fate/zero ~君と行く道~
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11:その真名を明かす

 

 

 

名は体を表す

名とは証明

名とは記号

名とは呪縛

それらに縛られたものを

“個”と呼ぶ

 

 

 

 

 

セイバー side

 

 

私は目の前の光景に思わず唖然としていた。

 

切嗣の不在を狙いに来たものとばかり思っていたライダーが、現代風(?)の格好で闘志など一切感じさせない剛毅な笑顔を浮かべていた。

鎧に身を包み、切った張ったのやり取りをするつもりで出張って来た自分が酷く滑稽に思えてならない。

 

 

「ライダー……貴様一体何をしに来たのだ。」

 

 

呆れ混じりの問い掛けに、ライダーは乗って来た戦車に積んであった大きな樽を担ぎながら答える。

 

 

「見て分からんか?一献交わしに来たに決まっておろうが!ほれ、どこか酒宴に誂え向きな庭園にでも案内せい。この荒れ城は埃っぽくて敵わん!」

 

 

また唐突に予想だにしない事が切り出されて私はアイリスフィールと目を合わせる。

 

どうやら彼女も対応に困っているらしく、途方に暮れたような表情をしていた。

ライダーには見た所敵対意思は見られない。戦車で入って来たのでなければ尚のこと疑いの余地は無かったのだが……。

 

そしてこの誘いは、冷静に考えれば私への挑発ともとれる。

恐らく奴はここに来て英霊としての“武”ではなく“格”を競いに来たのであろう。

となれば、王の一人としてこの誘いを無碍には出来ない。

 

 

「アイリスフィール、庭園に案内しましょう。」

 

「え?でもいいの?確かに彼なら騙し討ちのような真似はしないと思うけれど……」

 

「はい。これは歴としたサーヴァントとしての挑戦です。」

 

 

私の言葉にアイリスフィールは理解が追い付いていないのか、難色を示す。

 

 

「ライダーは剣ではなく、盃を交える事で英霊の格を競おうと言っているのです。」

 

 

漸く合点がいったのか、アイリスフィールは表情を綻ばせて苦笑する。

 

当然だ。基本的に殺し合うだけの聖杯戦争に於いて敵と酒盛りしようなどと言い出す者など普通はいるものか。

思えば随分と濃い一面が揃ったものだと思う。

 

正気を失ったキャスターに、狂化していても尚高い技量を誇るバーサーカー。

大量の宝具を有し、その傍若無人ぶりで開戦早々大暴れしていたアーチャーに、今こうして予想の斜め上の行動で場を乱してくれるライダー。

そして終いには未だに得体の知れないイレギュラーサーヴァントであるイーター。

 

こうして名前を挙げて行くと、まともなのは自分とランサーくらいのものではないかと思わず脱力した。

過去の聖杯戦争がどんなものだったのかは詳しくは知らないが、どれもこれもこんな混沌とした面子ばかりが参加していたというのだろうか?

そう考えると眩暈すら覚える。

一瞬横切った想像を振り払った後、私達は城の庭園にライダー陣営を案内して城の奥へと入って行く。

 

飾り気の無い質素な庭園の中央に私とライダーが座り、そこからいくらか離れた地点で互いのマスターが静かに佇んでいる。

 

ライダーは樽の蓋を豪快に拳で叩き割り、中にたっぷりと入っていた酒をどう言う訳か柄杓ですくって飲み干す。

 

何故柄杓なのかはこの際問うまい。思わず溜め息をつきたくなるような答えが帰ってくる事は目に見えていた。

 

酒の味を確かめた所で、ライダーがいつもの陽気な表情を改めて凄みを醸し出す。

それに呑まれることのない様に私も身体の底から覇気を湧き上がらせた。

場の雰囲気が程よく高まった所でライダーは満足気に頷き、もう一杯酒を汲みながら話を切り出した。

 

「聖杯は相応しき者の手に渡る定めにあるという。それを見定めるための儀式がこの冬木の闘争だというが……何も見極める為にわざわざ殺し合うこともあるまい。英霊同士、お互いの“格”に納得がいたのなら、自ずと答えは出る。この場はいわゆる聖杯戦争ではなく、“聖杯問答”の場と言えよう。」

 

 

ライダーの言葉に私はただ黙って頷いていた。

元より茶々を入れる必要もその隙すら無い。

 

ライダーの言い分にも一理ある。ただ生き残ればそれでいい、それで勝者となれれば満足などという安易な考えを私は良しとしない。

 

「そして我等は互いに“王”を名乗る者として一歩も譲らぬと言うのならば戯言と謗ることも出来まい?故にこの場に於いて誰が聖杯を手にするに相応しき器か見極めようではないか。」

 

「戯れるのはそこまでにしておけ雑種共。」

 

 

その言葉に私が肯定の意思を示そうとした時、どこからか覇気の篭った声が響いた。

その姿を探れば、予想通りの人物が立っていた。

黄金の鎧に身を包んだアーチャーが、見るからに面白くなさそうな顔で歩み寄って来ていたのだ。

 

この場によりにもよって何故このような、そこにいるだけで場の静寂を乱す男を読んだのか?目でそれを尋ねる。

 

 

「いや、街をぶらついていたら偶然鉢合わせになってな。誘えるだけ誘っておいたのだ。」

 

「俺を差し置いて雑談に現を抜かすとは大した度胸だな。王である我をこのような寂れた場所にまで足を運ばせただけでも格が知れるというに。」

 

「まぁ固い事を言うな。ほれ、駆け付け一杯。」

 

 

忌々しげに吐き捨てるアーチャーの剣幕をものともせずに、ライダーは酒の注がれた柄杓を差し出す。

アーチャーは無言でそれを受け取り、軽く啜るなり不機嫌な表情を見せた。

 

 

「何だこの安酒は?こんなもので英雄の格が量れると思っているのか?笑わせる。」

 

 

鼻で笑って柄杓をライダーに突き返すとアーチャーはつまらなさそうにそっぽを向いた。

一方のライダーは柄杓の中の酒を眺めながら顎に手を添える。

 

 

「そうか?こいつはこの街の市場で売っておったものの中でも中々の品だぞ?」

 

「それは貴様らが真の酒というものを知らんからだ。」

 

 

おもむろに手を前に翳すと、アーチャーの掌から黄金に光る空間の歪みが現れる。

あの宝具を連射していた時と同じものであったからか、ライダーの背後でそのマスターが腰を引かせて怯む。

だが、アーチャーの掌から現れたのは武具などではなく、黄金の瓶に杯だった。

 

 

「見るがいい、そして思いしれ。これが王の酒というものだ。」

 

 

そう言って三つの杯を放るアーチャー。ライダーはすぐさま飛び付いて酒を注ぎ始める。

 

芳醇な香りを漂わせるそれを口に含み喉へと誘うと、不覚にもあまりの美味に私は一瞬呆気に取られた。ライダーも黄色い歓声を上げている。

それらを見渡す事もなく、酒を杯の中で遊ばせるアーチャーは勝ち誇った微笑を浮かべていた。

 

 

「武具も酒も、我が宝物庫には至高の財しかあり得ない。これで英雄の格付けも決まったようなものだな。」

 

「そうか?聖杯と酒器は違うんだ。そう決めつけるのは些か早計だと思うぜ?」

 

 

突然この場にいる誰のものでもない声がした。

周囲を見渡せば、庭園の入り口に寄り掛かる長身の男の姿があった。

 

 

side out

 

 

 

 

 

 

勇希 side

 

 

「随分と遅かったではないか?イーター。こっちはもう先に始めているぞ?」

 

「悪いね。色々と立て込んでてさ。」

 

「まぁ良い、とにかく座れ。お互い存分に語り合おうではないか。」

 

「はいはい。」

 

 

テンションMAXのライダーに思わず苦笑しつつ、俺はセイバーとライダーの間に座った。

 

アーチャーと隣り合ってるのは少し怖かったってのもある。あの開戦の日の事を引きずってたら面倒な事になると思ったのが一番の理由だ。

隣が殺気立っていたら美味い酒が鉛みたいに重たい味わいになりそうだ。

 

俺がどしりと座り込むと、ライダーがアーチャーに目で合図する。

多分俺の分の杯も出してやれとか言う意味なんだろうけど、奴さんは見たまんま不機嫌な顔をしている。

 

 

「混獣如きに我の酒を振る舞うなど不快の極みだが、この場で誰が真の英雄たるか説いてやる為だ。感謝しろよ雑種。」

 

 

盛大に上から目線を決め込んでこちらに新しく出した杯を放り投げるアーチャー。

散々な言われ様たが、まぁコイツはそういうキャラなんだって分かってるし。

 

それに、少しだけだけどこっちも暴言吐いちゃってたから俺に対してあんまり良い印象を持ってないんだろうから仕方ないって事にしておこう。

 

などと考えながら酒を飲み干す。正直言って酒はあんまり飲んだ事が無い。飲む暇が無かったと言うべきだろうか。

いつ仕事が回って来るかも分からない立場にいて呑気に酔ってる訳にもいかなかったからな。

一度極東の方で先輩にほぼ強引に飲まされた事はあるけどそこまで美味しくもなかった。

その為に俺は酒に対してあまり食欲を引き立てられないのだが、この酒ははっきり言って次元が違った。

 

 

「う、美味い……!何だこりゃぁ、本当に酒!?」

 

 

思わず鬼気迫る顔でそう呟いてしまう程にその酒は深いコクと味わいを持っていて、俺の酒に対する苦手意識を一瞬で打ち崩していった。

 

 

「いくらなんでも大袈裟ではないですか?(汗)」

 

「ハッハッハ!気持ちは分からんでもないが、一々面白い顔をするな貴様は!(笑)」

 

「フン、貴様もこれで理解しただろう?これが真の王者の為の酒だ。」

 

 

何故だか本当にこんな美味いものを持ってるだけでこの人を認めてあげたくなっちゃうんですけどどうしましょ?

 

だが、本当にその程度で屈する程単純でも無い。俺は気を取り直して表情を引き締める。

 

 

「いやぁ確かに良い物を味わわせてもらった。何分酒自体飲んだ事があんまり無いもんだからな。不覚にも美味に酔いしれちまったのさ。」

 

「言った筈だろう?我の宝物庫には至高の財しかあり得ぬと。」

 

「そうだな。流石はかの“英雄王ギルガメッシュ”だ。」

 

 

俺の一言でその場が一瞬沈黙で支配された。

その中で一番早く反応を示したのは、アーチャー本人であった。

 

 

「混獣風情が我の真名を言い当てるとはな。少しだけ評価を改めてやろう。」

 

「そいつはどうも。」

 

 

自分の正体を見破られてもこの態度、度胸があるとか肝が据わってるとかそういう次元の話じゃない図太い神経をお持ちのようだこの人は。

 

嘗て古代メソポタミアの神話などで伝えられる人類最古の英雄王、それがこの男の正体だ。

遭遇した初日か蟲爺の記憶の中にあった英雄の情報と統合して出した予想だったがどうやら間違いじゃなかったらしい。

 

 

「何と…貴様の正体がかの英雄王であったとは。余も大方の見当はついておったのだが、よもや誠であったとは。」

 

 

騎士王アルトリア・ペンドラゴンは言わずもがな、征服王イスカンダルの名も霞む存在にライダーとセイバーは驚愕を露わにしていた。

まぁ俺も出来ればハズレであって欲しいと思った程の超超ビッグネームだからなコイツは……。

 

 

「しかし貴様どのようにして我の真名に辿り着いた?貴様のマスターの入れ知恵か?」

 

「いんや、自分で予想して判断したまででございますよ。何たってお前さん色々と凄いからなんだかんだで予想するのに苦労しなかったし。」

 

そう、案外コイツの正体に至る道のりはそこまで険しくはなかった。

 

傍若無人な態度然り、恐らく今まで溜め込んだ宝物を収納している“宝物庫”の宝具然り、俺の本質を一目で見抜いたこと然り、ヒントはいくらでもあった。

 

 

「こいつはたまげたな。しかしそれでこそ余の闘争の相手に相応しい!相手にとって不足なしと言うものよ。」

 

 

多少驚く素振りは見せたが、すぐにいつもの豪快な笑いで答えるライダー。

セイバーも驚きこそすれ、臆した様子は無い。やれやれ、この人達も肝が据わってらっしゃることで。

 

 

「さて、アーチャーの真名も分かったことだ。後は……」

 

 

不自然に言葉を切ったライダーはこちらを凝視する。

何が言いたいかなんて事は今更聞くまでもない。

本来ならあまりこちらの情報は明かしたくないが、この場に於いてその選択肢は絶対に取れない。

三人共自分の真名を明らかにしている今になって俺だけ尻込みするのはフェアじゃない。

どの道バレた所でどうにか出来る訳でもなし、俺は潔く口を開いた。

 

 

「俺の真名は勇希。藍沢勇希だ。」

 

 

どんな名前が帰って来るのか思考を巡らせていた所に全く覚えの無い名前が出たことに一同は首を傾げる。

当たり前だ、そんな英霊はいない。それ以前に俺は正確に言うと英霊ですらないのだから。

 

 

「なぁイーターよ。余は貴様の名に全くと言っていいほどに心当たりが無いのだが……貴様どこの英霊なのだ?名前を聞いた限りはこの国の者のようだが?」

 

 

アーチャーは興味無さそうだが、他の面子は耳を遠くしてこちらの言葉に聞き入っている。

 

 

「どこも何もない。俺は異世界の存在なんだからな。」

 

 

その一言で全員が目を見開いた。アーチャーですら意外そうな顔をしていたのだ、他の連中は言葉も出ないといった心境だろう。

今まで得体の知れなかった奴の正体がまさかの異界の人間だったなんて誰が予測出来るんだって話だしな。

 

 

「イレギュラーここに極まれり……その一言に尽きますね。」

 

「全く、貴様は一々こちらの予想を裏切ってくれる。見ていて飽きんわい。」

 

「いや、アンタにだけは言われたくないセリフだからなソレ。」

 

やっぱり驚いてもいつまでも惚けているような連中でもないらしい。英霊ってのは皆こうなのかねぇ?

 

 

「なんにせよ、これで今宵は集いし全ての英霊の真名が明らかになったのだ。次は聖杯に託す願いを各々述べようではないか。」

 

「仕切るな雑種。元より聖杯を奪い合うという前提からして理を外しているのだぞ?」

 

 

突然訳の分からん事を言い出したアーチャーに視線が集まる。

 

 

「そもそも、あれは俺の所有物だ。世界の宝物は一つ残らずその起源を我が倉に遡る。」

 

 

これはまたおかしな事を言う。未だに存在すらしていない物の所有権を語るとは。

噴き出してしまいそうなのを堪えている内に俺はある事に気が付いた。

 

この場で俺が知る知識を暴露してしまってはどうだろうか?

聖杯は未だに存在せず、この物騒な祭りが単なる儀式の過程であり、戦いの果てに聖杯は完成する。

そして聖杯は汚染されており、まっとうな使い方は出来ないと。

 

だが、そんな一時の甘い考えもすぐに消え失せた。

まず言ってどうする?それを知った所で聖杯を求める奴だっているかもしれない。

それ以前に何でそんな事を知ってるんだって話になる。

馬鹿正直に「間桐臓硯を喰ってその記憶を取り込んでやりました」なんて言える訳がない。下手をすれば魔術協会が動くことだってあり得る。

歯痒いがここは我慢するしかないだろう。下手を踏めばこの場で全ての英霊を一気に敵に回すことだってあり得るんだ。

 

そこからはアーチャーの俺様持論爆発の時間だった。

奴さん曰く、聖杯がどんなもんかは知らないけど宝物なんだからとりあえず自分の物とのこと。

それを取り合おうなんぞ盗人猛々しいにも程があるとか言うどこぞのガキ大将よろしくな「お前の物は俺の物、俺の物は俺の物!」的な理屈である。

 

セイバーがそのあまりの勝手な言い回しに呆れた顔をする。

 

 

「貴様の言動はキャスターの世迷い言と何ら変わりない。」

 

「まぁ少し質が違う気もするけど間違っちゃいねぇわな。どうやらトチ狂ったサーヴァントはまだいたみたいだ。」

 

 

やっぱり知ってる知識の事もあって思わず口漏らしてしまったが俺は悪くないと思う。

だっていくらなんでも可笑しいだろ?存在すらしない物を所有物だなんだとほざいた挙句、それを取り合うのを盗人猛々しいとか(笑)。それに対して全く疑問を持ってないんだからこれまた傑作だ。

 

アーチャーはクスクスと笑う俺を鋭い目つきで睨みつけるが、ライダーが何とかそれを宥める。

 

 

「まぁまぁ、そうカッカするな。それに貴様、別段聖杯が惜しいというわけでもないのだろう?」

 

「無論だ。だが俺の財を狙う俗には相応の裁きが必要だ。要は筋道の問題なのだ。」

 

さも当然のように言い放ってるけどやっぱり笑えるわコイツ。

その唯我独尊な言動に生き方はある意味天晴れって所だけど、それだけでは単なる餓鬼の我儘と何ら変わりはない。

 

 

「じゃぁよぉアーチャー。お前さんのその自論にはどんな大義があって道理があるんだい?」

 

 

笑いも収まって来た俺がそう尋ねると、アーチャーは短く「法だ。」と答えた。

それは己が定めて己で敷いた法。俺達がそれを犯しており、それを裁くのは自分。

そこに交渉の余地など無く、無法者には誅伐を下すのみ。

ここまで自分勝手だと尊敬出来るレベルだ。ここまで身勝手な奴なんて本当にいるもんなんだなwww

 

 

「ならば是非も無し。後は剣を交えるのみ。」

 

「穏便にいかないなら…ぶん取るしかないわな。」

 

 

ただし俺は聖杯手に入れてもも使う気は無いけどね。

すると、セイバーが俺とライダーを見据える。睨むという方が正しいかな?

どいつもこいつも眉間に皺寄せて……早めに老けるよ?

 

 

「征服王、そして異界の者よ。お前達は聖杯の所有権が他人にあると認めた上で、それを力で奪うのか?そうまでしてお前達は聖杯に何を望む?」

 

 

あり?何か俺に対してもセイバーの態度が尖がっているような……って、冷静に考えればこの場に於いて俺はライダーと同じで聖杯が他人の物という事に同意した奴の一人にしか見えないから当然か。

勝手に納得してる間に、ライダーが似合いもせず顔を赤くして恥ずかしそうにしながら告げる。

 

 

「………受肉だ。」

 

「「「は?」」」

 

 

ライダー以外の英霊の声が重なった。何だそりゃ?コイツは受肉して……つまりは生き返ってどうしようってんだ?

俺達が怪訝そうにしていると、例の如くライダーのマスターが詰め寄って来る。

 

 

「お、お前!望みは世界征服だってぎょえへぇ!」

 

 

言い終える前にデコピンで吹き飛ばされるマスター。

指先一本でどんな威力してんだか。そしてそれを食らって怪我一つしないマスター……よく考えればどっちも凄えな。

 

 

「馬鹿者が。今も魔力で現界しておるとはいえ、所詮我等はサーヴァント。余は転生したこの時代に於いて、一個の命として根を降ろしたい。身体一つの我を張って、点と地に向かい合う!それが征服と言う行いの全て!」

 

 

ライダーら目の前で握り拳を固めながら言い放つ。

その意思は握り締めた拳などより遥かに強固で力強く、そして熱く燃えたぎっていた。

 

 

「そうして始め、推し進め、成し遂げてこその……」

 

 

酒を大きく仰いで一拍置き、杯の中身を飲み干して、ライダーは全員を見据えながら宣言する。

 

 

「我が覇道なのだ!」

 

 

コイツはたまげた。こんなにも我の強い奴がいたとは。

「ただ途中で終わってしまった夢の続きが見たいから。」

それだけの理由で戦う。単純でシンプルな、それ故に壮大で尊い信念。なるほどこれが王と言うものか。

王様とか皇帝様とかそんなもん自体存在し得なかった世界で生まれ育った俺にしてみれば、このどこまでも真っ直ぐで自分に正直な男の理想はさんさんと輝く太陽の如く眩しく思えた。

 

だが、俺とはまた違う捉え方をしている奴もその場にはいた。

 

 

「そんなものは王のあり方ではない。」

 

 

そう切って捨てたセイバーにライダーは興味深そうな視線を向ける。

 

 

「ならば貴様の懐の内……聞かせてもらおうではないか?」

 

 

どんな答えが帰って来るのか楽しみでならない。

そんな心境を伺わせる不敵な笑みを浮かべた征服王に、騎士王は少しの間を挟んで答えた。

 

 

「私は、我が故郷の救済を願う。」

 

 

芯の通った声で告げられた答えに、ライダーは怪訝そうに眉を寄せる。

セイバーはそんな事もお構い無しに言葉を続けた。

 

 

「万能の願望器を持ってして、ブリテンの滅びの運命を変える…!」

 

 

凛とした声でありえない答えが返された。

 

 

 

 

 

 

 

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