉がどこまで本気なのかわからないようで止まってしまっていた。
いや。
一人だけ違った。
ネロだけが俺に向かっていつもの自信満々の表情を見せていた。
ああ。
それだけで、十分だ。
「ボウズ、あのな。ボウズも言った通り、オーガっていうのは恐ろしいモンスターでな……」
「大丈夫ですよ、ロバートさん。俺はこれまでずいぶんと長い間旅をしてきました。その途中で何度も自分よりもはるかに強い奴と戦ったりもしました。それでも俺はネロといっしょにそれを乗り越えてきましたから」
「いや、でもな……」
ロバートはそれでも顔を渋らせている。
それはそうかもしれない。
俺やネロみたいな見た目が子供のようなやつがオーガと戦うなんて言っても、説得力なんてまるでないだろう。
「……そうだ」
ふと、思いついてジャックに向けて手を伸ばす。
いきなり手を向けられたジャックは不安そうな目を俺に向かてくるが、そんなものを気にもしないで呪文を唱える。
「heal(32)」
俺の右手から温かな光があふれ出て、ジャックの二の腕に集まっていく。
そして一瞬の強い輝きの後、再びジャックの腕を見ると、そこにはもうあのひどい傷などかけらも残っていなかった。
ジャック達の顔が驚きに染まる。
「い、痛みが消えた。い、いや、あんなひどい傷が一瞬で治った…………!?」
「うおおおおおお! ぼ、ボウズ、お前さんもしかして、魔法使いかい!?」
「ええ、そうです。実は俺は魔法使いなんです」
本当は魔法使いじゃなくて((魔術師|ウィザード))なんだけど。
まあ、ここならどっちでもいいだろう。
「さあ、これでわかったでしょう。俺は魔法使いだから、オーガと戦っても死にません。だからロバートさん達はみんな、その、警備兵っていうのを連れてきてください。俺はネロといっしょにそのオーガってやつを倒しますから」
「で、でもあなたは確かに大丈夫かもしれないけど、ネロちゃんは戦えるの?」
はは。
ネロちゃんか。
聖杯戦争のマスターや彼女の伝説を知っている人だったら絶対にしない呼び方だな。
「大丈夫ですよ、ヴィリーさん。さっきもいったでしょう? ネロはこう見えてとっても強いんですよ。俺なんかよりも、ずっとね」
「ほ、本当に大丈夫なの?」
それでもヴィリーは心配そうにこっちを見ていた。
うーん……どうやって説得しよう…………。
ん。
そうだ、いい方法があったな
「ネロ、剣を」
「お、なるほどな」
それだけの言葉ですぐに意味を察してくれたネロは、おじさん達の目の前で、あのいびつな形の大剣――隕鉄の鞴「((原初の火|アエストゥス・エストゥス))」――を取り出す。
何もない所から突然現れた剣にロバート達の顔が再び驚愕に染まる。
「え、ええ! い、いきなり剣が…………!?」
「き、きみも魔法使いなのかい!?」
「む。余はそのようなものではないぞ。余は奏者を守る((騎士|ナイト))だ!」
ネロはどこか嬉しそうにそう言い放つ。
いや、ネロさん?
俺はその言葉とっても嬉しいんだけど、ロバート達はポカンとしちゃっていますよ?
「あー、その……。ネロは魔法使いじゃないんだけど、今みたいに不思議な力を使うことができるんですよ。だから、心配する必要はありませんから」
「…………よくわからんが、とにかくここはボウズ達に任せてもいいのか?」
「はい、任せてください」
「……しかし、よそ者であるお前達にそんな危険なことをさせていいものなのか…………」
「気にしないでください。俺達には勝てる見込みがありますから。それよりもほんの少し前に会ったばかりとはいえ、バルトさん達に死なれた方が俺も気分が悪いですから」
「し、しかし……」
「ほら、早く警備兵を呼んできてください。そのほうが俺達にとっても助かります」
「そうだな……。すまねえな、ボウズ達。ここは任せる。行くぞ、バルト」
「くっ、わかった」
バルトはようやく決心がついたのか、他の人達に来るように促す。
他の人達も渋々とだけど、ロバートと一緒に走り出す。
一回だけ、ロバートが振り返って俺に話かけてきた。
「ありがとよ、ボウズ」
「気にしないでください、ロバートさん」
俺はそれだけ言ってロバート達とは逆方向に走り出した。
走りながら、ネロがそう言って俺に向かって意味深な笑みを浮かべていた。
「相変わらずだな、余の愛すべき奏者は」
「あれ。意外と機嫌がいいな、ネロ。もっと怒っているのかと思ったけど」
凛を助けた時はあんなに怒っていたのに。
「ふん、なにを言っておる。これでもちゃんと怒っておるし不機嫌だぞ? ほとんど赤の他人を守るために、自分の嫌いな戦場に戻ろうとしておるのだからな。まったく、怒りを通り過ぎて、余は呆れてきたぞ?」
そう言いながらも、ネロは相変わらず笑みを浮かべている。
どういうことだろう?
不思議そうにしている俺を見て、彼女はさらに笑みを深くしてこう言った。
「ふ、確かに余はそなたの思っているとおり、以前と比べてそこまで怒ってはおらぬ。だがそれがなぜだかわかるか、タクトよ?」
「……助けようとしてるのが、敵マスターじゃないからか?」
「それもある。だが、もっと他に理由がある」
…………?
なんだろう?
戸惑っていると、ネロは可愛いものを見るような顔で言葉を繋いだ。
「それはな、タクトよ。あのときに比べて余はそなたのことを知っておるからだ」
ネロは楽しそうに話を続ける。
「あのときは本当に、そなたがなぜあのような選択をしたのかわからなかった。いや、もちろんタクトが底抜けに優しい者だということはあのときもわかっているつもりだった。だが、な。あの後、そなたは助けた凛のことを心配したり、余の真名を知った時も余のことを嫌わないでいてくれた。自分の命を何度も狙ったあの恐るべき暗殺者だったとしても、そなたはその者が死ぬときには涙した」
そこまで言って今度は照れるようにネロは笑った。
「そなたは本当に優しい者だ。余はそのことをたっぷりと知った。だからさっきの者達が足止めをすると言ったときに、余はすぐにこうなるとわかっていた。なぜなら、そなたなら必ずこうすると知っておるからだ」
「ネロ…………」
「その優しさが、きっとそなたを誰よりも強くしている要因なのだろう。だから余も文句は言わん。余はただ無茶をするそなたを全力で守るだけだ」
「……………………」
ありがとう、ネロ。
でも、その言葉は口にはしない。
だってそんなことは彼女にとっては当然のことで、俺がお礼を言っても怒るだけだろうから。
だから――
「ネロ、勝てるよな?」
――今はこれだけ。
感謝の気持ちは口にしないで、ただ信頼の言葉だけを口にする。
「ふっ、当然であろう。奏者がいる限り、余に敗北などありえぬのだからな!」
「……そうだな。ああ、そうだよな!」
力強いネロの言葉を聞いて、俺はさらに足に力を込める。
「行こう、ネロ!」
「うむ、そなたの思うままに!」
お互いに相手の事を頼もしく思いながら、道を駆け抜ける。
嫌な気配はもう、すぐそばにまで感じられた。
あとがき
というわけで、第四話『優しい魔法使い』でした。
次回はいよいよオーガとの戦闘に入ります。
ドラゴンラージャの世界に来て初の戦闘ですが、拓斗とネロは上手くやれるのでしょうか?
そして自分は上手く戦闘描写ができるのでしょうか!?(えー)
更新は不定期ですが長い目で見てください(^^;)
では、また次回お会いしましょう。
(授業が面倒くさくてしかたがない)メガネオオカミでした。
説明 | ||
ここ数日涼しい日が続きますね。 自分は暑いのが嫌いなんで、このまま秋の気候になってくれればいいんですが…………。 でも寒いのも嫌ですね〜…………。 というわけで、第四話です。 今回は戦闘……………………ではなく、戦闘準備です。 少しでも主人公らしさが出ていればいいなーと思っています。 そんなこんなで、第四話『優しい魔法使い』 お楽しみいただけたら幸いです(^^) |
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コメント | ||
本当にヘルタント男児はカッコイイですよね。原作を読んでもただの自己犠牲精神とは違うと思いますから。(メガネオオカミ) ああ、そっちでしたか。てっきり攻めてきたモンスターの中で、かと勘違いしていました。だがオーガ三体も強いよな・・・。二人なら心配ないだろうけど。そしてヘルタント男児はいつもカッコイイ! 自身の命を顧みずに他を救おうとする心意気はすごいの一言に尽きますな。(kuorumu) |
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