ゼロのチェスゲーム2 |
「 − 5つの力を司るペンタゴン。 この者に祝福を与え、我が使い魔となせ」
使い魔契約の呪文を唱え軽く口を三毛猫の鼻先に触れる。
すると三毛猫 ― つい今し方召喚された使い魔の額にルーンが浮かぶ。
「((知恵 | アンサズ))のルーンですね。その内に会話できるようになるでしょう。
では、次ですね。ミス・ヴァリエール。こちらに来なさい」
監督役のコルベール教諭は結果を確認すると、次に召喚するピンクブロンドの少女の方に向かう。
ここはトリスティン魔法学院。
現在2年への進級試験である春の使い魔召喚が行われている。
学院の生徒の僕は首尾よく使い魔を呼び出し進級できる運びとなった。
「名前をつけないとな。猫か…何にしよう」
「いい名前つけてよ」
独り言をしながら考える僕に声がかけられる。
今僕の近くにいるのはコルベール教諭と召喚を控えガチガチに緊張している少女のみ。
「先生。何か言いましたか?」
「はい? 何か問題がありましたか?」
コルベール教諭に問いかけるが怪訝そうに振り向くのみ。
隣の少女は自分の世界に没入していて気づいていない。
「いい名前つけてくれと言ったんだよ。主殿」
「「え?」」
呼び出したばかりの使い魔がしゃべっていた。
「君は((猫妖精 | ケット・シー))だったのかね」
「違うよ。生まれも育ちもトリスタニアの猫さ」
コルベール教諭の問いを明快に否定する使い魔。
「いや((知恵 | アンサズ))のルーンが刻まれて話が出来るのは早くて数日かかる筈だろ」
「すぐ話せるのは使い魔をやるのが2回目だからだよ。
ルーンが前と同じだから良く馴染むみたいだね」
疑問に使い魔の三毛猫が答える。
「2回目? 使い魔は主と生涯を共にするのではないのかね?」
「あ、いやその……」
「ん? ああ!無神経なことを言ってしまったようだ。すまなかったね」
自分の疑問に言葉を濁した三毛猫の反応が、前の主を未だ慕っていると思ったのか、
コルベールは謝罪する。
「いいえ。年甲斐もなく女に入れあげたあのジジイが悪いんですから」
三毛猫は神妙な面持ちで答える。
「「……」」
割としょうもなそうな理由を聞かされて返答に困る僕とコルベール教諭。
「コルベール先生。召喚を行いたいのですが?」
その沈黙に蚊帳の外になっていた次の番の少女が口を挟む。
「おお待たせてしまった様だね! さあミス・ヴァリエール召喚を行いたまえ!」
「やあ、ルイズ!お邪魔したね!さあ、場所を譲るよ!」
渡りに船と僕とコルベール教諭は話題を打ち切る。
「さてと、ちょっと退避しようか」
「なんでさ?」
胸に抱いた三毛猫が倉皇とルイズの傍を離れる僕に尋ねる。
周りにいた他の生徒達もルイズから離れ、見物の輪が広がっている。
「それは − 」僕が答えようと口を開いた刹那、
轟音と衝撃が僕をなぎ倒し、胸に抱いた三毛猫も巻き添えになる。
「 ― よぉーくわかったよ……」
薄れ行く意識の中で三毛猫の納得の声が耳に届いた。
先に気がついた三毛猫に頬をなめられて正気づくと、ルイズとコルベールが口論していた。
ルイズが呼び出した使い魔についてコルベールに抗議しているようだ。
使い魔は人間で ― ローエングラム朝銀河帝国の装甲擲弾兵だった。
「Panzer Grenadiere……」思わず帝国公用語で呟く。
「golden Lowe?」三毛猫も首をかしげている。
あれ?こいつ帝国語を喋った?
それと、あの装甲擲弾兵の顔なんか見覚えがあるんだ。
有態にいえば前世旧王朝時代に見飽きたルドルフ大帝像そっくり。
なんか厄介事が起こりそうなんだけど?
そうそう、使い魔の名前は(( フェリックス|タマ ))にした。
フェリックスは何故か残念な子を見る目をしていたが、気にしないことにする。
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