真・恋姫無双 三人の天の御遣い 第二章『三??†無双』 其の一 |
第二章 『((三??|さんぱぱ))†無双』 其の一
【紫一刀turn】
午後の気怠げな日差しが差し込む喫茶店。
俺は窓際の席で冷めてゆくコーヒーを視界に映し、時間が潰れて行くのをただ静かに待っている。
喫茶店?
ここはどこだ?
俺は外史と呼んだ世界にいたはず・・・・・。
戻ってきた?
そうだ・・・・・あれからもう何年も経っている。
俺は浅草の実家を出てこの寂れた町に居る。
駅前の商店街の殆どがシャッターを下ろしている。
営業しているのはほんの数軒しかなく、その内の一軒の薄汚れた喫茶店。
決してカフェなどと呼ぶことは出来ない古臭いだけの内装。
俺が何気なく窓の外、線路の金網周辺で伸び放題になっている雑草が風に揺れるのを眺めていると、入口のカウベルを鳴らして入ってきた女性客がいた。
その女性は迷う事無く俺の向かいの椅子に腰を下ろし俺を見つめた。
「久しぶりね・・・一刀。」
「あぁ・・・・・七年ぶり・・かな・・・・・華琳。」
目の前に座ったのは華琳・・・・・あの外史で曹孟徳と名乗った魏王。
その彼女の体つきは以前より女性を強調していた。
紺に近い濃紫のスーツに身を包み、タイトスカートから伸びる組んだ足は、出会った頃の輝きを失っていない。
「更に綺麗になったな、華琳。」
「ふふ、相変わらず女を褒めるのは上手いのね。ありがとう♪」
俺が華琳をこの世界に連れてきた。
でも何で俺達は離れ離れになった?
・・・そうだ、華琳がある日書置きを残して消えたんだ。
あの書置きには何と書いてあった?
しかし俺の思考はもう一度鳴ったカウベルに中断された。
入ってきたのは金髪の小さな女の子。ツインテールをカールさせ、まるで華琳のミニチュアみたいだった。
あぁ・・・・・華琳の子供か。
不思議と俺の心は落ち着いていた。
いや、正直に心が死んでいたと言った方がいいか・・・。
心から愛した女性が突如消え、数年後子供を連れて会いに来たというのに。
彼女になら言い寄る男は星の数だろう。そんな事があっても不思議ではないと妙な納得をしている。
「((媽媽|ママ))ぁ♪」
甘えてくる女の子を膝に乗せる華琳の笑顔は俺が初めて見るものだった。
その笑顔を見て、俺は初めて胸の奥に激痛に似たものを感じた。
多分それが顔に出たんだろう。華琳が俺の顔を見て、真顔で数回瞬きをしてからまた笑顔になり、その艶やかな唇が動き言葉を紡ぎ出す。
「この子の名前は―――、あなたの娘よ♪」
「うわあああああああああああああああああああああああああああっ!!」
俺は大声を上げて飛び起きた!
心臓はこれまで経験したことが無い程激しく脈打っている。
「か、一刀!どうしたの一体っ!!」
華琳の手が俺の肩に触れている。
ここは・・・・・?
俺が辺りを見渡せば、そこは窓から差し込む月明かりに照らされた天蓋付きの寝台の上。
俺の顔を覗き込む華琳は俺のよく知る華琳のままだった。
「か、華琳・・・・・俺・・・」
言いかけた俺の頭を華琳が優しく抱き寄せた。
そこで俺は自分が酷い汗をかいていた事に初めて気付いた。
「また何か夢を見たのね・・・・・大丈夫、ここは大丈夫だから・・・」
感じられる華琳の鼓動が俺を落ち着かせてくれた。
「あぁ・・・夢を見た・・・・・多分また何処かの外史の・・・・・」
華琳には外史の話はしている。
それだけじゃなく華琳は俺たちの見る夢に推測までしてくれていた。
「・・・・・どんな夢だったか・・・・・訊いてもいいかしら?」
華琳の優しい声に俺は頷いた。
「華琳の夢だった・・・・・」
「私の?」
「俺が元居た世界で・・・・・」
華琳の胸の中でそう口を開いた所で、廊下から物音が聞こえて来た。
『華琳様!何事ですかっ!!先程の叫び声は!?』
「え?この声は春蘭・・・・・・?」
そうだ、春蘭の声だ。
俺の頭がようやくまともに思考し始めた・・・・・って、あの感じじゃここまで入って来るぞ!
「もう!今日はここに来ないように言っておいたのに・・・・・あの叫び声を聞いたらしょうがないわね。」
『華琳さまー!ご無事ですか!?あの馬鹿は死んでもいいけど、って言うかむしろ死んでいてくれたら嬉しいんですけど!華琳さまーっ!!』
「け、桂花まで!?」
「一刀・・・・・あの二人の行動は条件反射でしょうから、ここは諦めて殴られなさい♪」
華琳は既にいつもの調子に戻ってる。
この部屋は華琳の閨。
そして華琳も俺も、身にまとっているのは一枚の掛布のみ。
華琳の言う通りあの二人がこの状況を目にして取る行動は・・・。
「「華琳さ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ま・・・」」
勢いよく開かれた扉から飛び込んできた春蘭と桂花は、まず固まった。
そしてその目に涙が滲んで来る。
「「うわああああああああああん!!」」
二人が泣きながら殴り掛かって来るのを、俺も条件反射で寝台から飛び降りて部屋の中を逃げ回った。
「おとなしく殴られろぉ!」
「殺してやる!殺してやる!殺してやるぅうううあああああん!!」
華琳はそんな俺達を楽しそうに見つめていたが、急に様子が変わった。
「うっ!・・・・」
「華琳っ!!」
「「華琳さまっ!!」」
華琳が口を押さえて寝台に倒れた瞬間に、俺達は追いかけっこを止めて華琳に駆け寄った。
「医者だっ!誰か華佗を早く呼んで来い!!」
「華琳さまっ!お気を!お気を確かにっ!!」
「華琳っ!華琳っ!!」
俺は華琳の肩に手を置いて名前を呼ぶ事しか出来なかった。
「どうした姉者っ!?北郷っ!?華琳様はっ!?」
秋蘭も駆け付けてくれた。
その秋蘭は華琳の様子を一目見ると、慌てて手近な壺を手に俺達の所に駆け寄った。
「華琳様!我慢なさらずこれに吐いて下さい!少しは楽になるはずです!」
華琳が苦しそうにしながら薄く目を開いて俺を見た。
まったく!そんな事気にしてる場合じゃ無いだろうに。
それでも俺は華琳の意図を理解し、その場から少し離れ後ろを向いた。
すぐに背後から華琳の((嘔吐|えづ))く声が聞こえて来る。
「北郷・・・・・華琳様は多分大丈夫だ。だから・・・」
「華佗が来て診断が出るまでこの部屋から出ないぞ!」
華琳を放って置いて部屋に戻れるか!
「・・・いや、それはいいんだが・・・・・せめて下着ぐらい身に着けてくれぬか?どうも緊張感に欠ける・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はい。」
バツの悪い空気の中で、俺はパンツを履いた。
華佗の診断で華琳の病気は((悪阻|おそ))と診断された。
「おい華佗!それはどんな病気だ!?原因は!?どうすれば治る!?」
詰め寄る俺に華佗と秋蘭は苦笑し、春蘭と桂花は俺を睨んでいる。
当の華琳は落ち着きを取り戻してクスクス笑っていた。
今はもう寝巻きを身に着けて横になっている。
そこに魏の将軍と軍師全員が集まってきた。
「悪いわねみんな、こんな夜中に起こしてしまって。私は明日の朝でもいいと思ったのだけど・・・・・」
「いえ、華琳様。これだけの騒ぎですから皆起きていました♪むしろ知らせないと皆が心配で眠れなくなりますよ♪」
秋蘭は終始穏やかな顔で華琳に接している。
「お、おい・・・・・だから((悪阻|おそ))ってどんな病気なんだよ!」
「「「「「((悪阻|おそ))っ!!」」」」」
稟、沙和、凪、真桜、流琉が驚きの声を上げ、季衣は俺と同じように心配そうに華琳を見つめていた。
「原因はお前だー!」
風がズビシと俺を指差した。
「えぇ!?俺がぁ!?」
慌てふためく俺の肩を華佗が掴んだ。
「一刀、お前には『つわり』と言った方が分かり易かったか?」
「へ?・・・・・・つわり?・・・・・・・・・って事は!」
「おめでとう、一刀♪」
俺は目を見開いて華琳を見た。
「月のものが遅れていたから・・・もしやとは思っていたのよ・・・・・秋蘭には話してあったから・・・」
なるほど、それで秋蘭の対応が早かったのか。
微笑む華琳の顔がさっき見た夢の中の華琳とダブった。
俺はゆっくり華琳に近付きその手を握る。
「華琳・・・ありがとう・・・・・これからは大変だろうから、俺に出来ることが有ったら何でも言ってくれ。」
「うん・・・私からも・・・ありがとう、一刀。出来る事はそうねぇ・・・・・こうやって手を握っていて。・・・(それから後で、さっきの夢の話を聞かせて頂戴♪)」
後半は俺にしか聞こえない声で囁いてくれた。
夢・・・・・そう言えば・・・・・。
「なあ華琳。お腹の子に真名をあげたいんだけど・・・・・ダメかな?」
「え?・・・・・そうね・・・この子に真名を贈ってあげて、一刀。」
俺は一度目を閉じて、夢の中の華琳が言った名前を思い出す。
「((眞琳|まりん))・・・・・どうかな?」
「・・・・・((眞琳|まりん))・・・・・不思議ね、まるで違和感が無いわ。」
俺と華琳がそっと華琳のお腹に手を置く。
「華琳様、おめでとうございます♪」
秋蘭の祝福を皮切りに、みんなが代る代るお祝いの言葉を述べていく。
ただ、春蘭、桂花、稟の三人は滂沱の涙を流しながら華琳への祝いと俺への呪いが混ざった言葉を述べていた。
季衣は華琳の妊娠を理解すると、流琉と一緒に華琳のお腹に触ってはニコニコしていた。
ほんわりとした空気に満たされた部屋に、またしても廊下を走る足音が近付いて来る。
「「華佗っ!!早く来てくれっ!!」」
注目を集め部屋に現れたのは思春と翠。
「蓮華様が!」
「桃香さまが!」
なんとなく次のセリフが予想できた。
「「((嘔吐|おうと))して倒れたっ!!」」
あ〜・・・・・やっぱりなぁ♪
【華琳turn】
私、桃香、蓮華。三人の懐妊が分かってから二日後。
私達は話し合う為、お茶の席を設けた。
場所は城の中庭にある東屋。
給仕を大喬と小喬に頼み、紫苑も交えての会席となった。
「先ずはお祝いを述べさせてもらうわ。桃香、蓮華、おめでとう♪」
「いえ、そんな!わたしこそ、華琳さん、蓮華さん、おめでとうございます♪」
「うん、私も。華琳、桃香、懐妊おめでとう。あなたたち二人も懐妊してくれて嬉しいわ♪正直な処、私一人だったら不安に押し潰されそう。」
苦笑で締めくくられた蓮華の言葉に私と桃香も同意の苦笑を浮かべた。
「わたくしも改めてお祝い申し上げますわ。桃香様、華琳さん、蓮華さん、ご懐妊おめでとうございます♪」
紫苑は深々と下げた頭を上げると、そこには何とも頼もしい笑顔が在った。
「これからはよろしくお願いするわね。母の身の先輩であり師として。」
「えへへ♪わたしは一昨日からお世話になりっぱなしだよ。」
「やはり経験者が居るのは心強いわね。私はシャオが生まれる前の母様を覚えていたし、雪蓮姉様や冥琳、祭達が助けてくれたから良かったけど、華琳の所は大変だったのではなくて?」
妊娠出産に関しては私が一番知識不足みたい。
まあ、時間は有るのだから焦る必要は無いでしょう。
それよりも先に報告しなくてはいけない事が有るのだし。
「それでは紫苑から教えを請う前に、私から話が有るの。大喬と小喬も聞いて頂戴。」
「「はい、華琳さま。」」
五人の目が私を見る中で口を開く。
「私のお腹の子に、紫一刀が眞琳という真名を付けてくれたの。」
「ええ!?華琳さんも!?」
「華琳もなの!?」
やっぱり。
「貴女達はどんな真名を付けて貰ったの?」
「私は・・・・・この子に((蓮紅|れんほん))と付けてもらったわ。」
「わたしの子には((香斗|かと))っていう真名を付けてくれました♪」
「わあ♪どれも素敵な真名ですね♪」
小喬が目をキラキラさせて、はしゃいでいる。
「えぇ、とても良い真名なんだけど・・・・・私の場合この真名を付けて貰う前にひと騒動あってね・・・」
「騒動・・・ねぇ・・・」
「華琳さんの所だから・・・」
まあ一刀があの時叫ばなくても似たような騒ぎにはなっていたでしょうけど。
私は事の顛末を話して聴かせた。
「紫のご主人様が悪夢を見て声を上げられたというのは分かりましたが、それがお子の真名とどういう関係が?」
紫苑が疑問に感じるのは当然でしょう、だけど他の四人には察しが付いたみたいね。
「紫苑には先ず、三人の一刀の事・・・外史の事を教えるわ・・・・・・実は・・・・・」
私は以前に桃香達にした外史の話を紫苑にも語った。
「・・・ご主人様たちにその様な事が・・・・・」
紫苑は衝撃を受けてはいるが、深く考えている様子を見ると彼女にも思い当たる節が有るようだ。
「ここでさっきの紫一刀が叫んで目を覚ます夢に繋がるの。しかもそれが私の夢だったのよ。」
「華琳さまの夢で叫び声・・・・・・」
声に出したのは大喬だったけど、みんなが変な想像をする前に伝えてしまわないと。
「紫一刀の見た夢は、私と一刀が天の国に行った夢。だけどその『私』は一刀の子を身籠っていながら一刀の前から姿を消して、七年後に再会。その再会する処を夢で見たと言っていたわ。」
私の語った内容に疑問点が多過ぎるのだろう。
みんなから言葉が出てこない。
「夢の内容にかなり疑問があるのでしょう?それは私も同じよ。何故私が天の国に行っているのか?何故一刀の前から居なくなったのか?何故七年後に戻って来たのか?」
五人が頷く。
「けど、今はそんな事どうでもいいの!」
『ええぇ!?』
「私はこのお腹の子が一刀にその夢を見せたと思ってるの・・・・・自分の真名を教える為に・・・」
そう、あの夜一刀があの夢を見るなんて偶然にしては出来すぎている。
昔の私ならば世迷言と切り捨てていたでしょうね。
「赤一刀と緑一刀も似たような夢を見ているのではないかしら?」
「確かにそう言われてみれば・・・・・」
「ご主人様、真名を決めるのに全然迷ってなかった・・・」
「でしょう。きっと隠しているはずだから、後で一刀たちを問い詰めてやりましょう♪」
私がワザと意地悪い顔で笑って見せると、みんな吹き出して笑った。
「あ!そういえばお三方とも、兆候は有ったんですよね?その・・・・・月のものが遅れてるとか。何で一刀さまや華佗に言わなかったんですか?」
言った小喬と一緒に、大喬も不思議そうな顔をしている。
私はわざとらしく一度溜息を吐いてから、真剣な顔で答えた。
「・・・それはね、蓮華という前例が有るからなのよ。」
「か、華琳!その話は!」
「まあまあ蓮華さん。小喬ちゃんと大喬ちゃんもこれは知っておかないと♪」
蓮華が真っ赤になって慌てるのを桃香が笑ってなだめている。
紫苑にもなだめられて、一応蓮華が大人しくなった。
「蓮華は以前、気血両虚を患った事があるのだけれど、その時華佗が処方した薬の材料が」
「いやああああああ!思い出させないでっ!!」
「もう!紫苑、ちょっと蓮華の耳を塞いであげて頂戴。」
「はい♪蓮華さん、ちょっとだけ失礼いたしますわ♪」
「で、材料は冬虫夏草、熊胆、蓬莱の玉の枝、火鼠の皮、燕の子安貝、そして人食い虎の睾丸と陰茎。」
「「え?」」
「仏の御石の鉢の欠片、更に竜の肝と睾丸と陰茎。」
「・・・・・それはさすがに・・・」
「あたしもちょっと遠慮したいかなぁ・・・」
二人共すごく嫌そうな顔をしていた。
「月のものの遅れが、万が一気血両虚だったらあの薬を飲まされると思うと言い出せなくなるでしょう。」
深く頷き合う私達。
その後は涙目の蓮華が落ち着くのを待って、紫苑から体験を基にした様々な事を教えてもらった。
一刀が夢で見た眞琳は生まれてから七年間、父親に会えなかったけど・・・・・。
今度は((??|パパ))が三人も居るわ。
思いっきり甘えて遊びなさいね、眞琳♪
【紫一刀turn】
「「「ああ〜〜〜、心配だ、心配だ、心配だ〜〜〜」」」
俺たちは三人揃って玉座の間に閉じ込められていた。
「御子様方、さっきから発情期の極楽鳥みたいに動き回ってないで落ち着いたらどう?」
「「「いや、炙叉・・・そこまで派手には動いてないけど・・・・・・」」」
三人でグルグルと歩き回ってはいたけどさ。
炙叉も都の暮らしに慣れたからか、敦煌訛りが無くなっている。順応力高いなぁ。
部屋の中に用意されたテーブルには炙叉以外に、雪蓮、冥琳、月、詠、恋、ねね、そして華佗、貂蝉、卑弥呼が囲んで飲茶をしていた。
「そういうのはお産の時にする物だ。お前たち三人は予定日の来春までそうやってうろつくつもりか?」
冥琳に呆れられた・・・・・。
「だってしょうがないだろ!?本当なら華琳、桃香、蓮華の三人の傍に居てあげたいのに、こんな風に隔離されちゃうなんて!」
「女の子には男に話せない事がたくさん在るのよ♪」
雪蓮が一人だけ酒を飲みながら至極ご機嫌だ。
「そうよん、ご主人さま♪わたしだってご主人さまにお話していない、あーんな事やこんな事もぉ・・・やだん♪恥ずかしいわん?」
「うむ、確かにそーんな事や、どれな事も在るが、しかし御主人様が強引に迫って訊いてきたら、全てを曝け出してしまいそうで怖いのぉ?」
「「「怖いのは今のお前達だっ!!顔を赤らめてモジモジすなっ!!」」」
「一刀、貂蝉と卑弥呼はお前を落ち着かせる為に冗談を言ったんだ♪そう怒るなよ♪」
いや華佗、こいつらは絶対冗談で言ってない!
「向こうには黄忠さんが居るし、俺も何かあれば直ぐに駆けつけられる。それに警備だって強化したんだろ。なぁ、詠。」
「えぇ、城の警備兵を倍にして、中庭は愛紗、思春、春蘭を中心に守らせているわ。街の方も凪たち北郷隊に警備強化をさせているから大丈夫のはずよ。」
詠は暖かい烏龍茶の入った湯呑を啜りつつ、右手では恋の皿に焼売を運んでいる。
「そうだ、詠にはもう一つ頼みが在った!本職の産婆さんを六人以上雇って貰えないか?赤ん坊を取り上げた事は有るが、俺はお産の時には母子の健康に集中した方がいいだろう。」
華佗の話に思案顔になった詠は、もう一口烏龍茶を飲み込んだ。右手は焼売から餃子に移行している。
「そうね、正式な発表前に信頼できる人を雇うように手配するわ。」
「正式な発表の前って、どうして?」
俺が素朴な疑問を投げかけると、冥琳の目が険しくなった。その手は小龍包を恋の皿に運んでいる。
「北郷!平和呆気しすぎだ。いいか?この度の懐妊は政治的に極めて重大だ。晋の皇帝初の世継ぎ候補であり、しかもその母親は三国の王。晋に敵対しようとする勢力にとって暗殺を目論んだ場合、産婆を抱き込むのが一番確実だと分かるだろう?」
「「「う・・・」」」
「正式な発表の後では何処で鼻薬を嗅がされているか調べるのも困難だ。そうならないよう事前に確保して城内に住み込みで働いてもらわねばならん。六人以上雇うのも、産婆本人に何かあった場合の保険だ。」
「「「・・・なんか物々しくなってきたなぁ・・・」」」
俺たちが腕を組み暗い顔で呟くと、今度はねねが眉尻を吊り上げる。その手は肉まんをせっせと恋に渡していた。
「何を言っているのです。そんな物はまだまだ序の口ですぞ!今、朱里達は正式な発表の日取りと、どの勢力がどれだけ祝いの品を献上してくるか算出してるのです。その多寡によって翻意の有無を推し量らねばならないのですよ。何しろ三人の王に対するお祝いですからな、とんでもない巨額の富が飛び交いますぞ。こちらも返礼をせねばなりませんから暫くはお互いまともな軍事行動なぞ経済的に摂れなくなるのです。」
「・・・・・ねねがスゴイ難しい事を言ってる・・・・・」
「なんですとーっ!!ねねが軍師である事を忘れているのですか!お前は!?」
怒りつつも手は休まず、蒸籠から肉まんを取り出しては恋の皿に置いていく。
「・・・で、軍師のねねはなんでそっちの会議に参加してないの?」
「少府長官のねねが一番苦労しているというのに何という言い草ですか!!今も取り敢えずで決めた警備計画を恋殿と雪蓮殿と細部の詰にやって来たのです!!」
恋に食べ物を渡しているだけに見えるが、あれには何か特別な符丁があって意思疎通ができるのだろうか?
「そ、そうだったのか・・・ごめん、苦労かけるな・・・って、何で雪蓮が警備に関わってるの?」
「あら?まだ一刀たちに報告行ってないの?わたし((執金吾|しっきんご))になったんだけど。」
執金吾とは『宮中と都の警備長官』と言えば分かり易いだろう。
ちなみに都の警備長官は今まで俺たちが兼任していたのだ。北郷隊が有ったから。
「雪蓮殿は民の人望も厚いですし、どっかの誰かと違って民が娘を襲われる心配をしなくていいですからなぁ♪」
「「「俺たちにそんな事実はねえええ!!」」」
力一杯否定した所で、一つ気が付いた。
「雪蓮は冥琳の病気が治るまで現役復帰しないって言ってたよな・・・・・という事は・・・」
俺たちが恋の皿に春巻きを移している冥琳を見ると華佗が言ってくれた。
「周瑜は全快した。再発の心配もないぞ♪」
「なんだよ、冥琳。水臭いな、そっちのお祝いの方が先じゃないか♪」
冥琳は箸の動きを止めて俺たちを睨む。月が冥琳の後を継いで恋に春巻きを与え始めた。
「報告には行くつもりだったのだよ、昨日な。」
「「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」」
「いざ登城してみればあの騒ぎだ。おまけに蓮華様から書状を渡されて、内容を見たら丞相への任命書だ!華琳と桃香の判も押してあった!」
「「「・・・・丞相?・・・・・冥琳が?・・・・・」」」
「まさか回覧板で丞相にさせられるとは夢にも思わなかったぞ!」
三国の王は今、相国の官位も持っている。
丞相はその相国とほぼ同じ官位だ。
「最も仕事はお前たちの補佐だが・・・・・・官位が雪蓮より上になってしまったではないかっ!!しかも、帝国の現状が分かっているから断る事も出来ん!!」
「わたしはそんな事気にしないのに・・・・・それよりも、あの三人が一番におめでたになってくれて助かったわ。これでようやく解禁って感じですものね♪」
「・・・解禁って、何が?」
「そんなの子作りに決まってるじゃない♪」
雪蓮、酔ってるのか?あの程度で雪蓮が酔うとは思えないんだけど。
「「「え?ちょっと、まさか今まで何か避妊対策が取られていたとか!?」」」
「いや、天の国ではどうか知らんが、ここにはそんな技術は無い。あくまでも気持ちの問題だ。」
冥琳が補足してくれた。箸の動きが再開され、今度は((春餅|チュンビン))を与えている。
「「「そうなんだ・・・びっくりした・・・」」」
「乱世の頃から、いつ誰かが懐妊してもおかしくなかったのだがな・・・・・お前たち、最近巷では『種無し』説が流れ始めていたんだぞ。まあそれも今回の事で払拭・・・いや、以前の『種馬』に戻るのか。」
「両極端だなぁ・・・」
「しかし、実際あの三人が同時に懐妊してくれて助かった。正に神の采配だな。一人ないし二人だった場合、懐妊していない王に子供が授かるまでお前たち三人と共に閨に監禁せねばならんところだ。」
「「「え♪ちょっとそれはやりすぎだろう♪」」」
「御子様方、嬉しそうに否定されても説得力ないよ・・・それにそんな事になったら今度はどんな噂が流れるか。」
う〜ん、さっきから炙叉の態度がちょっとトゲトゲしいような・・・手が((油条|ヤウティウ))を恋の皿に運んでるから酷く怒ってるわけじゃ無さそうだけど。
「なんか炙叉ってばご機嫌斜めね・・・今更ヤキモチ?」
雪蓮も気になった・・・と言うか、新たな酒の肴を見つけたといったところか。
「いやいや!それがちょっと聞いてよ!御子様方ったら、三人のお腹の子にもう真名を付けちゃったのよ!!」
「何!?」
「あらら・・・」
全員の箸が止まり、恋は指を咥えて少し寂しそうな顔になった。
「「「え〜と・・・・・何かまずかった?」」」
月が諭すように、腰に手を当てて教えてくれる。
「あの・・・ご主人さま。真名を決める時は庶人でも占い師などの助言を元に決めるんです。身分が高かったり豪商みたいにお金があれば特に時間をかけて決めるものです。漢王朝では皇族が真名を決めるのに一年掛かるという笑い話が在るくらいですから。」
一年掛けたらもう生まれてるじゃん!
「それで御子様方。専属占術師であるウチに何の相談もなく真名を決めた言い訳は聞かせて貰えるのよねぇ♪」
笑顔で凄む炙叉に俺たちは素直に頭を下げた。
「「「夢で見たものだからつい・・・・・以後気を付けますorz」」」
「託宣が在ったの!?」
「いや・・・そこまでじゃないような・・・俺は華琳と居る時だけど、赤と緑も蓮華と桃香と居る時に子供の夢を見たんだよ。その夢に出てきた子供の真名を・・・」
炙叉がテーブルに手をついて立ち上がった。その目は驚愕に見開かれている。
「ちょ、ちょっと!それって託宣より凄いわよ!!・・・・・あぁ、そっか。御子様だから・・・・・うん、それなら納得だわ。」
今度は冥琳が例のアルカイックスマイルでニヤリと哂った。
「ふむ、面白い事を聞いたな♪丞相の最初の仕事として、早速今の話を喧伝に使わせてもらおう♪」
冥琳を中心に今の話を如何に大陸中に広めるかが話し合われ始める。
同時に恋への食べ物の供給も再開された。
俺たちは少し離れて三人だけで話をすることに。
「なあ、赤、緑。俺が見た夢なんだけどさ・・・・・あの大声で叫んだ時の気持ち・・・色んな感情がぐちゃぐちゃに混じっていたけど・・・一番強かったのは後悔と自分に対する怒りだった・・・・・」
「そうだよな、聞いた状況での推察でしかないけど、その外史の華琳と眞琳は相当大変な思いをしたに違いないからな。」
「その時に傍に居てあげられなかったなんて・・・・・そんなの気が狂うよ・・・」
俺たちは沈痛な思いに黙り込む。
「・・・・・だからさ・・・俺たちはあの外史から眞琳の幸せを託されたと思うんだ。」
「ああ!でも眞琳だけじゃない!蓮紅に香斗も幸せにするんだ!」
「それだけじゃないさ!まだまだこれから子供は増える!その子達全部幸せにするんだ!!」
俺たちは戦乱時以来久々に拳をぶつけ合って決意を固める。
「「「種馬上等!!やってやるぜ!!」」」
ドカッ!っという音と共に、頭に走る衝撃とひっくり返る視界。
「一度に全員が身重になったら国が立ち行かなくなるだろうがっ!!」
どうやら俺たちは冥琳に蹴り飛ばされたらしい。
病気が全快しただけじゃなく、武力が前より上がってないか?
逆さまになった視界に映っているのは片足を上げて立つ冥琳のベストアングル。
冷めてゆくコーヒーより遥かに魅力的な眺めだよな♪
但し、このままだと潰れるのは時間じゃなく、俺の意識だな・・・・・。
あとがき
急遽『第二章』となりましたw
リクエストの在りました桃香、蓮華はそれぞれ個別の話もご用意致しますm(_ _)m
出だしで紫一刀が見た夢の『外史』
あれだけで一本書けそうです。
今のところ書く予定は有りませんがw
赤ちゃんズの名前
蓮紅→孫登
香斗→劉禅
眞琳→曹沖
という設定になっております。
眞琳だけ正史での後継者では有りません。
正史の曹沖は頭が良く、優しく、曹操に愛されていたにも拘らず
十三歳でお亡くなりなってしまいます。
曹沖をこの外史で幸せにしたいという思いも込めて決めました。
次回は桃香のお話にする予定でおりますが
リクエストの数によっては変わる可能性も有ります。
現在の得票数は
桃香 1
蓮華 1
愛紗 1
鈴々 1
思春 1
凪 1
となっております。
説明 | ||
前回の予告では『外伝で』と言っておりました恋姫懐妊のお話ですが 予定を変更致しまして タイトルにもあります通り『第二章』とさせて頂きます。 一話完結形式の予定はそのままで行きたいと思います。 引き続きどの恋姫メインの話が読みたいのかリクエストを募集しております。 リクエストの多い恋姫(TINAMI、Pixiv双方の合計)を優先的に書きたいと思いますのでよろしくお願いいたします。 ご意見、ご感想、ご指摘などもご座いましたら是非コメントをお寄せ下さい。 |
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コメント | ||
神木ヒカリ様 全てはリクエストの数次第ですw 鈴々に追加入りましたー___φ(。_。*)カキカキ(雷起) アルヤ様 『何年も華琳を探し、ついには心を閉ざす一刀』そして『華僑のトップの座を手に入れ、反撃に出るため一刀を迎えに来た華琳』。 華琳が一刀以外の男を近づける事は無いでしょう。美少女はたくさん侍らせていそうですけどwそして華琳と一刀は世界を征服して現代で覇王となるのですw(雷起) ichiro588様 桃香に追加入りましたー___φ(。_。*)カキカキ(雷起) 竜羽様 喜んでいただけて光栄です♪リクエストに制限は決めてありませんので、何度でも何人でもご要望いただけるとありがたいです(´∀`)(雷起) 侵略!?イヌ娘様 夢に出た眞琳は、華琳の言葉通り間違いなく一刀の子供です。華琳が姿を消した理由は『フリーメーソンのイルミナティに狙われた所を華僑の中国マフィアに救われ、一刀を守るために一人で戦いを始めた』と、いった感じで考えていますw(雷起) 次は誰が妊娠するのか楽しみです。 アンケートは鈴々でお願いします。(神木ヒカリ) ↓↓↓ほぅ犬。貴様、我らが覇王様がただのビッチだと申すか・・・・・・・!(アルヤ) 桃香お願いしまーす(ichiro588) おお!待っていた。待っていたこれを!ありがとうございます。この調子で頑張ってください(竜羽) まままさか華琳は一刀に種が無いことを悟って別の種を・・・うわあああ!!嘘だと言ってくれ雷起さん!こんなのあんまりだよー!酷過ぎる、一刀が可哀想じゃないかー!(ギミック・パペット ヒトヤ・ドッグ) |
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