双子物語-39話-夏休み編、前編 |
夏休みが始まり、生徒達は各々、実家に帰る準備を始めてそれぞれが帰省をしている中、
私の方はというと。
「なんでこんなにいるの?」
電車の中には女子高生がそれなりの数がまとまっていて、私は苦笑しながらそこにいる
面々を見渡した。そこにいる生徒たちは私の乗る電車とは別の方向に実家があるから
普通に考えたらおかしい。
そんな私の疑問に彼女らは当たり前のように言葉を返してきた。
『雪乃の家に行ってみたいから』
ほぼ声が重なるように言う彼女ら。こんなときにそんなに息合わせなくていいから。
思わず頭痛がこみ上げてきそうだ。最初は叶ちゃんだけ連れていこうとしたのだが、
そこに観伽ちゃんと瀬南に見られてあっという間に私の知り合いに伝わってしまったのだ。
恐るべし、女子高生の伝達力。
「まぁ、他はともかく。どうして生徒会まで」
「黒田先輩が楽しいって言ってたから」
「とても、素晴らしいお家と聞いたのよ」
元会長が去ってから雑用だった二人も書記やら会計やらをメインに頑張っている。
仕事量が多くなっても、普段と変わらない立ち振る舞いから、後輩達に人気があるようだ。
ショートヘアになった柊と、お嬢様みたいな微笑みを浮かべるロングヘアの倉持が
何やら過大に私の家のことを期待しているようだったから、水を差しておく。
「普通の家だよ」
『そんなに謙遜しないで』
「いや、本音だよ!」
時々この二人は双子なんじゃないかってくらい息が合う時がある。本当の双子である
私達以上である。しかし、楽しそうにしている彼女たちを見ていると私も悪い気はしない。
「先輩、楽しみですね」
「あ、うん」
私の座る席の隣にはTシャツデニム生地の短パン姿の叶ちゃんが私の腕に腕を絡めて
きて甘えるように私を見つめる。まるで子犬のように愛らしい。
「ちょっとぉ、何二人でベタベタしてんの。他の先輩方もいるのに」
「あ、観伽!」
叶ちゃんの親友ちゃんも私達のことをからかい始め、ちょっと意識していた叶ちゃんも
すっかり普段のペースに戻ってしまい。人のいない電車の中が少しだけ賑わっていた。
そんなことをしている内に通り過ぎる駅は順調に実家の最寄り駅へと近づいている。
冬休み以来だから、半年ぶりだろうか。久しぶりに会えるとなると少しドキドキも
しそうになるが、これだけ賑やかしいとそんな気分も薄くなる。
まぁ、嫌ではないけど。
少し口元の端が上がって表情が緩みそうになったところで、瀬南から声をかけられる。
またからかわれるのかなって思っていたら、お礼を言いに来たようだった。
そういえば前回行けなかったことにすごい悔いが残っているようだったから、今回は
本人にとっては特別なんだろう。だけど、別に何もない家なんだけどなぁ。
どうしてみんなが私の家に固執するのかがよくわからないでいた。
そんな疑問を抱きつつ、目的の駅に降り立つと。うちの家の人が迎えに来てくれていた。
子供の頃からお世話になってるサブちゃん含めて数人の若い衆を連れての出迎えに
話では知っていたであろう、人たちも表情が強張り、緊張した面持ちを見せていた。
「お嬢!お勤めご苦労さまです!」
サブちゃんの言葉に反応して、部下と思われる人達もいっせいに頭を下げた。
「はい、貴方達もご苦労様」
と、言いながら私が一歩前に出ると、それに合わせて前にいた若い衆は私の通る
道を作ってから、再度頭を下げていた。こういう大袈裟なお迎えはいらないんだけどな。
私はそう思っていたんだけど、前日の母からの連絡で、祖父の意見を却下できず、
押し切られちゃった。と、明るい口調で言い訳をしていたことを思い出す。
厚意の気持ちはわかるんだけど、それでもこんな黒尽くめでいかつい男たちに
囲まれてると周囲の視線が痛いというか。
住んでいる町に貢献しつつやってるとはいえ、それでも大手を振って歩くというのは
少し無理があった。それでも近所に近づいてくると、気さくに話しかけてくれる
おばちゃんとかがいるから、ちょっとありがたいなと思えた。
それもこれも、両親の性格のおかげだったりするのだが。そこを褒めるのは何だか
娘として気恥ずかしいことで。口には出さなかったりしていた。
移動の状況としては、駅から全員が乗れるような大型の車を2台用意されていて、
私達女子が乗るのはサブちゃんが運転する方。残りは迎えにきた部下の分である。
それだったら最初からサブちゃんだけで来れば悪目立ちしなかったものを。
おじいちゃんの考えにはついていけない気分。そういうのを移動中の車の中で考えていた。
それを、サブちゃんは運転しながらでも察したのか。助手席にいる私にだけ聞こえる
ように、そっと呟いていた。それだけ心配だったのでしょうってね。
「私、もうそんな子供じゃないんだけどなぁ」
いや、親や祖父にとっては。子供はずっと子供のままなんだろうなって何となく
思っていた。やがて、住宅街の中で、何の変哲もない。敢えて言うなら豪邸とは
程遠い一般の2階建ての一軒家にたどり着く。
そこが私達、家族の家だった。相変わらずないつもの様子に私はホッと息をつき。
その外観を愛おしく見つめていた。生まれてからずっと居た場所だったからか。
妙に落ち着くのである。
車から降りた私は、真っ先に玄関のドアへと向かって手をかけて開けると。
お母さんが待ち構えていたかと思いきや。感動の再会とばかりに走ってきて私に
飛びついてきた。あれ、これって普通逆じゃなかろうか。という疑問も激しい愛の抱擁の
前にあっさりと消えるのだった。
「お母さん、苦しい」
「娘ー。娘やわらかいよー」
「お前はおっさんか!」
10分ほど抱きついて満足したのか、あっさりと離れると。さっきまで緩みきった顔と
違い、後ろにいる面子を見渡した後、キリッとしたかっこよさげな表情で一言。
「みんな、待ってるよ」
「あ、そうですか・・・」
母のそんな言葉よりも、抱き着かれて気疲れしてそれ所じゃなかったのが本音。
よろよろと、中へと入っていくと。懐かしい顔ぶれと・・・後見知らぬ女生徒が一人。
彩菜の傍にくっついていた。
「ただいまー」
「おかえり、雪乃」
そういうやりとりを見ていた傍にいる女性は彩菜の服の裾を引っ張っていて、
彩菜が妹だよって説明すると満足気に頷いた。緊張して喋れないタイプだろうか。
それにしても距離が近すぎる。
春花は何とも思わないのだろうか、後で本人から話を聞こうと考えた。
それは何故かというと、本人を前に話しをするのも気が引けるだろう。
今、二人から少し距離をとって小さくなっている春花を見るとちょっと可哀想に感じた。
それからしばらく出されたお茶を楽しみながら、お互い連れてきた女子たちが交流を
兼ねて話をしていると、急にお母さんが立ち上がって高らかに宣言したのだ。
「今年は海へいこう!」
「どうしたの、急に」
「昔に海へ行って、あまり体調優れなかった雪乃のことが気になって、それから
行きたくても行けなかったんだよね。今なら大丈夫かなと思って。ずっと考えてました」
とはいえ、そのずっと考えていた話を私はたった今、初めて聞いたのだが。
他にも急に言われると困ることがいくつかあるものだ。
「そんなこと急に言っても。みんなにも予定があるし」
『私達は大丈夫!(です!)』
「水着とかどうするの?」
「それは現地で買えばいいじゃない。こういう時のためにお金は溜めてたし」
あっさりと解決した。どんな無駄金だと思っても本人にとっては大真面目なので
何ともいえない。それにそんなことのために節約させられていたお父さんが可哀想である。
チラッとサブちゃんのお手伝いをしているお父さんに目をやると、固い表情ながら
嬉しそうにしているのがわかる。特に文句もないようで。
「はぁ…。どうして、そんなに海に行きたいの。他に理由があるでしょ」
私は真意を知りたいがために、お母さんへ強気に問い質すと。にへらっという
薄気味悪い笑みを浮かべてから言った言葉が。
「みんなの水着姿が見たかったから」
「やっぱりおっさんだったー!」
あまりにくだらない答えに私は両手で顔を覆うが、私が拒絶しないのを良いという
意味で取ったのか。私が落ち着いた頃には全ての準備が整っていたのであった。
人も増えて、大人数が入れるキャンピングカー2台でまずは大切なものを
調達しにいくことに。
おじいちゃんが保有している別荘へ向かう前に大きなショッピングモールに
寄ってみんなで水着を選ぶ時間が始まる。大勢の女子がひとまとめで来たから
店員さんも驚いていた。
女の子らしく、その場でテンションの上がらない子はほとんどいなかった。
みんなそれぞれ、サイズが合いそうな場所へ行って試着するなり何なりして賑やかに
選んでいた。
私はというと、泳ぐ予定がなかったから選ばないでいたら。
「ゆきのんはこっちの方が似合うよ」
「いいえ、こっちです」
「いや、こっちの方がいいんじゃ・・・」
それぞれの好みの種類や柄をあてがわれて、まるで着せ替え人形みたいな扱いを
されてしまったわけである。もうそれだけで、随分と気疲れしてしまった。
買い物の後、すぐにまた移動を始める我々であったが、途中で車に僅かに酔い
始めた私は窓を開けて換気しようとしたとき、ふと潮の匂いを感じることができた。
おしゃべりやカードゲーム等で時間を潰しているうちに、青い色の爽やかな
景色が私の視界一面に映っていた。久しぶりのあの場所である。
でも不思議と嫌な思い出よりも、不思議な出来事があったような気がしていた。
何だったのかは今では定かではなかったが、とても印象深かったように思える。
やがて、大きな道から外れて小さな道へと入り込み、自然が多く存在する場所へ
向かっていった。その先には一軒屋以上ほどある別荘が建っていて、それを初めて
訪れた人間はみんな驚いていた。
私は小さい頃から行ってるから、驚く要素がない。それが普通の感覚になっていたから。
今思えば何不自由なく育ててもらったのだと、感謝したいくらいである。
中に入ってから、今までより一番いかつい顔のした御老人が登場。みんなは恐怖から、
ものすごい緊張した表情をしていたが、実はこの人は私のおじいちゃん。
昔の家業から身を引いて引退した彼はスキンヘッドで髭をもさっと蓄えている。
長さはそれほどでもない。顔中あちこちに傷があり、普段着として軽装の和服を好んで
着込み、長く下がっている袖からは何かが飛び出してきそうな雰囲気を出している。
その恐々とした顔も私と彩菜の顔を見つけた瞬間。ありえない位だらしなく緩んだ
顔をして出迎えてくれた。
「おぉ、よく来たね。後ろの子たちはお友達かね?」
「うん、そうだよ」
おじいちゃんっ子の彩菜はデレデレなおじいちゃんとハグをして軽くその場にいる
女子たちの説明をしてくれる。ここんとこ、そういうとこの知識だけは優秀である。
「そうか、そうか。好きなだけ遊んでいきなさい」
数秒前の極道とは思えないほどの、好々爺な顔に変貌した年寄りを見て、みんなは
ポカーンとその様子を見ていた。どうやら私の家系は色々驚かせる要素があるらしい。
そう考えると少しだけ楽しく感じることができた。
部屋を割り当てられる前に、母がみんなに質問をしてきた。それは、これから部屋を
割り当てて落ち着いてから海へ向かうか。それとも、簡単に荷物を置いてから
海へ遊びにいくか、ということだった。
「遊びにいく!」
みんなで声を揃えて言うものだから、母もノリノリでその準備を若い衆に始めさせる。
まぁ、一部の人だけ終始そのテンションとは合っていなかったのだけれど。
ちょっとだけ、小さい頃の春花を思い出すその雰囲気が気になったいたけど、
周りの雰囲気に後押しされて、考えるのは後にしようと、そう思った。
今年の外は非常に暑いとのことで、水分不足や日差しにやられないように、
十分以上の用意はしてあったようで、足りないものなんてないんじゃないかって
くらいには充実していることにびっくりした。
私は久しぶりに水着を着て、みんなと一緒に海へ向かうと、車の中では味わうことの
なかった暑さを直に味わうことになった。
照りつく太陽の光に熱した砂場。ジリジリと肌を焼きつかせる天気と気候。
気をつけないと、体調を崩しかねないな、と思っていた中。
差したパラソルの下で寝そべっている私を見つめる視線が多数。
「ちょっ、何見てるのよ。早く泳いできなさい!」
気づくと私の連れが私を囲むように見ているではないか。私はテレ臭さと
もっともな言葉を吐き出して追い返そうとするが。
「別に見たって何か減るもんやないやろ」
「先輩、素敵です〜」
「さすが普段、露出しないだけあって肌綺麗ね〜」
「これは別な意味で芸術的な作品に見えるわ」
「そうね・・・彫刻の題材にしたいくらい・・・」
何だか一人だけ聞いたことのない声が聞こえたと思ったらそれは彩菜に
ひっついていた子で、台詞の一つからとって、美術の何かに興味が強いのだろうか。
まぁ、似たようなことを倉持が言ったけれど、彼女はそういうのは固執して興味は
ないだろうけど。
それから、最後にお母さんが登場してからみんなは何かから逃れるようにワラワラと
散っていった。私の見えないとこで何かをしていたんだろうか。
暑さと違った一筋の汗を流しつつ。その後、すぐに私の隣に座る母の姿を見る。
歳とは思えないほど張りのある肌で体形も整っていて、水着のビキニを着ても
セクシーに見える。尚且つ、童顔なのでとても若そうだ。
「どうよ、私の水着姿」
「おっさん染みてなければ、十分魅力的」
「ははっ、言うね〜」
楽しそうに笑うお母さんの顔をジッと見ると、気づかれて質問されてしまった。
「何かついてる?」
「別に・・・」
「何か乗り気じゃないのは・・・。さては、何かまだ頭の中にもやもやしてるのが
晴れないように見えるね」
「うん・・・。彩菜にね」
「彩菜?」
予想外とばかりにきょとんとする母の表情。大体悩むようなら真っ先に実行すると
思っているのだろう。まぁ、基本はそうなのだが・・・。
「呼ぼうか」
「うん」
暑さにやられそうなのか、それともそのことで頭がいっぱい過ぎるのか。
母の問いかけにほとんど上の空で答えていると、私の心の準備ができる前に
春花やみんなと遊んでいる彩菜に声を投げかけた。
「彩菜!雪乃が用事あるってさ。こっちに来な!」
「あ、うん」
私はちょっと焦って母の顔を窺うと、私があまり話を聞いていないのに
気づいていたのか。ちょっと意地悪そうに笑みを浮かべていた。
話をちゃんと聞いていないのが悪いってばかりに。
それはそうだ。私は自分の間抜けっぷりに後悔しつつも、近いうちに告白
しなければいけないことも知っていたし、それが早いか遅いかだけなのだ。
それをわかった上で、こういうことをしてくる母は油断ならないのだ。
「いつも後押しが強すぎるよ・・・」
「何か言った?」
「いいえ、別に・・・」
私ができないことを強いたことは一度もない。お母さんの大胆で繊細な判断には
いつも信頼を置いている。ということは、私には乗り越えられる壁なんだと
ホッとしていた。
彩菜が近づいてくる。その距離が縮むたびに胸が大きく鼓動する、煩いくらいに。
何も知らない顔をして歩いてくる彩菜に、襲われた記憶と、これから言う申し訳ない
気持ちで胸が張り裂けそうになる。
そんな私の肩に手を置いて、母はものすごい穏やかな顔をして、私の耳元で囁いて
くれた。
「何があっても、私は受け入れるからね」
それは今の私の状況、彩菜の状況。これからどうなっても容認するという覚悟のいる
言葉であった。ありがたすぎて、涙ぐみそうになる私の背中を叩いて、こうはっきりと
言い放った。
「泣くのは全てが終わってからでいいんじゃない」
さぁ、言ってらっしゃいとばかりに私に激励の言葉を伝えてくれる。
私は気持ちを奮い立たせ、体を起こして立ち上がった。そして、その頃には目の前に
彩菜が立っていて、私が何か言うのを待っているようだった。
「彩菜、話があるんだけど」
「わかった」
話が話しだけに、二人だけになりたくて。みんながいない場所に行こうとしたら。
「いいとこあるから、そこで話しておいで」
と、お母さんが教えてくれた場所へと向かうことにした。何もかも知ってるん
じゃないかと疑いたくなるほどの準備の良さに驚きと感謝を感じながら。
二人で砂浜を歩いて別荘へと戻る途中に彩菜の横顔を覗いて、
明らかに緊張している自分に言い聞かせた。
大丈夫、大丈夫って。しかし、不安なのも確実にあって、彩菜との関係が変わってしまう
のではないかという不安。
私はそんな不安を抱えたまま、用意された部屋へと入ると、真っ先に窓の外にある
ベランダに出て振り返らずに彩菜を呼び出した。
「彩菜」
「雪乃」
彩菜を信じて、つっかえるような気持ちを吐き出すような形で話を始めた。
全ては信じるしかない。嘘をついて生きている方が私にとっては辛いものだったから。
これまで以上に二人に緊張が走る話が始められた。
続
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姉妹百合にまでの流れ。なので見所が全然ない気がします。 完全な繋ぎですね。そ れでも読んでくれる方は天使だと思いますね。 完全な自分得作品です(`・ω・´)キリッ 今回のメインキャラ 姉・澤田彩菜 妹・澤田雪乃 母・澤田菜々子 彩菜の恋人・東海林春花 雪乃の恋人・小鳥遊叶 |
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